
第51段
徒然草の「亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられんとて」から始まる段(第51段「亀山殿の御池に」、水車の話)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:上皇が亀山殿の池に大井川の水を引こうとして、大井の土民に水車を作らせたが、まったく回らなかった。宇治の里人を呼んで作らせると、たやすく組み立てて、思いどおりに回った。兼好は「何事も、その道をよく知っている者はたいしたものだ」とまとめる。
- 文法の要点:使役「せ・させ」+尊敬「られ」(作らせられけり・こしらへさせられければ)、存続の「り」(立てりけり・知れる)、打消の接続助詞「で」、呼応の副詞「おほかた〜ず」、謙譲語「参らす」。
- テストの定番:「せられ」の使役と尊敬の見分け、「いたづらなり」「めでたし」「やんごとなし」の意味、この段の主張の一文「万にその道を知れる者は、やんごとなきものなり」がよく問われる。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 作らせられけり=使役「せ」+尊敬「られ」+過去「けり」
- 存続のり(立てりけり・知れる)はサ変の未然形・四段の已然形につく
- おほかた〜ず=まったく〜ない、で=〜ないで
- 古今異義語いたづらなり(むだだ)・めでたし(みごとだ)
- 主張:万にその道を知れる者は、やんごとなきものなり
「亀山殿の御池に」はどんな段?(嵯峨の御所と宇治の水車)
舞台の亀山殿は、京都の嵯峨(今の嵐山のあたり)にあった上皇の御所で、のちにその跡に天龍寺が建てられました。そばを流れる大井川(今の大堰川・桂川)の水を池に引くために、地元・大井の人々に水車を作らせたのが話の始まりです。本文には「仰せて」「賜ひて」「召して」と尊敬語があるだけで、上皇の名前は書かれていません。
地元の人々は数日かけても回る水車を作れませんでしたが、宇治の人々はあっさり組み立ててしまいます。宇治は宇治川の流れを使う暮らしが古くからあった土地です。兼好はこの話から「何事も、その道をよく知っている者はたいしたものだ」と専門家を重んじる考えを述べます。徒然草には、ほかにも「高名の木登り」(第109段)のように、その道の名人の言葉や技に感心する段がいくつもあります。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられんとて、大井の土民に仰せて、水車を作らせられけり。
現代語訳亀山殿のお池に、大井川の水を引き入れようとなさって、(上皇は)大井の土地の人々にお命じになって、水車を作らせなさった。
- 「亀山殿」は、京都の嵯峨(今の嵐山のあたり)にあった上皇の御所。「大井川」は嵐山のふもとを流れる川(今の大堰川・桂川)。主語の上皇の名前は本文には書かれていない。
- 「作らせられけり」=作ら+使役「せ」(土民に作らせる)+尊敬「られ」(上皇の動作を高める)+過去「けり」。「す」と「らる」が一つずつ別のはたらきをしている。→使役・尊敬の助動詞「す・さす・しむ」の見分け方
- 「まかせられんとて」の「ん」は意志「む」(〜しよう)。「むとす・んとて」は「〜しようとして」。→推量の助動詞「む」の意味(推量・意志・婉曲)
- 「仰す」は「命じる」の尊敬語(お命じになる)。→敬語動詞の一覧(仰す・召す・賜ふ)


2
多くの銭を賜ひて、数日に営み出だしてかけたりけるに、おほかためぐらざりければ、とかく直しけれども、つひにめぐらで、いたづらに立てりけり。
現代語訳(上皇は)たくさんのお金をお与えになって、(土民たちは)数日かけて作りあげて(川に)取りつけたところ、まったく回らなかったので、あれこれ直したけれども、とうとう回らないで、役に立たないまま立っていた。
- 「おほかた〜ず」は「まったく〜ない」。打消といっしょに使う呼応の副詞。「おほかた」だけなら「だいたい・およそ」の意味。
- 「めぐらで」の「で」は打消の接続助詞(〜ないで)。→接続助詞の一覧(ば・ど・で・つつ)
- 「立てりけり」の「り」は存続(〜ている)。四段動詞「立つ」の已然形「立て」(e の音)についている。→完了・存続の助動詞「たり・り」(サ未四已)
- 「いたづらなり」は「むだだ・役に立たない」。今の「いたずら(悪ふざけ)」とはちがう古今異義語。


3
さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、やすらかに結ひて参らせたりけるが、思ふやうにめぐりて、水を汲み入るること、めでたかりけり。
現代語訳そこで、(上皇が)宇治の村人をお呼びになって、(水車を)作らせなさったところ、(宇治の人々は)たやすく組み立てて差し上げたが、(その水車は)思いどおりに回って、水を汲み入れるようすは、みごとであった。
- 「こしらへさせられ」も、使役「させ」+尊敬「られ」。一つめの段落の「作らせられ」と同じ形。
- 「召す」は「呼ぶ」の尊敬語、「参らす」は「差し上げる」の謙譲語(宇治の人が上皇に差し上げる=作者から上皇への敬意)。→敬意の方向(誰から誰への敬意か)
- 「やすらかなり」は「たやすい・すらすらと」。大井の人が数日かけても回せなかったのに、宇治の人はあっさり作った、という対比が大事。
- 「めでたし」は「すばらしい・みごとだ」。今の「おめでたい(お祝い)」とは少しちがう。→古今異義語の一覧(めでたし・いたづらなり・やがて)


出典:西川祐信 画『絵本徒然草(祐信画鑑)』中巻(国立国会図書館デジタルコレクション)
4
万にその道を知れる者は、やんごとなきものなり。
現代語訳何事においても、その道(専門)をよく知っている者は、たいしたもの(尊重すべきもの)である。
- この一文が兼好の主張(この段のまとめ)。水車の話は、この考えを言うための例になっている。
- 「知れる」の「る」は存続「り」の連体形(知っている)。受身の「る」ではない。→「り」の接続と見分け方
- 「やんごとなし」はふつう「身分が高い・尊い」だが、ここは「(軽く見てはいけない)たいしたものだ・尊重すべきだ」。「万に」は「何事においても」。



「作らせられけり」を分解する(使役と尊敬)・二つの水車のちがい

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| まかす | まかす | (水を)引き入れる・流しこむ |
| 土民 | どみん | その土地に住む人々 |
| 仰す | おおす | お命じになる(尊敬語) |
| 賜ふ | たまう | お与えになる(尊敬語) |
| 営み出だす | いとなみいだす | 作りあげる |
| おほかた(〜ず) | おおかた | まったく(〜ない) |
| とかく | とかく | あれこれと |
| いたづらなり | いたずらなり | むだだ・役に立たない |
| 召す | めす | お呼びになる(尊敬語) |
| こしらふ | こしらう | 作る・組み立てる |
| やすらかなり | やすらかなり | たやすい・すらすらと |
| 参らす | まいらす | 差し上げる(謙譲語) |
| めでたし | めでたし | すばらしい・みごとだ |
| 万に | よろずに | 何事においても |
| やんごとなし | やんごとなし | 身分が高い・尊い・たいしたものだ |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「水車を作らせられけり」の「せ」と「られ」の意味をそれぞれ答えなさい。
「せ」は使役(大井の土民に作らせる)、「られ」は尊敬(上皇の動作を高める)。
問2 「おほかためぐらざりければ」を現代語訳しなさい。
「まったく回らなかったので」。「おほかた〜ず」で「まったく〜ない」。
問3 「いたづらに立てりけり」の「いたづらに」の意味は?
「むだに・役に立たないで」。今の「いたずら(悪ふざけ)」ではない。
問4 「立てりけり」の「り」の文法的な説明は?
存続の助動詞「り」の連用形。四段動詞「立つ」の已然形「立て」についている。
問5 「参らせたりけるが」の「参らせ」は誰から誰への敬意か?
謙譲語「参らす」で、作者(兼好)から上皇への敬意。宇治の里人が上皇に差し上げた動作。
問6 大井の土民と宇治の里人の水車は、どうちがったか?
大井の土民は数日かけても回る水車を作れなかったが、宇治の里人はたやすく組み立て、思いどおりに回って水を汲み入れた。
問7 この段で兼好が言いたいことを、本文中の一文で答えなさい。
「万にその道を知れる者は、やんごとなきものなり。」

徒然草「亀山殿の御池に(水車)」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
亀山殿の御池に、大井川の水をまかせられんとて、大井の土民に仰せて、水車を作らせられけり。
多くの銭を賜ひて、数日に営み出だしてかけたりけるに、おほかためぐらざりければ、とかく直しけれども、つひにめぐらで、いたづらに立てりけり。
さて、宇治の里人を召して、こしらへさせられければ、やすらかに結ひて参らせたりけるが、思ふやうにめぐりて、水を汲み入るること、めでたかりけり。
万にその道を知れる者は、やんごとなきものなり。
徒然草「亀山殿の御池に(水車)」現代語訳(全文・通し)
亀山殿のお池に、大井川の水を引き入れようとなさって、(上皇は)大井の土地の人々にお命じになって、水車を作らせなさった。
(上皇は)たくさんのお金をお与えになって、(土民たちは)数日かけて作りあげて(川に)取りつけたところ、まったく回らなかったので、あれこれ直したけれども、とうとう回らないで、役に立たないまま立っていた。
そこで、(上皇が)宇治の村人をお呼びになって、(水車を)作らせなさったところ、(宇治の人々は)たやすく組み立てて差し上げたが、(その水車は)思いどおりに回って、水を汲み入れるようすは、みごとであった。
何事においても、その道(専門)をよく知っている者は、たいしたもの(尊重すべきもの)である。
徒然草「亀山殿の御池に(水車)」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(徒然草の基本)
徒然草の作者は誰?
兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。
徒然草はいつの作品?
鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。
徒然草の冒頭(書き出し)は?
序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。
徒然草はどんな作品?
序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。
徒然草の目次(教科書に出る段)
徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 徒然草「つれづれなるままに」(序段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「いでや、この世に生まれては」(第1段)の原文・現代語訳
- 徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」(第7段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「家居のつきづきしく」(第10段)の原文・現代語訳
- 徒然草「神無月のころ」(第11段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「人は己をつづまやかにし」(第18段)の原文・現代語訳
- 徒然草「折節の移り変はるこそ」(第19段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「九月二十日のころ」(第32段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「五月五日、賀茂の競べ馬を」(第41段)の原文・現代語訳
- 徒然草「公世の二位のせうとに」(第45段)の原文・現代語訳 定番
- 亀山殿の御池に(水車)(第51段・このページ)
- 徒然草「仁和寺にある法師」(第52段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「これも仁和寺の法師」(第53段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「真乗院に、盛親僧都とて」(第60段)の原文・現代語訳
- 徒然草「筑紫に、なにがしの押領使」(第68段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「名を聞くより」(第71段)の原文・現代語訳
- 徒然草「世に語り伝ふること」(第73段)の原文・現代語訳
- 徒然草「人の心すなほならねば」(第85段)の原文・現代語訳
- 徒然草「奥山に、猫またといふもの」(第89段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「ある人、弓射ることを習ふに」(第92段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「荒れたる宿の」(第104段)の原文・現代語訳
- 徒然草「高名の木登り」(第109段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「友とするにわろき者」(第117段)の原文・現代語訳
- 徒然草「花は盛りに」(第137段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「能をつかんとする人」(第150段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「世に従はん人は」(第155段)の原文・現代語訳
- 徒然草「相模守時頼の母は」(第184段)の原文・現代語訳
- 徒然草「一事を必ずなさんと思はば」(第188段)の意味と現代語訳 定番
- 徒然草「平宣時朝臣」(第215段)の原文・現代語訳
- 徒然草「丹波に出雲といふ所あり」(第236段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「八つになりし年」(第243段)の原文・現代語訳 定番

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


