漢文の疑問の句法一覧|何・誰・孰・安・胡・何以・何為・何如・如何・幾何の読み方と文末の乎・哉・与・邪

漢文の疑問の句法一覧|何・誰・孰・安・胡・何以・何為・何如・如何・幾何の読み方と文末の乎・哉・与・邪

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ひとことで言うと

漢文の疑問は、疑問詞(何・誰・孰・安・何以・何如・如何・幾何など)を使う形と、文末に乎・哉・也・与・邪を置いて「か」「や」と読む形の2つです。疑問詞がある文は連体形で結びます(例:沛公安くにか在る)。

このページのポイント

  • 疑問の形は疑問詞と文末の助字の2つ
  • 「何」は下の語で読み分け:なにをか・なんぞ・なんの・いづれの
  • 「安」は場所ならいづくにか、理由ならいづくんぞ
  • 何如=どうであるか、如何=どうしたらよいか
  • 文末の乎・哉・也・与・邪は「か」「や」、疑問詞があれば連体形で結ぶ

はじめて(やさしく)

疑問(ぎもん)の句法とは、漢文で人にたずねる形のことです。日本語でも「何を食べる?」「もう食べたか?」のように、たずねる文には「何」のようなたずねる言葉や、文の最後の「か」がつきますね。漢文もまったく同じで、疑問の形は大きく2つに分かれます。

  1. 疑問詞(ぎもんし)を使う形:何(なに)・誰(たれ)・安(いづくにか)などの「たずねる言葉」を文の中で使う。
  2. 文末の助字(じょじ)を使う形:乎・哉・也・与・邪などを文の終わりに置き、「〜か」「〜や」と読む。
疑問の形は大きく2つ①疑問詞を使う何・誰・安・孰文の中にある沛公安在沛公安くにか在る②文末の助字乎・哉・也・与・邪文の終わりにある漢皆已得楚乎漢皆已に楚を得たるか両方そろう文もある(何ぞ〜や)どちらも「〜か」「〜のか」と訳す
疑問の形は「疑問詞を使う形」と「文末の助字を使う形」の2つ

疑問の句形(公式の一覧)

まず、試験によく出る疑問の形を一覧にします。A は動詞や形容詞などの述語、B は名詞です。ここを覚えておけば、共通テストの疑問文の大部分は読めます。

句形読み意味(訳し方)
何AなにヲカAスルなにをAするのか
何AなんゾAスル(や)どうしてAするのか
誰AたれカAスルだれがAするのか
孰AいづレカAナルどちらがAか
安AいづクニカAスルどこにAするのか
安AいづクンゾAスルどうしてAするのか
A乎Aか/AやAか
何以AなにヲもつテAスルどうやって(なぜ)Aするのか
何為AなんすレゾAスルどうしてAするのか
B何如BいかんBはどうであるか
如B何BヲいかんセンBをどうしたらよいか
A幾何AいくばくゾAはどれほどか

表の「何」が2回出てくるのは、読みが2つあるからです。下に目的語がない動詞が来るなら「なんぞ」(どうして)、「何」そのものが目的語なら「なにをか」(なにを)と読みます。これは「しっかり」の段でくわしく見ます。

うかるくん

うかるくん

「何」は「なに」でしょ? それだけじゃないの?

ミスターT先生

ミスターT先生

日本語の「なに」「なぜ」「どこ」「だれ」を、漢文では少ない字で言い分けているんだ。「何」1字が「なに」にも「なぜ」にもなる。だから下に何が来るかを見て読みを決めるんだよ。

サクラちゃん

サクラちゃん

たずねる言葉を見つけたら、「何をたずねているか」を考えればいいんですね。

疑問詞は「何をたずねるか」で覚える何なに(を・か)なにを?奚も同じ誰たれ(か)だれが?孰も「たれ」孰いづれ(か)どちらが?比べてたずねる安いづくにかどこに?焉・悪も同じ何・胡なんぞどうして?何為・奚も何以なにをもつてどうやって?理由も表す何如いかんどうか?様子・状態如何いかんせんどうしよう?方法・処置幾何いくばくどれほど?数・量・時間
疑問詞は「なにを?」「だれが?」「どこに?」「どうして?」など、たずねる中身で覚える

実際の文で確かめましょう。返り点のない短い文ですが、丸の数字の順に上から読むだけで疑問文になります。『史記』の「鴻門之会(こうもんのかい)」で、宴会の席から姿を消した沛公(のちの漢の高祖・劉邦)を、項王(項羽)がさがす場面です。

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安(いづくにか)=どこに

白文項王曰、沛公安在。

書き下し文項王曰はく、沛公安いづくにか在る。

(『史記』項羽本紀)

現代語訳項王が言った。「沛公はどこにいるのか。」

ここがポイント「安」は場所をたずねる疑問詞で、「安くにか」と読みます。文末は「在り」ではなく連体形の「在る」で結びます。「安」を「いづくんぞ」と読むと「どうして」という意味(多くは反語)になるので、読み分けが大切です。

もう1つは、文末の助字で疑問にする形です。同じ『史記』項羽本紀の「四面楚歌」の場面。項羽が、まわりを囲む漢軍の陣から楚の歌が聞こえてくるのを聞いて驚く言葉です。

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文末の乎(か)

書き下し文漢皆已すでに楚を得たるか。

(『史記』項羽本紀)

現代語訳漢はもうすっかり楚の地を手に入れてしまったのか。

ここがポイント疑問詞はなく、文末の「乎」1字で疑問になっています。「乎」は書き下し文ではひらがなの「か」。上の「得たる」は連体形です。この「乎」を読まない置き字と区別しましょう(「於乎」「乎」が文中にあるときは置き字のことがあります)。
人差し指を立てて説明するミスターT先生

ミスターT先生

疑問は「たずねる言葉」+「文末の字」の組み合わせ。まずは「何・誰・孰・安・乎」の5つを読めるようにしよう。これだけで共通テストの疑問文の多くに対応できるよ。

ここまでのまとめ

  • 疑問の形は疑問詞を使う形と文末の助字を使う形の2つ
  • 疑問詞は「なにを・だれが・どこに・どうして」など、たずねる中身で覚える
  • 文末の乎・哉・也・与・邪は「か」「や」と読み、ひらがなで書く
  • 疑問詞がある文は、文末を連体形で結ぶ

しっかり(共通テスト)

疑問詞の一覧表(読み・意味・例)

疑問詞は数が多いので、たずねる中身ごとにまとめて覚えます。同じ字に読みが2つ以上あるものは、意味もちがうので注意しましょう。

疑問詞読み意味書き下しの例
何なに・なにをかなにを何をか憂へん
何・胡・奚・曷なんぞどうして胡ぞ帰らざる
何なんの・いづれのなんの・どの何れの日か是れ帰年ならん
誰たれ(か)だれ誰か之を知る
孰いづれ(か)・たれ(か)どちら・だれ女と回と孰れか愈れる
安・焉・悪いづくにかどこに沛公安くにか在る
安・焉・悪・寧いづくんぞどうして(多くは反語)安くんぞ知らん
何以なにをもつてどうやって・なぜ何を以て吾が国を利せん
何為なんすれぞどうして何為れぞ去らざる
何為なにをか(なす)・なんするなにを(する)客何為る者ぞ
何如・何若いかんどうであるか今日の事何如
如何・奈何・若何いかん(せん)どうしたらよいか若を奈何せん
幾何いくばく(ぞ)どれほど人生幾何ぞ

文末の助字:乎・哉・也・与・邪・耶

文末の疑問の助字は、どれも「か」か「や」と読みます。書き下し文ではひらがなです。「乎・哉・也・与(歟)・邪(耶)」と、字は6種類ほどありますが、読み方は2つだけです。どちらで読むかは、上の語の形と、疑問詞があるかどうかで決まります。

場合読み例
疑問詞なし・上が連体形か体言か楚を得たるか/是れ夢か
疑問詞なし・上が終止形や学ぶ者有りや
疑問詞あり(疑問)や何ぞ楚人の多きや
反語ん(や)安くんぞ知らんや
文末の乎・哉・也・与・邪は「か」か「や」文の中に疑問詞がある?ないある連体形・体言+か楚を得たるか終止形+や学ぶ者有りや連体形+や何ぞ楚人の多きや文末の字がなくても連体形で結ぶ反語なら「未然形+ん(や)」
文末の字は「疑問詞があるか」「上の語の形」で「か」と「や」を読み分ける

この使い分けは、教科書や参考書によって説明のしかたに少し差があります。迷ったら「上が連体形なら『か』、終止形なら『や』」をまず思い出し、疑問詞といっしょなら「や」と覚えておけば、まずまちがえません。「乎」は文末で「かな」と読むと詠嘆(ああ〜だなあ)になります。

疑問文を読む手順

  1. 疑問詞をさがす。何・誰・孰・安・焉・悪・胡・奚・何以・何為・何如・如何・幾何がないか見る。
  2. 疑問詞の読みを決める。下に動詞が来て「何」自体が目的語でなければ「なんぞ(どうして)」、「何」が目的語なら「なにをか」、名詞の前なら「なんの」「いづれの」。
  3. 文末の字を確かめる。乎・哉・也・与・邪・耶があれば「か」か「や」と読む。
  4. 結びの形を整える。疑問なら連体形で結ぶ。「〜ん(や)」と未然形+「ん」で結べば反語になる。
疑問文を読む4ステップ1疑問詞をさがす何・誰・孰・安・焉・悪・胡・奚・何以など2疑問詞の読みを決める下が動詞→なんぞ、目的語→なにをか3文末の字を確かめる乎・哉・也・与・邪・耶は「か」「や」4結びの形を整える疑問は連体形、反語は未然形+ん
疑問文は「疑問詞→読み→文末の字→結び」の4ステップで読む

例文で確かめる

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孰(いづれか)=どちらが

書き下し文女なんぢと回と孰いづれか愈まされる。

(『論語』公冶長)

現代語訳おまえと顔回とでは、どちらがすぐれているか。

ここがポイント孔子が弟子の子貢にたずねた言葉。「孰」は2つ(以上)を比べて「どちらが」とたずねるときに「いづれか」と読みます。「与」は「と」と読む返読文字、「也」はここでは読まない字として扱っています。文末は連体形「愈れる」。
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孰(たれか)=だれが

書き下し文弟子孰たれか学を好むと為なす。

(『論語』雍也)

現代語訳(魯の哀公が孔子にたずねた)弟子の中で、だれが学問を好むといえるか。

ここがポイント「孰」は人をたずねるときは「たれか」と読みます(「誰」と同じ)。孔子は「顔回という者がいた」と答えます。レ点が2つ続くので、「学を→好むと→為す」と下から順に返ります。
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何為(なんする)=何をする

書き下し文客何為なんする者ぞ。

(『史記』項羽本紀)

現代語訳おまえは何者だ。

ここがポイント鴻門之会で、樊噲(はんかい)が幕をはねのけて入ってきたとき、項王が剣に手をかけてたずねた言葉。「何為る者ぞ」は「何をする者か=何者か」。文末の「ぞ」は疑問の気持ちを強める送り仮名です。「何為」を「なんすれぞ(どうして)」と読む場合とは意味がちがいます。
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何如(いかん)=どうであるか

書き下し文今日の事何如いかん。

(『史記』項羽本紀)

現代語訳今日の(宴会の)様子はどうですか。

ここがポイント樊噲が、宴会の席から出てきた張良にたずねた言葉。張良は「甚だ急なり(たいへん危ない)」と答えます。「何如」は様子・状態をたずねる「いかん」。書き下し文では「何如」と漢字のまま書くのが一般的です。
「何如」と「如何」はちがう何如(何若)如何(奈何・若何)いかんいかんせん様子・状態・是非方法・処置どうであるかどうしたらよいか今日の事何如若を奈何せん文末に来ることが多い間に目的語をはさむ「何」が上なら様子、「如」が上なら方法
「何如」は様子をたずね、「如何」は方法をたずねる
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何以(なにをもつて)=どうやって

書き下し文王曰はく、何なにを以もつて吾が国を利せんと。

(『孟子』梁恵王上)

現代語訳王が「どうやって(何によって)わが国に利益をもたらそうか」と言うと、

ここがポイント孟子が梁の恵王に説いた有名な一節の一部。孟子は、王が「利」を言えば家臣も民もみな自分の利を求めて国が危うくなる、と続けます。「何を以て」は手段(どうやって)にも理由(なぜ)にもなります。「何以」は返り点なしで上から「何を以て」と読みます。
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幾何(いくばくぞ)=どれほどか

書き下し文酒に対しては当まさに歌ふべし、人生幾何いくばくぞ。

(曹操「短歌行」)

現代語訳酒を前にしたら大いに歌うべきだ。人生はどれほど(の長さ)があるというのか。

ここがポイント三国時代の魏の曹操の詩。「幾何」は数・量・時間をたずねて「いくばく」と読みます。ここでは「人生は短い」という気持ちがこもっています。前半の「当」は再読文字「当に〜べし」です。
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何(いづれの)=どの

書き下し文何いづれの日か是れ帰年ならん。

(杜甫「絶句」)

現代語訳いったいいつになったら故郷に帰る年になるのだろうか。

ここがポイント「江碧にして鳥逾よ白く」で始まる五言絶句の最後の句。「何」が名詞「日」の前にあるので「いづれの(どの)」と読みます。文末の「ならん」は推量の「ん」で、帰れない悲しみがこもった疑問です。
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胡(なんぞ)=どうして

書き下し文田園将まさに蕪れんとす、胡なんぞ帰らざる。

(陶淵明「帰去来辞」)

現代語訳故郷の田畑は今にも荒れはてようとしている。どうして帰らないでいられようか(さあ帰ろう)。

ここがポイント「帰りなんいざ」で始まる有名な文章の一節。「胡」は「何」と同じく「なんぞ(どうして)」と読みます。「なんぞ」を受けて文末は連体形「ざる」で結びます。文脈によっては「帰ろうではないか」という反語・勧誘の気持ちも読み取れます。
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奚(なにをか)=なにを

書き下し文子奚なにをか学ぶ。

(自作)

現代語訳あなたは何を学んでいるのか。

ここがポイント「奚」は「何」と同じはたらきの疑問詞で、目的語なら「なにをか」、理由なら「なんぞ」と読みます。「子」は「あなた」(二人称)。
サクラちゃん

サクラちゃん

「何如」と「如何」、字の順番がちがうだけなのに意味がちがうんですか?

ミスターT先生

ミスターT先生

そう。「何如」は「どうであるか」と様子をたずね、「如何」は「どうしようか」と方法をたずねる。「如何」は「若を奈何せん」のように間に目的語をはさめるのも特ちょうだよ。

うかるくん

うかるくん

「何」が先なら様子、「如」が先なら方法。これなら覚えられる!

もっと深く(難関大・上級者)

1. 「何」の読み分けは「下に来る語」で決まる

白文(返り点も送り仮名もない漢文)の記述問題でいちばん問われるのが、「何」の読み分けです。手がかりは「何」の下に来る語の種類です。

「何」1字の読み分け何〜なにをかなにを〜するのか何をか憂へん何〜なんぞどうして〜か胡・奚・曷も同じ何+名詞なんのなんの〜か何の故に何+時・所いづれのどの〜か何れの日か何如・何若いかんどうであるか状態をたずねる下に来る語(動詞か名詞か)で読みを決める
「何」は下に来る語で、なにをか・なんぞ・なんの・いづれの・いかんと読み分ける
  • 下に名詞:「何の故に」「何れの日か」のように「なんの」「いづれの」。
  • 下に動詞+目的語(「何」以外に目的語がある):「何ぞ」(どうして)。
  • 下に動詞だけ(「何」が目的語):「何をか」(なにを)。漢文では、疑問詞が目的語になるとき動詞の前に出るという語順のきまりがあります(「吾誰をか欺かん」=吾誰欺)。これは漢文の語順の例外として有名です。
疑問詞があると文末は連体形誰か学を好むと為す「為す」は連体形(四段なので終止形と同じ形)安くにか在る「在り」ではなく連体形「在る」で結ぶ古文の係り結び「か→連体形」と同じ形
疑問詞があると、文末は連体形で結ぶ(古文の係り結びと同じ形)

疑問詞がある文の結びが連体形になるのは、書き下し文の「か」「ぞ」が古文の係助詞と同じはたらきをするからです。「誰か学を好むと為す(連体形)」「何ぞ帰らざる(連体形)」。古文の係り結び(ぞ・なむ・や・か→連体形)を知っていると、漢文の書き下しも楽になります。

2. 文末の「与」と『荘子』の「胡蝶の夢」

文末の「与(歟)」は、2つのうちどちらかをたずねる選択の疑問によく使われます。有名なのが『荘子』斉物論の「胡蝶の夢」です。

難関大

与(か)=選択の疑問

書き下し文周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを知らず。

(『荘子』斉物論)

現代語訳(自分=荘周が)夢の中で蝶になったのか、蝶が夢の中で荘周になっているのか、わからない。

ここがポイント「A与、B与」で「Aか、Bか」。2つの「与」はどちらも「か」。全体を「知らず」の目的語にするため、上下点で最後の「知」「不」へ返ります。一二点をはさむので上下点を使う、という返り点のきまりのよい例です。
柳の下の岩にもたれて眠る人物と、その上を舞う2匹の蝶を描いた水墨画
荘周(荘子)が蝶の夢を見る場面を描いた絵。「周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるか」は、文末の「与」を2回使った選択の疑問です。画像:陸治「荘周夢蝶図」(明代・16世紀半ば、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)

3. 「安」「焉」「悪」の2つの読みと「悪乎」

「安・焉・悪」は、場所をたずねる「いづくにか(どこに)」と、理由をたずねる「いづくんぞ(どうして)」の2つの読みを持ちます。「いづくんぞ」はほとんどが反語です。また「悪乎」の2字で「いづくにか」と読むことがあり、このときの「乎」は読みません(「於」と同じはたらき)。

難関大

悪乎(いづくにか)

書き下し文天下悪いづくにか定まらん。

(『孟子』梁恵王上)

現代語訳天下はどこに落ち着くでしょうか(どうすれば安定するでしょうか)。

ここがポイント梁の襄王が孟子に突然たずねた言葉。孟子は「一に定まらん(一つにまとまるでしょう)」と答えます。「悪」は「にくむ」「あし」とも読む字なので、白文では文頭・述語の前の「悪」は疑問詞を疑いましょう。

4. 再読文字と組み合わさった疑問

難関大では、疑問の形が再読文字や「有」などの返読文字と組み合わさった、返り点の多い文が出ます。次は『孟子』の冒頭、孟子が梁の恵王に会った場面です。

難関大

再読文字+文末の乎

書き下し文亦また将まさに以て吾が国を利する有らんとするか。

(『孟子』梁恵王上)

現代語訳(先生は千里の道を遠いと思わずにおいでくださった。)やはり、わが国に利益をもたらすものをお持ちなのでしょうか。

ここがポイント恵王の質問。「将に〜んとす」の二度目「す」は、「乎(か)」に続くため連体形「する」になります。「以て吾が国を利する」が「有」の中身なので、「有」には三の点がつきます。孟子はこれに「王何ぞ必ずしも利を曰はん」と反語で答えます。

5. 「如何」の間にはさむ目的語:垓下の歌

「如何・奈何・若何」は、間に目的語をはさんで「Aを如何せん(Aをどうしようか)」と読みます。項羽が最期の夜に歌った「垓下の歌」の結びが有名です。

難関大

奈A何(Aをいかんせん)

書き下し文虞ぐや虞や若なんぢを奈いかん何せん。

(『史記』項羽本紀「垓下の歌」)

現代語訳虞よ、虞よ、おまえをどうしたらよいのか。

ここがポイント「奈」と「何」の間に目的語「若(なんぢ=おまえ)」をはさみ、「若を奈何せん」と読みます。「兮」は詩の調子をととのえる字で、読まない置き字です(ここでは「虞」に送り仮名「ヤ」をつけて呼びかけにします)。歌の最初の句「力は山を抜き気は世を蓋ふ」は四字熟語「抜山蓋世」のもとです。疑問の形ですが、どうにもならないという嘆きの気持ちが強く、詠嘆に近い表現です。

6. 疑問か反語かは、最後は文脈で決まる

同じ「何ぞ〜」「安くんぞ〜」でも、答えを本当に求めていれば疑問、答えがわかりきっていて強く言い切っていれば反語です。書き下し文では、疑問は連体形、反語は未然形+ん(や)で結ぶのが原則ですが、白文では送り仮名がないので、前後の内容から判断します。たとえば「何れの日か是れ帰年ならん」は推量の「ん」を使った疑問で、反語(帰る年などない)と読む説明もあります。迷う問題では、選択肢の訳に「〜だろうか、いや〜ない」があるかを確かめましょう。

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邪(か)

書き下し文是れ夢か。

(自作)

現代語訳これは夢なのだろうか。

ここがポイント「邪」「耶」も文末で「か」「や」と読む疑問の助字です。「邪」には「よこしま」の意味もありますが、文末なら疑問(または詠嘆)を考えます。
ひらめいたサクラちゃん

サクラちゃん

「何」を見たら、すぐ下の語をチェック! 名詞なら「なんの・いづれの」、目的語がないなら「なにをか」、ほかに目的語があれば「なんぞ」。そして文末の形で疑問か反語かを決めるんですね。

よくあるまちがい

まちがい1:「安」をいつも「いづくんぞ」と読む

「沛公安くにか在る」のように場所をたずねるときは「いづくにか(どこに)」です。「いづくんぞ(どうして)」と読むと、訳がまったく変わってしまいます。下が「在」「之(ゆく)」など場所に関わる動詞なら「いづくにか」を疑いましょう。

まちがい2:「何如」と「如何」を同じ訳にする

何如=どうであるか(様子)、如何=どうしたらよいか(方法)。共通テストの選択肢では、この区別がよくねらわれます。

まちがい3:文末の「乎」をいつも置き字にする

文末の「乎」は多くの場合「か・や」と読む疑問・反語の字です。読まない置き字になるのは、「於」と同じはたらきで文の中にある「乎」(「悪乎」など)です。

まちがい4:疑問詞があるのに終止形で結ぶ

「誰か知る」「安くにか在り」は誤り。疑問詞がある文は連体形で「誰か知る(四段は同形)」「安くにか在る」と結びます。

まちがい5:「孰」を「なに」と訳す

「孰」はどちら(いづれか)かだれ(たれか)。2つ以上を比べる文で使われます。「何」と同じ「なに」とは訳しません。

練習問題

やさしい

  1. 次の疑問詞の読みと意味を答えなさい。
    (1)誰 (2)安(場所をたずねるとき) (3)幾何
    答えと解説を見る

    (1)たれ(か)=だれ (2)いづくにか=どこに (3)いくばく(ぞ)=どれほど

  2. 次の訓読文を書き下し文にしなさい。(自作)
    答えと解説を見る

    誰か之を知る。(誰か之を知る。)意味は「だれがこれを知っているのか」。疑問詞「誰」があるので、文末は連体形「知る」で結ぶ(四段動詞なので終止形と同じ形)。

ふつう

  1. 「何如」と「如何」の読み方と意味のちがいを説明しなさい。
    答えと解説を見る

    「何如」は「いかん」と読み、「どうであるか」と様子・状態をたずねる。「如何」は「いかん(せん)」と読み、「どうしたらよいか」と方法・処置をたずねる。「如何」は「Aを如何せん」のように間に目的語をはさむことがある。

  2. 次の文を書き下し文にし、現代語に訳しなさい。(自作)
    答えと解説を見る

    書き下し文:君何ぞ去らざる。 訳:あなたはどうして立ち去らないのか。「何」の下に「不去」(動詞)があり、「何」自体は目的語ではないので「なんぞ(どうして)」。疑問詞を受けて文末は連体形「ざる」。

むずかしい

  1. 次の白文の「安」の読みを答え、文全体を書き下し文にしなさい。(自作)
    「吾子安往」(吾子=あなた、往=ゆく)
    答えと解説を見る

    「安」はいづくにか(どこに)。書き下し文は「吾子安くにか往く」(あなたはどこへ行くのか)。「往」は場所に向かう動詞なので、場所をたずねる「いづくにか」が合う。文末は連体形「往く」(四段なので終止形と同形)。「いづくんぞ往かん」と読むと「どうして行こうか、いや行かない」という反語になり、文脈に合わない。

  2. 「周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるかを知らず」(『荘子』)の文末の「か」にあたる字は何か。また、この疑問はどんな種類の疑問か説明しなさい。
    答えと解説を見る

    字は「与」(歟と同じ)。「Aか、Bか」と2つのうちどちらかをたずねる選択の疑問で、全体が「知らず」の目的語になっている。だから2つめの「与」に「ヲ」を送って「〜為れるかを知らず」と読む。

関連ページ

この記事に出てきた「四面楚歌」「胡蝶の夢」「抜山蓋世」の由来は、故事成語の一覧(意味・由来・出典)でまとめて読めます。古文の疑問の係り結びは古文の係り結びの法則で確かめましょう。

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よくある質問

漢文の疑問詞にはどんなものがありますか?

何(なに・なんぞ)・誰(たれ)・孰(いづれ・たれ)・安/焉/悪(いづくにか・いづくんぞ)・胡/奚(なんぞ)・何以(なにをもつて)・何為(なんすれぞ)・何如(いかん)・如何(いかんせん)・幾何(いくばく)などがあります。

文末の「乎」は「か」と「や」のどちらで読みますか?

疑問詞がない文では、上が連体形や体言なら「か」、終止形なら「や」と読むのが基本です。疑問詞がある文では「や」と読みます。反語では「〜ん(や)」になります。

「何如」と「如何」のちがいは何ですか?

「何如」はいかんと読み、どうであるかと様子をたずねます。「如何」はいかん(せん)と読み、どうしたらよいかと方法をたずねます。

疑問と反語はどう見分けますか?

書き下し文では、疑問は連体形で結び、反語は未然形+「ん(や)」で結ぶのが原則です。白文では文脈で判断し、「〜だろうか、いや〜ない」と強く言い切っているかを確かめます。

「安」はどう読み分けますか?

場所をたずねるときは「いづくにか(どこに)」、理由をたずねるときは「いづくんぞ(どうして)」と読みます。「いづくんぞ」はほとんどが反語です。

あわせて読みたい

出典・参考

  • 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
  • 例文の本文:『史記』項羽本紀(鴻門之会・垓下)、『論語』(公冶長・雍也)、『孟子』梁恵王上、『荘子』斉物論、曹操「短歌行」、杜甫「絶句」、陶淵明「帰去来辞」。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による
  • 高校の漢文句法の標準的な説明(疑問詞の読み・文末の助字・結びの形)にもとづいて作成。「か」「や」の読み分けの説明は本によって差があり、本文中に記した
  • 画像:陸治「荘周夢蝶図」(明代、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)

最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦