漢文文法・句法辞典 › 重要語の読みと識別
大学受験難関大
ひとことで言うと
漢文の「為」は「なす(する)」と「なる」が基本で、下に名詞+動詞が続けば「〜の為に」、「為A所B」なら「AのBする所と為る(AにBされる)」という受身です。送り仮名と、為の下に続く形を見て読みを決めます。
このページのポイント
- 基本はなす(する・〜とする)となる(〜になる)
- 為+名詞+動詞=「〜の為に」(前置詞)
- 為A所B=AのBする所と為る=AにBされる(受身)
- 主語+為+名詞=「たり」(〜である)
- 何為=なんすれぞ(どうして)、為人=ひととなり(人柄)
はじめて(やさしく)
「為」は、漢文でいちばん読み方の多い字の1つです。「なす」「なる」「たり」「ために」「る・らる(受身)」「つくる」「をさむ」……と、ざっと10通り近くあります。でも心配はいりません。送り仮名と、「為」の下に続く形を見れば、読みはほぼ1つに決まります。まず一覧表で全体を見てみましょう。
「為」の読み分けの一覧表
| 読み | 品詞・働き | 意味 | 見分け方の目印 | 例(書き下し) |
|---|---|---|---|---|
| なす | 動詞 | する・行う/〜とする・〜と思う | 下に目的語、または「〜と」 | 為政=政を為す/知之為知之=之を知ると為す |
| なる | 動詞 | 〜になる | 下の名詞に「ト」 | 為鶏口=鶏口と為る |
| たり | 断定(助動詞的) | 〜である | 主語+為+名詞で文が終わる | 為仁之本=仁の本為る(か) |
| ために | 前置詞 | 〜のために・〜に対して | 為+名詞+動詞(名詞に「ノ」) | 為人謀=人の為に謀る |
| ためにす | 動詞 | 〜のためにする | 為+名詞で文が終わる(為己・為人) | 為己=己の為にす |
| る・らる | 受身 | 〜される | 為A所B/為+動詞 | 為人所制=人の制する所と為る |
| す | 動詞(サ変) | する | 何為・何為者 | 何為者=何為る者ぞ |
| つくる | 動詞 | 作る | 下に作品・物 | 為詩=詩を為る |
| をさむ | 動詞 | 治める | 下に国・政 | 為国=国を為む |
| なんすれぞ | 何為(2字で) | どうして | 文のはじめ・疑問・反語 | 何為不去=何為れぞ去らざる |
表を見るとわかるように、多くの読みは「なす(する)」と「なる」から広がったものです。受験でとくに大事なのは、「ために」と「受身(為A所B)」の2つ。この2つは読みをまちがえると、文の意味がまるごと変わってしまいます。
うかるくん
「為」って読み方が多すぎるよ……。全部覚えるの?
ミスターT先生
あわてなくて大丈夫。「為」はもともと「する・なる」という意味の字なんだ。「政を為す(政治をする)」「鶏口と為る(鶏口になる)」。ここが根っこで、ほかの読みは枝分かれしたものだと思えばいい。
サクラちゃん
日本語の「行為」「作為」の「為」も「する」ですね。
ミスターT先生
その通り。そして漢文で特に注意したいのが「為に(〜のために)」と「為A所B(受身)」。今日はこの2つを必ず持ち帰ろう。
1. 「なす」:する・〜とする
「為」の基本は動詞「なす」です。「為A」なら「Aを為す(Aをする)」。また「為A」の前に「〜を」が来て「〜をAと為す」となると、「〜をAとする・〜をAと考える」という意味になります。論語の有名な一節で確かめましょう。
為す(〜を〜とする)
白文知之為知之、不知為不知。是知也。
書き下し文之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。是れ知るなり。
(『論語』為政)
現代語訳知っていることを知っているとし、知らないことを知らないとする。それが本当に知るということだ。
為す(行う)
書き下し文義を見て為さざるは、勇無きなり。
(『論語』為政)
現代語訳正しいことだとわかっていながら行わないのは、勇気がないのである。
2. 「なる」:〜になる
下の名詞に送り仮名「ト」がつき、「〜と為る」と読むと「〜になる」。何かに変わる・その立場につくことを表します。
為る(〜になる)
書き下し文寧ろ鶏口と為るも、牛後と為る無かれ。
(『史記』蘇秦列伝)
現代語訳たとえ小さくても、鶏のくちばし(小さな集団の長)になる方がよい。大きな牛のしり(大きな集団の下っぱ)にはなるな。
3. 「ために」:〜のために
「為+名詞+動詞」の形で、名詞に送り仮名「ノ」がつくと、「為」は「〜の為に」と読む前置詞です。英語の for にあたり、だれのため・何のために動作をするかを示します。
為に(〜のために)
書き下し文人の為に謀りて忠ならざるか。
(『論語』学而)
現代語訳人のために考えてやって、まごころを尽くさなかったことはないか。
ここまでのまとめ
- 「為」の根っこは「なす(する)」と「なる」
- 「〜と為す」=〜とする・〜と思う、「〜と為る」=〜になる
- 「為+名詞+動詞」なら「〜の為に」(前置詞)
しっかり(共通テスト)
受身の「為」:為A所B(AのBする所と為る)
共通テストで最もよく問われるのが、受身の「為A所B」です。「AのBする所と為る」と読み、「AにBされる」と訳します。もとは「Aが(Bする)対象になる」という意味で、「為」は「なる」、「所」は「〜するもの・こと」です。Aを省いた「為所B(Bする所と為る)」や、「所」を省いた「為AB」の形もあります。くわしくは受身の句法(見・被・為〜所〜・於)を読んでください。
為A所B(受身)
書き下し文先んずれば即ち人を制し、後るれば則ち人の制する所と為る。
(『史記』項羽本紀)
現代語訳人より先に行動すれば人をおさえることができ、おくれれば人におさえつけられる。
為る(〜となる=受身に近い)
書き下し文身は宋国の笑ひと為る。
(『韓非子』五蠹)
現代語訳(兎は二度と手に入らず)その身は宋の国の笑いものになった。
「たり」:〜である(断定)
「AはBである」と言い切るとき、「為」を「たり」と読むことがあります。日本語の断定の助動詞「たり」(〜である)にあたり、「為り・為る」と書き下します。「たり」とひらがなで書く教科書もあります。「なる」が変化(Bになる)なのに対し、「たり」は状態・資格(Bである)です。
為る(たり=〜である)
書き下し文其れ仁の本為るか。
(『論語』学而)
現代語訳(親孝行と年長者への従順こそが)思いやりの心(仁)のおおもとなのだろう。
「ためにす」と「をさむ」
「為己」「為人」で文が終わるときは、「己の為にす(自分のためにする)」のように「ためにす」と読みます。また、下に「国・政・天下」などが来て「治める」の意味になるときは「をさむ」と読みます。
為にす(〜のためにする)
書き下し文古の学者は己の為にし、今の学者は人の為にす。
(『論語』憲問)
現代語訳昔の学ぶ人は自分を高めるために学んだが、今の学ぶ人は人に認められるために学んでいる。
為む(をさむ=治める)
書き下し文国を為むるに礼を以てす。
(『論語』先進)
現代語訳国を治めるには、礼によって行う(ものだ)。
見分け方の手順
- 下に「所」があるかを見る。「為A所B」「為所B」なら受身。「AのBする所と為る」と読み、「AにBされる」と訳す。
- 決まった2字の言い方かを見る。「何為(なんすれぞ)」「以為(おもへらく)」「為人(ひととなり)」「何為者(なんするものぞ)」。
- 「為+名詞」のあとにさらに動詞が続くかを見る。続けば前置詞「〜の為に」。名詞で文が終われば「〜の為にす」。
- 「主語+為+名詞」で、主語がその名詞だと言っているかを見る。変化なら「なる」(〜と為る)、状態なら「たり」(〜為り)。
- どれでもなければ動詞「なす」。下の語によって「つくる(詩・文)」「をさむ(国・政)」と読み分ける。
サクラちゃん
「為人」が「人の為に」なのか「人と為る」なのか、迷いそうです。
ミスターT先生
いい質問だね。下に動詞があるかで決めよう。「為人謀」は下に「謀る」があるから「人の為に謀る」。「為人所制」は下に「所」があるから受身。「其為人也」は主語「其」のあとで、動詞がないから「人と為り(ひととなり=人柄)」なんだ。
うかるくん
「為」の下を2〜3字先まで見るのがコツなんだね!
もっと深く(難関大・上級者)
1. 「為人」は「ひととなり」
「為人」は、主語のあとに置かれて「人と為り(ひととなり)」と読み、「人柄・性格」という意味の名詞のかたまりになります。「人の為に」と読むと文が成り立たないので、白文訓読でよく問われます。史書の人物紹介でも「其為人〜(其の人と為りや〜)」と書き出す形がよく出ます。
為人(ひととなり)
書き下し文其の人と為りや孝弟にして、上を犯すを好む者は鮮し。
(『論語』学而)
現代語訳その人柄が、親に孝行で年長者に従順であるのに、目上の人にさからうことを好む者は、めったにいない。
2. 「何為」:なんすれぞ(どうして)と「何為者」
「何為」は文のはじめで「何為れぞ(なんすれぞ)」と読み、「どうして」と理由をたずねます。文末が「〜ん」なら反語になります。いっぽう「何為者」は「何為る者ぞ(なにをする者か=何者だ)」で、ここの「為」は「す(する)」です。
何為(なんすれぞ)
書き下し文何為れぞ去らざるや。
(『礼記』檀弓下)
現代語訳どうしてこの土地を立ち去らないのか。
何為者(何為る者ぞ)
書き下し文客は何為る者ぞ。
(『史記』項羽本紀)
現代語訳おまえは何者だ。
3. 「為」1字の受身(る・らる)
「所」を使わず、「為+動詞」だけで受身を表すこともあります。このときの「為」は、書き下し文で助動詞「る・らる」としてひらがなで書きます。韓非子の説難篇では、受身の「為」と「見」が並んで使われています。
為+動詞(る・らる)
書き下し文厚き者は戮せられ、薄き者は疑はる。
(『韓非子』説難)
現代語訳(意見が受け入れられず)ひどい場合は殺され、軽い場合でも疑われる。
4. 「為」の使役的な訳と、読みの流派
「為」には、「AのためにBする」が「AにBしてやる」「AにBさせる」のように訳される場面があり、辞書によっては使役に近い意味を挙げるものもあります。ただし、高校の教科書や入試で「為」を使役の「しむ」と読むことはほとんどありません。使役は「使・令・教・遣」で表すのがふつうです(使役の句法(使・令・教・遣))。また、「為」を断定で「たり」と読むか「なり」と読むか、「為る」とするか「為り」とするかは、教科書や注釈書によって違いがあります。答案では授業で使う教科書の読みに合わせるのが安全です。

5. 記述・白文訓読で問われるところ
二次試験の白文訓読で「為」が出たら、2〜3字先まで見てから読みを決めます。とくに「為A所B」は、「所」まで見ないと受身だと気づけません。また、「為」を「ために」と読んだときは、「だれのために」を訳ではっきり書くこと。「為人謀」を「人のために考える」と訳すだけでなく、文脈によっては「他人の相談にのってやる」のように具体的にすると、得点につながります。「為〜所〜」を訳すときは、「人の制する所となる」のままではなく、「人におさえつけられる」と受身の日本語に直しましょう。

ミスターT先生
「為」は下を見る字。「所」があれば受身、下に動詞が続けば「〜の為に」、主語のあとなら「なる・たり」。この順で確かめれば、10通りの読みもこわくないよ。
よくあるまちがい
まちがい1:「為A所B」を「AのためにBする所」と読む
「為人所制」を「人の為に制する所」と読むのは誤り。下に「所」があれば受身で、「人の制する所と為る(人におさえつけられる)」です。
まちがい2:「為人」をいつも「人の為に」と読む
「其為人也」は「其の人と為りや(その人柄は)」。主語のすぐ下で、下に動詞がないときは「ひととなり」です。
まちがい3:「為」を「ために」と読んだのに、「の」を忘れる
「為人謀」は「人の為に謀る」。書き下し文では、為の下の名詞に「ノ」をつけてから「為に」へ返ります。「人為に謀る」と書くと減点されます。
まちがい4:「何為」を「何を為す」と読む
文のはじめの「何為」は「何為れぞ(どうして)」。「何を為して去らざる」と読むと、理由をたずねる文になりません。ただし「何為者」は「何為る者ぞ(何者か)」です。
まちがい5:「なる」と「たり」を同じように訳す
「鶏口と為る」は「鶏口になる」(変化)、「仁の本為り」は「仁の根本である」(断定)。訳を「なる」に統一すると意味がずれることがあります。
練習問題
やさしい
- 次の訓読文を書き下し文にしなさい。(自作)為ニレ母ノ作ルレ衣ヲ。
答えと解説を見る
母の為に衣を作る。(母の為に衣を作る。)意味は「母のために衣服を作る」。為の下の名詞「母」に、さらに動詞「作る」が続くので、前置詞の「〜の為に」。
- 次の「為」の読みを答えなさい。(自作)
(1)為王(王と為る)の「為」 (2)為詩(詩を為る)の「為」答えと解説を見る
(1)なる(王になる)。(2)つくる(詩を作る)。下の語が「王(立場)」なら「なる」、「詩(作品)」なら「つくる」。
ふつう
- 次の文を書き下し文にし、現代語に訳しなさい。(自作)
「為敵所破」答えと解説を見る
書き下し文:敵の破る所と為る。 訳:敵に打ち破られる。「為A所B」の受身で、A=敵、B=破る。
- 次の2つの「為人」の読みの違いを説明しなさい。(自作)
(1)其為人也剛 (2)為人謀答えと解説を見る
(1)は「其の人と為りや剛なり(その人柄は意志が強い)」。主語「其」のすぐ下にあり、下に動詞がないので「ひととなり(人柄)」。(2)は「人の為に謀る」。下に動詞「謀る」が続くので前置詞の「ために」。
むずかしい
- 次の白文を書き下し文にし、現代語に訳しなさい。(自作)
「何為不学」答えと解説を見る
書き下し文:何為れぞ学ばざる。 訳:どうして学ばないのか。文のはじめの「何為」は「なんすれぞ(どうして)」。「不」は返読して「学ばざる」と連体形で結ぶ。
- 「先即制人、後則為人所制」の前半と後半の対応を、「為」の働きにふれて説明しなさい。
答えと解説を見る
前半「制人(人を制す)」は、自分が人をおさえる能動。後半「為人所制(人の制する所と為る)」は、「為A所B」の受身で、自分が人におさえられる。同じ動詞「制」を、能動と受身で対にして、先に動くことの大切さを強調している。
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よくある質問
漢文の「為」の読み方は?
「なす」「なる」「たり」「ために」「ためにす」「る・らる(受身)」「つくる」「をさむ」などがあります。送り仮名と、為の下に続く形を見て読み分けます。
「為A所B」はどう読み、どう訳しますか?
「AのBする所と為る」と読み、「AにBされる」と訳す受身の形です。例:為人所制=人の制する所と為る(人におさえつけられる)。
「為」を「ために」と読むのはどんなときですか?
「為+名詞+動詞」の形で、名詞のあとにさらに動詞が続くときです。名詞に「ノ」をつけて「人の為に謀る」のように読みます。
「為人」は「ひととなり」ですか、「人の為に」ですか?
主語のすぐ下にあって下に動詞がなければ「人と為り(ひととなり=人柄)」、下に動詞が続けば「人の為に」です。
「何為」の読み方と意味は?
文のはじめでは「何為れぞ(なんすれぞ)」と読み「どうして」の意味です。「何為者」は「何為る者ぞ(何者か)」と読みます。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:『論語』(為政・学而・憲問・先進)、『史記』(項羽本紀・蘇秦列伝)、『韓非子』(五蠹・説難)、『礼記』檀弓下。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による
- 高校の漢文句法の標準的な説明(為の読み分け・為A所B・何為・為人)にもとづいて作成。読みが分かれる所は本文中に記した
- 画像:「至聖先賢半身像」より孔子(元代、作者不明、国立故宮博物院蔵、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)
最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦



