ワイルは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|対称性・群・ゲージ理論・一様分布定理

ワイルは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|対称性・群・ゲージ理論・一様分布定理

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ワイルHermann Weyl

ひとことで言うと

「形を変えても変わらないもの」を群の言葉で語り、対称性の数学を築いた人。ゲージ理論の出発点や一様分布定理でも知られる。

名前ヘルマン・ワイル(Hermann Weyl)
生没年1885年11月9日〜1955年12月8日(70歳)
国ドイツ生まれ(スイスで教授、のちアメリカ・プリンストンで活躍)
分野幾何・群論・表現論・数理物理・数の分布
主な業績リーマン面の理論、リー群の表現論(ワイルの指標公式)、ゲージ理論の出発点、一様分布定理、一般相対性理論・量子力学の数学
名前がつくものワイル群・ワイルの指標公式・ワイルの一様分布定理・ワイルの法則・ワイルテンソル・ワイル方程式
代表的な本『リーマン面の理論』(1913)、『空間・時間・物質』(1918)、『古典群』(1939)、『シンメトリー』(1952)

このページのポイント

  • 正方形や正三角形の動かし方のように、形を変えない動かし方の集まり(群)で対称性を表す理論を大きく発展させた
  • リー群の表現論(ワイルの指標公式・ワイル群)と、ゲージ理論の出発点となった1918〜1929年の考えで、数学と物理学を結びつけた
  • 無理数の整数倍の小数部分が0から1の間に一様に散らばる一様分布定理(1916年)は、「円周上をぐるぐる回る点」のイメージで分かる

ワイルは何をした人?(業績をひとことで)

ヘルマン・ワイル(1885〜1955年)は、ドイツ生まれの数学者・理論物理学者です。「対称性(シンメトリー)」を数学で表す「群」の理論を大きく発展させ、リーマン面の理論、リー群の表現論、一般相対性理論と量子力学の数学、ゲージ理論の出発点となった考え、数列の小数部分がまんべんなく散らばること(一様分布)の証明など、純粋数学と物理学の両方にまたがる仕事をしました。20世紀前半を代表する数学者のひとりで、ヒルベルトの弟子として知られます。

受験生にとっての「ワイル」は、名前よりも「対称性」という見方として出会います。中学受験の算数で習う線対称・点対称、高校の偶関数・奇関数や線対称・点対称、そして大学で学ぶ群・行列・固有値まで、「形を変えても変わらないものをさがす」という考え方がつながっています。ワイルの一般向けの本『シンメトリー』は、そのおもしろさを数学者がていねいに語った名著として、日本語訳でも読まれてきました。

うかるくん

うかるくん

ワイルって、名前は聞いたことがあるけど、何をした人なのかよく分からないです……。

合格先生

合格先生

一言でいうと「対称性の数学者」だよ。雪の結晶も、正方形も、方程式も、素粒子の世界も、「ある動かし方をしても変わらない」という性質でとらえられる。その考え方を数学の言葉(群)で整えたのがワイルのいちばん大きな仕事なんだ。

ヘルマン・ワイルの肖像写真
ヘルマン・ワイル(撮影者不明、ETH図書館所蔵の写真。記録では1933年ごろとされますが、年代ははっきりしません)画像:ETH-Bibliothek所蔵/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

ワイルの生涯と年表

ドイツ北部に生まれ、ゲッティンゲンでヒルベルトに学ぶ

ワイルは1885年11月9日、ドイツ北部のエルムスホルン(ハンブルクの近く)で生まれました。ゲッティンゲン大学とミュンヘン大学で数学と物理学を学び、ゲッティンゲンでダフィット・ヒルベルトのもとで博士号を取りました(1908年)。当時のゲッティンゲンは、ガウスの業績と生涯・リーマン以来の伝統を持つ世界の数学の中心で、クライン・ヒルベルト・ミンコフスキーといった大数学者がそろっていました。

チューリヒ工科大学の教授として

1913年、ワイルはスイスのチューリヒ工科大学(ETH)の教授になります。この年に『リーマン面の理論(Die Idee der Riemannschen Fläche)』を出しました。リーマン面は、複素数平面の上で「多価関数(1つの入力に複数の答えが出る関数)」を1つの曲面として整理する考え方です。ワイルはこの本で、それまであいまいだった曲面の定義をはっきり書き、のちの「多様体」の考え方への道を開きました。チューリヒでは物理学者アインシュタインとも親しく、1918年の『空間・時間・物質(Raum, Zeit, Materie)』で相対性理論を数学者の立場から整理しました。

ゲッティンゲンの後継者として、そしてアメリカへ

1930年、ワイルはヒルベルトの後任としてゲッティンゲン大学の教授になります。しかし1933年にナチス政権が成立し、ユダヤ系の同僚たちが次つぎに大学を追われる中で、ワイルもドイツを去る決心をします(妻ヘレーネがユダヤ系だったことも理由のひとつとされます)。アメリカのプリンストン高等研究所に移り、1951年に退職するまでそこで研究を続けました。1955年12月8日、チューリヒで70歳で亡くなりました。

年できごと
1885年11月9日、ドイツのエルムスホルンで生まれる
1908年ゲッティンゲン大学でヒルベルトのもとで博士号
1911年膜(太鼓)の振動の固有値の増え方を示す「ワイルの法則」
1913年チューリヒ工科大学の教授に。『リーマン面の理論』を出版
1916年数列の小数部分の「一様分布定理」を発表
1918年『空間・時間・物質』。のちのゲージ理論につながる考えを提案
1923〜1926年リー群の表現論を作る(ワイルの指標公式など)
1927年ロバチェフスキー賞を受ける
1928年『群論と量子力学』を出版
1929年電子と電磁気を「位相の変換」で説明する考えを示し、ゲージ理論の形を整える
1930年ヒルベルトの後任としてゲッティンゲン大学教授に
1933年ドイツを去り、プリンストン高等研究所へ
1939年『古典群(The Classical Groups)』を出版
1952年『シンメトリー』を出版(1951年の連続講義がもと)
1955年12月8日、チューリヒで亡くなる(70歳)

ワイルの主な業績をやさしく解説

業績1 対称性を「群」でとらえる

正方形を、中心のまわりに90度回したり、真ん中の線で折り返したりしても、形は元と重なります。このような「形を変えない動かし方」は、回す4通り、折り返す4通りの全部で8通りです。ワイルは、こうした動かし方の集まりを群という数学の対象としてとらえ、「動かし方を2回つづけてもやはり動かし方である」「元にもどす動かし方がある」といった性質で整理しました。この見方は、ガロアの群の考えにもさかのぼります。

正方形の対称=8通り 重なる動かし方回す:4通り(0°・90°・180°・270°)折り返す:4通り(たて・よこ・ななめ2)合計 8通り こうした動かし方の集まりを「群」とよぶ
正方形の対称。回転4通りと折り返し4通りの計8通りで、元と重なる

回転・平行移動・対称移動の公式は、中学・高校の図形の問題でおなじみです。これらを「動かし方の集まり」として全体で見ると、群になります。ワイルはこれを、雪の結晶や結晶の形、建物の模様、そして物理法則まで広げて語りました。

業績2 リー群の表現論とワイルの指標公式

回転のように「連続的に動かせる」対称性の集まりをリー群(ソフス・リーが研究を始めました)といいます。ワイルは1920年代、これらの群が行列として表される(表現)ようすを全部調べあげる理論を作りました。行列とはの固有値・固有ベクトルを使って、「どんな種類の表現があるか」「その次元(成分の数)はいくつか」を計算する公式がワイルの指標公式(次元公式)です。

この公式は、素粒子の世界にも出てきます。たとえば、原子の中の電子の回り方は、回転の群の表現で分類され、「状態の数が 2j+12j+1 個」になるといった結果が出ます。数学の対称性が、そのまま物理の分類表になるのです。ワイルの1928年の本『群論と量子力学』は、そのことを数学者の目で整理した最初の本のひとつです。

業績3 ワイル群(折り返しでできる群)

リー群を調べるときに出てくる有限個の対称性の集まりがワイル群です。いちばん小さい例は、平面に60度ずつはなれてならんだ6本の矢(根)と、その間にある3枚の鏡の組み合わせで、折り返しの組み合わせは6通りです。これは、正三角形を動かす6通りと同じ群になっています。

ワイル群のいちばん小さい例青=6本の矢赤=3枚の鏡鏡で折り返す動きは全部で6通り(正三角形の対称と同じ)
6本の矢と3枚の鏡。鏡での折り返しの組み合わせは6通り(A2型のワイル群)

種類によっては群はぐんと大きくなり、「E8(イーエイト)」とよばれるものでは動かし方が696,729,600通りもあります。ワイル群は、今でも表現論や幾何学、結晶の分類など、多くの分野で使われています。

業績4 一様分布定理(小数部分はまんべんなく散らばる)

実数 xx の小数部分を {x}\{x\} と書きます(たとえば {3.7}=0.7\{3.7\}=0.7)。ワイルが1916年に証明した一様分布定理は、「α\alpha が無理数のとき、{α},{2α},{3α},…\{\alpha\},\{2\alpha\},\{3\alpha\},\ldots は0から1の間にどの区間にも同じ割合で入る」という定理です。

n×√2 の小数部分をうってみる√2=1.41421356…01n=1n=2n=3n=4n=5n=6n=7n=8同じ場所にはもどらず、少しずつ区間をうめていく
√2の整数倍の小数部分を数直線にうつと、少しずつ0から1の間をうめていく

円周を1周の長さ1の円と考えると、「1回に α\alpha ずつ進む点」の位置が {nα}\{n\alpha\} です。α\alpha が 14\dfrac14 のような分数なら、同じ4か所をぐるぐる回るだけです。ところが α=2\alpha=\sqrt2 のような無理数だと、同じ場所に二度ともどらず、進むほど円周全体にまんべんなく広がります。

円周を回る点(一様分布のイメージ) 1/4ずつ進む→ 4か所だけ√2 ずつ進む(40回)→ まんべんなく
1/4ずつ進む点は4か所だけ。√2ずつ進む点は、40回で円周にほぼ一様にちらばる

ワイルは、この定理を「ワイルの判定条件」で示しました。数列 xnx_n がまんべんなく散らばることは、0でないすべての整数 kk について

1N∑n=1Ne2πikxn→0(N→∞)\frac1N\sum_{n=1}^{N}e^{2\pi i k x_n}\to 0\quad(N\to\infty)

が成り立つことと同じだ、という内容です。三角関数(円をぐるぐる回る波)の平均が0になることで、「かたよりがない」ことをとらえる考え方で、フーリエの三角級数の考え方ともつながっています。この方法は、整数論の「ワイルの和」の評価にも発展し、素数や整数の分布の研究に使われています。

業績5 リーマン面の理論と「膜の振動」のワイルの法則

リーマンが考えたリーマン面を、ワイルは1913年の本ではじめて厳密な形にまとめました。曲面をいくつかの座標の「切れはし」でおおってつなぐ、現代の多様体の考え方の先がけです。

もうひとつ、1911年のワイルの法則は、太鼓の膜のように、はしを固定した膜が出せる音(固有値)の個数を調べたものです。「大きな音(高い振動数)まで数えると、その個数は膜の面積に比例する」という結果で、これは、数式の意味を読みとく楽しみにも通じる「形から数が決まる」おもしろい例です。のちに、「太鼓の形は音から分かるか?」という有名な問いのもとになりました。

業績6 ゲージ理論の出発点と、物理学への貢献

1918年、ワイルは「重力と電磁気を、1つの幾何学(長さの基準そのものが場所によって変わる幾何学)でまとめられないか」と考えました。この考えは、「長さが変わると時計の進み方がちがって見えてしまう」とアインシュタインに指摘され、そのままの形では成功しませんでした。しかし、「基準を場所ごとに変えても、物理法則の形が変わらない」という発想は、1929年に電子の波(量子力学)の位相という形に直され、現代のゲージ理論の出発点になりました。電磁気の力、さらに素粒子の力は、すべてゲージ理論の言葉で書かれています。

また、質量のない粒子の波が満たす方程式(ワイル方程式、1929年)や、曲率のうち「形のゆがみ」だけをとり出したワイルテンソルにも名前が残っています。ワイルは「数学者でありながら、物理学の根っこの部分を数学で支えた人」でした。

ワイルの名前がつく公式・定理・用語

ワイルの名前がつく数学・物理の用語は、とても多くあります。受験で出会うことは少ないですが、大学や大学院で出会う用語をまとめました。

対称には3つの顔がある折り返し(鏡)回す(回転)ずらす(平行移動)「形を変えても変わらないもの」が対称
対称には、折り返す(鏡)・回す(回転)・ずらす(平行移動)の3つの顔がある
  • ワイルの一様分布定理:無理数の整数倍の小数部分は、0から1の間に一様に分布する(1916年)。→ 小数の意味と小数部分の考え方の発展です。
  • ワイル群・ワイルの指標公式(次元公式)・ワイルの部屋:リー群・リー環の表現論。→ 行列の対角化のやり方が基礎になります。
  • ワイルの法則:膜の固有値の個数が面積に比例する(1911年)。
  • ワイルテンソル・ワイル方程式・ワイル量子化:相対性理論・量子力学。
  • ワイルの判定条件:数列の一様分布を、三角関数の平均で調べる方法。
  • 「古典群」:行列でできる代表的な群(回転・ユニタリ行列など)。ワイルの1939年の本の題名で、そのままよび名になりました。
「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

「対称性」の勉強は、動かしても変わらないものをさがすことなんだ。線対称・点対称は、中学受験でもよく出る基本の考え方だよ。ここからワイルの世界まで、一本の道でつながっているんだね。

ワイルの逸話と名言

「真実」と「美」のどちらかを選ぶなら

ワイルは、数学や物理の理論の「美しさ」を大切にした人でした。物理学者フリーマン・ダイソンが書いた追悼文(1956年)によると、ワイルは冗談まじりに「私の仕事は、いつも真実と美を結びつけようとしてきた。でも、どちらかを選ばなければならないときには、たいてい美を選んだ」と語ったそうです。ダイソンは、これはワイルが「自然のおくに美しい調和がある」と信じていたことと、人間らしいユーモアの両方を表していると書いています。ただし、言葉づかいは紹介する本によって少しずつちがいます。

私の仕事は、いつも真実と美を結びつけようとしてきた。しかし、どちらかを選ばなければならないときには、たいてい美を選んだ。

ヘルマン・ワイル(物理学者ダイソンの追悼文で紹介された言葉)(訳。『Nature』1956年3月10日号(177巻458ページ)のダイソンの追悼記事が、ワイルの話した言葉として紹介したもの。ワイル本人が書いた文章ではなく、言いまわしは紹介する本によって少しずつちがいます)

「位相幾何の天使」と「抽象代数の悪魔」

もうひとつ有名なのが、1939年の論文『不変式(Invariants)』にあるとされる言葉です。

今日では、位相幾何の天使と抽象代数の悪魔が、数学のどの分野についても、その魂をめぐって争っている。

ヘルマン・ワイル(訳。1939年の論文「Invariants」(Duke Mathematical Journal 5巻)の書き出しの言葉として広く紹介される。英文は “In these days the angel of topology and the devil of abstract algebra fight for the soul of every individual mathematical domain.” とされ、紹介によって少し言いまわしがちがいます)

図形のしくみを見る「位相幾何」と、式の形式を整える「抽象代数」が、どちらも数学の中に入りこんでくるようすを、天使と悪魔にたとえた言葉です。天使と悪魔のどちらが良い悪いというより、20世紀の数学が「かたちを見る目」と「式を整える目」の両方で進んだことを、ユーモアをこめて語ったものと受けとられています。

エミー・ネーターの追悼演説

ワイルはゲッティンゲン時代から、女性数学者のエミー・ネーターの才能をよく知っていました。ネーターが1935年に亡くなったとき、ワイルは追悼の講演で、その業績と人がらをたたえました。ワイルは、ナチスの時代にともに逃れて新天地で活躍した仲間たちを、ずっと大切にしたと伝えられています。

数学と哲学:直観主義へのゆれ

ワイルは、数学の基礎についても深く考えました。1918年の『連続体(Das Kontinuum)』では、カントールの集合論を使わずに、実数の理論を作りなおそうとしました。一時期は、ブラウワーという数学者の「直観主義」(存在を示すには実際につくってみせなければならない、という立場)に共感し、師のヒルベルトと意見が合わないこともあったと伝えられます。数学とは何か、という問いを手放さない人でした。

サクラちゃん

サクラちゃん

真実より美を選ぶなんて、数学って「正しいこと」だけじゃないんですか?

合格先生

合格先生

いい質問だね。ワイルの言う「美しさ」は、無駄がなくて、全体がすっきりつながっていること。数学者は、そういう理論は結局、正しいことが多い、と経験から感じているんだ。ただし、最後は実験や証明で確かめる。「美」だけで決めるわけじゃないよ。

受験・勉強とワイルのつながり

中学受験:線対称・点対称、図形の移動

小学校の算数で習う線対称(折り返すと重なる)・点対称(180度回すと重なる)は、まさに「対称性」の入口です。中学受験の算数では、正方形・正六角形・ひし形などの対称の軸の数や、折り返して重なる部分の面積などがよく出ます。「何通りの動かし方で元の形に重なるか」を数える問題は、群の考え方そのものです。

高校受験:図形の移動・規則性・円と周期

中学の数学で習う平行移動・対称移動・回転移動は、まとめて合同変換とよばれます。高校入試でも、図形を動かして重ねる問題で、平行移動・回転・対称移動の公式の考え方を使います。また、時計の針や、円周を一定の速さで回る点の位置の問題は、ワイルの一様分布定理と同じ「ぐるぐる回る点」の発想の入口です。

大学受験:偶関数・奇関数、対称式、ガウス記号と小数部分

  • 偶関数・奇関数:f(−x)=f(x)f(-x)=f(x) のグラフは yy 軸に関して線対称、f(−x)=−f(x)f(-x)=-f(x) のグラフは原点に関して点対称です。積分では、∫−aa\displaystyle\int_{-a}^{a} の計算がとても楽になります。→ 偶関数・奇関数
  • 対称式:x+yx+y や xyxy のように、文字を入れかえても変わらない式。解と係数の関係に使います。
  • 整数部分と小数部分:2\sqrt2 の整数部分は1、小数部分は 2−1\sqrt2-1 です。n2n\sqrt2 の小数部分を調べる問題は、ワイルの定理の考え方に近い題材です。→ 平方根の整数部分と小数部分
  • 行列の固有値・対角化(大学の線形代数):表現論の基礎になります。→ 固有値と固有ベクトルの求め方

京大理系の数学でも、整数・図形・複素数などで「対称性を見つけてラクをする」考え方が、解き方の差を生みます。京大理系数学の出題分析(図形・整数・確率の出方)で、出題の傾向を確かめてみてください。

勉強法として:「変わらないもの」を見つける

ワイルの数学から学べる最大のことは、「動かしても変わらないものはなにか」を探すくせです。図形なら「重ねても変わらない部分」、式なら「文字を入れかえても変わらない形」、数列なら「ぐるぐる回っても変わらない割合」です。むずかしい問題ほど、対称性を見つけた瞬間に、計算がぐっと短くなります。勉強の進め方全体は数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)も参考にしてください。

ワイルがその後の数学にあたえた影響

  • ゲージ理論と素粒子論:電磁気・弱い力・強い力を、すべてゲージ対称性で書く現代の素粒子の標準模型の土台になりました。
  • 表現論:ワイルの指標公式は、のちのフォン・ノイマンらの群の研究や、ゲーデルと同じプリンストン高等研究所の数学者たちに受けつがれました。
  • 数論・解析:一様分布の考え方は、ハーディらのワイルの和の評価と合わさって、整数論の道具になりました。
  • 幾何学:リーマン面の本は、多様体と複素幾何学の教科書の原型になりました。
  • 数学の基礎と哲学:連続体や数学の基礎についての議論は、今も数学基礎論・数理哲学の原点のひとつです。

ワイルはまた、数学・物理・哲学の3つにまたがって本を書き、一般向けの『シンメトリー』でも「美しさと数学」をテーマにしました。専門家だけでなく、中高生にも読める数学の語り口の手本といわれます。

ワイルに挑戦!練習問題

やさしい

  1. 正方形を元の位置に重ねる動かし方(回す・折り返す)は全部で何通りありますか。
    答えと解説を見る回す動きが4通り(0°・90°・180°・270°)、折り返す動きが4通り(たて・よこ・ななめ2本)で、あわせて8通りです。
  2. 323\sqrt2 の小数部分を、2=1.4142⋯\sqrt2=1.4142\cdots を使って求めなさい。
    答えと解説を見る32=4.2426⋯3\sqrt2=4.2426\cdots なので、整数部分は4、小数部分は 32−43\sqrt2-4(約0.2426)です。

ふつう

  1. 正六角形を元の位置に重ねる動かし方は全部で何通りありますか。
    答えと解説を見る回す動きが6通り、折り返す動きが6通り(頂点どうしを結ぶ線3本と辺の中点どうしを結ぶ線3本)で、あわせて12通りです。(一般に正 nn 角形は 2n2n 通り)
  2. xnx_n を n2n\sqrt2 の小数部分とします。x1,x2,x3,x4x_1,x_2,x_3,x_4 を小さい順にならべなさい。
    答えと解説を見るx1=0.4142x_1=0.4142、x2=2.8284x_2=2.8284 の小数部分で 0.82840.8284、x3=4.2426x_3=4.2426 の小数部分で 0.24260.2426、x4=5.6569x_4=5.6569 の小数部分で 0.65690.6569。小さい順に x3,x1,x4,x2x_3,x_1,x_4,x_2(0.2426, 0.4142, 0.6569, 0.8284)です。

むずかしい

  1. 立方体を、回転だけで(折り返しは使わずに)元の位置に重ねる動かし方は何通りありますか。
    答えと解説を見るどの面を下にするかで6通り、そのうえで下の面を回して4通りあるので、6×4=6\times4=24通りです。
  2. α=13\alpha=\dfrac13 のとき、{nα}\{n\alpha\}(n=1,2,3,…n=1,2,3,\ldots)がとる値をすべて答えなさい。そのうえで、α\alpha が無理数のときとのちがいを答えなさい。
    答えと解説を見る{13}=13\{\tfrac13\}=\tfrac13、{23}=23\{\tfrac23\}=\tfrac23、{1}=0\{1\}=0 のくり返しで、0,13,230,\tfrac13,\tfrac23 の3つだけです。無理数なら同じ値が二度と出ず、0から1の間にまんべんなく広がります(ワイルの一様分布定理)。

ワイルと関係する数学者

数学の公式を1つずつ学ぶなら算数・数学の公式一覧(公式辞典)、数学で使う記号の意味は数学でよく使う記号の意味一覧、ギリシャ文字の読み方はギリシャ文字の読み方一覧(24文字)もどうぞ。

20世紀の数学者

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読みもの(合格大作戦の数学の記事)

よくある質問

ワイルは何をした人ですか?

ヘルマン・ワイルは、ドイツ生まれの数学者・理論物理学者です。対称性を群で表す理論、リー群の表現論、リーマン面の理論、ゲージ理論の出発点となった考え、小数部分の一様分布定理などの業績があり、20世紀前半を代表する数学者のひとりです。

ワイルはなぜ有名なのですか?

数学と物理学の両方で基本となる仕事をしたからです。対称性を群の言葉で整理したことで、のちの素粒子物理学(ゲージ理論)や表現論の土台を作りました。一般向けの本『シンメトリー』でも広く知られています。

ワイルの一様分布定理とは何ですか?

αが無理数のとき、αの整数倍 nα の小数部分 {nα} が、0から1の間のどの区間にも同じ割合で入るという定理です。1916年にワイルが証明しました。円周上を1回にαずつ進む点が、円周全体にまんべんなく散らばると考えると分かりやすくなります。

ワイル群とは何ですか?

リー群などの対称性を調べるときに出てくる、折り返しでできる有限個の動かし方の集まりです。いちばん小さい例は正三角形の対称と同じ6通りの群で、種類によっては動かし方が数億通りに増えます。表現論や幾何学で使われます。

ワイルの名言はありますか?

物理学者ダイソンの追悼文で、「真実と美を結びつけようとしてきたが、どちらかを選ぶときはたいてい美を選んだ」と語ったと紹介されています。また1939年の論文には「位相幾何の天使と抽象代数の悪魔が、数学の魂を争っている」という言葉があるとされます。

ワイルとヒルベルトの関係は?

ワイルはゲッティンゲン大学でヒルベルトに学び、博士号を取りました。1930年にはヒルベルトの後任として、同じゲッティンゲン大学の教授になっています。ただし数学の基礎については、一時期ワイルがブラウワーの直観主義に共感し、意見がちがったとも伝えられます。

ワイルとゲージ理論の関係は?

1918年にワイルは、長さの基準が場所ごとに変わっても法則が変わらないという考えを提案しました。この形は成功しませんでしたが、1929年に電子の波の位相の変換という形に改められ、現代のゲージ理論の出発点になりました。

ワイルは何歳で亡くなりましたか?どこの人ですか?

ワイルは1885年にドイツのエルムスホルンで生まれ、1955年12月8日にスイスのチューリヒで70歳で亡くなりました。1933年からはアメリカのプリンストン高等研究所で研究を続けました。

ワイルは受験に関係がありますか?

名前そのものは出ませんが、考え方はつながっています。中学受験の線対称・点対称、高校入試の図形の移動、大学入試の偶関数・奇関数・対称式、整数部分と小数部分の問題などは、すべて「変わらないもの」を探すワイルの対称性の入口です。

ワイルの『シンメトリー』とはどんな本ですか?

1952年に出版されたワイルの一般向けの本で、1951年のプリンストンでの連続講義がもとになっています。左右対称、回転対称、結晶や装飾の模様、自然の中の対称性などを、数学者の立場からていねいに語っていて、日本語訳も出ています。

あわせて読みたい

出典・参考

  • MacTutor History of Mathematics「Hermann Weyl」(セント・アンドルーズ大学)
  • Hermann Weyl, “Symmetry”, Princeton University Press(1952年)
  • Hermann Weyl, “Invariants”, Duke Mathematical Journal 5(1939年)
  • Freeman Dyson, “Obituary: Prof. Hermann Weyl, For. Mem. R. S.”, Nature 177, 458(1956年)
  • 肖像写真:ETH-Bibliothek所蔵、Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

最終更新:2026年11月2日/作成:大学受験合格大作戦