漢文文法・句法辞典 › 句法
大学受験
ひとことで言うと
漢文の否定は、打ち消す語の上に不・弗(ず)、無・莫(なし)、非(あらず)、未(いまだ〜ず)を置いて表します。訓読では下の語を先に読んでから返り、「不・弗」だけは書き下しでひらがなにします(例:知らず、水無し、魚に非ず)。
このページのポイント
- 否定の字は不・弗=ず、無・莫=なし、非=あらず、未=いまだ〜ず
- 不=動作の打ち消し、無=存在の打ち消し、非=判断の打ち消し(〜ではない)
- 「不」は下の語でず・ざる・ざれば・ずんばと形を変える
- 書き下しでひらがなにするのは不・弗だけ(未は二度目の「ず」)
- 否定文では代名詞の目的語が前に出る(未之有・莫我知)
はじめて(やさしく)
漢文の否定(ひてい)とは、「〜しない」「〜がない」「〜ではない」と打ち消す言い方のことです。使う字は主に不・弗・無・莫・非・未の6字で、それぞれ「ず」「なし」「あらず」「いまだ〜ず」と読みます。まずは公式の表で全体を見てしまいましょう。
否定の句形の公式(一覧表)
| 句形 | 読み(書き下し) | 意味 | 例 |
|---|---|---|---|
| 不A | Aず | Aしない | 不知=知らず |
| 弗A | Aず | Aしない(不と同じ) | 弗知=知らず |
| 無A | Aなし | Aがない | 無足=足無し |
| 莫A | Aなし | Aがない・Aするものはない | 莫知=知る莫し |
| 非A | Aにあらず | Aではない | 非魚=魚に非ず |
| 未A | いまだAず | まだAしない | 未知=未だ知らず |
表の「A」には、動詞や名詞などの言葉が入ります。どの字も打ち消したい言葉の上に置かれ、訓読では下の言葉を先に読んでから、否定の字に返って読みます。日本語の「ない」は言葉のうしろに来るので、順番が逆になるのです。
まなぶくん
「不」も「無」も「非」も、ぜんぶ「〜ない」でしょ? どうして字が分かれているの?
ミスターT先生
いい質問だ。日本語でも「行かない」「お金がない」「先生ではない」は、打ち消している中身がちがうね。漢文では、動作を打ち消す「不」、ものが「ない」と言う「無」、「〜ではない」と判断を打ち消す「非」と、字で分けているんだ。
ハルちゃん
じゃあ字を見れば、何を打ち消しているかがわかるんですね!
書き下し文(漢文を日本語の文に直したもの)では、「不・弗」は日本語の助動詞「ず」にあたるのでひらがなで書きます。「無・莫」は形容詞「なし」、「非」は「あらず」(動詞「あり」+「ず」)として漢字のまま書きます。このきまりは書き下し文のきまり(助詞・助動詞はひらがな)と同じです。
不(ず)
白文我不知其名。
書き下し文我其の名を知らず。
(自作)
現代語訳私はその名前を知らない。
無(なし)
書き下し文此の山に水無し。
(自作)
現代語訳この山には水がない。

ミスターT先生
否定の字は必ず下から返って読む「返読文字」の仲間だ。不・弗はひらがなで「ず」、無・莫・非は漢字のまま。この2点を最初に押さえれば、書き下しで失点しないよ。
ここまでのまとめ
- 否定の字は不・弗(ず)/無・莫(なし)/非(あらず)/未(いまだ〜ず)
- どれも打ち消す言葉の上にあり、下から返って読む
- 書き下しでは不・弗だけひらがな(ず)。無し・非ず・未だは漢字
しっかり(共通テスト)
否定の字の一覧(読み・意味・使い分け)
共通テストでは、否定の字そのものより、否定がどこまでかかるか(何を打ち消しているか)と、二重否定・部分否定と組み合わさった形がよく問われます。まずは1字ずつの違いを正確にしておきましょう。
| 字 | 読み | 品詞のはたらき | 打ち消すもの | 書き下しの表記 |
|---|---|---|---|---|
| 不 | ず | 助動詞「ず」 | 動作・状態(動詞・形容詞) | ひらがな |
| 弗 | ず | 助動詞「ず」 | 動作(不と同じ。やや古い文に多い) | ひらがな |
| 無 | なし | 形容詞「なし」 | ものの存在(〜がない) | 漢字 |
| 莫 | なし | 形容詞「なし」 | 存在・「〜するものはない」 | 漢字 |
| 非 | あらず | 動詞「あり」+「ず」 | 名詞・事がら(〜ではない) | 漢字+送り仮名 |
| 未 | いまだ〜ず | 副詞+助動詞(再読文字) | まだ起こっていないこと | 一度目は漢字、二度目はひらがな |
「莫」は「無」と同じく「なし」と読みますが、「〜するものはない(だれも〜しない)」という意味で使われることが多い字です。また「莫」は「なかれ」と読んで禁止を表すこともあります(禁止(勿・毋・無・莫「〜なかれ」)で扱います)。「未」は1字を2回読む再読文字(未・将・当・応)の1つです。
「不」の形の変わり方:ず・ざる・ざれ・ずんば
「不」は日本語の助動詞「ず」なので、下に続く言葉によって形が変わります。古文で習う打消の助動詞「ず」とまったく同じ活用です(古文の助動詞「ず」の活用と意味)。漢文訓読では「ぬ・ね」の形はあまり使わず、「ざる・ざれ」の形を使うのがふつうです。
| 下に続くもの | 「不」の形 | 例(書き下し) | 意味 |
|---|---|---|---|
| 文の終わり | ず | 知らず。 | 知らない |
| 名詞(者・所など) | ざる | 知らざる者 | 知らない人 |
| ば(已然形+ば) | ざれば | 学ばざれば | 学ばないので・学ばないと |
| ば(未然形+ば=仮定) | ずんば(ずば) | 入らずんば | もし入らないなら |
| して・とも など | ずして・ざるも | 戦はずして | 戦わないで |
見分けて書き下す手順
- 否定の字を見つける。不・弗・無・莫・非・未のどれかを確かめる(「未」なら再読文字として2回読む)。
- どこまで打ち消すかを決める。返り点を見て、否定の字の下のどの語まで読んでから返るかを確かめる。
- 下の語を先に読む。打ち消される語は、「ず」に続くので未然形にする(知る→知ら、学ぶ→学ば)。「非」の上は「〜に」をつける(魚に非ず)。
- 否定の字の形を整える。下に何が続くかで「ず・ざる・ざれば・ずんば」を選ぶ。
- 訳す。不=〜しない、無=〜がない、非=〜ではない、未=まだ〜しない。
例文で確かめる
不(ざる・ず)
書き下し文之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。是れ知るなり。
(『論語』為政)
現代語訳知っていることは知っているとし、知らないことは知らないとする。それが本当に知るということだ。
無(なし)
書き下し文人にして遠き慮り無ければ、必ず近き憂ひ有り。
(『論語』衛霊公)
現代語訳人として遠い先のことまで考えておかないと、必ず身近な心配ごとが起こる。
非(あらず)
書き下し文子は魚に非ず、安くんぞ魚の楽しみを知らんや。
(『荘子』秋水)
現代語訳あなたは魚ではない。どうして魚の楽しみがわかるだろうか(いや、わからない)。
莫(なし)
書き下し文過ちて能く改むれば、善焉より大なるは莫し。
(『春秋左氏伝』宣公二年)
現代語訳あやまちをおかしても、それを改めることができれば、これ以上の善いことはない。
不(ざれば)
書き下し文玉琢かざれば、器を成さず。人学ばざれば、道を知らず。
(『礼記』学記)
現代語訳宝石の原石も、みがかなければ立派な器にはならない。人も学ばなければ、人として進むべき道を知ることができない。
弗(ず)
書き下し文民従はず。
(自作)
現代語訳人民は従わない。
未(いまだ〜ず)
書き下し文吾未だ其の人を見ず。
(自作)
現代語訳私はまだそういう人に会ったことがない。

サクラちゃん
「知らざるを」と「知らずと」、同じ「不」なのに形がちがうのがむずかしいです。
ミスターT先生
コツは「不」のすぐ下の送り仮名を見ることだ。訓読文では「不」に「ル」「レバ」「ンバ」などの送り仮名がついているから、それを「ず」の活用にあてはめればいい。ル=ざる、レバ=ざれば、ンバ=ずんばだよ。
うかるくん
送り仮名がヒントなんだ! 古文の「ず」の活用表がそのまま使えるね。
もっと深く(難関大・上級者)
1. 否定文では代名詞の目的語が動詞の前に出る
古い時代の漢文には、否定文で、目的語の代名詞(之・我・吾・己など)が動詞の前に出るという語順のきまりがあります。ふつうは「有之(之れ有り)」の順ですが、否定文では「未之有」「莫我知」「不吾知」のようになります。訓読は日本語の順に読むので、書き下し文は「未だ之れ有らず」「我を知る莫し」「吾を知らず」と、ふつうの文と同じ形になります。白文を訓読する問題や、語順を問う問題で差がつくところです。
未之有(代名詞が前に出る)
書き下し文然り而して王たらざる者は、未だ之れ有らざるなり。
(『孟子』梁恵王上)
現代語訳そのようにして(民の暮らしを安定させて)いるのに天下の王とならなかった者は、今まで一人もいない。
同じ型は、孔子の「莫我知也夫(我を知る莫きかな)」にも見られます。この語順については漢文の語順(主語・述語・目的語・補語)でも扱っています。
2. 「無」の読み分け:なし・なかれ・となく
「無」はいつも「なし」と読むとはかぎりません。命令・禁止の文脈では「なかれ」、「無A無B」の形では「Aと無くBと無く(AでもBでも区別なく)」と読みます。さらに「無A不B」は「AとしてBざるは無し」と読む二重否定です(二重否定(無不・非不・不可不))。
無A無B(Aと無くBと無く)
書き下し文是の故に貴と無く賤と無く、長と無く少と無く、道の存する所は、師の存する所なり。
(韓愈「師説」)
現代語訳だから、身分が高いか低いか、年上か年下かに関係なく、道(正しい学問)のある所が、すなわち師のいる所なのだ。
3. 「微」:「〜なかりせば」(もし〜がいなかったら)
「微」は「かすか」という意味のほかに、「無」と同じ打ち消しで使われ、「Aなかりせば(もしAがいなかったら)」と仮定の意味になります。入試で見落とされやすい否定の字です。
微(なかりせば)
書き下し文管仲微かりせば、吾其れ髪を被り衽を左にせん。
(『論語』憲問)
現代語訳もし管仲がいなかったら、私たちは今ごろ髪を結わずに垂らし、着物を左前に着る(異民族の風俗に従う)ことになっていただろう。
4. 「非」の広い打ち消しと「否」
「非」は名詞だけでなく、文や句全体を打ち消して「〜というわけではない」という意味にもなります。たとえば「是不為也、非不能也(是れ為さざるなり、能はざるに非ざるなり)」は、「できないのではない」と、前の内容をまるごと打ち消しています(可能・不可能(可・能・得・足))。また「否」は「いな(いいえ)」「しからず(そうではない)」と読み、文末の「〜や否や」は「〜かどうか」という疑問になります。
| 字・形 | 読み | 意味 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 非A | Aにあらず | Aではない | 名詞・文全体を打ち消す |
| 非A則B | Aにあらざれば則ちB | AでなければBだ | 条件の形 |
| 否 | いな/しからず | いいえ/そうではない | 返答・打ち消し |
| 〜否 | 〜や否や | 〜かどうか | 文末で疑問 |
| 微A | Aなかりせば | もしAがなかったら | 仮定(事実と反対) |
5. 「不」と「弗」、「毋」と「勿」のちがい(諸説)
「弗」は「不」と同じ「ず」と読みますが、古い中国語では使い方に差があったと考えられています。よく知られた説に、「弗は『不+之』(之をせず)にあたり、目的語を省いた動詞を打ち消す」というものがあります。同じように「勿は『毋+之』にあたる」とする説もあります。ただし例外も多く、時代が下るとほとんど区別されなくなるため、訓読ではどちらも同じに読むのがふつうです。入試の訳でこの差が問われることはまずありません。
また、漢文の否定の字は、現代中国語の「不(bù)」「没(méi)」とも少しずつ使い方がちがいます。訓読は日本語に置きかえる読み方なので、字ごとの細かな語感は訳文には出にくい、という点も知っておくとよいでしょう。

サクラちゃん
白文では、否定の字の下に代名詞(之・我)があったら語順の入れかえを疑う。そして「無」はいつも「なし」ではない。なかれ・となく・なかりせばまで見ておけば安心ですね!
よくあるまちがい
まちがい1:「不」を漢字のまま書く
「知ら不」は誤り。「不・弗」は助動詞「ず」なのでひらがなで「知らず」と書きます。一方「無し」「非ず」は漢字のままです。
まちがい2:「非」の上の「に」を忘れる
「魚非ず」は誤り。「非」は「〜にあらず」なので、上の名詞に「に」をつけて「魚に非ず」と書きます(動詞なら「〜するに非ず」)。
まちがい3:「不」の形を変えない
「知らずを」「学ばずば」は誤り。下に「を」「者」が続けば「ざる」、「ば」が続けば「ざれば」(確定)か「ずんば」(仮定)です。送り仮名を手がかりにしましょう。
まちがい4:「無A無B」を「AもBもない」と訳す
「貴と無く賤と無く」は「身分の高い低いに関係なく」。存在を否定しているのではありません。
まちがい5:「未」を「不」と同じに訳す
「未だ見ず」は「見ない」ではなく「まだ見ていない(今まで見たことがない)」。時間の意味を訳に入れます。
練習問題
やさしい
- 次の字の読み(書き下しでの読み方)を答えなさい。
(1)不 (2)無 (3)非 (4)未答えと解説を見る
(1)ず(ひらがなで書く) (2)なし (3)あらず(「〜に非ず」) (4)いまだ〜ず(再読文字)。
- 次の訓読文を書き下し文にしなさい。(自作)人不レ来タラ。
答えと解説を見る
人来たらず。(人来たらず。)意味は「人が来ない」。「不」はひらがなで「ず」、「来」は未然形「来たら」にする。
ふつう
- 次の訓読文を書き下し文にし、現代語に訳しなさい。(自作)此レ非ズ二吾ガ罪ニ一。
答えと解説を見る
書き下し文:此れ吾が罪に非ず。(此れ吾が罪に非ず。) 訳:これは私の罪ではない。「非」は判断を打ち消すので「〜ではない」と訳す。
- 次の( )に入る形を答えなさい。
「学( )者」=学ばない者(白文「不学者」)答えと解説を見る
学ばざる(学ばざる者)。「不」の下に名詞「者」が続くので、連体形「ざる」にする。「学ばず者」は誤り。
むずかしい
- 次の白文を書き下し文にしなさい。また、語順の特徴を説明しなさい。(自作)
「人莫我知」答えと解説を見る
書き下し文:人我を知る莫し(だれも私をわかってくれない)。「我」は「知」の目的語だが、否定文なので代名詞が動詞の前に出ている。訓読では「我を→知る→莫し」と読むので、ふつうの語順と同じ書き下しになる。
- 「無」を「なし」以外に読む例を2つあげ、それぞれの意味を答えなさい。
答えと解説を見る
例:(1)「無かれ」…禁止「〜するな」(例:己に如かざる者を友とすること無かれ)。(2)「AとBと無く」…「無A無B」で「AでもBでも区別なく」(例:貴と無く賤と無く)。ほかに「無A不B」の「AとしてBざるは無し」(どのAもみなBする)も正解。
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- 句法の一覧(句形のまとめ・印刷用)
- 漢文文法・句法辞典の目次
「不」の活用は古文の打消の助動詞と同じです。古文の助動詞「ず」(ざら・ざり・ざる・ざれ)で活用表を確かめておきましょう。否定をふくむ故事成語には「五十歩百歩」(直だ百歩ならざるのみ)などがあり、故事成語の一覧(意味・由来・出典)で読めます。
読みもの(合格大作戦の記事)
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国語をふくむ教科のバランス
受験掲示板「100点BBS」で質問・相談しよう
よくある質問
漢文の否定の字にはどんなものがありますか?
主に不・弗(ず)、無・莫(なし)、非(あらず)、未(いまだ〜ず)の6字です。禁止の毋・勿(なかれ)を加えることもあります。
「不」と「無」と「非」の違いは何ですか?
不は動作や状態を打ち消して「〜しない」、無は存在を打ち消して「〜がない」、非は判断を打ち消して「〜ではない」という意味です。
否定の字は書き下し文でひらがなにしますか?
不・弗は助動詞「ず」にあたるのでひらがなで書きます。無し・非ず・未だは漢字のままで、未の二度目の「ず」だけはひらがなにします。
「ざる」「ざれば」「ずんば」はどう使い分けますか?
不の下に名詞などが続けば連体形の「ざる」、確定の「ば」が続けば「ざれば」、仮定の「ば」が続けば「ずんば」になります。訓読文の送り仮名が手がかりです。
「莫」はいつも「なし」と読みますか?
多くは「なし」で「〜するものはない」の意味ですが、禁止の文脈では「なかれ」と読みます。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:『論語』(為政・衛霊公・憲問)、『荘子』秋水、『春秋左氏伝』宣公二年、『礼記』学記、『孟子』梁恵王上、韓愈「師説」。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による。「自作」とした例文は合格大作戦の作例
- 高校の漢文句法の標準的な説明(否定の字の読み・意味・書き下し)にもとづいて作成。弗・勿の使い分けは諸説あり、本文中に記した
- 画像:良渚文化「玉璧」(新石器時代、メトロポリタン美術館蔵、Wikimedia Commons・CC0)
最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦



