アダマールは何をした人?業績・生涯・名言|素数定理の証明・アダマール行列・発明の心理をわかりやすく

アダマールは何をした人?業績・生涯・名言|素数定理の証明・アダマール行列・発明の心理をわかりやすく

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アダマールJacques Hadamard

ひとことで言うと

1896年に素数定理を証明し、アダマール行列・アダマールの不等式・よい設定の問題で知られるフランスの数学者。97歳まで生きた。

名前ジャック・アダマール(Jacques Hadamard)
生没年1865年12月8日〜1963年10月17日(97歳)
国フランス(ヴェルサイユ生まれ、パリで没)
分野数論・解析学・微分方程式・複素関数論
主な業績素数定理の証明(1896年)、アダマールの不等式(1893年)、アダマール行列、コーシー・アダマールの定理、よい設定の問題、『数学における発明の心理』(1945年)
名前がつくもの素数定理(アダマールとド・ラ・ヴァレ・プーサン)・アダマールの不等式・アダマール行列・コーシー・アダマールの定理・アダマールの因数分解定理・アダマールの3線定理・アダマール積
よばれ方素数定理の証明者のひとり、20世紀フランス数学の長老

このページのポイント

  • 1896年、ド・ラ・ヴァレ・プーサンとは別々に、素数定理(素数の個数の割合)を証明した
  • 行列式の大きさを抑えるアダマールの不等式と、+1・−1だけのアダマール行列に名前が残る
  • 数学者のひらめきを調べた『数学における発明の心理』(1945年)でも有名。97歳まで生きた

アダマールは何をした人?(業績をひとことで)

ジャック・アダマール(1865〜1963年)は、フランスの数学者です。1896年、素数定理を証明したことで世界的に有名になりました。素数定理とは、「素数がどのくらいの割合で現れるか」を、はっきり示した定理です。アダマールは、ベルギーの数学者ド・ラ・ヴァレ・プーサンと、同じ1896年に、別々に(お互いを知らずに)、この定理を証明しました。

ほかにも、行列式の大きさを抑えるアダマールの不等式(1893年)、プラスとマイナスの1だけで作られるアダマール行列、べき級数が収束する範囲を求めるコーシー・アダマールの定理、よい設定の問題(適切な問題)という考え方など、名前がつく業績がたくさんあります。さらに、数学者がどのようにひらめくかを調べた本『数学における発明の心理』(1945年)でも知られます。97歳まで生きた、20世紀を代表する大数学者です。

受験生にとってのアダマールは、素数(中学受験から大学入試まで)、行列式とベクトルの面積(高校数学)、べき級数の収束半径(大学入試・大学1年)の裏側にいる人です。

うかるくん

うかるくん

素数って、どこに出てくるか分からない、ばらばらな数ですよね。割合なんて、分かるんですか?

合格先生

合格先生

ばらばらに見えるのに、大きな目で見ると、とてもきれいな規則があるんだ。1から xx までの素数の個数は、だいたい x÷ln⁡xx\div\ln x に近い。これを証明したのがアダマールと、ド・ラ・ヴァレ・プーサンなんだよ。ガウスが予想してから、約100年後のことだね。

アダマールの生涯と年表

ヴェルサイユに生まれ、パリの高等師範学校へ

アダマールは1865年12月8日、フランスのヴェルサイユで生まれました。パリの名門校、高等師範学校(エコール・ノルマル)の入学試験を、1884年に1位で通りました。1888年に卒業し、リセ(高校)の先生として働きながら、研究を続けます。1892年、「テイラー級数で定義される関数」についての論文で、博士号を取りました。同じ年の6月、ルイーズ=アンナ・トレネルと結婚しています。

ボルドー大学:素数定理を証明

1893年、ボルドー大学の講師になり、1896年に、天文学と理論力学の教授になりました。この1896年に、素数定理の証明を発表しました。リーマンのゼータ関数の性質(実部が1の直線上に、ゼロ点がないこと)を示す、という方法でした。

パリへ。ドレフュス事件

1897年、アダマールはパリへ移り、ソルボンヌ(パリ大学)やコレージュ・ド・フランスで働きます。この時期から、フランス中を二分したドレフュス事件に深くかかわりました。ドレフュスは、スパイ容疑で有罪とされたユダヤ系の軍人です。アダマールは、その妻の親戚にあたり、無実を信じて、救う運動の中心人物のひとりになりました。1906年7月、ドレフュスはようやく無罪が認められ、軍に復帰して名誉を回復します。この事件は、アダマールの人生に大きな影響を与えた、と数学者シュヴァルツは書いています。

名誉と悲しみ

1909年にコレージュ・ド・フランスの力学の教授、1912年にエコール・ポリテクニーク(理工科学校)の解析学の教授になりました。同じ1912年12月、パリ科学アカデミーの会員に選ばれます。ポアンカレの後任でした。しかし、一方で戦争は、アダマールの家族に深い悲しみを残しました。第一次世界大戦で、2人の息子を失ったと伝えられます。さらに、1940年にフランスが降伏したとき、アメリカへ逃れ、息子マチューが戦死したという知らせを1944年に受け取りました。

『発明の心理』と、97歳まで

1945年、アダマールは『数学における発明の心理』を出版しました。晩年は、パリで研究と教育を続け、1963年10月17日、97歳でパリで亡くなりました。趣味は、キノコ採りだったと伝えられます(確かな資料では確かめていません)。

年できごと
1865年12月8日、フランスのヴェルサイユで生まれる
1884年高等師範学校(エコール・ノルマル)に1位で入学
1888年高等師範学校を卒業する
1892年博士号(テイラー級数で定義される関数について)。結婚
1893年行列式の不等式(アダマールの不等式)を発表。ボルドー大学の講師に
1896年素数定理を証明(ド・ラ・ヴァレ・プーサンと同じ年)。ボルドー大学の教授に
1897年パリへ移る。ドレフュス事件の救援運動にかかわる
1906年7月、ドレフュスの無罪が認められ、名誉が回復される
1909年コレージュ・ド・フランスの力学の教授になる
1912年エコール・ポリテクニークの教授。パリ科学アカデミーの会員に
1940年フランス降伏。アメリカへ逃れる
1945年『数学における発明の心理』を出版する
1963年10月17日、パリで亡くなる(97歳)

アダマールの主な業績をやさしく解説

業績1 素数定理の証明(1896年)

素数は、2、3、5、7、11、13、……と、いつまでも続きます。1から xx までの素数の個数を π(x)\pi(x) と書きます。たとえば、π(10)=4\pi(10)=4(2、3、5、7)、π(100)=25\pi(100)=25 です。素数の出方はでたらめに見えますが、1790年代、15〜16歳のガウスの業績と生涯は、素数表をながめて、次のように予想したとされます(ルジャンドルも似た予想をしました)。

π(x)≈xln⁡x\pi(x)\approx\dfrac{x}{\ln x}(xx が大きいほど、比が1に近づく)

図のように、x=100x=100 では、実際の個数は25、近似の値は約21.7で、まだ少しずれています。ところが、xx が大きくなるほど、2つの比は1に近づいていく、というのが素数定理の主張です。

素数の個数と、x÷ln x020406080100510152025素数の個数 π(x)x/ln x(近似)2521.7x が大きくなるほど、2つの比は 1 に近づく(素数定理)
100までの素数の個数(青の階段)と x÷ln x(赤)。xが大きいほど近づく

この予想を証明するのは、とても難しいことでした。1850年ごろ、チェビシェフが、おおまかな範囲を示しました。1859年、リーマンの業績と生涯が、ゼータ関数 ζ(s)\zeta(s) という道具を使えば、素数の問題を解けることを示しました。そして1896年、アダマールとド・ラ・ヴァレ・プーサンが、リーマンの考えを使い、「ゼータ関数は、実部が1の直線の上で、0にならない」ことを示して、ついに素数定理を証明しました。

ゼータ関数と素数定理の鍵実部 Re s虚部01½s=1Re s=1ゼロ点なし(1896年)予想ゼロ点はここだけ?臨界帯0<Re s<1
実部が1の赤い直線の上にゼロ点がないことが、素数定理の鍵。緑の点線は、リーマン予想の位置

なぜ、ゼータ関数が素数と関係するのでしょうか。それは、オイラーが見つけた「オイラー積」があるからです。ζ(s)=1+12s+13s+⋯\zeta(s)=1+\dfrac1{2^s}+\dfrac1{3^s}+\cdots という足し算は、じつは、すべての素数 pp についての積 ∏p11−p−s\prod_p\dfrac{1}{1-p^{-s}} に等しくなります。足し算の側に「すべての自然数」が、かけ算の側に「すべての素数」が現れるのです。これは、素因数分解が1通りに決まる(どんな自然数も、素数のかけ算で1通りに書ける)という性質を、無限に広げたものです。もし、実部が1の直線の上でゼータ関数が0になってしまうと、素数の出方に大きなかたよりが生まれてしまいます。だから、ゼロ点がないことを示せば、素数の出方がきれいに整う、というわけです。

素数の話は、バーゼル問題(Σ1/n²=π²/6)で出てくる、ζ(2)=π26\zeta(2)=\dfrac{\pi^2}{6} とも、同じゼータ関数の仲間です。ゼータ関数は、オイラーの業績と生涯が素数と結びつけた、というところから始まりました。なお、素数定理は、1949年に、エルデシュとセルバーグが、複素数を使わない「初等的」な方法でも証明しました。

業績2 アダマールの不等式とアダマール行列

2つのベクトル(矢印)が作る平行四辺形の面積は、辺の長さの積より、大きくなりません。辺の長さが3と2なら、面積は、直角のとき最大の6、60°に傾ければ 3×2×sin⁡60∘≈5.203\times2\times\sin60^\circ\approx5.20 です。

行列式の不等式(2次元)3232面積 3×2×sin60°≈ 5.20面積 3×2= 6(最大)辺の長さが同じ3と2でも…面積 ≦ 辺の長さの積(等号は直角のとき)
辺の長さが同じなら、直角のときに面積が最大

これを、nn 次元に広げたのが、アダマールの不等式(1893年)です。nn 次の正方行列の行列式の絶対値は、各行ベクトルの長さの積以下になります。行列式は、行ベクトルが作る平行体の「体積」を表すので、直感的にも納得できます(行列式の計算と性質、ベクトルと三角形の面積)。2×2では、(a2+b2)(c2+d2)=(ad−bc)2+(ac+bd)2(a^2+b^2)(c^2+d^2)=(ad-bc)^2+(ac+bd)^2 という恒等式から、すぐに分かります(練習問題)。

等号が成り立つのは、行どうしがすべて直角のときです。成分が +1+1 か −1-1 だけで、この条件をみたす行列をアダマール行列といいます。たとえば4×4の行列は、どの2つの行も、内積が0になります。

アダマール行列(4×4)+1+1+1+1+1−1+1−1+1+1−1−1+1−1−1+12行目と3行目の内積1×1+(−1)×1+1×(−1)+(−1)×(−1)=0どの2つの行も、直角(内積が0)
+1と−1だけの4×4行列。どの2つの行も内積が0(直角)

アダマール行列は、いまでは、誤り訂正符号(通信やデータで、まちがいを直す仕組み)や、実験計画、量子コンピュータの基本の操作(アダマール変換)にも使われています。

業績3 べき級数と収束半径(コーシー・アダマールの定理)

べき級数 ∑anxn\sum a_nx^n が収束するのは、∣x∣<R|x|<R の範囲で、この RR を収束半径といいます。アダマールは、1888年ごろ、次のように、収束半径をはっきり求める式を示しました。

1R=lim sup⁡n→∞∣an∣n\dfrac1R=\limsup_{n\to\infty}\sqrt[n]{|a_n|}

これがコーシー・アダマールの定理です(コーシーの業績と生涯が先に見つけていたため、2人の名前がつきました)。たとえば ∑2nxn\sum 2^nx^n では、2nn=2\sqrt[n]{2^n}=2 なので、R=12R=\dfrac12 です。べき級数と収束半径、テイラー展開とテイラーの定理で、実例を確かめられます。

業績4 よい設定の問題(適切な問題)

アダマールは、物理や工学の問題を、数学として解くとき、「よい設定の問題(well-posed problem)」という考え方を示しました。条件は3つあります。①解が存在する。②解が1つに決まる。③条件が少し変わっても、解が少ししか変わらない(安定している)。この3つがそろわない問題は、「悪設定」といわれ、コンピュータで計算するときに、とくに注意が必要です。天気予報の計算で、わずかな差が大きな差になる、という話にも通じます。

業績5 複素数をつかう解析、そして『発明の心理』

アダマールは、複素数の関数(複素関数)の研究を、素数定理のほかにも、たくさん行いました。整関数の因数分解の定理(アダマールの因数分解定理)や、関数の増え方についての3線定理などです。いまの複素解析の教科書に、名前の残る定理がいくつもあります。

もうひとつの大きな仕事は、1945年の『数学における発明の心理』です。数学者が、新しい発見をするとき、頭の中でどんなことが起こっているのかを、ポアンカレ・アインシュタインらの証言も集めて調べた本です。発明は、「準備→ふ化→ひらめき→検証」という、4つの段階をたどることが多い、と紹介されています。

発明の4つの段階1 準備問題に取り組み、試す2 ふ化離れて休む・忘れる3 ひらめき答えの形が突然見える4 検証式で確かめて書く「ふ化」で休むことも、大事な作業のひとつ
準備→ふ化→ひらめき→検証。休むことも、発明の大事な一段階

「ふ化」は、いったん問題から離れて、休んだり、別のことをしたりする段階です。ポアンカレは、馬車に乗り込もうとした瞬間に、難問の答えがひらめいた、と語ったとされます。アダマールも、「無意識が、考えを進めてくれる」と考えました。受験勉強でも、寝る前に問題を見て、朝に解けることがあるのは、このせいかもしれません。

アダマールの名前がつく公式・定理・用語

  • 素数定理:π(x)∼xln⁡x\pi(x)\sim\dfrac{x}{\ln x}。ド・ラ・ヴァレ・プーサンとアダマールが、1896年に独立に証明した。
  • アダマールの不等式:行列式の絶対値は、行ベクトルの長さの積以下(1893年)。
  • アダマール行列:成分が +1+1 か −1-1 で、どの2行も直交する正方行列。
  • コーシー・アダマールの定理:べき級数の収束半径を求める公式。
  • アダマールの因数分解定理:増え方がゆるやかな整関数を、ゼロ点を使って「因数分解」する定理。
  • アダマールの3線定理・3円定理:複素関数の大きさの変化を、おさえる定理。
  • よい設定の問題(アダマール):解の存在・一意性・安定性がそろった問題。
  • アダマール積:同じ形の行列を、成分ごとにかけ合わせる積(データ分析やプログラミングで出る)。

素数の基本は、素因数分解と約数の個数、素数の意味、素因数分解の意味で確かめられます。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

「アダマール」は、入試では素数と行列式(面積・体積)、べき級数の収束半径で顔を出す人。行列式の大きさは、辺の長さの積以下、と覚えておこう。

アダマールの逸話と名言

実数の2つの真理をつなぐ、複素数の道

「実数の世界の2つの真理のあいだの最短の道は、複素数の世界を通る」という1文は、アダマールの言葉として広く知られています。ただし、元をたどると、フランスの数学者パンルヴェが1900年に述べた言葉です。アダマールは、1945年の『数学における発明の心理』の中で、この考えを次のように紹介しました(英語の原文を訳したものです)。

実数の領域にある2つの真理のあいだの、いちばんよい近道は、しばしば虚数の領域を通る、と書かれている。

ポール・パンルヴェ(アダマールが紹介)(アダマール『数学における発明の心理』(1945年)の英文からの訳。「最短の道は複素数の世界を通る」という形は、のちに広まった言いかえです)

たとえば、実数の積分で計算がとても大変なものが、複素数に広げると、あっという間に解けることがあります(留数定理など)。オイラーの公式を使うと、三角関数の足し算が、指数関数のかけ算になる、というのも同じ例です。素数定理の証明も、実数の素数の問題を、複素数のゼータ関数で解いたものでした。虚数 i の書き方(斜体か立体か)で、複素数の記号の使い方も確かめられます。

同じ年に、別々に(ド・ラ・ヴァレ・プーサンとの関係)

素数定理を、アダマールと同じ1896年に証明したシャルル=ジャン・ド・ラ・ヴァレ・プーサン(1866〜1962年、ベルギー)は、アダマールより1歳ほど年下です。2人は、おたがいに相手の仕事を知らないまま、ほとんど同じ方法にたどり着きました。数学では、こうした「同時発見」が、ときどき起こります。2人とも長生きし、アダマールは97歳、ド・ラ・ヴァレ・プーサンは95歳ほどまで生きたとされます。

ドレフュス事件と、正義のための戦い

アダマールは、数学者であるだけでなく、正義のために行動する市民でもありました。ドレフュス事件のとき、数学者としての論理的な考え方を活かして、事件の証拠のおかしなところを分析した、とも伝えられます(くわしい資料は確かめていません)。ユダヤ系のフランス人であるアダマールにとって、この事件は他人ごとではなかったのでしょう。

数学者たちに質問した

『数学における発明の心理』を書くとき、アダマールは、同時代の数学者や科学者に、アンケートをして、「あなたは、どうやって考えますか」と尋ねたと伝えられます。アインシュタインも回答を寄せ、言葉ではなく、イメージで考えると答えたとされます(本の付録)。同じ数学者でも、考え方は人によって大きくちがう、というのが、この本のおもしろさです。

サクラちゃん

サクラちゃん

ひらめきって、待っていれば来るものなんですか? 勉強しないで寝ていたら、ひらめきますか?

合格先生

合格先生

それは違うよ。アダマールが言う4つの段階の最初は「準備」だ。先にたくさん考えて、うんと悩むから、そのあとの「ふ化」で無意識が働いてくれる。何も考えないで寝ても、何もひらめかないんだ。勉強して、休む。それが大事だよ。

受験・勉強とアダマールのつながり

中学受験・高校受験:素数

中学受験では、素因数分解や、最大公約数・最小公倍数の問題で、素数が大活躍します。「100までの素数は何個か」(25個)、「素数を小さい順に並べると、100番目は?」などの問題は、素数の個数の感覚を身につける練習になります。唯一の偶数の素数「2」の話、2027は素数?双子素数と西暦の入試問題もどうぞ。

高校数学・大学入試:行列式とベクトルの面積

平行四辺形の面積を、∣ad−bc∣|ad-bc| という式で求める方法は、ベクトルの単元(かつては行列)で習います。座標で三角形の面積や、ベクトルの内積の問題で、「面積は、辺の長さの積以下」というアダマールの不等式が、そのまま使えることがあります。内積が0なら直角、という考え方(内積の意味)も、アダマール行列の理解に役立ちます。

大学入試・大学1年:べき級数と収束半径

べき級数の収束半径を求める問題は、大学入試の難問や、大学1年の微分積分で、よく出ます。「∣an∣n\sqrt[n]{|a_n|} の極限を調べる」というコーシー・アダマールの方法は、マクローリン展開の収束を考えるときに使えます。

勉強法として:寝かせて、また考える

アダマールの「ふ化」は、受験勉強にも使えます。難問を30分考えて分からなかったら、いったん忘れて、翌日、もう一度見る。すると、前日より整理されていることがあります。ただし、前日にきちんと悩んだ人だけが得られる効果です。数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)も参考にしてください。

アダマールがその後の数学にあたえた影響

  • 解析的整数論:素数定理の証明の方法は、ゼータ関数やL関数を使う、現代の整数論の出発点になりました。ハーディの業績と生涯ら、20世紀の数論研究者に大きな影響を与えました。
  • リーマン予想:アダマールの結果(Re s=1 にゼロ点なし)の先にある、「ゼロ点はすべて Re s=1/2 の上にある」というリーマン予想は、いまも未解決の最大の問題のひとつです(リーマン予想とは?)。
  • 線形代数・符号理論:アダマール行列は、通信の誤り訂正、実験計画、量子コンピュータで広く使われています。
  • 偏微分方程式:「よい設定の問題」の考え方は、物理・工学の方程式の数値計算の、基本のルールになりました。
  • 関数解析:弟子のフレシェとともに、関数の集まりを「空間」として調べる考え方を育てました。
  • 数学の心理・教育:『発明の心理』は、数学教育や、創造性の研究に今も引用されます。

アダマールは、1912年に、ポアンカレの後任としてアカデミーの会員になりました。ポアンカレの考えた発明の過程を、いちばん深く受けついだのが、アダマールだったといえるかもしれません。

アダマールに挑戦!練習問題

やさしい

  1. 素数定理を使って、100までの素数の個数のめやすを 100ln⁡100\dfrac{100}{\ln 100} で求めなさい(ln⁡100≈4.6\ln100\approx4.6 とします)。実際の個数は25個です。
    答えと解説を見る100÷4.6≈100\div4.6\approx 約21.7(約22個)。実際は25個なので、少し小さめの見積もりです。xx が大きくなるほど、実際との比は1に近づきます。
  2. ベクトル (3,0)(3,0) と (1,2)(1,2) が作る平行四辺形の面積を求め、2つのベクトルの長さの積と比べなさい。
    答えと解説を見る面積は ∣3×2−0×1∣=|3\times2-0\times1|= 6。長さは 33 と 12+22=5\sqrt{1^2+2^2}=\sqrt5 なので、積は 35≈6.713\sqrt5\approx6.71。6 ≦ 6.71 で、面積は辺の長さの積以下になっています。

ふつう

  1. 行列 H=(111−1)H=\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix} について、HHTHH^{T} と det⁡H\det H を求め、アダマールの不等式の等号が成り立つことを確かめなさい。
    答えと解説を見るHT=HH^T=H なので、HHT=(2002)=2IHH^T=\begin{pmatrix}2&0\\0&2\end{pmatrix}=2I。det⁡H=−1−1=−2\det H=-1-1=-2。各行の長さは 2\sqrt2 なので、積は 2×2=2\sqrt2\times\sqrt2=2。∣det⁡H∣=2|\det H|=2 と等しいので、等号が成り立ちます(2つの行は直角)。
  2. べき級数 ∑n=1∞2nnxn\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{2^n}{n}x^n の収束半径を、コーシー・アダマールの定理で求めなさい。
    答えと解説を見るan=2nna_n=\dfrac{2^n}{n}。∣an∣n=2nn→2\sqrt[n]{|a_n|}=\dfrac{2}{\sqrt[n]{n}}\to2(nn→1\sqrt[n]{n}\to1)。よって 1R=2\dfrac1R=2 で、収束半径は R=12R=\dfrac12 です。

むずかしい

  1. a,b,c,da,b,c,d を実数とするとき、∣ad−bc∣≦a2+b2c2+d2|ad-bc|\leqq\sqrt{a^2+b^2}\sqrt{c^2+d^2} を証明しなさい(2×2のアダマールの不等式)。
    答えと解説を見る(a2+b2)(c2+d2)=a2c2+a2d2+b2c2+b2d2(a^2+b^2)(c^2+d^2)=a^2c^2+a^2d^2+b^2c^2+b^2d^2。一方、(ad−bc)2+(ac+bd)2=a2d2−2abcd+b2c2+a2c2+2abcd+b2d2(ad-bc)^2+(ac+bd)^2=a^2d^2-2abcd+b^2c^2+a^2c^2+2abcd+b^2d^2 で、これも同じ式になります。よって (a2+b2)(c2+d2)=(ad−bc)2+(ac+bd)2≧(ad−bc)2(a^2+b^2)(c^2+d^2)=(ad-bc)^2+(ac+bd)^2\geqq(ad-bc)^2。両辺の平方根をとれば、∣ad−bc∣≦a2+b2c2+d2|ad-bc|\leqq\sqrt{a^2+b^2}\sqrt{c^2+d^2}。等号は ac+bd=0ac+bd=0(直角)のときです。
  2. 素数定理から、nn 番目の素数 pnp_n は、およそ nln⁡nn\ln n だと見積もれます。この式で、1000番目の素数のおおよその大きさを求めなさい(ln⁡1000≈6.91\ln1000\approx6.91)。実際は7919です。
    答えと解説を見る1000×6.91≈1000\times6.91\approx 6910。実際の7919より、約13%小さいですが、桁は合っています。nn が大きくなるほど、pnp_n と nln⁡nn\ln n の比は1に近づく(素数定理から導ける)、というのがポイントです。

アダマールと関係する数学者

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アダマールがかかわった数学の難問

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よくある質問

アダマールは何をした人ですか?

ジャック・アダマールは、フランスの数学者です。1896年に、ド・ラ・ヴァレ・プーサンとは別々に素数定理を証明しました。アダマールの不等式、アダマール行列、よい設定の問題、『数学における発明の心理』などでも知られます。

素数定理とは何ですか?

1からxまでの素数の個数π(x)が、x÷ln x に近づく、という定理です。xが大きいほど、実際の個数と x÷ln x の比が1に近づきます。ガウスが予想し、1896年にアダマールとド・ラ・ヴァレ・プーサンが証明しました。

アダマールの不等式とは何ですか?

n次の正方行列の行列式の絶対値は、各行ベクトルの長さの積以下になる、という不等式です(1893年)。2次元では、平行四辺形の面積は辺の長さの積以下になる、という意味になります。

アダマール行列とは何ですか?

成分が+1か−1だけで、どの2つの行も内積が0(直交)になる正方行列です。誤り訂正符号、実験計画、量子コンピュータの基本操作などに使われています。

アダマールの名言はありますか?

「実数の世界の2つの真理のあいだの最短の道は、複素数の世界を通る」という言葉が、アダマールのものとして広く伝わっています。ただし、もとは1900年のパンルヴェの言葉で、アダマールは1945年の著書でそれを紹介したものです。

アダマールは何歳で亡くなりましたか?どこの国の人ですか?

アダマールは1865年にフランスのヴェルサイユで生まれ、1963年10月17日にパリで97歳で亡くなりました。

アダマールとドレフュス事件の関係は?

ドレフュスの妻がアダマールの親戚だったため、アダマールはパリへ移った1897年ごろから、ドレフュスの無実を訴える運動の中心的な人物のひとりになりました。ドレフュスは1906年7月に、名誉を回復しました。

アダマールは中学受験・高校受験・大学受験に関係がありますか?

素数は中学受験から大学入試まで出題されます。行列式と平行四辺形の面積、べき級数の収束半径も、高校・大学入試や大学1年の内容で、アダマールの業績とつながっています。

『数学における発明の心理』とはどんな本ですか?

1945年にアダマールが出版した、数学者がどのようにひらめくかを調べた本です。準備・ふ化・ひらめき・検証の4つの段階が紹介され、ポアンカレやアインシュタインらの考え方も取り上げられています。

よい設定の問題とは何ですか?

解が存在する、解がただ1つに決まる、条件が少し変わっても解があまり変わらない(安定している)、という3つの条件がそろった問題のことです。アダマールが提案した考え方で、方程式の数値計算で重要になります。

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出典・参考

  • MacTutor History of Mathematics「Jacques Hadamard」(セント・アンドルーズ大学)
  • J. Hadamard『The Psychology of Invention in the Mathematical Field』(1945年)
  • J. Hadamard, “Sur la distribution des zéros de la fonction ζ(s) et ses conséquences arithmétiques”(1896年)

最終更新:2026年11月3日/作成:大学受験合格大作戦