ハミルトンは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|四元数・ハミルトン閉路・ケーリー・ハミルトンの定理

ハミルトンは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|四元数・ハミルトン閉路・ケーリー・ハミルトンの定理

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ハミルトンWilliam Rowan Hamilton

ひとことで言うと

橋の上でひらめいた四元数で「かける順番で答えが変わる数」を作った、アイルランドの天才。ハミルトン閉路やケーリー・ハミルトンの定理にも名が残る。

名前ウィリアム・ローワン・ハミルトン(William Rowan Hamilton)
生没年1805年8月4日〜1865年9月2日(60歳)
国アイルランド(ダブリン生まれ、ダブリンで活躍)
分野代数・力学・光学・天文学
主な業績四元数の発見(1843年)、ハミルトン力学、円錐屈折の予言、アイコシアン・ゲーム(ハミルトン閉路)
名前がつくもの四元数(ハミルトン数)・ケーリー・ハミルトンの定理・ハミルトン閉路・ハミルトニアン・ハミルトンの正準方程式
よばれ方アイルランド王室天文学者、サー・ウィリアム・ハミルトン

このページのポイント

  • 1843年10月16日、ブルーム橋で四元数 i2=j2=k2=ijk=−1i^2=j^2=k^2=ijk=-1 をひらめいた。かける順番で答えが変わる数をはじめて作った
  • 大学入試のケーリー・ハミルトンの定理、グラフのハミルトン閉路、物理のハミルトニアンの3つに名前が残っている
  • 四元数は、いまも3Dゲーム・ロボット・人工衛星の回転の計算に使われている

ハミルトンは何をした人?(業績をひとことで)

ウィリアム・ローワン・ハミルトン(1805〜1865年)は、アイルランドの数学者・物理学者・天文学者です。複素数をさらに広げた四元数(しげんすう)を発見し、力学を新しい形で書きあらわすハミルトン力学(ハミルトンの方程式)を作り、グラフ理論のハミルトン閉路(すべての点をちょうど1回通る道)の名前のもとにもなりました。さらに、大学入試でおなじみのケーリー・ハミルトンの定理にも、名前が残っています。

ハミルトンといえば、まず有名なのが1843年10月16日の出来事です。ダブリンの運河ぞいの橋(ブルーム橋)を散歩していたとき、四元数のかけ算の規則がとつぜんひらめき、その場で橋の石に式をきざんだと伝えられています。橋には今も記念の銘板(めいばん)があります。受験生にとってのハミルトンは、ケーリー・ハミルトンの定理の公式と使い方の「ハミルトン」であり、行列とは何かの勉強で出会う人物です。複素数平面とはやベクトルとは、内積の意味と計算といった道具の「ご先祖様」にあたる人でもあります。

うかるくん

うかるくん

ひらめいたことを橋にきざんだんですか! ノートに書けばいいのに……。

合格先生

合格先生

ポケットの手帳にもすぐ書きとめた、とハミルトン自身が手紙に書いているよ。それでも足りず、橋の石にまで刻みたくなった。それくらい「いま書きとめないと消えてしまう」ほど大きなひらめきだったんだね。ハミルトンは小さいころから言葉も計算もずばぬけていて、「天才少年」として有名だったんだ。

ウィリアム・ローワン・ハミルトンの肖像画
19世紀なかごろのハミルトン(作者不明の肖像画)画像:作者不明(19世紀なかごろ)/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

ハミルトンの生涯と年表

ダブリン生まれの天才少年

ハミルトンは1805年8月4日、アイルランドの首都ダブリンで生まれました。小さいころから記憶力と語学の才能がずばぬけていて、おじさんの手で古典語を教えられたといわれます。「13歳までに13もの言語を学んだ」という話がよく紹介されますが、これは後世の伝記で広まったもので、どこまでを「学んだ」と数えるかによって数字は変わります。確かなのは、ラテン語・ギリシャ語・ヘブライ語などの古典語に早くから親しみ、10代前半にはすでに神童(しんどう)として知られていたことです。

数学のおもしろさに目覚めたのは10代の中ごろで、ニュートンの業績と生涯の『プリンキピア』やラプラスの天体力学の本を読みふけりました。18歳で名門のダブリン大学トリニティ・カレッジに入ると、古典学と科学の両方で最高の成績をおさめました。

21歳で「アイルランド王室天文学者」に

ハミルトンの人生で大きな出来事のひとつは、1827年、まだ学生の21歳のときにトリニティ・カレッジの天文学教授に選ばれたことです。この地位は「アイルランド王室天文学者」の肩書きとダンシンク天文台の住まいがつくものでした。観測の経験がとぼしいのにえらばれたことには批判もありました。実際ハミルトンは観測よりも、数学と理論物理の研究に力を注ぎました。

光の予言と力学の新しい形

1832年、ハミルトンは光が結晶を通るときの数学的な研究から、円錐屈折(えんすいくっせつ)という、それまでだれも知らなかった現象があるはずだと予言しました。友人のロイドが実験でこれを確かめ、ハミルトンは一気に有名になりました。1834〜35年には、光の研究で使った方法を力学に応用して、ハミルトン力学の土台を作ります。1835年にはナイト(騎士)の称号を受けました。

四元数の発見(1843年)

1830年代のハミルトンは、複素数を「実数の組 (a, b)」として厳密に作る研究をしていました。複素数が平面の点なら、空間の点(3つの数の組)を表すもっと大きな数があるはずだ――そう考えて、10年以上も3つ組のかけ算を探しつづけます。朝食のたびに息子さんから「パパ、3つ組をかけられるようになった?」と聞かれ、「いや、足したり引いたりはできるが、かけ算はまだだ」と答えていたという話が、のちの手紙に残っています。

答えは意外なところにありました。3つ組ではなく4つ組にすれば、かけ算の規則ができる。そして、そのかけ算ではかける順番を変えると答えが変わる(交換法則が成り立たない)。この大発見が、1843年10月16日の散歩の途中に起こりました。亡くなる年の1865年、ハミルトンは息子への手紙の中で、この瞬間を「電気の回路が閉じて、火花がとんだようだった」という意味の言葉で思い出しています。

アイコシアン・ゲームと晩年

1857年ごろ、ハミルトンは正十二面体の20個の頂点を一周するアイコシアン・ゲームを考え出し、おもちゃとして売り出しました。これが、現代のグラフ理論のハミルトン閉路の名前のもとです。晩年のハミルトンは四元数の研究に全力を注ぎ、その集大成の大著『四元数原論』を完成しないまま、1865年9月2日にダブリンで亡くなりました(60歳)。亡くなる少し前に、アメリカ科学アカデミーの外国人会員の第1号に選ばれたことを知ったと伝えられています。

年できごと
1805年8月4日、アイルランドのダブリンで生まれる
1823年18歳でダブリン大学トリニティ・カレッジに入学
1827年21歳で天文学教授・アイルランド王室天文学者になる
1832年円錐屈折(光の新しい現象)を予言し、ロイドが実験で確かめる
1834〜35年力学を新しい形で表す(ハミルトン力学の出発点)
1835年ナイト(騎士)の称号を受ける
1837年複素数を「実数の組」として作る研究を発表
1843年10月16日、ブルーム橋で四元数のかけ算を発見
1857年アイコシアン・ゲーム(ハミルトン閉路)を考える
1865年9月2日、ダブリンで亡くなる(60歳)

ハミルトンの主な業績をやさしく解説

業績1 四元数の発見

虚数 i と複素数は a+bia+bi という形で、実数 a,ba,b の2つ組でした。ハミルトンは、ii のほかに j,kj,k という新しい記号を用意して、4つ組の数を作りました。

q=a+bi+cj+dkq=a+bi+cj+dk

かけ算の規則は、ハミルトンがブルーム橋でひらめいた次の式ですべてきまります。

i2=j2=k2=ijk=−1i^2=j^2=k^2=ijk=-1

ここから ij=kij=k、jk=ijk=i、ki=jki=j が出てきます。そして、順番を逆にすると ji=−kji=-k のようにマイナスがつきます。つまり、四元数では ab=baab=ba が成り立ちません。「かけ算の順番で答えが変わる」数を、数学者ははじめて本格的に作ったのです。

四元数の i・j・k のかけ算ijk矢印の向き(→)にかけるi×j=kj×k=ik×i=j逆向きは−がつくj×i=−ki²=j²=k²=ijk=−1
i→j→k→i の向きにかけると次の文字。逆向きにかけるとマイナスがつく
四元数のかけ算表(行×列)11iijjkk1ijki−1k−jj−k−1ikj−i−1行×列。ij=k だが ji=−k(順番で答えが変わる)
1・i・j・k のかけ算表。ij=k だが ji=−k になる

複素数の計算までは、かけ算の順番を変えても答えは同じでした。四元数でそれが変わると知ったとき、数学者たちは大きな衝撃を受けました。「数のかけ算はこうでなければならない」という思いこみがくずれ、代数(記号とその規則を調べる数学)がずっと自由になったからです。

数の世界の広がり実数1次元(数直線)aab=ba が成り立つ ○↓複素数2次元(平面)a+biab=ba が成り立つ ○↓四元数4次元a+bi+cj+dkab=ba が成り立たない ×
実数(1次元)→複素数(2次元)→四元数(4次元)。四元数では ab=ba が成り立たない

業績2 四元数と空間の回転

四元数の大きな使い道が、3次元の回転です。長さ1の四元数(単位四元数)は、空間の「軸のまわりの回転」をあらわします。軸の向きを表す単位ベクトルを nn、回す角度を θ\theta とすると、

q=cos⁡θ2+nsin⁡θ2q=\cos\frac{\theta}{2}+n\sin\frac{\theta}{2}

という四元数が、その回転に対応します。この方法は、3Dゲーム・映画のCG・ロボット・人工衛星の姿勢制御などで、いまも毎日のように使われています。複数の回転をつづけておこなうとき、四元数のかけ算が回転を合成する計算になるからです。

四元数で空間の回転を表すn(軸)θ回すq = cos(θ/2) + n sin(θ/2)
軸 n のまわりに θ だけ回す回転が、単位四元数 cos(θ/2)+n sin(θ/2) で表される

19世紀の終わりには、四元数の「ベクトルの部分」だけを取り出した、もっとかんたんなベクトル解析(ギブスとヘヴィサイド)が物理学では主流になりました。いま高校で習うベクトル・内積の意味と計算は、四元数のかけ算をほどいて作られたものといえます。四元数が一度ほとんど使われなくなってから、20世紀の終わりごろにコンピュータの発達で「回転の計算にぴったり」と見直された、というのも数学史のおもしろい話です。

業績3 ハミルトン閉路(アイコシアン・ゲーム)

ハミルトンが1857年ごろに考えたアイコシアン・ゲームは、正十二面体の20個の頂点をちょうど1回ずつ通って、出発点にもどる道を見つける遊びです。ふつうの地図にひらいて、点と辺の図(グラフ)にすると、図のように解けます。

ハミルトン閉路(正十二面体)赤い道=20の頂点を1回ずつ通ってスタートにもどる
正十二面体を平面にひらいた図。赤い道が、20個の点をちょうど1回ずつ通ってもどるハミルトン閉路

「すべての辺を1回ずつ通る道」を調べたのが、ケーニヒスベルクの橋の問題(一筆書き)を解いたオイラーの業績と生涯です。一筆書きの問題は、すべての辺が偶数本であるかどうかを調べればすぐ答えが出ます。ところが、ハミルトンの「すべての点を1回ずつ通る」という問題は、とてもむずかしいことが知られています。点の数が増えると、すべての道を調べるしかなさそうで、コンピュータでも時間がかかりすぎます。この「宅配便の配達ルートをどう決めるか」という巡回セールスマン問題につながる問題は、P≠NP予想と深く関係しています。

業績4 ハミルトン力学と光の研究

ハミルトンは、ラグランジュの解析力学を、さらに使いやすい形に書きかえました。ものの位置 qq と運動量 pp を使い、全エネルギー HH(ハミルトニアン)を決めると、運動は次の2本の式で表せます。

dqdt=∂H∂p,dpdt=−∂H∂q\frac{dq}{dt}=\frac{\partial H}{\partial p},\qquad \frac{dp}{dt}=-\frac{\partial H}{\partial q}

これをハミルトンの正準方程式といいます。微分の意味の考え方を使うと、ふりこ・惑星の運動・電子の動きまで、同じ形で書けるのです。20世紀になると、このハミルトニアンは量子力学の中心的な道具になりました。シュレーディンガー方程式の「エネルギーの演算子」は、まさにハミルトンの考えを受けついでいます。

また、1832年に予言した円錐屈折は、「数学の計算が、まだだれも見たことのない自然の現象を予言した」はじめての例のひとつとして、物理学の歴史に残っています。

業績5 ケーリー・ハミルトンの定理

2次の正方行列 AA について、次の等式が成り立ちます。

A2−(a+d)A+(ad−bc)E=O(A=(abcd))A^2-(a+d)A+(ad-bc)E=O\qquad\left(A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\right)

これが、大学入試でおなじみのケーリー・ハミルトンの定理です。ハミルトンは1850年代に、四元数について同じ種類の結果を証明しました。ケーリーの業績と生涯は1858年に、行列について(2次と3次の例で)この定理を述べています。一般の行列に対する完全な証明は、ドイツのフロベニウスが1878年に与えました。2人の名前が付いたのは、「ハミルトンが四元数で、ケーリーが行列で、それぞれ見つけた」という数学史のためです。くわしい使い方はケーリー・ハミルトンの定理(2次正方行列)にまとめてあります。

ハミルトンの名前がつく公式・定理・用語

  • 四元数(ハミルトン数):a+bi+cj+dka+bi+cj+dk。大きさは a2+b2+c2+d2\sqrt{a^2+b^2+c^2+d^2}。
  • ケーリー・ハミルトンの定理:行列 AA は、自分自身の固有多項式を満たす。→ ケーリー・ハミルトンの定理の証明と使い方。行列の意味と計算・固有値と固有ベクトル・行列の対角化と A^nとセットで学ぶと分かりやすいです。
  • ハミルトン閉路(ハミルトン路):グラフのすべての点をちょうど1回通る道。→ 一筆書きとの違いはケーニヒスベルクの橋の問題で。
  • ハミルトン力学・ハミルトニアン・ハミルトンの正準方程式:力学を位置と運動量で書く方法。量子力学の土台。
  • ハミルトンの原理:物体の運動は、ある量(作用)が最小または停留になるように起こる、という原理。
  • ハミルトン・ヤコビの方程式:ハミルトン力学から出てくる偏微分方程式。偏微分と全微分の応用の例。
「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

「ハミルトン」という名前は、数学では四元数・ケーリー・ハミルトンの定理・ハミルトン閉路の3つ、物理ではハミルトニアン。入試では「ケーリー・ハミルトン」がいちばん大切だよ。

ハミルトンの逸話と名言

「ブルーム橋の落書き」

1843年10月16日、ハミルトンは妻のヘレンといっしょに、王立アイルランド・アカデミーの会議へ向かうため、運河ぞいの道を歩いていました。ブルーム橋にさしかかったとき、四元数のかけ算の規則が一瞬で見えたといいます。ハミルトンはその場でナイフを取り出して、橋の石に式を刻みました。ハミルトンは、このときポケットの手帳にも式を書きとめたと、別の手紙(1858年)に書いています。石の落書きは、いまでは残っていませんが、1958年に記念の銘板が橋に取りつけられました。また、10月16日ごろには、ダンシンク天文台から橋まで歩く「ハミルトン・ウォーク」という記念の行事がおこなわれていると伝えられます。

電気の回路が閉じて、火花がとんだように思えた。

ハミルトン(1865年、息子アーチボルドにあてた手紙で四元数の発見を思い出した言葉と伝えられる)

語学の天才?

ハミルトンは語学の天才としても有名でした。若いころは、ペルシア語・アラビア語・サンスクリット語など、東洋の言葉も学んだといわれます。トリニティ・カレッジに入る前のハミルトンの才能に、アイルランドの天文学者ブリンクリーは、「この青年は、同じ世代で第一の数学者だ」と書いたと記録されています。

四元数に熱中しすぎた?

晩年のハミルトンは、四元数こそが空間と物理を表すいちばんの言葉だと信じ、20年以上のあいだ四元数の研究と普及に打ちこみました。しかし、同じ時代のほかの数学者の多くは、もっとかんたんなベクトルを使うほうが便利だと考えました。四元数が、数学だけでなく工学で本領を発揮するようになったのは、ハミルトンの死後100年以上たってからのことです。ケーリーの四元数への見方は、四元数を折りたたんだポケット地図にたとえ、「すべてが入っているが、広げて別の形にしないと理解できない」とたとえたと、数学史の資料(MacTutor)に紹介されています。

サクラちゃん

サクラちゃん

かけ算の順番で答えが変わるなんて、なんだか気持ち悪いです……。

合格先生

合格先生

実はそれ、身のまわりにたくさんあるんだよ。「服を着てから上着を着る」と「上着を着てから服を着る」は別の結果になるよね。回転も同じで、「x軸で回してから、y軸で回す」と「y軸で回してから、x軸で回す」では向きが変わる。四元数は、そういう現実のふるまいを数学で表した数なんだ。

受験・勉強とハミルトンのつながり

中学受験・高校受験:一筆書きとグラフの考え方

中学受験や高校受験でも、「一筆書きができるか」「すべての点を通る道を何通りか数える」といった問題が出ます。これは、ハミルトンやオイラーのグラフ理論の考え方の入り口です。たとえば、5つの都市すべてを1回ずつ通って一周する道が何通りあるかは、順列・組合せの問題として解けます(練習問題にのせました)。

大学受験:ケーリー・ハミルトンの定理

大学入試でハミルトンの名前に出会うなら、ほぼ確実にケーリー・ハミルトンの定理です。かつて高校の数学Cで行列を習っていた時代には、2次正方行列のケーリー・ハミルトンの定理を使って、AnA^n を求めたり、行列の式を簡単にしたりする問題が、難関大学の入試で頻出でした。現在の高校では行列は必修ではありませんが、大学の線形代数では最初に習う重要な定理で、行列式の計算と性質・逆行列の求め方と合わせて、理系の大学入試や編入試験・大学院入試で使われます。

数学C・複素数平面とのつながり

四元数は、複素数を一般化したものです。複素数平面で「掛けると回転になる」という性質を学んだなら、その3次元版が四元数だと思えば、ハミルトンの発想がぐっと身近になります。ド・モアブルの定理・オイラーの公式 e^{iθ}=cosθ+i sinθも、四元数の回転公式のもとになる考え方です。

勉強法として:ひらめきは「ずっと考えたあと」に来る

ハミルトンは10年以上も3つ組のかけ算を探しつづけ、ある日、散歩中にひらめきました。ひらめきは何もしない人には来ません。むずかしい問題は、しっかり考えたあと、少し休んで、別のことをしているときに答えが見えることがあります。こうした勉強の進め方は、数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)や合格するための勉強法も参考にしてください。

ハミルトンがその後の数学にあたえた影響

  • 代数学:交換法則のない数の世界が開かれ、ケーリーの行列、ガロアの群論の群、ブール代数など、「ふつうの数ではない代数」を調べる研究が一気に広がりました。四元数を調べる流れから、のちのベクトル空間・線形代数・環や体の理論が生まれます。
  • ベクトル解析:四元数からベクトルの内積・外積(ベクトル積)が整理されました。電磁気学や流体力学の式の書き方が、ここで決まりました。
  • 物理学:ハミルトン力学は、20世紀の量子力学・統計力学の基本になりました。ハミルトニアンという言葉は、物理の教科書に必ず出てきます。
  • コンピュータ:3Dグラフィックス、ロボット、航空機・衛星の姿勢制御では、いまも四元数が使われています。ハミルトン閉路の問題は、巡回セールスマン問題・配送ルート・半導体回路の配線など、実用的な最適化の問題の代表例です。
  • 数の拡張の完成:実数係数の割り算ができる数の世界は、実数・複素数・四元数が限界であることが、のちにフロベニウスの定理(1877年)で証明されました。八元数(オクトニオン)まで広げると、結合法則も成り立たなくなります。

ダブリンのブルーム橋の銘板には、ハミルトンの式 i2=j2=k2=ijk=−1i^2=j^2=k^2=ijk=-1 が刻まれています。数学の式が観光名所の記念になる、めずらしい例です。

ハミルトンに挑戦!練習問題

やさしい

  1. 四元数で、ijij と jiji はそれぞれ何ですか。
    答えと解説を見るij=kij=k、ji=−kji=-k です。かける順番を変えると、マイナスがつきます。
  2. i2+j2i^2+j^2 の値を求めなさい。
    答えと解説を見るi2=−1i^2=-1、j2=−1j^2=-1 なので、i2+j2=−2i^2+j^2=\mathbf{-2} です。

ふつう

  1. (1+i)(1+j)(1+i)(1+j) を展開して、a+bi+cj+dka+bi+cj+dk の形にしなさい。
    答えと解説を見る(1+i)(1+j)=1+j+i+ij=1+i+j+k(1+i)(1+j)=1+j+i+ij=1+i+j+k。(ij=kij=k を使いました)答えは 1+i+j+k1+i+j+k。
  2. ijkijk の値を、ij=kij=k を使って求めなさい。
    答えと解説を見るijk=(ij)k=k⋅k=k2=−1ijk=(ij)k=k\cdot k=k^2=\mathbf{-1}。ハミルトンがブルーム橋に刻んだ式の一部です。

むずかしい

  1. (1+i)2(1+i)^2 を計算しなさい。
    答えと解説を見る(1+i)2=1+2i+i2=1+2i−1=2i(1+i)^2=1+2i+i^2=1+2i-1=\mathbf{2i} です。(1+i1+i のどうしのかけ算は、複素数と同じように計算できます)
  2. 5つの都市がどれも他のすべての都市と道でつながっているとき、すべての都市を1回ずつ通って出発点にもどる道(向きや出発点の違いは同じとみなす)は何通りありますか。
    答えと解説を見る出発点を1つに決めると、残り4都市の順番は 4!=244!=24 通りです。ここで、逆向きにまわる道は同じ道とみなすので、24÷2=1224\div 2=\mathbf{12} 通りです。

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よくある質問

ハミルトンは何をした人ですか?

ハミルトンは、19世紀のアイルランドの数学者・物理学者・天文学者です。四元数の発見、ハミルトン力学(ハミルトンの正準方程式)、円錐屈折の予言、アイコシアン・ゲームにもとづくハミルトン閉路の考え方で知られます。ケーリー・ハミルトンの定理にも名前が残っています。

四元数とは何ですか?

四元数は、複素数をさらに広げた数で、a+bi+cj+dk という4つ組の形をしています。i²=j²=k²=ijk=-1 という規則でかけ算をし、かける順番を変えると答えが変わるのが特徴です。3次元の回転の計算に使われます。

ハミルトンはいつ、どこで四元数を発見したのですか?

1843年10月16日、ダブリンのブルーム橋(ブロウム橋)を散歩していたときにひらめいたと伝えられます。ハミルトンはそのとき橋の石に式をきざんだとされ、1958年に記念の銘板が橋に取りつけられました。

ケーリー・ハミルトンの定理とは何ですか?

正方行列 A が、自分自身の固有多項式(特性多項式)に代入すると零行列になるという定理です。2次なら A²-(a+d)A+(ad-bc)E=O が成り立ちます。ハミルトンが四元数で、ケーリーが行列で、それぞれ見つけたことから名前がつきました。

ハミルトン閉路とは何ですか?

グラフ(点と辺の図)のすべての点を、ちょうど1回ずつ通ってもとの点にもどる道のことです。ハミルトンが考案したアイコシアン・ゲーム(正十二面体の頂点を一周する遊び)が名前のもとです。一筆書き(すべての辺を通る道)とは別の問題です。

ハミルトンの名言はありますか?

四元数を発見した瞬間について、息子にあてた手紙で「電気の回路が閉じて、火花がとんだようだった」という意味のことを書いたと伝えられます。長い間考えつづけたあとにひらめきが来る、という例としてよく紹介されます。

ハミルトンは何歳で亡くなりましたか?

1865年9月2日にダブリンで60歳で亡くなりました。亡くなる少し前に、アメリカ科学アカデミーの外国人会員の第1号に選ばれています。

ハミルトンとケーリーの関係は?

同じ時代に、ハミルトンは四元数を、ケーリーは行列を作りました。どちらも「かける順番で答えが変わる数」です。ケーリー・ハミルトンの定理は、行列についての定理ですが、四元数についてハミルトンが先に得た結果にもとづいています。

ハミルトンは中学受験・高校受験・大学受験にも関係がありますか?

大学受験では、ケーリー・ハミルトンの定理が行列の問題で使われます(かつての数学Cの範囲)。中学受験・高校受験では、一筆書きや「すべての点を通る道」の問題が、ハミルトンやオイラーのグラフ理論の考え方につながります。

四元数は今でも使われていますか?

使われています。3次元の回転を計算で表すのに便利で、3Dゲーム、映画のCG、ロボットのうで、ドローン、人工衛星の姿勢制御などで広く使われています。

あわせて読みたい

出典・参考

  • MacTutor History of Mathematics「William Rowan Hamilton」(セント・アンドルーズ大学)
  • R. P. Graves, “Life of Sir William Rowan Hamilton”(1882〜1889年)
  • W. R. Hamilton, “Elements of Quaternions”(1866年)
  • 肖像画:作者不明「William Rowan Hamilton」(19世紀なかごろ)、Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

最終更新:2026年11月2日/作成:大学受験合格大作戦