漢文文法・句法辞典 › 入門
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ひとことで言うと
漢文の語順は「主語+述語+目的語・補語」が基本で、英語のSVOと同じ並びです。日本語は述語が最後に来るので、訓読では目的語(〜を)・補語(〜に・より・と)から返って述語を読みます(我読書→我書を読む)。
このページのポイント
- 基本は主語+述語+目的語(英語のSVOと同じ)。日本語は述語が最後
- 目的語は「〜を」、補語は「〜に・〜より・〜と」。補語の前には於・于・乎(置き字)
- 修飾語は前(そのまま読む)。否定語・助動詞も前(日本語ではあとなので返る)
- 漢文には助詞がない。語順が意味を決める(犬噛人/人噛犬)
- 倒置:疑問詞の目的語(吾誰欺)・否定文の代名詞(莫我知)・強調の述語(賢哉回也)は前に出る
はじめて(やさしく)
漢文の語順(言葉の並ぶ順番)の基本は、「主語+述語+目的語」です。たとえば「我読書」は、「我(わたしは)」「読(読む)」「書(本を)」の順に並びます。これは英語の「I read books.」とまったく同じ順番です。
ところが日本語では「わたしは本を読む」と、「読む」が最後に来ます。漢文を日本語として読むとき、返り点をつけて下から返って読むのは、この語順のちがいを日本語に合わせるためなのです。
言葉の役わりの名前を、はじめに整理しておきましょう。
- 主語:「だれが・何が」にあたる語(我・花・孔子)
- 述語:「どうする・どんなだ・何だ」にあたる語(読・開・在)
- 目的語:動作を直接受ける「〜を」にあたる語(書を読む)
- 補語:動作の場所・相手・比べる相手などを表す「〜に・〜より・〜と」にあたる語(山に登る・師に問ふ)
まなぶくん
漢文って英語と同じ語順なの? じゃあ英語が得意だと漢文も読みやすい?
ミスターT先生
そのとおり。「主語のあとに動詞が来て、そのあとに目的語」という並びは英語と同じだ。ちがうのは、漢文には「は・を・に」のような助詞がないこと。だから並ぶ順番そのものが意味を決めるんだよ。
ハルちゃん
順番を入れかえたら、意味が変わっちゃうってことですか?
ミスターT先生
そう。「犬噛人」は「犬が人をかむ」、「人噛犬」は「人が犬をかむ」。字は同じでも、順番で大事件になる(笑)。
主語+述語+目的語
書き下し文犬人を噛む。
(自作)
現代語訳犬が人をかむ。
いっぽう、主語と述語だけの文は、日本語と同じ順番なので返り点がいりません。杜甫の有名な詩「春望」の書き出しを見てみましょう。
主語+述語(返り点なし)
白文国破山河在、城春草木深。
書き下し文国破れて山河在り、城春にして草木深し。
(杜甫「春望」)
現代語訳都は戦乱でめちゃくちゃになったが、山や川は昔のまま残っている。町には春がめぐってきて、草や木が深くしげっている。

ミスターT先生
漢文の語順は「主語+述語+(目的語・補語)」。述語のうしろに「〜を」「〜に」が来る、と覚えておこう。だから日本語にするときは、そこから返って述語を読むんだ。
ここまでのまとめ
- 漢文の基本は主語+述語+目的語(英語のSVOと同じ)
- 日本語は述語が最後なので、目的語・補語から返って述語を読む
- 漢文には助詞がない。語順が意味を決める
しっかり(共通テスト)
基本の4つの型
漢文の文は、ほとんどが次の4つの型と、その組み合わせでできています。述語より下にあるものは、日本語では述語より先に読む――これが返り点の正体です。
| 型 | 例(白文) | 書き下し文 | 返り方 |
|---|---|---|---|
| 主+述 | 花開 | 花開く | 返らない |
| 主+述+目 | 我読書 | 我書を読む | 目的語「〜を」から述語へ返る |
| 主+述+補 | 我登山 | 我山に登る | 補語「〜に」から述語へ返る |
| 主+述+目+補 | 弟子問礼於師 | 弟子礼を師に問ふ | 目的語→補語→述語の順に読む |
| 主+述+補+目 | 王賜臣金 | 王臣に金を賜ふ | 補語→目的語→述語の順に読む |
目的語と補語が両方あるときの並び方は2通りあります。「与える・教える・たずねる」などの動詞では、相手(補語)を先、もの(目的語)をあとに置く「王賜臣金」の形と、ものを先に置いて相手の前に「於」をつける「問礼於師」の形があります。英語の「give him a book」と「give a book to him」の関係とよく似ています。
主+述+補+目
書き下し文王臣に金を賜ふ。
(自作)
現代語訳王が家臣に金を与えた。
主+述+目+於+補
書き下し文弟子礼を師に問ふ。
(自作)
現代語訳弟子が礼について先生にたずねた。
補語の前の「於・于・乎」
補語の前には、於・于・乎という字がよく置かれます。これらは場所・相手・比較などを示す前置詞(英語の at・to・than にあたる語)ですが、訓読では読まない置き字にして、その代わりに補語へ「ニ」「ヨリ」「ト」などの送り仮名をつけます。置き字のくわしい読み方は置き字(而・於・于・乎・矣・焉)の読み方で説明しています。
於+補語(起点・比較)
書き下し文青は之を藍より取りて、藍よりも青し。
(『荀子』勧学)
現代語訳青い染料は藍という草からとるが、もとの藍よりも青い。
述語(形容詞)+於+補語
書き下し文霜葉は二月の花よりも紅なり。
(杜牧「山行」)
現代語訳霜にあたって色づいた葉は、春二月の花よりも赤い。
修飾語・否定語・助動詞は「前」に置く
漢文では、くわしくする語(修飾語)は、くわしくされる語の前に置きます。「白雲(白い雲)」「大器晩成(大器は晩成す=大人物はおそくできあがる)」のように、ここは日本語と同じ順なので、そのまま読めます。
注意したいのは、否定語(不・無・非)や助動詞にあたる字(可・能・欲・使・被)も、述語の前に置かれることです。日本語では「知らず」「読むべし」と、打ち消しや助動詞はあとに来るので、これらの字は返って読みます。これが返読文字(有・無・不・非・可・使・被)の正体です。
否定語は述語の前
書き下し文春眠暁を覚えず、処処啼鳥を聞く。
(孟浩然「春暁」)
現代語訳春の眠りは心地よく、夜が明けたのにも気づかない。あちこちで鳥の鳴く声が聞こえる。
白文を読むときの手順
- 述語(動詞・形容詞)をさがす。文の中心。「読・登・問・在・青」など。
- 述語の前から主語・修飾語・否定語・助動詞を見つける。修飾語はそのまま、否定語・助動詞はあとで返って読む。
- 述語のうしろから目的語(〜を)・補語(〜に・より・と)を見つける。「於・于・乎」があれば、その下は補語。
- 読む順番を決める:主語→修飾語→(補語・目的語)→述語→助動詞・否定語。返り点をつけて確かめる。
修飾語+述語+目的語
書き下し文学びて時に之を習ふ。
(『論語』学而)
現代語訳学んだことを、機会があるたびにくり返し復習する。
サクラちゃん
目的語と補語の区別がむずかしいです。「山に登る」の「山」は目的語じゃないの?
ミスターT先生
日本語で「〜を」になるのが目的語、「〜に・〜より・〜と」になるのが補語、と考えればいい。「登山」は「山に登る」だから補語だ。英語でも climb a mountain と言うから、教科書によっては目的語とあつかうこともある。入試では、送り仮名を正しくつけられるかが大事だよ。
もっと深く(難関大・上級者)
1. 倒置:語順がくずれる3つの場合
漢文の語順は「主+述+目」が基本ですが、決まった場合に目的語や述語が前に出ることがあります。これを倒置といいます。倒置された部分は、述語より前にあるので返らずに読むことが多く、返り点の付き方がふつうと変わります。白文の訓読で差がつくところです。
| 倒置の種類 | 例(白文) | 書き下し文 | ふつうの語順なら |
|---|---|---|---|
| 疑問詞の目的語が前へ | 吾誰欺 | 吾誰をか欺かん | 吾欺誰 |
| 否定文で代名詞の目的語が前へ | 莫我知 | 我を知ること莫し | 莫知我 |
| 強調・詠嘆で述語が前へ | 賢哉回也 | 賢なるかな回や | 回也賢哉 |
| 強調で述語が前へ | 巧言令色、鮮矣仁 | 巧言令色、鮮なし仁 | 巧言令色、仁鮮矣 |
疑問詞の目的語の前置
書き下し文吾誰をか欺かん、天を欺かんか。
(『論語』子罕)
現代語訳わたしはだれをだますというのか。天をだますというのか(そんなことはできない)。
否定文の代名詞の目的語の前置
書き下し文我を知ること莫きかな。
(『論語』憲問)
現代語訳わたしを理解してくれる人はいないなあ。
述語の前置(詠嘆)
書き下し文賢なるかな回や。
(『論語』雍也)
現代語訳なんとすぐれた人物だろう、顔回は。
述語の前置(強調)
書き下し文巧言令色、鮮なし仁。
(『論語』学而)
現代語訳言葉をかざり、顔つきをとりつくろう人には、思いやり(仁)の心はほとんどない。

2. 動詞のない文:「A者B也」(AはBなり)
英語では「He is a student.」のように be 動詞が必要ですが、漢文では「A(者)、B也」の形で「AはBである」を表し、動詞を使いません。「者」は主語を示して「は」と読み、「也」は断定の「なり」と読みます。どちらも書き下しではひらがなです。
A者B也(判断の文)
書き下し文陳勝は、陽城の人なり。
(『史記』陳渉世家)
現代語訳陳勝は、陽城の出身の人である。
3. 受身の「於」:補語が「動作をする人」になる
述語のうしろに「於+人」が来ると、「人に〜される」という受身になることがあります。このとき補語は「動作をする人」です。受身の句法(る・らる、為〜所〜、見・被)は、句法のページ「受身の句法(見・被・為〜所〜)」でまとめます。
於による受身
書き下し文心を労する者は人を治め、力を労する者は人に治めらる。
(『孟子』滕文公上)
現代語訳心(頭)を使って働く者は人を治め、体を使って働く者は人に治められる。
4. 文法用語と流派のちがい
「主語・述語・目的語・補語」という呼び方は、近代になって西洋の文法を参考に漢文に当てはめたものです。そのため、参考書や教科書によって用語や分け方が少しずつ違います。たとえば「登山」の「山」を補語とする本と目的語とする本があり、「於」などを「前置詞」「介詞」と呼ぶ本もあります。また、「主+述+目+補」と「主+述+補+目」を区別せず、「述語のうしろに目的語や補語が来る」とだけまとめる本もあります。用語にこだわるより、述語のうしろの語から返るというしくみをつかむことが大切です。

サクラちゃん
わかった! 述語をさがして、そのうしろから返る。でも、疑問詞や否定文の代名詞が前に出ているときは返らない。語順がわかると、返り点のない白文も読めそう!
よくあるまちがい
まちがい1:漢文も日本語と同じ語順だと思って、上から順に訳す
「春眠不覚暁」を「春の眠りは、ない、覚える、暁」と上から訳すのは誤り。述語のうしろの目的語から返って、「暁を覚えず」と読みます。
まちがい2:「於」を「おいて」と読んでしまう
補語の前の「於」は、ふつう読まない置き字です。「藍に於いて青し」ではなく「藍よりも青し」。ただし「〜に於いて(〜で・〜において)」と読む用法もあり、教科書の読み方にしたがいます。
まちがい3:目的語と補語の送り仮名をとりちがえる
「我登山」を「我山を登る」、「弟子問礼於師」を「弟子礼に師を問ふ」とするのは誤り。動作を直接受ける語は「を」、場所・相手・比較は「に・より・と」です。
まちがい4:倒置の文に、ふつうの返り点をつける
「吾誰欺」の「誰」は述語の前にあるので、「欺」から「誰」へ返ってはいけません。「吾誰をか欺かん」と上から読みます。
練習問題
やさしい
- 漢文の基本の語順を、「主語・述語・目的語」の3つの言葉を使って答えなさい。
答えと解説を見る
主語+述語+目的語の順。英語のSVOと同じで、日本語(主語+目的語+述語)とは述語の位置がちがう。
- 次の文を書き下し文にしなさい。(自作)我登ルレ山ニ。
答えと解説を見る
我山に登る。(我山に登る。)「山」は場所を表す補語なので「に」を送り、レ点で「登る」に返る。
ふつう
- 「弟子問礼於師」(自作)の各語の役わり(主語・述語・目的語・補語)を答え、書き下し文にしなさい。
答えと解説を見る
主語=弟子、述語=問、目的語=礼、補語=師(「於」は補語を示す置き字)。書き下し文:弟子礼を師に問ふ。
- 「不」や「可」は述語の前に置かれるのに、なぜ書き下し文では述語のあとに来るのか説明しなさい。
答えと解説を見る
漢文では否定語や助動詞にあたる字を述語の前に置くが、日本語では打ち消し「ず」や助動詞「べし」は述語のあとに来るから。そのため訓読では、述語を読んでから返って「不(ず)」「可(べし)」を読む(返読文字)。
むずかしい
- 次の白文を書き下し文にし、語順が「ふつう」とちがう点を説明しなさい。(自作)
「汝何求」答えと解説を見る
書き下し文:汝何をか求めん(または「汝何を求むる」)。目的語の「何」が疑問詞なので、述語「求」の前に出ている(倒置)。ふつうの語順なら「汝求何」。述語の前にあるので「何」から「求」へは返らず、上から順に読む。
- 「治人」と「治於人」の意味のちがいを、語順と「於」の働きから説明しなさい。
答えと解説を見る
「治人」は「人を治む」で、「人」は目的語(治められる側)。「治於人」は「人に治めらる」で、「於」のついた「人」は補語だが、ここでは動作をする側(治める側)を表し、受身になる。「於」の有無で、人が治める側か治められる側かが逆になる(『孟子』滕文公上「労力者治於人」)。
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よくある質問
漢文の語順はどうなっていますか?
「主語+述語+目的語・補語」が基本です。英語のSVOと同じ並びで、日本語のように述語が最後に来ることはありません。
漢文と英語の語順は同じですか?
基本の「主語+動詞+目的語」の並びは同じです。ただし漢文には冠詞や語形の変化、be動詞にあたる語がなく、「A者B也(AはBなり)」のように動詞のない文も作れます。
目的語と補語はどう見分けますか?
日本語にして「〜を」になるのが目的語、「〜に・〜より・〜と」になるのが補語です。補語の前には於・于・乎などの置き字が置かれることが多くあります。
漢文の倒置とは何ですか?
決まった場合に目的語や述語が前に出ることです。疑問詞の目的語(吾誰欺=吾誰をか欺かん)、否定文の代名詞の目的語(莫我知=我を知ること莫し)、強調の述語(賢哉回也)などがあります。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」国語
- 例文の本文:杜甫「春望」、孟浩然「春暁」、杜牧「山行」、『論語』(学而・雍也・子罕・憲問)、『荀子』勧学、『孟子』滕文公上、『史記』陳渉世家。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による
- 高校の漢文の標準的な説明(語順・文型・倒置)にもとづいて作成。主語・述語・目的語・補語の用語や分け方は本によって違いがあり、本文中に記した
- 画像:「Dufu」(作者不明、清の宮廷の旧蔵、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)
最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦



