漢文文法・句法辞典 › 重要語の読みと識別
大学受験難関大
ひとことで言うと
漢文の「以」は「もって」と読み、「以A」は「Aを以て=Aで・Aによって」と手段・理由を表すのが基本です。「以為(おもへらく=思う)」「以A為B(AをBとする)」「所以(ゆゑん=理由・方法)」「是以(だから)」は2字でまとめて覚えます。
このページのポイント
- 「以A」=Aを以て(Aで・Aによって・Aを)。A→以の順に読む
- 以A為B=AをもってBとなす=AをBとする・思う
- 以為=おもへらく〜と/以て〜と為す=〜と思う
- 所以=ゆゑん=理由・方法
- 是以=だから、何以=どうして、可以=〜できる
はじめて(やさしく)
「以」は、漢文で「もって」と読むことが多い字です。いちばん大事な意味は「〜で」「〜を使って」。「以A」で「Aを以て(Aで)」となり、そのあとの動作の手段や理由を表します。さらに「以為」「所以」「是以」など、2字で決まった読み方をする言い方がたくさんあります。まず一覧表で全体を見ましょう。
「以」の読み分けの一覧表
| 読み | 品詞・働き | 意味 | 見分け方の目印 | 例(書き下し) |
|---|---|---|---|---|
| もって | 前置詞(手段・方法) | Aで・Aを使って | 以+名詞+動詞 | 以五十歩笑百歩=五十歩を以て百歩を笑ふ |
| もって | 前置詞(理由・原因) | Aによって・Aなので | 以+人・事がら+動詞(判断) | 不以言挙人=言を以て人を挙げず |
| もって | 前置詞(目的語の提示) | Aを(与える・告げる) | 以A+妻・告・与・示など | 以其子妻之=其の子を以て之に妻はす |
| もって | 接続詞 | そして・〜して・〜するために | 動詞と動詞のあいだ | 学以修身=学びて以て身を修む |
| おもへらく | 以為(2字で) | 〜と思う(思うことには) | 文のはじめ・下に思った内容 | 以為〜=以為へらく〜と |
| AをもってBとなす | 以A為B | AをBとする・AをBと思う | 以と為のあいだにA | 以和為貴=和を以て貴しと為す |
| ゆゑん | 所以(2字で) | 理由・方法・手段 | 所以+動詞(〜する所以) | 所以伝道=道を伝ふる所以 |
| ここをもって | 是以(2字で) | だから・そういうわけで | 文のはじめ | 是以謂之文=是を以て之を文と謂ふ |
| なにをもって | 何以(2字で) | どうして・どうやって | 文のはじめ・疑問・反語 | 何以報徳=何を以てか徳に報いん |
表は長いですが、中心は「Aを以て=Aで」の1つだけです。理由(Aによって)も、目的語(Aを)も、「Aで」から少しずつ意味が広がったものです。2字の言い方はセットで覚えるのがいちばんの近道です。
うかるくん
「以て」って、日本語の「もって」と同じ?「書面をもって通知する」みたいな。
ミスターT先生
その通り! 日本語の「〜をもって」は、漢文の「以」を訓読した言い方がそのまま残ったものなんだ。「書面を以て=書面で」。だから「以A」は「Aで」と訳せばだいたい通じるよ。
サクラちゃん
「以上」「以下」の「以」も同じ字ですね。
ミスターT先生
そう。「以上」はもとは「これより上」という意味。「以」には「〜より」の働きもあるんだ。でも受験では、まず「以て=で」を固めよう。
1. 手段・方法の「以」(Aで・Aを使って)
「以A+動詞」の形で、Aを使って〜するという意味です。読むときは、Aに「ヲ」をつけ、「以」へ返って「以て」と読みます。「以」は動詞よりも前にあるのに、日本語ではAのあとで読む、というところがポイントです。
以A+動詞(手段)
白文以五十歩笑百歩、則何如。
書き下し文五十歩を以て百歩を笑はば、則ち何如。
(『孟子』梁恵王上)
現代語訳(戦場で)五十歩逃げた者が、(そのことを理由に)百歩逃げた者を笑ったら、どうでしょうか。
2. 「以A為B」(AをもってBとなす)
「以」と「為」が組になった「以A為B」は、「AをもってBとなす」と読み、「AをBとする」「AをBと思う」という意味です。日本でいちばん有名なのは、聖徳太子の十七条憲法の第一条でしょう。
以A為B(AをBとする)
書き下し文和を以て貴しと為す。
(十七条憲法(『日本書紀』推古天皇十二年))
現代語訳人と人とが仲よくすることを、何よりも大切なこととする。
ここまでのまとめ
- 「以A」=Aを以て=Aで・Aを使って(手段)
- 読む順番はA → 以(Aに「ヲ」、以は「以て」)
- 「以A為B」=AをもってBとなす=AをBとする・思う
しっかり(共通テスト)
理由・原因の「以」(Aによって・Aなので)
「以A」は、手段だけでなく判断のよりどころ・理由も表します。「Aを以て人を判断する」は「Aによって人を判断する」。訳すときは「〜で」よりも「〜によって」「〜を理由に」の方が自然になる場合です。
理由の「以」(Aによって)
書き下し文君子は言を以て人を挙げず、人を以て言を廃せず。
(『論語』衛霊公)
現代語訳君子は、言葉(がうまいこと)だけで人を取り立てたりはしないし、(話す)人物(がよくないこと)を理由に、その言葉まで捨てたりはしない。
目的語を示す「以」(Aを〜する)
「与える・告げる・示す・めあわせる(嫁がせる)」などの動詞の前で、「以A」が動詞の目的語を示すことがあります。「以A告B」は「Aを以てBに告ぐ(AをBに告げる)」。訳では「以て」を消して「Aを」とすると自然です。
目的語を示す「以」(Aを)
書き下し文其の子を以て之に妻はす。
(『論語』公冶長)
現代語訳(孔子は)自分の娘を彼(公冶長)に嫁がせた。
「以為」:「おもへらく」と「以て〜と為す」
「以為」は「思う」という意味の大事な言い方です。読み方は2通りあります。思った内容が長く続くときは、文のはじめで「以為へらく〜と(おもへらく)」と読み、内容の終わりに「と」をつけます。短い判断のときは、「以A為B」のAが省略された形として「以て〜と為す」と読みます。どちらも意味は「〜と思う」です。
以為(以て〜と為す)
書き下し文虎以て然りと為す。故に遂に之と行く。
(『戦国策』楚策)
現代語訳虎はもっともだと思った。そこで、とうとう狐と一緒に出かけた。
以為(おもへらく〜と)
書き下し文人は皆以為らく、其の才は及ぶべからずと。
(自作)
現代語訳人々はみな、その(人の)才能にはとてもかなわないと思った。
見分け方の手順
- 2字の決まった言い方かどうかを先に見る:以為・所以・是以・以是・何以・可以・有以・無以。当てはまれば熟語として読む。
- 「以A為B」の形かを見る:以と為のあいだに語があり、為の下にも語があれば「AをもってBとなす」。
- 以の下に名詞(A)があり、その下に動詞が来るかを見る:あれば「Aを以て」。手段(Aで)・理由(Aによって)・目的語(Aを)のどれかを、動詞の意味から決める。
- 動詞と動詞のあいだに以があるかを見る:あれば接続の「以て」(〜して・そして)。「而」とほぼ同じ働き。
- 訳して確かめる:「Aで」「Aによって」「Aを」を当てはめて、いちばん自然なものを選ぶ。
「是以」「何以」「可以」を例文で
是以(だから)
書き下し文敏にして学を好み、下問を恥ぢず。是を以て之を文と謂ふなり。
(『論語』公冶長)
現代語訳頭の回転が速いうえに学問を好み、目下の人にたずねることを恥じなかった。だから彼のことを「文」と呼ぶのだ。
可以(以て〜べし)
書き下し文故きを温めて新しきを知れば、以て師と為るべし。
(『論語』為政)
現代語訳昔学んだことを復習して、そこから新しい知識や考えを得ることができるなら、人の師となることができる。
サクラちゃん
「是以」と「以是」って、字の順番が逆なだけですよね。意味は同じですか?
ミスターT先生
ほぼ同じで「だから・これによって」。ただ「是以」は「是を以て(ここをもって)」と読んで、文のはじめで「だから」とつなぐ接続のことばとして使うことが多い。「以是」は「是を以て(これをもって)」で、「これによって」と手段・理由をはっきり言う感じだね。
うかるくん
どっちも「是を以て」と書き下すから、訳は前の文を理由として受ければいいんだね。
もっと深く(難関大・上級者)
1. 「所以(ゆゑん)」:理由と方法の2つの意味
「所以」は「ゆゑん」と2字まとめて読みます。「所」は「〜するもの・こと」、「以」は「〜によって」なので、もとは「それによって〜するもの」。ここから「〜する理由(わけ)」と「〜する方法・手段(ためのもの)」の2つの意味が生まれました。どちらの意味かは文脈で決めます。書き下し文では漢字「所以」のまま書くのがふつうです。
所以(方法・手段=ためのもの)
書き下し文師は、道を伝へ業を受け惑ひを解く所以なり。
(韓愈「師説」)
現代語訳師とは、(人として生きる)道を伝え、学業を授け、疑問を解いてくれるための人である。
所以(理由=わけ)
書き下し文此れ吾が去る所以なり。
(自作)
現代語訳これが、わたしが立ち去る理由である。
2. 「何以」:疑問と反語
「何以」は「何を以て(か)」と読み、「どうして(理由)」「どうやって(方法)」をたずねます。文末が「〜ん」で終わると反語(何以〜ん=どうして〜しようか、いや〜ない)になります。論語には、「恨みに徳で報いるのはどうでしょう」とたずねられた孔子が、こう答える場面があります。
何以(何を以てか)と手段の以
書き下し文何を以てか徳に報いん。直きを以て怨みに報い、徳を以て徳に報ゆ。
(『論語』憲問)
現代語訳(恨みに徳で報いたら)では何によって徳(恩)に報いるのか。恨みにはまっすぐな正しさで報い、徳には徳で報いるのだ。
3. 「以」の目的語の省略と、接続の「以」
「以」の下の目的語は、前に出てきたものを指すときによく省略されます。「可以」「足以」「無以」「有以」は、どれも「以之(これを以て)」の「之」が省略された形と考えると、意味がよくわかります。たとえば「無以〜」は「以て〜する無し(〜する手だてがない)」、「有以〜」は「以て〜する有り(〜する手だてがある・〜するわけがある)」です。
無以(以て〜する無し)
書き下し文以て其の恩に報ゆる無し。
(自作)
現代語訳その恩に報いる手だてがない。
目的語が省略されて「以」だけが動詞と動詞のあいだに残ると、「以」は接続のことばのように働きます。「学以修身(学びて以て身を修む)」は「学んで、それによって身を修める」。「而」とほぼ同じですが、「以」には「それを手段にして・そのために」という気持ちが残るのが違いです(「而・則・乃・即」の読みと用法)。
接続の「以」(〜して・それによって)
書き下し文学びて以て身を修む。
(自作)
現代語訳学問をして、それによって自分の行いを正しくする。
4. 手段と理由の境目、そして「以」の位置
「以A」が手段か理由かは、はっきり分けられないこともあります。孟子の「以力服人者、非心服也(力を以て人を服する者は、心服するに非ざるなり)」の「以力」は、「力で(手段)」とも「力によって(よりどころ)」とも訳せます。記述問題では、どちらで訳しても文が通るなら「〜によって」とするのが安全です。また、「以A」はふつう動詞の前に置きますが、「動詞+B+以A」と動詞の後ろに置かれることもあります。「為国以礼(国を為むるに礼を以てす)」のように、このときは「〜するにAを以てす(〜するのにAを用いる)」と読みます。

5. 「以」と「已」、「以上・以下」
古い文では「以」が「已(すでに・やむ)」と通じて使われることがあり、本文に注がついていることが多いです。また、「以東」「以西」「以上」「以来」の「以」は「〜より」という範囲の起点を表します。日本語の「以上・以下」は「その数を含む」と決まっていますが、漢文の「以」にはもともとそうした厳密な決まりはありません。これらは入試で問われることは少ないので、読めればよい知識として押さえておきましょう。

ミスターT先生
「以」は「Aを以て=Aで」が中心。理由・目的語・接続はそこから広がったもの。以為・所以・是以・何以・可以の2字の言い方を先に疑えば、白文でもすらすら読めるよ。
よくあるまちがい
まちがい1:「以A」をAより先に読む
「以五十歩」を「以て五十歩を」と書き下すのは誤り。「以」は返読して「五十歩を以て」と読みます。目的語Aが下にあるときは、Aに「ヲ」をつけてから「以て」に返ります。
まちがい2:「所以」を「所を以て」と読む
「所以」は2字まとめて「ゆゑん」(理由・方法)。「所を以て」「以てする所」と分けて読むと意味が通りません。書き下し文では漢字「所以」のまま書きます。
まちがい3:「以為」を「以て為す(行う)」と訳す
「以為」は「思う」。「虎以為然」を「虎はそれを使って行った」と訳すのは誤りで、「虎はもっともだと思った」です。「以為へらく〜と」と読む場合も、意味は「〜と思う」です。
まちがい4:「是以」を「是れ以て」と読む
「是以」は「是を以て(ここをもって)」と読み、「だから」と訳します。「是れ以て」「以て是れ」は誤り。前の文が理由、後ろの文が結果になります。
まちがい5:「以A為B」のAとBを逆にする
「以和為貴」は「和を貴しと為す」で、A(和)をB(貴いもの)とする。「貴いものを和とする」と逆に訳さないように、以のすぐ下がA、為のすぐ下がBと確かめましょう。
練習問題
やさしい
- 次の訓読文を書き下し文にしなさい。(自作)以テレ刀ヲ切ルレ肉ヲ。
答えと解説を見る
刀を以て肉を切る。(刀を以て肉を切る。)意味は「刀で肉を切る」。「以A+動詞」の手段の「以」。
- 「所以」の読み方と、2つの意味を答えなさい。
答えと解説を見る
読み:「ゆゑん」。意味:(1)理由・わけ(〜する所以なり=〜するわけである)、(2)方法・手段(〜するためのもの)。
ふつう
- 次の文を書き下し文にし、現代語に訳しなさい。(自作)以テレ書ヲ為スレ友ト。
答えと解説を見る
書き下し文:書を以て友と為す。 訳:書物を友とする(本を友だちのように大切にする)。「以A為B」で、A=書、B=友。
- 次の白文の「以」の働きを答え、書き下し文にしなさい。(自作)
「以其言告王」答えと解説を見る
働き:目的語を示す「以」(Aを)。書き下し文:其の言を以て王に告ぐ。訳は「その言葉を王に告げた」。「告ぐ」の目的語(告げる内容)を「以」が示している。
むずかしい
- 次の白文を書き下し文にし、現代語に訳しなさい。(自作)
「是以王悦之」答えと解説を見る
書き下し文:是を以て王之を悦ぶ。 訳:だから王はそれ(その人・そのこと)を喜んだ。「之」は動詞「悦ぶ」のすぐ下なので「これ」。「是以」は「是を以て(だから)」で、前の文の内容を理由として受ける。
- 「可以為師矣」の「以」について、なぜ「以て」だけで目的語がないのかを説明しなさい。
答えと解説を見る
「以」の下の目的語「之(それ)」が省略されているから。前に述べた「故きを温めて新しきを知る」ことを指し、「それによって師と為ることができる」という意味。「可以」「足以」「無以」などは、どれも同じように目的語が省略された形である。
関連ページ
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よくある質問
漢文の「以」の読み方と意味は?
「もって」と読みます。「以A」は「Aを以て」と書き下し、「Aで・Aを使って」(手段)、「Aによって」(理由)、「Aを」(目的語)の意味になります。
「以為」はどう読みますか?
「おもへらく」と2字まとめて読み、思った内容の最後に「と」をつけます。短い判断では「以て〜と為す」とも読みます。どちらも意味は「〜と思う」です。
「所以」の読み方と意味は?
「ゆゑん」と読みます。「〜する理由・わけ」と「〜する方法・手段(ためのもの)」の2つの意味があり、文脈で決めます。
「是以」と「以是」の違いは?
どちらも「是を以て」と書き下し、「だから・これによって」の意味です。是以は文のはじめで「だから」とつなぐことが多く、以是は「これによって」と手段・理由をはっきり示す言い方です。
「以A為B」はどう訳しますか?
「AをもってBとなす」と読み、「AをBとする」「AをBと思う」と訳します。以和為貴は「和を以て貴しと為す(和を大切なものとする)」です。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:『論語』(衛霊公・公冶長・為政・憲問)、『孟子』梁恵王上、『戦国策』楚策、韓愈「師説」、十七条憲法(『日本書紀』推古天皇十二年)。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による
- 高校の漢文句法の標準的な説明(以の用法・以為・以A為B・所以・是以)にもとづいて作成。読みが分かれる所は本文中に記した
- 画像:張風「諸葛亮像」(1654年、国立故宮博物院、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)
最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦



