和氏の璧(かしのへき)の意味と由来|卞和の話・韓非子の原文・書き下し文・現代語訳、完璧との関係をイラストで【故事成語】

和氏の璧(かしのへき)の意味と由来|卞和の話・韓非子の原文・書き下し文・現代語訳、完璧との関係をイラストで【故事成語】

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和氏の璧かしのへき

ひとことで言うと

この上なく値うちのある宝。楚の卞和(べんか)が見つけた玉の原石が、2度「ただの石」とされたあと、みがかれて名玉「和氏の璧」と名づけられた話から。

読み方かしのへき
意味この上なく値うちのある宝。世にまれな、すばらしい宝物。
出典『韓非子』和氏篇「遂命曰和氏之璧」
お話楚の卞和が玉の原石を厲王・武王にささげたが、玉人に「石だ」と言われてうそつきとされた。文王のとき、楚山のふもとで泣く卞和のわけを聞いた王が原石をみがかせると名玉が出てきて、「和氏の璧」と名づけられた
別の言い方和璧(かへき)・連城の璧(れんじょうのへき)
似た言葉至宝・掌中の珠・連城の璧
反対の言葉二束三文(にそくさんもん)・瓦礫
漢文の句法使役(使A B)・否定(非ざるなり)・所以(ゆゑん)

このページのポイント

  • 「和氏の璧」はこの上なく値うちのある宝。読みは「かしのへき」、字は「壁」でなく「璧」
  • もとは『韓非子』和氏篇。2度「ただの石」とされても信じぬいた卞和の原石が、みがかれて名玉になった話
  • この璧を秦から守る話が「完璧」。原文の使役の句法・韓非子のたとえの意味・入試の出方まで分かります

「和氏の璧」の意味と読み方

「和氏の璧」はかしのへきと読みます。意味は「この上なく値うちのある宝。世にまれな、すばらしい宝物」です。中国の戦国時代の思想家・韓非(かんぴ)がまとめた『韓非子(かんぴし)』の和氏篇(かしへん)に出てくる、名高い玉(ぎょく)の話から生まれた言葉です。

言葉を分けてみましょう。「和氏」は、この玉を見つけた卞和(べんか)という人のことです。名前の「和」に、人を呼ぶときの「氏(し)」をつけて「和氏(かし)」と言っています。「璧」は、玉をみがいて作った、まん中に穴のあいた平たい円板のことです。昔の中国では、王や貴族が儀式や贈り物に使う、とても大切な宝でした。つまり「和氏の璧」は、「卞和さんが見つけた玉で作った璧」という意味の名前なのです。

璞(あらたま)から璧(へき)へ璞(はく)玉の原石みがく外の石をけずる璧(へき)平たい円板の玉外から見ると、ただの石みがいてみないと、中の玉は見えない→ だから玉の職人も「石だ」とまちがえた※「璞」は「あらたま」とも読む
外は石の皮、中は玉。みがいてはじめて、和氏の璧のような名玉になる
うかるくん

うかるくん

「和氏」って、「わし」じゃなくて「かし」と読むんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

そう、「かし」と読むんだ。「和」には「わ」のほかに「か」という読み方があって、「和尚(おしょう)」の「お」と同じように、いろいろな読み方がある字なんだよ。この言葉では「か」。卞和(べんか)の「か」だと覚えるといい。

サクラちゃん

サクラちゃん

名前のついた宝なんですね。どれくらいすごい宝だったんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

のちの時代に、秦の王が「十五の城と取りかえよう」と言ってきたほどだ。それが「完璧の意味と由来」の話だよ。だから和氏の璧は、連城の璧(れんじょうのへき)とも呼ばれる。いくつもの城が連なるほどの値うち、という意味だね。

今の日本語では、この上なく大切な宝や、かけがえのない名品をたとえるときに使います。少しかたい、書き言葉の言い方です。

  • ○この古い写本は、研究者にとって和氏の璧ともいえる宝だ。
  • ○博物館の目玉は、和氏の璧にもたとえられる名品の茶わんだ。
  • ○祖父が残した日記は、わが家にとっての和氏の璧だ。

「璧」の字は「璧」の読み方・書き順・部首で、「完璧」の「璧」と同じ字です。下の部分が「玉」であることに注意しましょう。「和」は「和」の読み方・書き順・部首、「氏」は「氏」の読み方・書き順・部首で読み方と書き順を確かめられます(「卞」は常用漢字ではありません)。

絵で読む「和氏の璧」のお話

お話の舞台は、今から2700年ほど前の春秋時代の中国、南の大きな国・楚(そ)です。主人公の卞和は、王でも学者でもない、ふつうの人でした。けれども、玉の原石を見ぬく目と、自分の目を信じぬく心を持っていました。4つの場面で見てみましょう。

絵で読む「和氏の璧」(『韓非子』和氏篇の4こま)

1楚山で原石を見つけるこの石の中にすばらしい玉がある!卞和(べんか)
1春秋時代の楚(そ)の国に、卞和(べんか)という人がいました。ある日、楚の山の中で玉(ぎょく)の原石を見つけます。外は灰色の石ですが、卞和には中に美しい玉が入っていると分かりました。
2「ただの石です」ただの石ですうそつきめ!本物の玉なのに…厲王玉人卞和
2卞和は原石を厲王(れいおう)にささげました。ところが、王に命じられて調べた玉の職人(玉人)は「ただの石です」と言います。王は卞和をうそつきとして、重い罰を与えました。次の武王のときも、同じことが起こります。
3三日三夜、泣き続ける三日三夜なぜそんなに泣くのか?宝の玉が石と呼ばれ、正直者がうそつきと呼ばれるのが悲しい卞和王の使い
3文王が王になると、卞和は原石をだいて楚山のふもとで三日三夜泣き続けました。わけをたずねられると、「罰を受けたことが悲しいのではない。宝の玉が石と呼ばれ、正直者がうそつきと呼ばれることが悲しいのです」と答えました。
4みがくと名玉が!名づけて「和氏の璧」遂に命けて和氏の璧と曰ふ
4文王が玉の職人に原石をみがかせると、中からすばらしい玉が出てきました。王はそれを「和氏の璧(かしのへき)」と名づけました。卞和の目は、まちがっていなかったのです。

この話でいちばん大切なのは、3こま目の卞和の言葉です。卞和は2度も「うそつき」とされ、重い罰を受けました。それでも、泣いたのは自分の体のことではありませんでした。本物の宝が「ただの石」とされ、正直に言った人が「うそつき」とされる――その、まちがった見方が悲しかったのです。

ここでいう「罰」は、当時の楚で行われていた、足を傷つける重い刑罰です。原文には「左足」「右足」と書かれていますが、このページではくわしく描かないことにします。大事なのは、それほどの目にあっても、卞和が「あれは玉だ」という考えを変えなかったことです。

卞和が原石をささげた3人の王厲王玉人「石です」卞和をうそつきとした1人目武王玉人「石です」(2回目)またうそつきとされた2人目文王わけを聞き、みがかせた中から名玉!「和氏の璧」3人目2回信じてもらえなくても、あきらめなかった
厲王・武王のときは信じてもらえず、文王のときにやっと名玉と認められた
人差し指を立てて説明するミスターT先生

ミスターT先生

卞和の話は「見る目」の話でもある。玉の職人はプロなのに、外側の石の皮だけを見て「石だ」と言った。卞和は、外側にだまされず中身を見ぬいた。そして、何度否定されても自分の見たものを信じぬいた。この2つがそろって、はじめて名玉が世に出たんだ。

外側を見るか、中身を見るか玉石の皮玉人外だけ見て「石だ」卞和中身を見て「玉だ」本物を見ぬく目見かけにだまされず中身の値うちを見分ける力信じぬく心まわりに否定されても正しいと思うことをつらぬく強さ
外側だけで決めつけた玉人と、中身を見ぬいて信じぬいた卞和

「和氏の璧」の原文・書き下し文・現代語訳

もとになった文章は、『韓非子』の和氏篇のはじめにあります。1文ずつ、返り点と送り仮名をつけた訓読文で見ていきましょう(書き下し文は代表的な読み方の一例です)。返り点の読み方は返り点(レ点・一二点・上下点)の読み方、書き下し文のきまりは書き下し文の書き方とルールでくわしく説明しています。

白文(『韓非子』和氏篇、一部。句読点を補ったもの)楚人和氏、得玉璞楚山中、奉而献之厲王。厲王使玉人相之。玉人曰、石也。……和乃抱其璞而哭於楚山之下、三日三夜、涙尽而継之以血。……和曰、吾非悲刖也。悲夫宝玉而題之以石、貞士而名之以誑。此吾所以悲也。王乃使玉人理其璞而得宝焉、遂命曰和氏之璧。

1文目:卞和が原石を見つける

書き下し文楚そ人ひと和か氏し、玉ぎよく璞はくを楚そ山ざんの中なかに得えて、奉ほうじて之これを厲れい王わうに献けんず。

(『韓非子』和氏篇)

現代語訳楚の国の人、卞和が、玉の原石を楚の山の中で手に入れ、うやうやしく(それを)厲王にささげた。

ここがポイント「璞(はく)」は、みがく前の玉の原石。「奉じて」は、目上の人に両手でささげ持つようす、「献ず」は「さしあげる」です。「而」は読まない置き字(而・於・于・乎・矣・焉)。一二点が2組ある、返り点の練習にちょうどよい1文です。

2文目:玉の職人に調べさせる

書き下し文厲れい王わう玉ぎよく人じんをして之これを相みしむ。玉ぎよく人じん曰いはく、石いしなり。

(『韓非子』和氏篇)

現代語訳厲王は、玉の職人にそれを鑑定させた。玉の職人は言った、「(ただの)石です。」

ここがポイント「使A(ヲシテ)B」は「AをしてBせしむ(AにBさせる)」という使役の句法(使・令・教・遣)です。「相」は「みる」と読み、「よしあしを見分ける・鑑定する」の意味。「曰はく」は「言うことには」で、会話の始まりのしるしです。

3文目:楚山のふもとで泣く

書き下し文和か乃すなはち其その璞はくを抱いだきて楚そ山ざんの下もとに哭こくす。

(『韓非子』和氏篇)

現代語訳卞和はそこで、その原石をだいて、楚の山のふもとで声をあげて泣いた。

ここがポイント「乃(すなは)ち」は「そこで・それで」。4つの「すなはち」(則・即・乃・便)のちがいは「而・則・乃・即」の読み方と違いにまとめています。「哭す」は、声をあげて泣くこと。「於」は場所を表す置き字で、「楚山の下に」の「に」にあたります。

4文目:卞和の答え(前半)

書き下し文吾われ刖げつを悲かなしむに非あらざるなり。

(『韓非子』和氏篇)

現代語訳わたしは、足に重い罰を受けたことを悲しんでいるのではないのです。

ここがポイント「非(あら)ず」は「〜ではない」という否定の句法(不・弗・非・無・莫)。レ点が2つ続くので、下から「刖を→悲しむに→非ざるなり」と順に読み上げます。「刖(げつ)」は昔の重い刑罰の名です。

5文目:卞和の答え(後半)

書き下し文此これ吾わが悲かなしむ所以ゆゑんなり。

(『韓非子』和氏篇)

現代語訳これこそが、わたしが悲しんでいるわけなのです。

ここがポイントこの前に「宝玉にして之に題するに石を以てし、貞士にして之に名づくるに誑を以てするを悲しむ」(宝の玉なのに石と名づけられ、正直者なのにうそつきと呼ばれることが悲しい)という文があります。「所以(ゆゑん)」は「理由・わけ」。「者・所・所以」の読み方と意味でくわしく説明しています。

6文目:和氏の璧と名づける

書き下し文王わう乃すなはち玉ぎよく人じんをして其その璞はくを理をさめしめて宝たからを得えたり。遂つひに命なづけて和か氏しの璧へきと曰いふ。

(『韓非子』和氏篇)

現代語訳(文王は)そこで玉の職人にその原石をみがかせたところ、宝の玉が手に入った。そしてとうとう、これを名づけて「和氏の璧」と言った。

ここがポイントここも「使A(ヲシテ)B」の使役です。今度は一二三点で、「玉人をして→其の璞を→理め→しめて」と読みます。「理む(をさむ)」は「玉をみがく」の意味。「焉」は読まない置き字。「命(なづ)く」は「名づける」です。
和氏の璧の原文で覚える句法5つ使A BAをしてBせしむAにBさせる(使役)使役曰曰はく言うことには読み非〜也〜に非ざるなり〜ではないのだ否定所以ゆゑん理由・わけ重要語乃すなはちそこで・やっと接続
和氏の璧の原文には、使役・否定・重要語の「所以」など、入試によく出る句法が入っています

原典(『韓非子』和氏篇)の本文では

維基文庫(中国語のウィキソース)の『韓非子』和氏篇の本文では、話のはじめは次のようになっています(句読点は維基文庫の本文のとおり。足の罰の部分は「……」で省きました)。

『韓非子』和氏篇の本文(一部)楚人和氏得玉璞楚山中,奉而獻之厲王。厲王使玉人相之。玉人曰:「石也。」……武王薨,文王即位。和乃抱其璞而哭於楚山之下,三日三夜,淚盡而繼之以血。王聞之,使人問其故……和曰:「吾非悲刖也,悲夫寶玉而題之以石,貞士而名之以誑,此吾所以悲也。」王乃使玉人理其璞而得寶焉,遂命曰「和氏之璧」。
  • 「獻」「寶」「淚」「盡」「繼」:昔の字体(旧字体)です。今の字では「献」「宝」「涙」「尽」「継」です。
  • 「涙尽きて之に継ぐに血を以てす」:涙がかれはてて、そのあとに血が流れた、という意味です。それほど長く、深く悲しんだことを表す、強い言い方です。
  • 「貞士(ていし)」:正直で、心がまっすぐな人。卞和は自分のことを、うそつきではなく貞士だと言っているのです。
  • 「題す」「名づく」:どちらも「〜と名前をつける」。宝玉に「石」という名札をつけ、正直者に「うそつき」という名札をつける――中身とちがうレッテルをはることへの悲しみです。
サクラちゃん

サクラちゃん

卞和は、どうして3回目もあきらめずに王のところへ行けたんでしょう?

ミスターT先生

ミスターT先生

原文をよく読むと、3回目は卞和からささげに行ったのではなく、楚山のふもとで泣いていたのを王が聞きつけて、使いをよこしたんだ。つまり卞和は、名誉を取りもどすために泣いていたんじゃない。宝が宝として扱われないことが悲しかった。その正直な悲しみが、王の心を動かしたんだね。

出典『韓非子』と話の背景

『韓非子』は、戦国時代の終わりごろの思想家・韓非(?〜紀元前233年ごろ)の考えをまとめた本です。韓非は韓の国の王族の出身で、荀子(じゅんし)に学んだと伝えられます。国を治めるには、王の気分や人柄ではなく、はっきりした法(きまり)と、臣下を動かす術(やり方)が必要だと説きました。この考え方を「法家(ほうか)」といいます。諸子百家の中での韓非の位置は諸子百家(儒家・道家・法家など)にまとめています。

『史記』には、のちに秦の始皇帝となる秦王が韓非の文章を読んで、「この人に会えたら死んでもうらみはない」と感心したという話が伝わっています。

和氏篇の後半:たとえの意味

実は、卞和の話は和氏篇の前置きです。話のあとで韓非は、「宝の玉でさえ、認められるまでにこれほど苦労した」と言い、続けてこう説明します。王にとって本当に大切なのは法術(正しい政治のやり方)なのに、王はそれを宝の玉ほど大事に思っていない。法術を説く人は、まわりの大臣たちにじゃまをされ、なかなか信じてもらえない――。

つまり韓非は、自分のような法術を説く人を卞和に、法術を和氏の璧にたとえたのです。和氏篇の後半には、楚で改革をした呉起(ごき)、秦で改革をした商鞅(しょうおう)の名前も出てきます。2人とも国を強くしましたが、改革をうらむ人たちによって、最後は命を落としました。韓非は、法術を説く人がいかに危うい立場にあるかを、卞和の話から語り始めたのです。

韓非子が言いたかったこと(たとえの対応)和氏の璧法術(正しい政治のやり方)本当は国の宝なのに…たとえ卞和法術を説く人(韓非たち)王に信じてもらえないたとえ玉人まわりの大臣たち自分に都合が悪いので反対たとえ王君主(国の王)見ぬく目がないと宝を失うたとえ※話の後半で、韓非子はこう説明している
和氏の璧=法術、卞和=法術を説く人。韓非子は、王に「見ぬく目」を持ってほしかった

同じ『韓非子』の「和氏の璧」──解老篇

和氏の璧は、『韓非子』の別の篇にも出てきます。解老篇(かいろうへん)には「和氏之璧,不飾以五采;隋侯之珠,不飾以銀黄。其質至美,物不足以飾之。」(和氏の璧は五色でかざらない。隋侯の珠は金銀でかざらない。中身がこの上なく美しいので、ほかの物ではかざりようがないのだ)とあります(維基文庫の本文で確認)。ここでも和氏の璧は、中身そのものがすばらしい宝の代表として使われています。「隋侯の珠(ずいこうのたま)」と並べて、中身のすぐれた宝の代表として挙げられているのです。

そのあとの和氏の璧と「完璧」

楚で生まれた和氏の璧は、戦国時代の終わりごろ、北の趙(ちょう)の国の恵文王の手に入りました(どうやって移ったかは、はっきりしません)。すると、強い秦(しん)の昭王が「十五の城と取りかえたい」と言ってきます。趙の使者・藺相如(りんしょうじょ)は、秦王に城をわたす気がないと見ぬき、璧を傷一つつけずに趙へ持ち帰りました。これが「完璧(璧を完うする)の意味と由来」の話です(『史記』廉頗藺相如列伝)。藺相如と将軍・廉頗の友情の話「刎頸の交わりの意味と由来」も、同じ列伝にあります。

このあとの和氏の璧のゆくえには、秦の始皇帝の印(玉璽)に作り変えられたという言い伝えもありますが、はっきりした証拠はなく、諸説ありです。

和氏の璧がたどった道楚春秋時代卞和が原石を見つけ、文王が「和氏の璧」と名づける趙戦国時代の終わり趙の恵文王が手に入れる(どうやって移ったかは不明)秦戦国時代の終わり秦の昭王「十五の城と取りかえよう」→ 藺相如が守る(完璧)?秦の時代始皇帝の印(玉璽)になった、という言い伝え(諸説あり)
楚で名づけられ、趙へ、そして秦へ。和氏の璧は「完璧」の話につながっていく
緑色の玉で作られた、まん中に丸い穴のある平たい円板。表面に小さな点の模様がならんでいる
戦国時代の終わりごろから前漢にかけて作られた、玉の璧。和氏の璧そのものではありませんが、璧がまん中に穴のあいた平たい円板だったことが分かります。画像:「Disc (Bi)」(中国・東周〜前漢、紀元前3〜2世紀、メトロポリタン美術館蔵、パブリックドメイン)

同じ『韓非子』から生まれた言葉

『韓非子』からは、たとえ話から生まれた故事成語がたくさんあります。どんな盾も通さない矛の話「矛盾の意味と由来(韓非子)」、切り株を見張り続けた農夫の「株を守る(守株)の意味と由来」、竜ののどの逆さのうろこの「逆鱗に触れるの意味と由来」、道に迷って老いた馬に道案内させた「老馬の智の意味と由来」。どれも、王に考え方を伝えるためのたとえとして書かれています。

「和氏の璧」の使い方と例文・似た言葉

「和氏の璧」は、ほかに代わりのない、このうえなく大切な宝をたとえるときに使います。品物だけでなく、資料・作品・人材など、値うちのはかり知れないものに使えます。日常会話より、文章やスピーチ向きの言葉です。

  • ○この寺に伝わる経典は、まさに和氏の璧というべき宝だ。
  • ○監督にとって、あの若い選手は和氏の璧のような存在だった。
  • ○恩師からもらった手紙は、和氏の璧にも代えがたい。
  • ×庭に和氏の璧のような大きな石を置いた。(大きな石・岩の意味ではない)
  • ×このスマホは安いが、和氏の璧だ。(安物をほめる言い方ではなく、値うちのはかり知れない宝に使う)
「和氏の璧」の使い方○ この上なく値うちのある宝・この古い写本は、研究者にとって和氏の璧だ・和氏の璧にもたとえられる名品・この一枚の写真は、わが家の和氏の璧だ少しかたい、書き言葉の言い方× まちがえやすい所・「わしのへき」と読む → 正しくは「かしのへき」・「和氏の壁」と書く → 「璧」は下が「玉」・ただの「大きな石」の意味で使う
「和氏の璧」はこの上なく値うちのある宝。読みは「かしのへき」、字は「璧」

似た言葉

  • 連城の璧(れんじょうのへき):いくつもの城と同じほどの値うちがある宝。秦王が十五の城と取りかえようとした話から。和氏の璧の別名でもあります。
  • 和璧(かへき):「和氏の璧」を短くした言い方。「隋侯の珠」と合わせて「和璧隋珠(かへきずいしゅ)」とも言います。
  • 至宝(しほう):この上なく大切な宝。「国の至宝」のように使います。
  • 掌中の珠(しょうちゅうのたま):手のひらの中の宝石のように、いちばん大事にしているもの(とくに子ども)。

反対の言葉

  • 二束三文(にそくさんもん)の意味:数が多くても、値段が非常に安いこと。
  • 瓦礫(がれき):かわらや小石のように、値うちのないもの。
  • 猫に小判・豚に真珠:値うちの分からない者に宝を与えても、むだであること。卞和の原石を「石」と言った玉人と王は、まさにこの立場でした。

英語では決まった訳はありませんが、"a priceless treasure"(値段がつけられない宝)、"a gem beyond price"などと言いかえられます。卞和の話の教えは、"Don't judge a book by its cover."(表紙で本を判断するな)に近いと言えるでしょう。

「見る目」と「みがく力」にかかわる故事成語

卞和の話には、ほかの故事成語とつながる考えがいくつも入っています。原石はみがいてはじめて光る――これは「玉磨かざれば光なし(礼記)の意味」と同じです。本物を見ぬく人がいてはじめて才能が世に出る――これは「千里の馬も伯楽に会わざればの意味(伯楽とは)」と同じです。よいものと悪いものが入りまじる「玉石混淆(玉石混交)の意味と由来」も、玉と石を見分ける話です。

受験勉強への生かし方

卞和は2度も「うそつき」とされながら、自分が見たものを信じぬきました。受験でも、模試でE判定が出たり、まわりから「むりだ」と言われたりすることがあります。そんなとき、大事なのは自分の積み重ねを冷静に見て、信じて続けることです。将棋の名人の言葉を紹介した升田幸三の名言「踏まれても叩かれても努力さえ続けていれば」の意味や、「こけたら立ちなはれ、立ったら歩きなはれ」の意味と出典は、くじけそうなときの支えになります。

そして、もう一つの教えは「原石はみがかないと光らない」ことです。文王が原石をみがかせたからこそ、和氏の璧は世に出ました。あなたの力も、まだみがく前の璞かもしれません。共通テストで思うようにいかなかった人には「絶対にあきらめるな」共通テストで失敗した受験生へも読んでほしい記事です。

「和氏の璧」のよくあるまちがい

  • 「わしのへき」と読む:正しくは「かしのへき」です。卞和(べんか)の「か」です。
  • 「和氏の壁」と書く:「璧」は下が「玉」で、玉の宝のこと。「壁」は下が「土」で、かべのことです。「完璧」を「完壁」と書くまちがいと同じです。
  • 「和氏」を「和という家(一族)」のことだと思う:ここでの「和氏」は、卞和という1人の人を指します。
  • 「完璧」と同じ話だと思う:和氏の璧が見つかって名づけられる話は『韓非子』、その璧を秦から守る「完璧」の話は『史記』です。同じ璧の、別の時代の別の話です。
  • 「信じてもらえない悲しさ」の意味で使う:言葉の意味は「この上なく値うちのある宝」です。卞和の苦労は話の中身で、言葉の意味そのものではありません。
うかるくん

うかるくん

「完璧」と「和氏の璧」、テストでごっちゃになりそうです…。

ミスターT先生

ミスターT先生

順番で覚えよう。①『韓非子』:卞和が原石を見つけて「和氏の璧」と名づけられる。②『史記』:その璧を、藺相如が秦から守って「璧を完うして」趙に帰る(完璧)。宝が生まれる話が①、宝を守る話が②だ。

入試ではこう出る

「和氏の璧」は、中学受験・高校受験・大学受験のどれでも出会う可能性がある言葉です。

  • 中学受験:「完璧」の由来を説明する文章の中で、「和氏の璧」という宝の名前が出てきます。「璧」と「壁」の書き分け、「完璧」の意味を問う問題とセットで覚えておきましょう。
  • 高校受験:故事成語の由来の文章や、やさしい漢文として卞和の話が出ることがあります。「使玉人相之」のような使役の返り点、「石也」の読み方に注意。高校受験の漢文の出方は高校受験の漢文(返り点・書き下し文の対策)にまとめています。
  • 大学受験:『韓非子』和氏篇は、漢文の教材としてよく読まれる文章です。使役「使A B」、「所以」の読み、「題之以石」の訳し方に加え、卞和の話が何のたとえか(法術を説く人と君主の関係)を説明させる問題が考えられます。共通テストの漢文の出方は共通テストの漢文(配点・時間配分)へ。
ひらめいたサクラちゃん

サクラちゃん

和氏の璧は「かしのへき」と読んで、意味は「この上なく値うちのある宝」。卞和は2回否定されても信じぬいて、3人目の文王がみがかせて名玉に。そのあと趙から秦へ行くのが「完璧」の話ですね!

練習問題

やさしい

  1. 「和氏の璧」の読み方を、ひらがなで答えましょう。
    答えと解説を見るかしのへき。「わしのへき」ではありません。
  2. 「和氏の璧」の意味として正しいものを選びましょう。
    ア 大きくてじょうぶな石のかべ イ この上なく値うちのある宝 ウ うそをついて人をだますこと エ すぐにこわれてしまうもの
    答えと解説を見るイ。卞和が見つけた玉で作った、名高い璧の話から生まれた言葉です。

ふつう

  1. 次の文のまちがいを直しましょう。
    「この古文書は、研究者にとって和氏の壁だ。」
    答えと解説を見る壁 → 璧。「璧」は下が「玉」の字で、玉で作った宝のことです。
  2. 「厲王使玉人相之」を書き下し文に直しましょう。(「相」は「みる」と読みます)
    答えと解説を見る厲王玉人をして之を相しむ。「使A B(AをしてBせしむ)」の使役の形です。

むずかしい

  1. 卞和が楚山のふもとで泣いたのはなぜですか。原文「悲夫宝玉而題之以石、貞士而名之以誑」をふまえて説明しましょう。
    答えと解説を見る自分が罰を受けたことが悲しいのではなく、本物の宝の玉が「ただの石」と名づけられ、正直者である自分が「うそつき」と呼ばれるという、まちがった評価が悲しかったからです。
  2. 韓非子は、和氏の璧の話を何のたとえとして使っていますか。
    答えと解説を見る和氏の璧を法術(正しい政治のやり方)に、卞和を法術を説く人にたとえ、君主が本当の宝を見ぬけず、法術を説く人がなかなか信じてもらえないことを言うために使っています。

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よくある質問

和氏の璧とはどういう意味ですか?

和氏の璧とは、この上なく値うちのある宝という意味です。中国の楚の国の卞和(べんか)が見つけた玉で作った、名高い璧(まん中に穴のあいた平たい円板の玉)の名前から生まれました。

和氏の璧の読み方は何ですか?

「かしのへき」と読みます。「和」は卞和(べんか)の「か」なので、「わしのへき」は誤りです。

和氏の璧の由来・出典は何ですか?

中国の『韓非子』和氏篇が由来です。卞和が玉の原石を厲王と武王にささげましたが、2度とも「ただの石」とされてうそつき扱いされました。文王のときに原石をみがかせると名玉が出てきたので、「和氏の璧」と名づけられました。

和氏の璧の原文と書き下し文は?

名づける場面の原文は「王乃使玉人理其璞而得宝焉、遂命曰和氏之璧」です。書き下し文は「王乃ち玉人をして其の璞を理めしめて宝を得たり。遂に命けて和氏の璧と曰ふ」です。

和氏の璧と完璧はどんな関係ですか?

完璧の「璧」は、この和氏の璧のことです。のちに趙の国のものになった和氏の璧を、秦の王が十五の城と取りかえると言ってだまし取ろうとしましたが、藺相如が璧を傷一つつけずに持ち帰りました。これが『史記』にある「完璧」の話です。

和氏の璧の話から何が学べますか?

見かけにだまされず本物を見ぬく目と、否定されても正しいと思うことを信じぬく心の大切さが学べます。また、原石もみがかなければ光らない、ということも教えてくれます。

和氏の璧の似た言葉・反対の言葉は?

似た言葉には「連城の璧」「和璧」「至宝」「掌中の珠」があります。反対の意味の言葉には「二束三文」「瓦礫」があります。

和氏の璧は英語で何と言いますか?

決まった訳はありませんが、"a priceless treasure"(値段がつけられない宝)などと言いかえられます。卞和の話の教えは "Don't judge a book by its cover."(見かけで判断するな)に近いです。

和氏の璧を「和氏の壁」と書くのは正しいですか?

いいえ、まちがいです。「璧」は下が「玉」の字で玉の宝を表し、「壁」は下が「土」の字でかべを表します。「完璧」と同じ「璧」を書きます。

和氏の璧は入試でどう出ますか?

中学受験では「完璧」の由来の説明の中で出てきます。高校受験では故事成語の由来や返り点の問題、大学受験では『韓非子』和氏篇の本文で、使役の句法や「所以」の読み、話が何のたとえかを説明させる問題が考えられます。

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出典・参考

  • 原文:『韓非子』和氏篇・解老篇(維基文庫の本文で確認)
  • 和氏の璧が趙に入り、秦が十五の城との交換を求めた話:『史記』廉頗藺相如列伝(維基文庫の本文で確認)
  • 和氏の璧が秦の玉璽になったという話:言い伝え(諸説あり)
  • 厲王がだれにあたるか:はっきりしない(諸説あり)
  • 書き下し文・現代語訳:合格大作戦(教科書で多い読み方をもとにした一例)
  • お話の絵・図:合格大作戦

最終更新:2026年10月29日/作成:大学受験合格大作戦