漢文文法・句法辞典 › 句法
大学受験難関大
ひとことで言うと
否定の字が上なら部分否定、副詞が上なら全部否定です。不常A=常にはAず(いつもAするとはかぎらない)、常不A=常にAず(いつもAしない)のように、部分否定は副詞に「は」「しも」をつけて読みます。
このページのポイント
- 不+副詞=部分否定、副詞+不=全部否定
- 部分否定は副詞に「は」「しも」(常には・倶には・必ずしも)
- 訳:部分否定=〜とはかぎらない、全部否定=まったく〜しない
- 不復=二度とは〜しない、復不=今度もまた〜しない(読みは同じ)
- 「不必不如師」は部分否定+二重否定(弟子が師にまさることもある)
はじめて(やさしく)
部分否定(ぶぶんひてい)と全部否定(ぜんぶひてい)は、「常(つねに)」「必(かならず)」「倶(ともに)」などの副詞と否定の字の順番で意味が変わる句法です。否定の字が上(不常)なら「いつも〜するとはかぎらない」という部分否定、副詞が上(常不)なら「いつも〜しない」という全部否定になります。
部分否定・全部否定の句形の公式(一覧表)
| 句形 | 読み(書き下し) | 意味 | 種類 |
|---|---|---|---|
| 不常A | 常には(つねには)Aず | いつもAするとはかぎらない | 部分否定 |
| 常不A | 常に(つねに)Aず | いつもAしない | 全部否定 |
| 不倶A | 倶には(ともには)Aず | 両方ともAするわけではない | 部分否定 |
| 倶不A | 倶に(ともに)Aず | 両方ともAしない | 全部否定 |
| 不必A | 必ずしもAず | 必ずAするとはかぎらない | 部分否定 |
| 必不A | 必ずAず | 決してAしない | 全部否定 |
| 不復A | 復た(また)Aず | 二度とはAしない | 部分否定 |
| 復不A | 復た(また)Aず | 今度もまたAしない | 全部否定 |
| 不甚A | 甚だしくは(はなはだしくは)Aず | それほどAではない | 部分否定 |
| 甚不A | 甚だ(はなはだ)Aず | まったくAしない・ひどくAでない | 全部否定 |
見分けのきまりは1つだけです。「不」が上にあれば部分否定、副詞が上にあれば全部否定。部分否定のときは、副詞に「は」や「しも」をつけて「常には」「必ずしも」と読むのが目じるしです。否定の字そのものの読み方は否定(不・弗・無・莫・非・未)の読み方で確かめましょう。
ハルちゃん
「常には怒らず」と「常に怒らず」、「は」があるかないかだけなのに、そんなにちがうの?
ミスターT先生
大ちがいだよ。「先生は常には怒らない」なら、ときどきは怒る先生だ。「先生は常に怒らない」なら、一度も怒らない仏さまのような先生だね。「は」の1字で、先生の人がらが正反対になるんだ。
まなぶくん
ときどき怒る先生と、ぜったい怒らない先生……全然ちがう!
不常(部分否定)
白文師不常怒。
書き下し文師常には怒らず。
(自作)
現代語訳先生はいつも怒るわけではない(怒るときもあれば、怒らないときもある)。
常不(全部否定)
書き下し文師常に怒らず。
(自作)
現代語訳先生はいつも怒らない(一度も怒ったことがない)。

ミスターT先生
合言葉は「不が先なら部分、副詞が先なら全部」。そして部分否定は「は・しも」をつけて読む。この2つだけで、共通テストの部分否定の問題はほぼ解けるよ。
ここまでのまとめ
- 不+副詞+A=部分否定(いつも〜とはかぎらない)
- 副詞+不+A=全部否定(いつも〜しない・まったく〜しない)
- 部分否定は副詞に「は」「しも」をつけて読む(常には・必ずしも)
しっかり(共通テスト)
部分否定と全部否定のペア一覧
部分否定と全部否定は、ペアで覚えるのがいちばん確実です。共通テストでは、現代語訳の選択肢に「いつも〜しない」と「いつも〜するとはかぎらない」が並べられ、どちらを選ぶかで差がつきます。
| 副詞 | 部分否定(不+副詞) | 全部否定(副詞+不) |
|---|---|---|
| 常(つねに) | 常には〜ず:いつも〜するとはかぎらない | 常に〜ず:いつも〜しない |
| 倶(ともに) | 倶には〜ず:両方とも〜するわけではない | 倶に〜ず:両方とも〜しない |
| 必(かならず) | 必ずしも〜ず:必ず〜するとはかぎらない | 必ず〜ず:決して〜しない |
| 復(また) | 復た〜ず:二度とは〜しない | 復た〜ず:今度もまた〜しない |
| 甚(はなはだ) | 甚だしくは〜ず:それほど〜ではない | 甚だ〜ず:まったく〜しない |
| 尽(ことごとく) | 尽くは〜ず:全部が〜するわけではない | 尽く〜ず:全部〜しない |
見分けて訳す手順
- 否定の字のすぐ上かすぐ下に、常・倶・必・復・甚・尽などの副詞があるか見る。
- どちらが上かを確かめる。「不」が上なら部分否定、副詞が上なら全部否定。
- 読みを整える。部分否定は「常には・倶には・必ずしも・甚だしくは・尽くは」と、副詞に「は・しも」をつける(「復」はどちらも「復た」)。
- 訳す。部分否定は「〜とはかぎらない・〜わけではない」、全部否定は「まったく〜しない・決して〜しない」。
例文で確かめる
不常(常には〜ず)
書き下し文千里の馬は常に有れども、伯楽は常には有らず。
(韓愈「雑説」)
現代語訳一日に千里も走る名馬はいつの世にもいるが、それを見ぬく伯楽(馬の目ききの名人)は、いつもいるとはかぎらない。
不倶(倶には〜ず)
書き下し文今両虎共に闘はば、其の勢ひ倶には生きず。
(『史記』廉頗藺相如列伝)
現代語訳今、二匹の虎が戦えば、その成り行きとして、両方ともが生き残ることはない(どちらかが倒れる)。
不必(必ずしも〜ず)
書き下し文徳有る者は必ず言有り、言有る者は必ずしも徳有らず。
(『論語』憲問)
現代語訳徳のある人は必ずよい言葉を言うが、よい言葉を言う人が必ずしも徳があるとはかぎらない。
不復(復た〜ず=二度とは〜ない)
書き下し文遂に迷ひて復た路を得ず。
(陶淵明「桃花源記」)
現代語訳とうとう迷ってしまい、二度と(桃源郷への)道を見つけることはできなかった。
不復(守株)
書き下し文兎復た得べからずして、身は宋国の笑ひと為る。
(『韓非子』五蠹)
現代語訳うさぎは二度と手に入らず、その男は宋の国の笑いものになった。
倶不(倶に〜ず)
書き下し文二人倶に来たらず。
(自作)
現代語訳二人とも来なかった。
サクラちゃん
「不復」と「復不」は、どっちも「復た〜ず」と読むんですよね? どうやって区別するんですか?
ミスターT先生
そう、読みは同じだから意味で区別する。「不復」は「前はしたけれど、二度とはしない」、「復不」は「前もしなかったし、今度もまたしない」。桃花源記の漁師は一度は桃源郷に行けたから「不復」なんだ。
うかるくん
「前にできたかどうか」を考えればいいんだね!
もっと深く(難関大・上級者)
1. なぜ順番で意味が変わるのか:否定の「範囲」
漢文では、否定の字は、その下にある言葉全体を打ち消すと考えます。「不常怒」なら「不」は「常怒(いつも怒る)」をまるごと打ち消すので、「いつも怒る、というわけではない」になります。反対に「常不怒」なら、「常」が「不怒(怒らない)」全体をくわしく説明するので、「怒らないことがいつも続く」になります。つまり、上にある語ほど広い範囲にかかるのです。これは論理学の「すべての〜ではない」(部分否定)と「すべて〜ではない」(全部否定)の区別と同じしくみです。
訓読で部分否定の副詞に「は」をつけるのは、係助詞「は」にほかと区別して取り立てる働きがあるからだと説明されます。「常には怒らず」は「常に、という点では怒らない」、つまり「常に怒る」を否定しているのだと、「は」で示しているのです。
2. 「不復」と「復不」:時間の流れで読む
「復」の部分否定・全部否定は、どちらも「復たAず」と読むため、書き下し文では区別できません。区別は文脈(前にそれをしたかどうか)で行います。入試では、現代語訳で「二度とは」「今度もまた」を書き分けることが求められます。
3. 部分否定と二重否定の組み合わせ:韓愈「師説」
難関大でよく問われるのが、部分否定の中にさらに否定が入る形です。韓愈の「師説」の一節は、その代表例です。
不必不(必ずしも〜ずんばあらず)
書き下し文弟子は必ずしも師に如かずんばあらず、師は必ずしも弟子より賢ならず。
(韓愈「師説」)
現代語訳弟子が必ずしも先生におよばないとはかぎらないし、先生が必ずしも弟子よりすぐれているともかぎらない。

4. 「未必」「不尽」「不甚」など、そのほかの部分否定
| 形 | 読み | 意味 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 未必A | 未だ必ずしもAず | 必ずしもAとはかぎらない | 再読文字「未」でも部分否定になる |
| 不尽A | 尽くはAず | 全部がAするわけではない | 「尽く〜ず」なら全部否定 |
| 不甚A | 甚だしくはAず | それほどAではない | 「甚だ〜ず」なら「まったく〜ない」 |
| 不皆A | 皆はAず | みながAするわけではない | 「皆〜ず」なら「みな〜しない」 |
不甚(甚だしくは〜ず)
書き下し文家甚だしくは富まず。
(自作)
現代語訳家はそれほど豊かではない。
「未」で始まる「未必」も部分否定です。読み方は再読文字(未・将・当・応)の一覧の「未嘗・未必」の表を見てください。白文の記述問題では、副詞の位置を見ぬいて、「は」「しも」をつけて書き下せるかが採点のポイントになります。
5. 現代の日本語に残る部分否定
今の日本語の「必ずしも〜ない」は、漢文の「不必(必ずしも〜ず)」を訓読した言い方が日本語に定着したものと考えられています。「必ずしも正しいとはかぎらない」のように、「とはかぎらない」と組んで部分否定を作る点も漢文と同じです。反対に、日常の日本語では「全員が来なかった」が「一人も来なかった」(全部否定)なのか「全員がそろったわけではない」(部分否定)なのか、あいまいになることがあります。漢文は語順で必ず区別するので、訳すときは日本語のあいまいさが残らないよう、「〜とはかぎらない」「一人も〜しない」とはっきり書き分けましょう。記述問題では、この書き分けができているかが採点の分かれ目になります。

サクラちゃん
部分否定は「〜とはかぎらない」、全部否定は「まったく〜ない」。訳の語尾まで書き分けるのが、記述で満点をとるコツですね!
よくあるまちがい
まちがい1:部分否定の「は」「しも」を落とす
「不常有」を「常に有らず」と書き下すのは誤り(それは全部否定「常不有」の読み)。部分否定は「常には有らず」「必ずしも〜ず」と読みます。
まちがい2:部分否定を全部否定で訳す
「伯楽は常には有らず」を「伯楽はいつもいない」と訳すのは誤り。「いつもいるとはかぎらない」です。
まちがい3:「不倶生」を「二匹とも死ぬ」と訳す
「倶には生きず」は「両方ともが生きるわけではない」=どちらか一方は倒れる。二匹とも死ぬのは「倶に生きず(倶不生)」です。
まちがい4:「不復」を「今度もまた〜しない」と訳す
「復た路を得ず(不復得路)」は、前は道を見つけた人が「二度とは見つけられなかった」。「今度もまた」は全部否定「復不」の訳です。
練習問題
やさしい
- 次のうち、部分否定はどちらか。記号で答えなさい。
ア 常不読書 イ 不常読書答えと解説を見る
イ。「不」が「常」より上にあるので部分否定(常には書を読まず=いつも本を読むわけではない)。アは全部否定(常に書を読まず=いつも本を読まない)。
- 次の訓読文を書き下し文にしなさい。(自作)人不二必ズシモ知ラ一。
答えと解説を見る
人必ずしも知らず。(人必ずしも知らず。)意味は「人が必ず知っているとはかぎらない」。「不」が上なので部分否定、「必ずしも」と読む。
ふつう
- 「不倶生」と「倶不生」を、それぞれ書き下し文にして訳しなさい。
答えと解説を見る
不倶生:倶には生きず(両方ともが生きるわけではない=どちらかは死ぬ)。倶不生:倶に生きず(両方とも生きない=二つとも死ぬ)。
- 次の文を訳しなさい。(自作)
「其人去、不復来」(其の人去りて、復た来たらず)答えと解説を見る
訳:その人は去って、二度とは来なかった。「不復」は部分否定で「二度とは〜しない」。前に一度来ていた人が、もう来なくなった、という意味。
むずかしい
- 次の白文を書き下し文にし、訳しなさい。(自作)
「勇者不必有仁」答えと解説を見る
書き下し文:勇者は必ずしも仁有らず。 訳:勇気のある者が必ずしも思いやり(仁)をもっているとはかぎらない。「不必」は部分否定で「必ずしも〜ず」。
- 「弟子不必不如師」を書き下し文にし、どういう意味かを説明しなさい。
答えと解説を見る
書き下し文:弟子は必ずしも師に如かずんばあらず。「不如師(先生に及ばない)」を「不必(必ずしも〜とはかぎらない)」で打ち消した、部分否定と二重否定の組み合わせ。「弟子が先生に及ばないとはかぎらない」、つまり弟子が先生よりすぐれていることもあるという意味(韓愈「師説」)。
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- 漢文文法・句法辞典の目次
部分否定が出てくる故事成語には「守株(株を守る)」(韓非子)や「刎頸の交わり」(史記)があり、故事成語の一覧(意味・由来・出典)でまとめて読めます。古文にも「必ずしも〜ず」という言い方があり、古文の助動詞「ず」の活用と意味と合わせて覚えると、古文・漢文の両方で使えます。
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漢文訓読の文体で書かれた文章
受験掲示板「100点BBS」で質問・相談しよう
よくある質問
部分否定と全部否定はどう見分けますか?
否定の字(不)と副詞(常・必・倶など)の順番で見分けます。不が上なら部分否定、副詞が上なら全部否定です。
「不常」と「常不」の読み方の違いは?
不常Aは「常にはAず」(いつもAするとはかぎらない)、常不Aは「常にAず」(いつもAしない)と読みます。部分否定では副詞に「は」をつけます。
「不必」はどう読みますか?
「必ずしも〜ず」と読み、「必ず〜するとはかぎらない」という部分否定です。「必不」は「必ず〜ず」で「決して〜しない」という全部否定です。
「不倶生」はどういう意味ですか?
『史記』廉頗藺相如列伝の「両虎共に闘はば、其の勢ひ倶には生きず」の部分否定で、二匹の虎が戦えば両方ともが生き残ることはない、つまりどちらかが倒れるという意味です。
「不復」と「復不」の違いは?
どちらも「復た〜ず」と読みますが、不復は「二度とは〜しない」(前はした)、復不は「今度もまた〜しない」(前もしなかった)という意味で、文脈で区別します。
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出典・参考
- 文部科学省「高等学校学習指導要領(平成30年告示)」国語(言語文化・古典探究)
- 例文の本文:韓愈「雑説」「師説」、『史記』廉頗藺相如列伝、『論語』憲問、陶淵明「桃花源記」、『韓非子』五蠹。訓読は高校の教科書で一般的な読み方による。「自作」とした例文は合格大作戦の作例
- 高校の漢文句法の標準的な説明(部分否定・全部否定の読み・意味)にもとづいて作成
- 画像:上官周『晩笑堂竹荘画伝』の韓愈像(1921年刊の版、Wikimedia Commons・パブリックドメイン)
最終更新:2026年10月28日/作成:大学受験合格大作戦



