漢文文法・句法辞典 › 重要語の読みと識別
大学受験難関大
ひとことで言うと
「者」は動詞・形容詞の下では「もの(人・こと)」、名詞の下で「〜也」と結ぶ文では主題の「は・とは」と読みます。「所」は下の動詞から返って「〜すること・もの」を作り、「所以」は2字で「ゆゑん」(理由・方法)と読みます。
このページのポイント
- 動詞・形容詞+者=もの(人・こと)。名詞+者(〜也)=は・とは
- 所+動詞=〜すること・もの(所は返読)
- 為A所B=AのBする所と為る=AにBされる(受身)
- 所以=ゆゑん(〜するわけ・〜する手段)。ただし「其の以す所」に注意
- 所謂=いはゆる、何者=なんとなれば、古者=いにしへは、不者=しからずんば
はじめて(やさしく)
「者(しゃ)・所(しょ)・所以(しょい)」は、どれもことばを名詞のまとまりにする字です。「者」は「〜する人・もの」、「所」は「〜すること・もの」、「所以」は「〜するわけ・手段」。日本語の「もの」「こと」「ところ」「ゆえん」のもとになった字でもあります。
ただし、「者」は「もの」と読むだけでなく、「は」と読んで主題を示すことがあり、「所以」は2字まとめて「ゆゑん」と読みます。このページでは、その読み分けと見分け方を中心に説明します。まず、読み分けの一覧表を見ましょう。
「者・所・所以」の読み分けの一覧表
| 字 | 読み | 働き | 意味(訳) | 見分け方の目印 | 例 |
|---|---|---|---|---|---|
| 者 | もの | 人・ものを表す名詞 | 〜する人・〜するもの | 上が動詞・形容詞 | 之を知る者・勇者 |
| 者 | は・とは | 主題・定義 | 〜は・〜というのは | 名詞の下で、文末が「〜也」 | 陳勝は/政とは正なり |
| 者 | こと | 事がら | 〜すること | 上が動詞の句で、事がらを指す | 〜する者有り(文脈) |
| 古者・今者 | いにしへは・いまは | 時を示す | 昔は・今は | 時の語+者 | 古者は |
| 不者 | しからずんば | 仮定 | そうでなければ | 「不者」の2字 | 不者、若が属… |
| 何者 | なんとなれば | 理由の前置き | なぜならば | 文の頭の「何者」 | 何者、…なればなり |
| 所 | ところ | 動詞を名詞にする | 〜すること・〜するもの | 所+動詞(返読) | 己の欲せざる所 |
| 為A所B | AのBする所と為る | 受身 | AにBされる | 為…所…の組み合わせ | 人の制する所と為る |
| 所以 | ゆゑん | 理由・方法 | 〜するわけ・〜する手段 | 所以+動詞の句(+也) | 道を伝ふる所以なり |
| 所謂 | いはゆる | 引用・定義 | 世に言う・いわゆる | 文や句の頭 | 所謂大臣なる者は |
表の上半分が「者」、下半分が「所」の仲間です。まず「者」の読み分けを図で見てみましょう。ポイントは「者」の上にどんな語があるかです。
例文1 「者」=もの(人)
白文知者不惑、仁者不憂、勇者不懼。
書き下し文知者は惑はず、仁者は憂へず、勇者は懼れず。
(『論語』子罕)
現代語訳知恵のある人は迷わず、仁徳のある人は心配せず、勇気のある人はおそれない。
まなぶくん
「者」って、ぜんぶ「もの」って読めばいいんじゃないの?
ミスターT先生
たいていは「もの」でいい。でも「陳勝者、陽城人也」のように、名詞のすぐ下にあって、最後が「〜也(なり)」で終わる文では、「者」は「は」と読んで話題を示すんだ。「陳勝というもの」とは訳さないよ。
ハルちゃん
名詞+者+〜也なら「は」。「者」の上と、文の終わりを見るんですね。
次は「所」です。「所」は「ところ」と読み、すぐ下の動詞から返って読みます。「所+動詞」で「〜すること・〜するもの」という名詞のまとまりを作ります。場所の「ところ」ではないことが多いので注意しましょう。
例文2 「所」=〜すること
書き下し文己の欲せざる所は、人に施すこと勿かれ。
(『論語』衛霊公)
現代語訳自分がしてほしくないことは、人にしてはいけない。

ミスターT先生
「者」は上の語で、「所」は下の動詞で読む。「所以」は2字で「ゆゑん」。この3つの目のつけどころを覚えておけば、まず迷わないよ。
ここまでのまとめ
- 動詞・形容詞+者=もの(人・こと)。名詞+者(〜也)=は・とは
- 所+動詞=〜すること・もの(所は返読)
- 所以=ゆゑん(〜するわけ・〜する手段)
しっかり(共通テスト)
見分け方の手順
- 「所以」の2字を探す:「所以+動詞の句(+也)」なら「ゆゑん」(理由・方法)。ただし「其所以(其の以す所)」のように、「以」が動詞として働くときは別に読む。
- 「所」があれば下の動詞を見る:「所+動詞」=「〜する所」(〜すること・もの)。上に「為」があれば受身「為A所B(AのBする所と為る)」。
- 「者」の上を見る:動詞・形容詞なら「もの」。名詞で文末が「〜也」なら「は・とは」(主題・定義)。
- 決まった形を覚える:古者=いにしへは、今者=いまは、不者=しからずんば、何者=なんとなれば、所謂=いはゆる。
- 訳を確かめる:「もの」が「人」か「こと」か、「所以」が「理由」か「手段」かを文脈で決める。
「〜者、〜也」の主題・定義の文
「A者B也」は「AはBなり」「AとはBなり」と読み、「AはBである」「AというのはBのことだ」と説明・定義をする文です。人物紹介(史記の列伝の書き出し)や、ことばの定義によく使われます。
例文3 主題の「者」(〜は)
書き下し文陳勝は、陽城の人なり。
(『史記』陳渉世家)
現代語訳陳勝は、陽城の出身の人である。
例文4 定義の「者」(〜とは)
書き下し文政とは、正なり。
(『論語』顔淵)
現代語訳政治というのは、正しくすることである。
「所以」:理由と方法
「所以」は、2字まとめて「ゆゑん」と読みます。もとは「所(〜する)+以(それによって)」で、「それによって〜するもの」、つまり「〜する理由」または「〜する手段・方法」を表します。書き下し文では漢字のまま「所以」と書くのがふつうです(ひらがなで「ゆゑん」と書く本もあります)。
例文5 方法・手段の「所以」
書き下し文師は、道を伝へ業を受け惑ひを解く所以なり。
(韓愈「師説」)
現代語訳先生とは、人としての道を伝え、学業を授け、疑問を解いてくれる者である。
例文6 理由の「所以」
書き下し文此れ先漢の興隆せし所以なり。
(諸葛亮「出師表」)
現代語訳これこそが、前の漢王朝がさかえた理由である。
サクラちゃん
「所以」の「理由」と「手段」は、どうやって決めるんですか?
ミスターT先生
「此れ〜所以なり」のように、前に出来事や結果があって「それがなぜか」を説明していれば理由。「AはBする所以なり」のように、A の役目・はたらきを説明していれば手段。迷ったら「わけ」と「ための手段」の両方で訳してみて、自然なほうを選ぶといい。
うかるくん
「ゆえん」って、今の日本語でも「人気の所以」って言うよね!
もっと深く(難関大・上級者)
1. 「為A所B」:「所」が作る受身
「為A所B」は「AのBする所と為る」と読み、「AにBされる」という受身を表します。しくみは、「AのBする所(AがBするもの)」に「為る(なる)」がついて、「AがBする対象になる」=「AにBされる」となる、と考えるとわかりやすいでしょう。Aが省かれた「為所B(Bする所と為る)」の形もあります。くわしくは受身の句法(見・被・為〜所〜・於)で扱います。
例文7 「不者」と「為所B」
書き下し文しからずんば、若が属皆且に虜とする所と為らんとす。
(『史記』項羽本紀)
現代語訳そうしなければ、おまえたちの仲間はみな、(沛公に)とりこにされてしまうだろう。
2. 「所以」と「所+以」の識別
「所以」の2字が並んでいても、いつも「ゆゑん」とは限りません。「以」が動詞(なす・もちゐる)として働き、「所」がそれを名詞にしているときは、「以す所」「以ゐる所」と別々に読みます。論語の為政篇で、人物の見方を説いた一節が有名です。
例文8 「所以」が「ゆゑん」でない例
書き下し文其の以す所を視、其の由る所を観、其の安んずる所を察すれば、人焉くんぞ廋さんや。
(『論語』為政)
現代語訳その人の行いを見て、その行いの動機を観察し、その人が何に満足しているかを見きわめれば、人はどうして自分をかくせようか(かくせはしない)。
3. 「所謂」「何者」「古者」:決まった読みの語
| 形 | 読み | 意味 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 所謂 | いはゆる | 世に言う・いわゆる | 「所謂A者」で「いはゆるAなる者は」と主題を立てる |
| 何者 | なんとなれば | なぜならば | 後ろは「〜ばなり(〜からだ)」で結ぶことが多い |
| 古者 | いにしへは | 昔は | 時を表す語+者。「者」は主題の「は」 |
| 今者 | いまは | 今は | 同じく時の語+者 |
| 向者・曩者 | さきには | さきほどは・以前は | 過去の時点を示す |
| 不者・否者 | しからずんば | そうでなければ | 仮定。前の内容を打ち消して条件にする |
例文9 「所謂」(いはゆる)
書き下し文所謂大臣なる者は、道を以て君に事へ、不可なれば則ち止む。
(『論語』先進)
現代語訳いわゆる(本当の)大臣というものは、正しい道によって君主に仕え、それが受け入れられなければ職を辞める。
例文10 「何者」(なんとなれば)
書き下し文吾往かず。何となれば、病めばなり。
(自作)
現代語訳わたしは行かない。なぜなら、病気だからだ。
4. 「者」の文法:上のことばを名詞にする字
「者」は中国語の文法で、上のことばを名詞のまとまりにする字だと説明されます。「知之者」は「之を知る」をまとめて「之を知る者(人)」にし、「陳勝者」は「陳勝」を話題として取り出して「陳勝というのは」とします。訓読では、前者を「もの」、後者を「は」と読み分けますが、もとは同じ働きの延長だと考えると、「者」が主題の「は」になる理由がよくわかります。
また「者」は「〜する人」だけでなく「〜すること」を表すこともあり、「〜者、…也」の形で理由を述べる場合もあります(「〜するのは、…だからである」)。このように「者」の訳は、文脈で「人・もの・こと・は」を選ぶのがコツです。日本語の「者(もの)」が人だけを指すのにつられて、いつも「人」と訳さないようにしましょう。

5. 「所」のさまざまな形
「所」は、次のような形でもよく出ます。「有所A(Aする所有り=Aすることがある)」「無所A(Aする所無し=Aすることがない)」は、否定・存在の形とあわせて覚えましょう(返読文字(有・無・不・非))。また「所+動詞+者(〜する所の者)」と「者」がつく形や、「A之所B(AのBする所)」のように主語を「之」で示す形もあります(「富と貴とは、是れ人の欲する所なり」)。いずれも「所+動詞」が名詞のまとまりを作る、という基本は同じです。

サクラちゃん
「者」は上を見て「もの」か「は」か、「所」は下の動詞から返って「〜すること」、「所以」は2字で「ゆゑん」。でも「其の以す所」みたいな例外もある、と覚えておきます!
よくあるまちがい
まちがい1:主題の「者」を「もの」と訳す
「陳勝者、陽城人也」を「陳勝という者は」と訳しても大きくは外れませんが、書き下しは「陳勝は」が基本です。名詞+者で「〜也」と結ぶ文では、「者」は主題の「は」です。
まちがい2:「所」を場所の「ところ」と訳す
「己所不欲」は「自分が望まないこと」。「所+動詞」は「〜すること・もの」で、場所の意味ではありません。
まちがい3:「所以」を「所を以て」と読む
「此先漢所以興隆也」を「此れ先漢の所を以て興隆するなり」とするのは誤り。2字で「ゆゑん」と読み、「〜する理由」です。
まちがい4:「所以」があれば必ず「ゆゑん」と読む
「視其所以」は「其の以す所を視る」。「以」が動詞として働くときは、「所」と「以」を別々に読みます。同じ形が並んでいないか確かめましょう。
まちがい5:「為A所B」を「AのためにBする」と訳す
「為人所制」は「人の制する所と為る」=「人におさえられる」(受身)。「為」を「ために」と読むと、意味が正反対になります。
練習問題
練習問題はすべて合格大作戦の自作です。答えと解説は押すと開きます。
やさしい
- 次の訓読文を書き下し文にし、「者」の意味を答えなさい。学ブ1者ハ2多シ3。
答えと解説を見る
書き下し文:「学ぶ者は多し。」(自作)。上が動詞「学ぶ」なので「者」は「もの(人)」。訳は「学ぶ人は多い」。
- 「所以」の読み方を、ひらがな(歴史的仮名遣い)で答えなさい。
答えと解説を見る
ゆゑん。「〜するわけ(理由)」「〜する手段(方法)」の意味。
ふつう
- 次の訓読文を書き下し文にし、現代語に訳しなさい。此レ吾ガ所以レ去ル也。
答えと解説を見る
書き下し文:「此れ吾が去る所以なり。」(自作)。訳:これがわたしの去る理由だ。「此れ〜所以なり」は理由を述べる形。
- 「孟子者、鄒人也。」(自作)の「者」の読みと働きを答え、書き下し文にしなさい。
答えと解説を見る
人名「孟子」の下にあり、文末が「也」で結ばれるので、主題を示す「は」。書き下し文は「孟子は、鄒の人なり。」
むずかしい
- 次の白文を書き下し文にし、現代語に訳しなさい。(自作)
「智者為愚者所笑。」答えと解説を見る
書き下し文:智者愚者の笑ふ所と為る。 訳:かしこい人がおろかな人に笑われる。「為A所B(AのBする所と為る)」の受身。A=愚者、B=笑ふ。
- 「其所以」という2字の並びが「ゆゑん」と読まれない場合があるのはなぜか。例を挙げて説明しなさい。
答えと解説を見る
「以」が動詞(なす・もちゐる)として働き、「所」がそれを名詞にしている場合は、「所」と「以」が別々の語になるから。例:論語の「視其所以」は「其の以す所を視る」(その人の行っていることを見る)と読み、続く「其の由る所」「其の安んずる所」と同じ「所+動詞」の形が並ぶことが手がかりになる。
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よくある質問
漢文の「者」は何と読みますか?
動詞・形容詞の下では「もの」と読み、「〜する人・もの・こと」を表します。名詞の下で文末が「〜也」となる文では、主題を示す「は」(定義なら「とは」)と読みます。
「所」はどんな意味ですか?
「所+動詞」で「〜すること・〜するもの」という名詞のまとまりを作ります。所は下の動詞から返って読む返読の字で、場所の意味でないことが多いです。
「所以」の読み方と意味は?
2字まとめて「ゆゑん」と読み、「〜するわけ(理由)」または「〜する手段(方法)」を表します。「此れ〜所以なり」は理由を述べる形です。
「為A所B」はどう読み、どう訳しますか?
「AのBする所と為る」と読み、「AにBされる」と訳す受身の形です。Aが省かれて「Bする所と為る」となることもあります。
「何者」「所謂」はどう読みますか?
「何者」は文の頭で「なんとなれば(なぜならば)」、「所謂」は「いはゆる(世に言う)」と読みます。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:『論語』(子罕・衛霊公・顔淵・為政・先進)、『史記』(陳渉世家・項羽本紀)、韓愈「師説」、諸葛亮「出師表」。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による
- 高校の漢文句法の標準的な説明(者・所・所以・為A所B)にもとづいて作成。読みが分かれる所は本文中に記した
- 画像:王羲之「蘭亭序」唐代の模本(神龍本、故宮博物院、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)
最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦



