ヤコビは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|ヤコビアン・楕円関数・ハミルトン・ヤコビ方程式

ヤコビは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|ヤコビアン・楕円関数・ハミルトン・ヤコビ方程式

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ヤコビCarl Jacobi

ひとことで言うと

積分の変数変換に使うヤコビアン、楕円関数、ハミルトン・ヤコビの方程式に名を残す、46歳で亡くなったドイツの数学者。

名前カール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ(Carl Gustav Jacob Jacobi)
生没年1804年12月10日〜1851年2月18日(46歳)
国ドイツ(プロイセン王国のポツダム生まれ、ベルリンで没)
分野解析学・楕円関数・整数論・解析力学
主な業績ヤコビの楕円関数・テータ関数(1829年)、ヤコビアンの理論(1841年)、ハミルトン・ヤコビの方程式、ヤコビ記号
名前がつくものヤコビアン・ヤコビ行列・ヤコビの楕円関数・ヤコビ記号・ヤコビの恒等式・ハミルトン・ヤコビ方程式・ヤコビ法
よばれ方楕円関数論の創始者のひとり、ケーニヒスベルクの教授

このページのポイント

  • 重積分の変数変換に使うヤコビアン(面積の拡大率)に名前が残る。極座標のヤコビアンは rr
  • 楕円関数(周期が2つある関数)をアーベルと並んで作り、整数論の四平方定理も細かく調べた
  • ハミルトン・ヤコビの方程式・ヤコビ記号・ヤコビ法など、名前のつく成果が数学・物理のあちこちにある

ヤコビは何をした人?(業績をひとことで)

カール・ヤコビ(1804〜1851年)は、ドイツの数学者です。フルネームはカール・グスタフ・ヤコブ・ヤコビ(Carl Gustav Jacob Jacobi)といいます。楕円関数(だえんかんすう)の理論を作りあげ、積分の変数変換に出てくるヤコビアン(ヤコビ行列式)に名前を残し、物理のハミルトン・ヤコビの方程式や、整数論のヤコビ記号、連立方程式を解くヤコビ法など、数学のあちこちに名前がついている人です。46歳の若さで亡くなりましたが、「ヤコビの名前を見ない数学の教科書はない」といわれるほど、多くの分野に足あとを残しました。

受験生にとってのヤコビは、まずヤコビアン(積分の変数変換)です。数学Ⅲの置換積分で dx=dxdtdtdx=\frac{dx}{dt}dt と書く、あの考え方を、2変数・3変数に広げたものがヤコビアンです。大学の重積分の計算では、極座標に直すと dx dy=r dr dθdx\,dy=r\,dr\,d\theta になりますが、この rr がヤコビアンです。

ヤコビは、ガウスの整数論と、アーベルが切りひらいた楕円関数を、いちばん美しい形に整えた数学者でもあります。同じ時代に、ディリクレ・ハミルトンとも深くかかわりました。

うかるくん

うかるくん

ヤコビアンって、なんだか難しそうな名前です……。

合格先生

合格先生

名前は難しそうでも、中身は「面積(体積)が何倍になるか」だけだよ。たとえばタテ・ヨコを2倍にすれば面積は4倍になるよね。変数を取りかえて積分するときも、「取りかえたぶん、面積が何倍に変わったか」を補正する必要がある。その倍率が、ヤコビアンなんだ。

カール・ヤコビの肖像(1843年)
1843年ごろのヤコビ(カゼロフスキによる肖像)画像:アウグスト・カゼロフスキ(1843年)/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

ヤコビの生涯と年表

ポツダムの銀行家の家に生まれる

ヤコビは1804年12月10日、プロイセン王国のポツダム(ベルリンの近く)で、ユダヤ系の裕福な銀行家の家に生まれました。父はジーモン・ヤコビ、兄のモーリッツは、のちに電気モーターの研究で知られる物理学者になります。生まれたときの名前は「ジャック・シモン」というフランス風のものでした。

12歳になる直前にポツダムのギムナジウム(中高一貫の学校)に入ると、すぐに先生たちを驚かせます。入学後は短い期間で上のクラスへ進み、数学の才能は学校の先生たちを驚かせたと伝えられています。オイラーの業績と生涯の著作を熱心に読んだともいわれます。

ベルリン大学からケーニヒスベルクへ

1821年に、16歳になるのを待ってベルリン大学に入学します。1825年ごろにはキリスト教に改宗しました。当時のプロイセンでは、ユダヤ教の人は大学の先生になりにくかったためです。1826年5月、ヤコビはケーニヒスベルク大学に移りました。この町には、天文学者のベッセルや、物理学者のノイマンがいました。

ケーニヒスベルクで、ヤコビはまたたく間に才能を発揮しました。1827年にはパリのルジャンドルへ手紙を書き、楕円関数の新しい結果を伝えます。1829年には、楕円関数の理論をまとめた『楕円関数の新しい基礎』(Fundamenta nova)を出版しました。年上のルジャンドルは、1828年2月の返事で、「あなたとアーベルのような2人の若い数学者がこの分野を育てていることは、大きな喜びだ」という趣旨のことを書いたと、MacTutor に紹介されています。

ケーニヒスベルクの教育者として

ヤコビは、1830年代なかばにノイマンとともに数学・物理のセミナー(ゼミ)を開いたとされます。大学で「先生が自分の最新の研究を教え、学生が自分で研究してみる」というスタイルは、ここから広まったといわれます。ヤコビのもとからは、ボルヒャルト、ハイネ、ヘッセ、リヒェロ、ローゼンハイン、ザイデルといった数学者が育ちました。1841年には、変数変換の行列式であるヤコビアンについて、長い論文『関数行列式について』を書きます。

病気とイタリア旅行

1843年、ヤコビは糖尿病と診断されます。友人のディリクレは、フンボルトの力をかりて、国王から旅行費用の援助を取りつけました。同じ年の11月、ヤコビはディリクレや、ボルヒャルト、シュレフリ、シュタイナーとともにローマに着きます。ここでヤコビは、バチカンにあるディオファントスの業績と生涯の『算術』の写本を調べたとされます。1844年6月にはベルリンへ移ります。

晩年と死

1848年の革命の時期、ヤコビは政治的な演説をしたことで、王党派からも共和派からも反発を受け、国から出ていた補助金を打ち切られてしまいました。1849年にウィーン大学から声がかかり、プロイセン当局が譲歩して、ベルリンで教え続けられるようになりました。1851年1月にインフルエンザにかかり、そのあと天然痘(てんねんとう)になって、2月18日にベルリンで46歳の若さで亡くなりました。

年できごと
1804年12月10日、プロイセンのポツダムで生まれる
1821年ベルリン大学に入学
1825年ベルリンで教える仕事につく。このころキリスト教に改宗
1826年ケーニヒスベルク大学に移る
1829年『楕円関数の新しい基礎』を出版
1831年マリー・シュヴィンクと結婚
1832年ケーニヒスベルク大学の正教授になる
1830年代ノイマンとともに数学・物理のセミナーを開く
1841年ヤコビアンについての論文『関数行列式について』
1843年糖尿病と診断される。ディリクレらとイタリアへ療養旅行
1844年ベルリンにもどる
1851年2月18日、ベルリンで天然痘のため亡くなる(46歳)

ヤコビの主な業績をやさしく解説

業績1 ヤコビアン(変数変換のものさし)

2つの変数 u, vu,\ v を、別の2つの変数 x, yx,\ y に取りかえる変換 x=x(u,v), y=y(u,v)x=x(u,v),\ y=y(u,v) を考えます。このとき、次の行列式をヤコビアン(ヤコビ行列式)といいます。

J=∂(x,y)∂(u,v)=∂x∂u⋅∂y∂v−∂x∂v⋅∂y∂uJ=\frac{\partial(x,y)}{\partial(u,v)}=\frac{\partial x}{\partial u}\cdot\frac{\partial y}{\partial v}-\frac{\partial x}{\partial v}\cdot\frac{\partial y}{\partial u}

ヤコビアンの絶対値は、「(u,v)(u,v) 平面の小さな面積が、(x,y)(x,y) 平面では何倍になるか」を表します。たとえば x=2u+v, y=u+3vx=2u+v,\ y=u+3v なら、J=2⋅3−1⋅1=5J=2\cdot3-1\cdot1=5。1辺1の正方形は、面積5の平行四辺形にうつります。

ヤコビアン=面積が何倍になるか面積 1面積 5(u, v) 平面(x, y) 平面変換拡大率 = |2×3 − 1×1| = 5
x=2u+v、y=u+3v で、一辺1の正方形は面積5の平行四辺形にうつる。ヤコビアンは5

この倍率を使うと、重積分の変数変換の公式が書けます。

∬Df(x,y) dx dy=∬D′f(x(u,v),y(u,v))∣J∣ du dv\iint_D f(x,y)\,dx\,dy=\iint_{D'} f\bigl(x(u,v),y(u,v)\bigr)|J|\,du\,dv

1変数の置換積分 ∫f(x) dx=∫f(x(t)) x′(t) dt\int f(x)\,dx=\int f(x(t))\,x'(t)\,dt の、ちょうど2変数版です。なお、この行列式は1815年にコーシーの業績と生涯が先に使っていましたが、1841年にヤコビが理論として本格的にまとめたため、のちにヤコビの名前でよばれるようになりました。

業績2 極座標とヤコビアン r

いちばん大切な例が、極座標です。x=rcos⁡θ, y=rsin⁡θx=r\cos\theta,\ y=r\sin\theta のとき、ヤコビアンは次のようになります。

∂(x,y)∂(r,θ)=cos⁡θ⋅rcos⁡θ−(−rsin⁡θ)sin⁡θ=rcos⁡2θ+rsin⁡2θ=r\frac{\partial(x,y)}{\partial(r,\theta)}=\cos\theta\cdot r\cos\theta-(-r\sin\theta)\sin\theta=r\cos^2\theta+r\sin^2\theta=r

だから dx dy=r dr dθdx\,dy=r\,dr\,d\theta となります。図のように、半径方向の長さ drdr と、円周方向の長さ r dθr\,d\theta をかけた小さな面積が、面積の要素 dAdA です。円・扇形・球の問題が、極座標を使うと一気に解けるのは、この rr のおかげです。

極座標の面積要素 dA = r dr dθdAr dθdrOθヤコビアンが r だから、積分に r がつく
極座標の面積要素:dA=r dr dθ。半径方向 dr と円周方向 r dθ のかけ算

業績3 楕円関数(ヤコビの楕円関数・テータ関数)

三角関数 sin⁡\sin は、円周の長さに関係します。実は、sin⁡\sin の逆関数は積分 u=∫0xdt1−t2\displaystyle u=\int_0^{x}\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}} で表せます。この積分の根号の中を少し変えた、次の積分を考えます。

u=∫0xdt1−t2 1−k2t2u=\int_0^{x}\frac{dt}{\sqrt{1-t^2}\,\sqrt{1-k^2t^2}}

これは、楕円の弧の長さの計算に出てくる楕円積分です。その逆関数がヤコビの楕円関数 sn u\mathrm{sn}\,u です。k=0k=0 なら ふつうの sin⁡u\sin u になり、kk が1に近づくと、グラフは四角っぽい波に変わります。

ヤコビの楕円関数 sn のグラフsnuk=0(sin のグラフ)k=0.95k=1 にとても近い
ヤコビの楕円関数 sn のグラフ。k が大きいほど、波は四角くなる

楕円関数には、サインのような周期が2つあるという不思議な性質(二重周期性)があります。ヤコビは、これをテータ関数という級数で組み立てる方法を見つけました。大きなふりこ(振れ幅の大きい振り子)の周期を正確に表す式にも、楕円積分が使われます。この理論は、ヤコビと同時期に、ノルウェーのアーベルが独立に進めていました。ヤコビはアーベルの論文を読んで、さらに先へ進んだといわれています。

業績4 ハミルトン・ヤコビの方程式と力学

ヤコビは、ハミルトンが作った力学をさらに進め、運動を1本の偏微分方程式で解く方法を見つけました。これがハミルトン・ヤコビの方程式です。エネルギー HH と作用 SS を使って、次のように書きます。

∂S∂t+H(q,∂S∂q,t)=0\frac{\partial S}{\partial t}+H\left(q,\frac{\partial S}{\partial q},t\right)=0

この方程式は、のちに量子力学(シュレーディンガー方程式)へつながる考え方の入り口になりました。また、ラグランジュの解析力学に続く力学の理論を完成させる仕事でもありました。変分法では、ヤコビの条件という判定法も残しています。

業績5 整数論と4つの平方数

ラグランジュは、「どんな自然数も、4つ以下の平方数の和で表せる」ことを証明しました(四平方定理)。ヤコビは、楕円関数(テータ関数)を使って、さらに細かく、何通りの表し方があるかを求める公式を示しました。n を4つの整数(負の数・0も含む、順序も区別)の2乗の和で表す方法の数を r4(n)r_4(n) とすると、次のようになります。

r4(n)=8∑d∣n, 4∤ddr_4(n)=8\sum_{d\mid n,\ 4\nmid d}d

dd は nn の約数のうち、4で割り切れないものです。たとえば n=6n=6 の約数は1・2・3・6の4つとも4で割り切れないので、r4(6)=8×(1+2+3+6)=96r_4(6)=8\times(1+2+3+6)=96 です。

4つの2乗の和で表す方法は何通り?81242323244485966647248n(4つの整数の2乗の和で表したい数)
nを4つの整数の2乗の和で表す方法の数(ヤコビの公式)

ヤコビは、ルジャンドルの記号を一般にしたヤコビ記号(1837年)も作りました。合同式の計算のあとに学ぶ、整数論の大切な道具です。

業績6 ヤコビ法(連立方程式と固有値の数値計算)

数値計算にも、ヤコビの名前がつく方法があります。たとえば連立方程式 4x−y=7, −x+3y=14x-y=7,\ -x+3y=1 を、x=7+y4, y=1+x3x=\frac{7+y}{4},\ y=\frac{1+x}{3} と書きかえ、右辺に、いまの値を入れて新しい値を作る、というくり返しをします。これがヤコビ法(1845年)です。(0,0)(0,0) から始めると、(1.75, 0.33)(1.75,\ 0.33)、(1.83, 0.92)(1.83,\ 0.92)、(1.98, 0.94)(1.98,\ 0.94)、……と、本当の解 (2,1)(2,1) に近づいていきます。

ヤコビ法:近づけて解く4x−y=7−x+3y=1①解 (2, 1)(0,0) から出発して、くり返すと (2,1) に近づく
連立方程式を、ヤコビ法のくり返しで解く。赤い点が少しずつ解 (2,1) に近づく

さらにヤコビは、1846年に、対称行列の固有値を、回転をくり返して求める方法も発表しています。いまのコンピュータでも使われる考え方です。固有値と固有ベクトルを学ぶと、この意味がよくわかります。

ヤコビの名前がつく公式・定理・用語

  • ヤコビアン(ヤコビ行列式・ヤコビ行列):変数変換での面積(体積)の拡大率。→ ヤコビアンと変数変換・確率変数の変換・行列式の計算。
  • ヤコビの楕円関数(sn・cn・dn):楕円積分の逆関数。周期が2つある。
  • テータ関数:楕円関数を組み立てる、ヤコビの級数。
  • ハミルトン・ヤコビの方程式:力学を偏微分方程式の形にしたもの。
  • ヤコビ記号:ルジャンドル記号を、一般の奇数に広げた整数論の記号。
  • ヤコビの恒等式:外積(ベクトル積)や交換子で成り立つ a×(b×c)+b×(c×a)+c×(a×b)=0a\times(b\times c)+b\times(c\times a)+c\times(a\times b)=0。リー代数の基本になる。
  • ヤコビ法:連立方程式を反復で解く方法、固有値を回転で求める方法。
  • ヤコビの条件:変分法で、停留する曲線が最小になるかどうかを調べる条件。
「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

「ヤコビ」は、入試ではヤコビアン(面積の拡大率)が最重要。極座標で dx dy=r dr dθdx\,dy=r\,dr\,d\theta になる理由を、ちゃんと説明できるようにしよう。

ヤコビの逸話と名言

「人間の精神の名誉」

ヤコビの名言として最も有名なのは、1830年7月2日にルジャンドルへ送った手紙の一節です。フランスの大物フーリエが「数学の主な目的は公共の役に立つことと、自然現象の説明だ」と考えていた、とヤコビは述べたうえで、それに反論しました。ここは、フランス語の手紙の一節を訳したものです(訳し方には資料によるちがいがあります)。

科学のただひとつの目的は、人間の精神の名誉である。その点では、数についての問題も、宇宙のしくみについての問題も、同じ値打ちをもつ。

ヤコビ(1830年7月2日、ルジャンドルへの手紙の一節(フランス語からの訳))

「役に立つ数学」だけでなく、「役に立たなくても美しい数学」を愛する姿勢が表れた言葉です。実際、ヤコビが愛した整数論や楕円関数は、のちに暗号や物理学などで大きな役に立ちました。

「逆に考えなさい、いつも逆に」

ヤコビは、問題に行きづまったとき、「Man muss immer umkehren(人はいつも逆にしなければならない)」と言ったと伝えられています。楕円積分をそのまま調べるより、その逆関数(楕円関数)を考えたほうが、はるかにきれいな理論になる、という自分の発見からきた考え方だといわれます。ただし、この言葉が本人の言葉だと確かめられた資料は、今回は見つかっていません。「諸説あり」の名言です。

教室でのヤコビ

ヤコビは、講義のうまい先生として有名でした。教科書どおりに教えるのではなく、自分がいま研究している最先端の内容を、そのまま学生に語りました。わからない学生にも、「自分で考えてごらん」と問題を投げかけたと伝えられています。ケーニヒスベルクのゼミからは、のちに大学教授になる弟子が何人も育ちました。「先生が自分の発見を語り、学生がそれを追いかける」というスタイルは、いまの大学院の授業とほとんど同じです。受験勉強でも、解説を読むだけでなく、自分で「次はどうなる?」と先を予想してから読むと、力がつきます。

オイラーとの共通点

ヤコビは、とくにオイラーを深く尊敬し、その著作を熱心に研究したと伝えられています。数学史家のスクリバは、『科学人名辞典』の中で、ヤコビとオイラーは数学の作り方が似た「同類の精神」だと評しています。とにかく計算が速く、手を動かしながら新しい発見をつくりあげていくところがそっくり、ということです。

サクラちゃん

サクラちゃん

「役に立たなくてもいい」って、受験勉強の中でも言えますか?

合格先生

合格先生

すぐ役に立たない勉強も、じつはあとで大きな力になるんだよ。ヤコビが夢中になった楕円関数は、のちにフェルマーの最終定理の証明や、ネット通信の暗号にもつながった。今は意味がわからない勉強が、数年後に役立つことは、受験でもよくあるんだ。

受験・勉強とヤコビのつながり

高校数学Ⅲ:置換積分は、ヤコビアンの1変数版

数学Ⅲの置換積分では、x=g(t)x=g(t) とおいて dx=g′(t) dtdx=g'(t)\,dt と書きかえます。この g′(t)g'(t) が、1変数のヤコビアンです。区間の長さが g′(t)g'(t) 倍になる、ということです。置換積分の公式を使いこなすコツは、「長さの倍率をかけ忘れない」ことだと考えると、まちがいが減ります。

大学入試・大学院入試:重積分と極座標

難関大の入試では、面積・体積を求めるのに、「x=rcos⁡θ, y=rsin⁡θx=r\cos\theta,\ y=r\sin\theta とおく」という変換が出てきます。極座標の使い方と、重積分の計算を合わせて、ヤコビアン rr を忘れずに書く習慣をつけましょう。大学の1年生や、大学院入試では、一般の変数変換のヤコビアンを計算する問題が頻出です。

確率・統計:確率変数の変換

確率変数 XX を別の変数に変換するときに、確率密度関数に、逆変換のヤコビアンの絶対値がかかります。確率変数の変換が、そのまま使えます。正規分布の積分 ∫−∞∞e−x2dx=π\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi} も、極座標とヤコビアンを使えば導けます(練習問題)。

勉強法として:逆から考えると近道が見える

ヤコビの「逆に考える」姿勢は、受験数学でも役に立ちます。たとえば、「何通りあるか」を直接数えにくいとき、全体から「あてはまらないもの」を引く。「何かを求める」問題で、答えから条件をさかのぼる。ヤコビの考え方は、数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)の「解法を理解して使う」ところにもつながります。公式の覚え方は、算数・数学の公式一覧(公式辞典)も参考にしてください。

ヤコビがその後の数学にあたえた影響

  • 微分積分学(解析学):ヤコビアンは、多変数の微分積分・微分幾何学・確率論で必ず登場する基本の道具になりました。逆関数定理・陰関数定理にもヤコビアンが出てきます。
  • 楕円関数から楕円曲線へ:ヤコビたちの楕円関数の研究は、楕円曲線という現代整数論の中心的な対象へ発展しました。フェルマーの最終定理を証明したワイルズの仕事も、楕円曲線を使います(フェルマーの最終定理とは?わかりやすく解説)。スマートフォンなどで使う楕円曲線暗号にも関係します。
  • 物理学:ハミルトン・ヤコビの方程式は、解析力学の中心的な方程式になり、量子力学・天体の軌道計算・光学へ広がりました。
  • 代数学:ヤコビの恒等式は、リー代数という現代代数の基本の性質で、リーの業績と生涯の仕事につながります。
  • 数値計算:ヤコビ法は、コンピュータで連立方程式や固有値を解く標準的な方法の祖先です。
  • 大学教育:ヤコビとノイマンのセミナーは、「研究と教育を一体にする」現代の大学のゼミのモデルになりました。

ヤコビは46歳で亡くなりましたが、残した論文は膨大で、全集は何巻にもなります。ヤコビの名を冠する定理・公式・記号・方程式の数は、数学者のなかでもトップクラスです。

ヤコビに挑戦!練習問題

やさしい

  1. 変換 x=2u, y=3vx=2u,\ y=3v のヤコビアン ∂(x,y)∂(u,v)\dfrac{\partial(x,y)}{\partial(u,v)} を求めなさい。
    答えと解説を見る2⋅3−0⋅0=62\cdot3-0\cdot0=\mathbf{6} です。タテヨコを2倍・3倍にするので、面積が6倍になる、と考えても同じです。
  2. 変換 x=u+v, y=u−vx=u+v,\ y=u-v のヤコビアンの絶対値を求めなさい。
    答えと解説を見る∂x∂u=1, ∂x∂v=1, ∂y∂u=1, ∂y∂v=−1\dfrac{\partial x}{\partial u}=1,\ \dfrac{\partial x}{\partial v}=1,\ \dfrac{\partial y}{\partial u}=1,\ \dfrac{\partial y}{\partial v}=-1 なので、1⋅(−1)−1⋅1=−21\cdot(-1)-1\cdot1=-2。絶対値は 2 です。面積が2倍になります。

ふつう

  1. 極座標 x=rcos⁡θ, y=rsin⁡θx=r\cos\theta,\ y=r\sin\theta のヤコビアン ∂(x,y)∂(r,θ)\dfrac{\partial(x,y)}{\partial(r,\theta)} を求めなさい。
    答えと解説を見るcos⁡θ⋅rcos⁡θ−(−rsin⁡θ)sin⁡θ=rcos⁡2θ+rsin⁡2θ=r\cos\theta\cdot r\cos\theta-(-r\sin\theta)\sin\theta=r\cos^2\theta+r\sin^2\theta=\mathbf{r} です。
  2. 円板 D: x2+y2≤4D:\ x^2+y^2\le4 について、重積分 ∬D(x2+y2) dx dy\displaystyle\iint_D(x^2+y^2)\,dx\,dy を求めなさい。
    答えと解説を見る極座標に直すと、0≤r≤2, 0≤θ≤2π0\le r\le2,\ 0\le\theta\le2\pi で、∫02π ⁣ ⁣∫02r2⋅r dr dθ=2π⋅244=8π\displaystyle\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^2 r^2\cdot r\,dr\,d\theta=2\pi\cdot\frac{2^4}{4}=\mathbf{8\pi} です。

むずかしい

  1. I=∫−∞∞e−x2dxI=\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx について、I2=∬R2e−(x2+y2) dx dyI^2=\displaystyle\iint_{\mathbb{R}^2}e^{-(x^2+y^2)}\,dx\,dy を極座標で計算して、II を求めなさい。
    答えと解説を見る極座標に直すと I2=∫02π ⁣ ⁣∫0∞e−r2 r dr dθ=2π⋅[−12e−r2]0∞=2π⋅12=πI^2=\displaystyle\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{\infty}e^{-r^2}\,r\,dr\,d\theta=2\pi\cdot\left[-\frac12e^{-r^2}\right]_0^{\infty}=2\pi\cdot\frac12=\pi。I>0I>0 なので I=πI=\sqrt{\pi} です。ヤコビアン rr がなければ、この計算はできません。
  2. ヤコビの公式 r4(n)=8∑d∣n, 4∤ddr_4(n)=8\displaystyle\sum_{d\mid n,\,4\nmid d}d を使って、n=6n=6 を4つの整数(負・0もよい、順序を区別)の2乗の和で表す方法の数を求め、実際に数えて確かめなさい。
    答えと解説を見る66 の約数 1,2,3,61,2,3,6 はどれも4で割り切れないので r4(6)=8×12=96r_4(6)=8\times12=\mathbf{96}。数えると、6=22+12+12+026=2^2+1^2+1^2+0^2 だけが並べ方です。「2」の位置が4通り、「0」の位置が残り3通りで12通り、0以外の3つの数にそれぞれ ± が選べて 23=82^3=8 なので、12×8=9612\times8=96 通りで一致します。

ヤコビと関係する数学者

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19世紀の数学者

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読みもの(合格大作戦の数学の記事)

よくある質問

ヤコビは何をした人ですか?

ヤコビは、19世紀前半のドイツの数学者です。楕円関数の理論をアーベルと並んで作り、積分の変数変換に使うヤコビアン、物理のハミルトン・ヤコビの方程式、整数論のヤコビ記号など、多くの分野に名前を残しました。

ヤコビアンとは何ですか?

変数を取りかえる変換 (u,v)→(x,y) で、小さな面積が何倍になるかを表す行列式です。ヤコビ行列式ともいい、重積分の変数変換の公式に絶対値をつけてかけます。極座標のヤコビアンは r です。

ヤコビアンは何に使いますか?

重積分の変数変換(極座標などへの置きかえ)、確率変数の変換、逆関数定理などに使います。大学の微分積分や確率論、大学院入試でもよく出てきます。

楕円関数とは何ですか?

楕円の弧の長さに出てくる楕円積分の逆関数で、周期が2つあるのが特徴です。ヤコビとアーベルが作った理論で、のちに楕円曲線・暗号・フェルマーの最終定理の証明にもつながりました。

ヤコビの名言はありますか?

1830年にルジャンドルへ送った手紙で、科学のただひとつの目的は人間の精神の名誉であり、その点で数の問題も宇宙の問題も同じ値打ちをもつ、という趣旨のことを述べたと伝えられています。

ヤコビは何歳で亡くなりましたか?

1851年2月18日に、ベルリンで46歳で亡くなりました。インフルエンザのあと天然痘にかかったのが死因です。1843年からは糖尿病で苦しんでいました。

ヤコビとディリクレの関係は?

2人は親友で、同じ時代のドイツを代表する数学者でした。ヤコビが糖尿病になったとき、ディリクレはフンボルトの力を借りて、国王からイタリア療養旅行の援助を取りつけ、いっしょにローマへ旅しました。

ヤコビは中学受験・高校受験・大学受験に関係がありますか?

高校数学Ⅲの置換積分は、ヤコビアンの1変数版です。大学入試・大学院入試では、極座標への変換とヤコビアンr を使う重積分の問題が出ます。中学受験・高校受験で直接出ることはほとんどありません。

ハミルトン・ヤコビの方程式とは何ですか?

物体の運動を、作用 S についての1本の偏微分方程式で表したものです。ハミルトンが作った力学をヤコビが発展させました。のちに量子力学の考え方につながりました。

ヤコビ記号やヤコビ法とは何ですか?

ヤコビ記号は、整数論のルジャンドル記号を一般の奇数に広げた記号です。ヤコビ法は、連立方程式を少しずつ近づけて解く反復法と、行列の固有値を回転で求める方法の2つがあり、数値計算の基礎になっています。

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出典・参考

  • MacTutor History of Mathematics「Carl Jacobi」(セント・アンドルーズ大学)
  • C. G. J. Jacobi, “Fundamenta nova theoriae functionum ellipticarum”(1829年)
  • 肖像:A. Kaselowsky「Carl Gustav Jacob Jacobi」(1843年)、Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

最終更新:2026年11月2日/作成:大学受験合格大作戦