リー(ソフス・リー)は何をした人?業績・生涯・名言|リー群・リー環・連続変換群をわかりやすく

リー(ソフス・リー)は何をした人?業績・生涯・名言|リー群・リー環・連続変換群をわかりやすく

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リーSophus Lie

ひとことで言うと

円のように連続して動かせる対称性を調べるリー群・リー環の理論をつくった、ノルウェーの数学者。物理学や工学にも広く使われる。

名前ソフス・リー(Sophus Lie)
生没年1842年12月17日〜1899年2月18日(56歳)
国ノルウェー(ヌールフィヨルドエイデ生まれ、クリスチャニア=現オスロで没)
分野代数・幾何・微分方程式
主な業績連続変換群(リー群)の理論、リー環、接触変換、微分方程式の対称性による解法、『変換群の理論』全3巻(エンゲルとの共著、1888〜1893年)
名前がつくものリー群・リー環(リー代数)・リー括弧・リー微分・リーの定理
よばれ方連続群の理論の創始者、クラインの親友

このページのポイント

  • 円のように連続して動かせる対称性を、微分と結びつけて調べるリー群・リー環の理論をつくった
  • 回転行列や eiθe^{i\theta} は、リー群のいちばん身近な例。オイラーの公式はその入口
  • 若いころ、パリでスパイとまちがえられて逮捕された。親友のクラインとは、のちに仲たがいした

リー(ソフス・リー)は何をした人?(業績をひとことで)

ソフス・リー(1842〜1899年)は、ノルウェーの数学者です。「連続的な対称性」を数学で扱うための理論をつくり、リー群とリー環(リー代数)という大きな分野の出発点になりました。円を、どんな角度に回しても、円は円のままです。こうした「連続して動かせる対称性」を、微分や積分と結びつけて調べるのが、リーの理論です。

リーは、もともと微分方程式を、ガロアの方程式論のようにきれいに分類したいと考えていました。そこから、「連続変換群」という理論が生まれ、のちに「リー群」とよばれるようになりました。いまでは、数学だけでなく、素粒子物理学・量子力学・ロボット工学・コンピュータグラフィックスにまで使われています。

受験生にとってのリーは、「回転行列」「微分方程式」「eiθe^{i\theta}」の裏側にいる人です。高校数学では名前が出ませんが、大学で数学・物理を学ぶと、たいてい最初の1〜2年のうちに、リーの名前に出会います。

うかるくん

うかるくん

連続的な対称性、ですか? 対称性って、折りたたんだらぴったり重なる、あの対称のことですよね。

合格先生

合格先生

そう。正方形は、90°ずつ回すと重なるけれど、45°回したら重ならないよね。ところが円は、何度回しても重なる。この「何度でも」を、グラフや式で扱えるようにしたのがリーなんだ。回転のような「連続した動き」を、微分で調べるんだよ。

ソフス・リーの肖像写真
1896年ごろのソフス・リー(クリスチャニアの写真館 L. Szaciński の撮影)画像:撮影:L. Szaciński(1896年)/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

リーの生涯と年表

ノルウェーの小さな村に生まれて

リーは1842年12月17日、ノルウェー西部の小さな村ヌールフィヨルドエイデに生まれました。父は牧師だったと伝えられます。少年時代は、モスの町の学校で学び、1857年から首都クリスチャニア(いまのオスロ)の私立ラテン語学校に通いました。1865年にクリスチャニア大学を卒業しましたが、最初から数学者になるつもりだったわけではありません。天文学や植物学など、ほかの科学にも興味を持っていたようです。

大学を出たあとも、進路に迷っていました。ところが1867年ごろ、リーは幾何学の新しい考えを思いつき、友人のモツフェルトに、「見つけたぞ、まったく簡単なことだ!」と叫んだと伝えられます(のちに書く名言のところを見てください)。ここから、リーは数学者として歩きはじめます。

ベルリン、パリ、そしてクラインとの出会い

1869年、リーは国から奨学金をもらい、ドイツとフランスに留学します。ベルリンでクンマー・クロネッカー・ヴァイエルシュトラスの業績と生涯に会い、そこでクラインの業績と生涯と出会いました。2人はたちまち仲よくなり、翌1870年にはパリでいっしょに研究します。パリでは、ダルブーやジョルダンという数学者から、「群(ぐん)という考え方が、幾何学でとても大切だ」ということを教わりました。

1870年の夏、フランスとドイツ(プロイセン)の戦争が始まります。リーはフランスを出ようとしてフォンテンブローで、ドイツのスパイと疑われて逮捕されてしまいました。数学のノートを暗号の文書だと思われたためと伝えられます。ダルブーが助け出してくれました。牢屋に入っているあいだも数学の研究を楽しんだ、という話も伝えられていますが、確かな資料では確かめられていません。

連続変換群の理論と、クリスチャニア大学の教授

1872年、リーは博士号をとり、母国のクリスチャニア大学に、リーのために新しく作られた教授の席に着きました。1873〜74年の冬、リーは微分方程式の研究から、「連続的な変換の集まり」の理論に、大きく踏みこみます。のちに、これがリー群とよばれる分野になります。リーは同じ時期に、シロー(群論の「シローの定理」の人)と協力して、アーベルの業績と生涯の全集(1873〜1881年)の編集もしました。ただし、リー自身は「シローがほとんどやった」と、いつも語っていたといいます。

ライプツィヒ時代と、病気

1884年、クラインは弟子のエンゲルを、ノルウェーのリーのもとへ送りました。エンゲルの助けで、リーは1888〜1893年に、全3巻の大著『変換群の理論』を出版します。1886年には、クラインの後任としてライプツィヒ大学の教授になりましたが、故郷が恋しく、あまり幸せではなかったと伝えられます。1889年には、精神的に調子をくずしました。1892年ごろには、クラインとの長年の友情もこわれ、1893年に『変換群の理論』第3巻の序文で、クラインを公然と批判しました。

故郷へ帰り、亡くなるまで

1898年、リーは故郷のクリスチャニアに戻ります。特別に作られた席で、研究を続けました。ところが、翌1899年2月18日、悪性貧血のため、56歳で亡くなりました。リーが残した理論は、20世紀に入ってから、カルタンやワイルらの手で、数学の中心のひとつになります。

年できごと
1842年12月17日、ノルウェーのヌールフィヨルドエイデで生まれる
1865年クリスチャニア大学を卒業する
1867年幾何学の新しい着想を得て、「見つけたぞ」と叫ぶ
1869年留学。ベルリンでクラインと出会う
1870年パリで接触変換を発見。戦争で、フォンテンブローでスパイとして逮捕され、釈放
1872年博士号。クリスチャニア大学に新しい教授の席ができる
1873〜74年連続変換群(のちのリー群)の理論を本格的に作りはじめる
1884年クラインの弟子エンゲルが、リーのもとで共同研究を始める
1886年ライプツィヒ大学でクラインの後任の教授になる
1888〜1893年エンゲルと共著で『変換群の理論』全3巻を出版する
1895年英国ロイヤル・ソサエティの外国人会員に選ばれる
1898年クリスチャニアにもどる
1899年2月18日、クリスチャニアで亡くなる(56歳)

リーの主な業績をやさしく解説

業績1 連続的な対称性を数学にした(連続変換群)

図形の「対称性」は、ふつう「ある動かし方をしても、もとの図形に重なる」ことをいいます。正方形なら、90°・180°・270°回すと重なりますが、その間の角度では重なりません。これは「とびとび」の対称性です。ところが円は、どんな角度に回しても円に重なります。リーは、後者のような連続して動かせる対称性を、まとめて調べる理論を作りました。

とびとびの対称性と連続な対称性正方形重なる回転は4通り(90°ずつ・とびとび)円どんな角度でも重なる(連続な対称性)
正方形は4通り(とびとび)、円はどの角度でも(連続)。リーが調べたのは後者

ガロアの群論が調べたのは、主に「とびとびの対称性」でした(方程式の解の入れかえ)。リーは、これを微分方程式の世界へ広げようとしたのです。「微分方程式にも、ガロアの方程式論のような、きれいな分類の理論がほしい」――それがリーの出発点でした。

業績2 リー群とリー環(曲がったものを、まっすぐなもので調べる)

円の上の回転は、曲がった世界の話です。ところが、円のそばの1点(何もしない回転)にふれる接線は、まっすぐな直線です。リーは、「まっすぐな世界(接線)を調べれば、曲がった世界(群)のことが分かる」と気づきました。曲がった方がリー群、まっすぐな方がリー環(リー代数)です。

直線を円に巻きつける0(何もしない)直線(リー環)円(リー群)直線を円に巻く= exp(指数)
接線(まっすぐな直線)を円に巻きつけると、円の上の回転が得られる。これが指数写像

直線の目盛り θ\theta を、円の上の角度 θ\theta の回転に対応させる、この「巻きつけ」の操作を指数写像(exp)とよびます。じつは、オイラーの公式は、この円のリー群の、いちばん身近な例です。2次の回転行列では、次のように書けます。

exp⁡ ⁣(θ(0−110))=(cos⁡θ−sin⁡θsin⁡θcos⁡θ)\exp\!\left(\theta\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}\right)=\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\ \sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix}

左の行列 J=(0−110)J=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix} が「ほんのちょっとだけ回す」動き(無限小の回転)で、それに角度 θ\theta をかけて指数をとると、角度 θ\theta の回転になります。これは、マクローリン展開と、J2=−IJ^2=-I という性質から、証明できます(練習問題)。

業績3 リー括弧(動かす順番で結果が変わる量)

回転は、順番を変えると結果が変わることがあります。教科書を、「横に90°回してから縦に90°」と「縦に90°回してから横に90°」では、向きがちがう形になります(2次元の回転では順番は関係ありませんが、3次元ではちがいます)。リーは、この「順番による差」を、無限小のところで調べました。それがリー括弧(交換子)[X,Y]=XY−YX[X,Y]=XY-YX です。

たとえば、座標平面で、動き XX を「右に動かす」、動き YY を「x座標に比例して上へ動かす」とします。点(1,1)から、XX(右へ1)、YY(上へ)、XX(左へ1)、YY(下へ)の順に動かしても、もとの位置に戻りません(図)。上に1だけずれます。この「ずれ」が、[X,Y][X,Y] の正体です。

順番を変えると、結果がちがう1213スタート①②③④ずれ①Xで右へ1②Yで上へ③Xで左へ1④Yで下へ(量はxの値)元にもどらないずれ = [X,Y]
右・上・左・下の順に動かしても、もとにもどらず「ずれ」が残る。ずれがリー括弧

リー環は、「無限小の動き」の集まりに、この括弧 [ , ][\,,\,] をそえたものです。行列なら [A,B]=AB−BA[A,B]=AB-BA と書けます。もし、すべての動きが順番を変えても同じ結果(AB=BAAB=BA)なら、括弧は0で、リー環は「アーベル的」とよばれます。行列の対角化とA^nや行列の意味の知識が、そのまま使えます。

業績4 対称性で微分方程式を解く

リーは、微分方程式の解法を、「対称性」の考え方で整理しました。たとえば、微分方程式 y′=2yxy'=\dfrac{2y}{x} の解は、y=Cx2y=Cx^2(放物線の仲間)です。この方程式は、原点を中心にした拡大 (x,y)→(λx,λy)(x,y)\to(\lambda x,\lambda y) をしても、形が変わりません。解の曲線を拡大すると、別の解の曲線になるのです(図)。

拡大しても、解は解のままPP′y=0.5x²y=x²/3y=x²xy原点を中心に1.5倍:点Pは点P′へ、曲線は別の解へ
y=0.5x2y=0.5x^2 を1.5倍に拡大すると y=x2/3y=x^2/3(別の解)。拡大は方程式の対称性

方程式に対称性があるとき、その対称性にあわせた新しい変数をとると、方程式が簡単になります。高校〜大学で習う「同次形」の微分方程式の解き方(y=vxy=vx とおく)や、1階線形微分方程式の解法、2階定数係数線形微分方程式の解法といった、バラバラに見えた「うまいやり方」が、リーの理論でまとめて説明できます。「うまい変数のとり方」の背後には、対称性がある、というのがリーの主張です。

ただし、リーの方法は、すべての微分方程式を解く魔法ではありません。対称性が見つからない方程式は、リーの方法ではそのままでは解けません。また、現代では「対称性の理論」として、物理・工学の方程式の分析に広く使われています。

業績5 接触変換と、リー環の分類へ

リーは1870年のパリ滞在中に、接触変換とよばれる、特別な変換を見つけました。これは、点を点へ移すだけでなく、「曲線の接線の向き」までいっしょに移す変換です。力学や光学の方程式の整理に使われ、のちのハミルトンの力学の理論にも通じます。

リー自身は、リー環の分類を完成させませんでした。リーのあとに、ドイツのキリング(独立に研究)と、フランスのエリ・カルタンが、1900年ごろまでに、「単純」なリー環のすべてを分類しました。結果は、4つの無限の系列(A・B・C・D型)と、5つの例外型(G₂・F₄・E₆・E₇・E₈)という、驚くほどきれいなものでした。

リー環の分類表(キリング・カルタン)4つの無限の系列A型SU(n+1)B型SO(2n+1)C型Sp(2n)D型SO(2n)5つの例外(ほかに仲間がいない)G₂次元14F₄次元52E₆次元78E₇次元133E₈次元248すべての「単純」なリー環が、この9種類に入る
単純リー環は、4つの系列と5つの例外型に分類される(キリング・カルタン)

とくにE₈は次元が248もある、巨大な例外です。物理学では、E₈を素粒子の統一理論に使う試みもあります。リーが、微分方程式のために作った道具が、こうした世界へ広がったのです。

リーの名前がつく公式・定理・用語

  • リー群:連続的に動かせる対称性(変換)の集まり。回転の群 SO(2)・SO(3)、ユニタリ群 SU(2) などが代表例。
  • リー環(リー代数):リー群の「無限小の動き」の集まりに、括弧 [X,Y]=XY−YX[X,Y]=XY-YX をつけたもの。
  • リー括弧(交換子):2つの動きを順番を変えて行ったときの「ずれ」を表す量。
  • 指数写像(exp):リー環からリー群へ移す操作。行列なら eA=I+A+A22!+⋯e^A=I+A+\dfrac{A^2}{2!}+\cdots。
  • リー微分:ベクトル場にそって、量の変化を調べる微分。現代の幾何学・物理で使う。
  • リーの定理(可解リー環):可解リー環の表現に関する定理のひとつ。大学の代数学で習う。
  • 接触変換:曲線の接線の向きまでいっしょに移す変換(1870年ごろ)。

回転や対称移動は、回転・平行移動・対称移動の問題、対称移動の意味、線対称・点対称の意味で確かめられます。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

「リー」は、入試では回転行列・一次変換・微分方程式・eiθe^{i\theta}の裏側にいる人。回転を式で書けるようにしておけば、大学の数学もぐっと楽になるよ。

リーの逸話と名言

「見つけたぞ、とても簡単だ!」

1867年、リーは幾何学の問題を考えているうちに、突然、重要な考えがひらめいたといいます。友人のモツフェルトに、次のように言ったと記録されています。

見つけたぞ。まったく簡単なことだ!

ソフス・リー(1867年、友人モツフェルトへの言葉(MacTutor が伝える英訳 “I have found it, it is quite simple!” からの訳))

数学の大発見は、あとから見ると「簡単なこと」に見えるものです。そこに行きつくまでが大変なのです。リーは、その後30年間、この「簡単な考え」を、大きな理論に育てていきました。

スパイと間違えられた数学者

1870年、リーがフランスにいる間に、フランスとプロイセン(ドイツ)の戦争が始まってしまいました。フランスを出ようとしたリーは、フォンテンブローでドイツのスパイではないかと疑われて逮捕されます。カバンの中の数学の書き物が、暗号に見えたためだと伝えられます。パリで知り合った数学者ダルブーが、釈放のために動いてくれました。

友情と、すれちがい

リーとクラインは、若いころの親友でした。クラインのエルランゲン・プログラム(1872年)は、リーとの語り合いから影響を受けた、とされます。しかし、1892年ごろから、2人の関係は悪くなりました。1893年、リーは自分の本の序文で、次のようなことを書いています。

私はクラインの弟子ではないし、その反対でもない。ただし、反対の方が少し真実に近いかもしれないが。

ソフス・リー(『変換群の理論』第3巻の序文(1893年)。MacTutor が引用する英訳からの訳)

2人のうち、どちらが先に何を考えたかは、いまでも歴史家のあいだで議論されます。ただ、2人がたがいに大きな影響を与えあったことは、まちがいないでしょう。

微分方程式は、いちばん大切

リーの理論は、まさに微分方程式を整理したいという願いから生まれたものです。後年、ノルウェーの国は、リーと同じノルウェー出身の数学者アーベルの名を冠した、国際的な数学の賞を作りました(2003年から)。リーは、アーベル全集の編集者のひとりでもあり、ノルウェーの数学の誇りです。

サクラちゃん

サクラちゃん

リーさんは、とても長いあいだ、同じ理論に取り組んだんですね。飽きなかったのでしょうか。

合格先生

合格先生

飽きるどころか、理論が育つたびに、新しい問題が見つかったんだと思うよ。リーが蒔いた種は、カルタンやワイルが受けついで、物理学の世界にまで広がった。大きな理論は、たいてい、1人の人が一生かけて育てて、次の世代が仕上げるものなんだ。

受験・勉強とリーのつながり

高校数学:回転と一次変換

高校の数学では、リー群という言葉は出てきませんが、回転を表す行列、つまり回転行列 (cos⁡θ−sin⁡θsin⁡θcos⁡θ)\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\ \sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix} は、リーの「回転の群」そのものです。三角関数の加法定理は、「30°回してから60°回すと、90°回ったのと同じ」ということを、式にしたものです。つまり、回転の群の「かけ算」のルールです。極形式とド・モアブルの定理も、この回転の群の話です。

大学入試:複素数平面と eiθe^{i\theta}

複素数平面で、zz に eiθe^{i\theta} をかけると、原点を中心に角度 θ\theta 回転します。これは、「回転の群 U(1)」の作用です。複素数平面の意味や、虚数・複素数の意味と合わせて理解すると、回転の問題を、座標を使わずに解けます。虚数 i の書き方(斜体か立体か)も、複素数の記号の使い方の参考になります。

大学の数学・物理:リー群は「あちこちで出てくる」

大学では、線形代数の中で、「直交行列の群」「ユニタリ行列の群」などが出てきます。これらがリー群です。物理では、回転の群 SO(3) が、角運動量(回転の勢い)の理論になり、SU(2) が電子の「スピン」の理論になります。素粒子の標準理論は、SU(3)×SU(2)×U(1) というリー群が土台になっているとされます。固有値と固有ベクトルと行列式の計算と性質を、しっかり身につけておくと、大学での学びがとても楽になります。

勉強法として:うまい解き方の「理由」を探す

リーの考え方は、「うまく解ける問題には、理由(対称性)がある」というものです。解き方を丸暗記するだけでなく、「なぜその置き換えがうまくいくのか」と考える習慣をつけると、見たことのない問題にも対応しやすくなります。数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)と、数学でよく使う記号の意味一覧(Σ・∫・≡)もどうぞ。

リーがその後の数学にあたえた影響

  • リー群・リー環の理論:20世紀に、キリングとカルタンが分類を完成させ、ワイルが表現論を築きました。いまでは、数学のほぼすべての分野に登場します(ワイルの業績と生涯)。
  • 物理学:ネーターの定理(対称性があれば保存則がある)や、素粒子論の標準理論は、リー群の言葉で書かれています。
  • 幾何学:クラインのエルランゲン・プログラム(幾何学を変換の群で分類)は、リーとの交流から生まれたものでした。リー群は、その考えを大きく広げました。
  • ヒルベルトの第5問題:1900年にヒルベルトが出した23の問題のひとつは、リー群に関するものです(連続な群は、自動的に微分できる形になるか)。のちに、1950年代にグリーソン、モンゴメリー、ジッピンらが肯定的に解決したとされます(ヒルベルトの23の問題)。
  • 工学・コンピュータ:ロボットの腕の動き、3次元グラフィックスの回転、宇宙機の姿勢制御などに、リー群の考え方が使われています。

リー自身は、自分の理論が、100年後にこんなに広く使われると、どこまで予想していたのでしょうか。「連続な対称性」という考えは、いまも新しい分野を作り続けています。

リーに挑戦!練習問題

やさしい

  1. 正方形・正三角形・円のうち、重なる回転が、角度を連続して変えても(どんな角度でも)成り立つのはどれですか。また、正方形を自分に重ねる回転(0°もふくむ)は何通りですか。
    答えと解説を見る円です。正方形は 0°・90°・180°・270° の4通り、正三角形は 0°・120°・240° の3通りで、とびとびです。円はどんな角度でも重なります。
  2. 点(1, 0)を、原点を中心に反時計回りに30°回し、続けて60°回すと、どこに移りますか。
    答えと解説を見る30°と60°を続けると、合計90°の回転です。点(1, 0)は原点まわりに90°回って (0, 1) に移ります。回転の群では、「角度を足す」ことが「回転を続ける」ことにあたります。

ふつう

  1. 2つの行列 A=(0100)A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}、B=(0010)B=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix} について、リー括弧 [A,B]=AB−BA[A,B]=AB-BA を計算しなさい。
    答えと解説を見るAB=(1000)AB=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}、BA=(0001)BA=\begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix} なので、[A,B]=AB−BA=[A,B]=AB-BA= (100−1)\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix} です。AB≠BAAB\ne BA なので、この2つは順番で結果が変わります。
  2. 微分方程式 y′=2yxy'=\dfrac{2y}{x}(x>0x>0)の解 y=3x2y=3x^2 を、原点を中心に2倍に拡大すると、どんな曲線になりますか。また、それも同じ微分方程式の解になりますか。
    答えと解説を見る点 (x,y)(x,y) が (X,Y)=(2x,2y)(X,Y)=(2x,2y) に移ります。y=3x2y=3x^2 より Y2=3(X2)2\dfrac{Y}{2}=3\left(\dfrac{X}{2}\right)^2、よって Y=32X2Y=\dfrac{3}{2}X^2。これも y=Cx2y=Cx^2 の形なので、同じ微分方程式の解です(Y′=3X=2YXY'=3X=\dfrac{2Y}{X} で確かめられます)。

むずかしい

  1. J=(0−110)J=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix} とします。J2=−IJ^2=-I を示し、eθJ=I+θJ+θ2J22!+⋯e^{\theta J}=I+\theta J+\dfrac{\theta^2J^2}{2!}+\cdots が回転行列 (cos⁡θ−sin⁡θsin⁡θcos⁡θ)\begin{pmatrix}\cos\theta&-\sin\theta\\ \sin\theta&\cos\theta\end{pmatrix} になることを説明しなさい。
    答えと解説を見るJ2=(0−110)(0−110)=(−100−1)=−IJ^2=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1&0\\0&-1\end{pmatrix}=-I。すると J2k=(−1)kIJ^{2k}=(-1)^kI、J2k+1=(−1)kJJ^{2k+1}=(-1)^kJ。級数を偶数次と奇数次に分けると、eθJ=(1−θ22!+θ44!−⋯ )I+(θ−θ33!+⋯ )J=cos⁡θ I+sin⁡θ Je^{\theta J}=\left(1-\dfrac{\theta^2}{2!}+\dfrac{\theta^4}{4!}-\cdots\right)I+\left(\theta-\dfrac{\theta^3}{3!}+\cdots\right)J=\cos\theta\, I+\sin\theta\, J となり、回転行列に一致します。
  2. 平面の動き XX:(x,y)→(x+a, y)(x,y)\to(x+a,\,y)、YY:(x,y)→(x, y+bx)(x,y)\to(x,\,y+bx) を考えます。点(1, 1)から、XX(a=2a=2)、YY(b=1b=1)、XX(a=−2a=-2)、YY(b=−1b=-1)の順に動かしたとき、終点を求めなさい。
    答えと解説を見る①XX:(1,1)→(3,1)。②YY:(3,1)→(3, 1+1×3)=(3,4)。③XX(a=−2a=-2):(3,4)→(1,4)。④YY(b=−1b=-1):(1,4)→(1, 4−1×1)=(1, 3)。スタートの(1,1)にはもどらず、上に2だけずれます(ab=2ab=2)。このずれがリー括弧 [X,Y][X,Y] に対応します。

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よくある質問

リー(ソフス・リー)は何をした人ですか?

ソフス・リーは、19世紀のノルウェーの数学者です。連続的な対称性を調べるリー群とリー環の理論をつくりました。もとは微分方程式を、対称性で整理するための研究でした。現在は数学・物理学・工学のさまざまな分野で使われています。

リー群とは何ですか?

回転のように、連続して動かせる変換の集まりを、なめらかな空間として調べたものです。平面の回転の群 SO(2)、空間の回転の群 SO(3) などが代表例です。物理学では、素粒子の理論の土台にもなっています。

リー環(リー代数)とは何ですか?

リー群の、単位元(何もしない動き)の近くの「無限小の動き」の集まりに、リー括弧 [X,Y]=XY−YX をつけたものです。曲がったリー群を、まっすぐなリー環で調べることができます。

リー括弧とは何ですか?

2つの動きX、Yを、順番を変えて行ったときの差を表す量で、行列なら [A,B]=AB−BA と書きます。順番を変えても結果が同じなら0です。回転では3次元のとき0になりません。

リーの名言はありますか?

1867年に友人へ「見つけたぞ。まったく簡単なことだ」と叫んだ、と伝えられます。また、クラインとの関係について書いた序文の言葉が、伝記で紹介されます。本人の言葉として確かめられているのは、多くありません。

リーは何歳で亡くなりましたか?どこの国の人ですか?

リーは1842年にノルウェーの小さな村で生まれ、1899年2月18日にクリスチャニア(現在のオスロ)で、悪性貧血のため56歳で亡くなりました。

リーとクラインの関係は?

2人は1869年にベルリンで出会い、1870年にパリで共同研究をした親友でした。クラインのエルランゲン・プログラムは、リーとの交流から影響を受けたとされます。1892年ごろから関係が悪くなり、1893年にリーは序文でクラインを批判しました。

リーは中学受験・高校受験・大学受験に関係がありますか?

直接の出題はありませんが、回転行列・一次変換・複素数平面の回転・微分方程式の解法の裏側にあります。大学の数学・物理では、リー群が最初の1〜2年で出てきます。

リーの理論は何に使われていますか?

素粒子物理学(標準理論の土台)、量子力学(角運動量やスピン)、ロボットの動作計画、3次元グラフィックスの回転、宇宙機の姿勢制御などに使われています。

リー環の分類とは何ですか?

「単純」なリー環のすべてを、A・B・C・D型の4つの無限の系列と、G₂・F₄・E₆・E₇・E₈の5つの例外型に分けた結果です。キリングとカルタンが1900年ごろまでに完成させました。

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出典・参考

  • MacTutor History of Mathematics「Sophus Lie」(セント・アンドルーズ大学)
  • S. Lie, F. Engel『Theorie der Transformationsgruppen』(全3巻、1888〜1893年)
  • 肖像:L. Szaciński撮影「Portrett av Sophus Lie」(1896年)、Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

最終更新:2026年11月2日/作成:大学受験合格大作戦