徒然草「高名の木登り」(第109段)原文と現代語訳・文法|あやまちは、やすき所になりて(敬語の方向・なんの識別)

ミスターT先生

定番 教科書によく出る定番の段 第109段

徒然草の第109段「高名の木登り」を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。「あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつることに候ふ」で知られる、油断をいましめる段です。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:木登りの名人が人を高い木に登らせて梢を切らせた。危ない高さでは何も言わず、軒の高さまで降りてきたときに「あやまちすな」と声をかけた。作者がわけを聞くと、名人は「危ない所では本人がこわがって気をつける。失敗は安全な所になってから必ずするものだ」と答えた。兼好は、身分は低くても聖人の教えにかなうとほめ、蹴鞠の例を添える。
  • 文法の要点:過去「き」(いひし・見えし)、使役「す」(切らせし)、禁止の「な」、強意+推量「なん」(降りなん)、敬語の方向(申し・はべり・候ふ・つかまつる)、存続「り」(かなへり)。
  • テストの定番:教科書によく出る段。名人が低い所で声をかけた理由、「あやし」=身分が低い、地の文と会話文の敬意の方向がよく問われる。
サクラちゃん
サクラちゃん
T先生、木登りの名人なら、一番高い所で「気をつけて!」って言いそうですよね?
ミスターT先生
ミスターT先生
ふつうはそう思うわな。ところがこの名人は、高い所では何も言わへん。低い所まで来て、初めて声をかける。教科書・テストによく出る定番の段や。
合格先生
合格先生
T先生には「入試で落とすのは、むずかしい問題やない。かんたんな問題や」と何度も言われました。この段を読むと、いつもその言葉を思い出します。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 中心の言葉「あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつることに候ふ」
  2. 敬語の方向:地の文は作者から、会話文は話し手から
  3. 強意+推量「降りなん」(きっと降りられるだろう)
  4. 禁止の「〜な」、使役の「す」、過去の「き」
  5. 古今異義語あやし(身分が低い)・やすし(安全だ)

「高名の木登り」はどんな段?(名人の言葉と兼好の目)

第109段は、木登りの名人と兼好の短い問答でできた段です。過去の助動詞が「けり」ではなく「き」で書かれているので、兼好が実際にその場にいて、名人に直接たずねたことが分かります。

名人は「木登り」を仕事にする、身分の高くない人です。それでも兼好は「あやしき下臈なれども、聖人の戒めにかなへり」と、言葉の中身を高く評価します。身分よりも、経験から出た確かな知恵を重んじる兼好の考えがよく表れています。徒然草には、このようにその道の名人・専門家の言葉に感心する段がいくつもあります。

最後に出てくる蹴鞠は、鎌倉時代の貴族にとって大切なたしなみでした。「むずかしい所を蹴ったあと、簡単だと思うと落ちる」という教えも、名人の言葉と同じことを言っています。

1. 名人の指図 人を高い木に登らせて梢を 2. 危ない所 目がくらむ高さでは何も言わず 3. 軒の高さ 「あやまちすな心して降りよ」 4. 作者の問い この高さならなぜ言うのか 5. 名人の答え あやまちはやすき所で 6. 兼好の評 聖人の戒めにかなへり・蹴鞠
図1 徒然草「高名の木登り」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

高名の木登りといひし男、人をおきてて、高き木に登せて梢を切らせしに、いと危ふく見えしほどは言ふこともなくて、

現代語訳有名な木登り(の名人)と(世間で)言われた男が、人に指図して、高い木に登らせて梢(木の先)を切らせたときに、とても危なく見えた間は何も言わないで、

  • 「いひし」「見えし」の「し」は過去「き」の連体形。「き」は自分が直接見たり体験したりした過去に使う。兼好はこの場面をその場で見ている。→過去の助動詞「き・けり」の違い
  • 「切らせ」の「せ」は使役(〜させる)。名人は自分では登らず、人に切らせている。→助動詞「す・さす・しむ」の使役と尊敬
  • 「おきつ(掟つ)」は「指図する・命令する」。「登す」は「登らせる」という意味の動詞(下二段)で、助動詞ではない。「高名の」は「有名な・名高い」。
うかるくん
うかるくん
「いひし」「見えし」…「し」がいっぱい出てきます。
ミスターT先生
ミスターT先生
全部、過去の「き」の連体形や。「き」は自分が直接見た過去。兼好はこの場面を、その場で見てたんやな。「けり」やったら人から聞いた話になる。

2

降るる時に、軒長ばかりになりて、「あやまちすな。心して降りよ。」と言葉をかけはべりしを、

現代語訳(その人が)降りて来るときに、軒の高さくらいになって、「けがをするな。気をつけて降りよ。」と言葉をかけましたので、

  • 「あやまちすな」の「な」は禁止の終助詞(〜するな)。「あやまち」は「失敗・けが」。
  • 「かけはべりし」の「はべり」は丁寧語で、地の文なので作者(兼好)から読者への敬意。→「はべり・さぶらふ」の丁寧語と謙譲語
  • 「軒長(のきたけ)」は「家の軒の高さ」。手元の古い本は「軒だけ」。今の二階くらいの低さで、ここまで来ればもう安全に見える。
高い木に登って枝を切る男と、下で声をかける名人(徒然草の古い絵)
高い木に登って枝を切る男と、下で声をかける名人
出典:西川祐信 画『絵本徒然草(祐信画鑑)』中巻(国立国会図書館デジタルコレクション)

3

「かばかりになりては、飛び降るるとも降りなん。いかにかく言ふぞ。」と申しはべりしかば、

現代語訳(わたしが)「これくらい(の高さ)になったら、たとえ飛び降りても降りられるでしょう。どうしてそのように言うのか。」と申しましたところ、

  • 「降りなん」は、完了「ぬ」の未然形「な」(ここは強意:きっと)+推量「む」で、「きっと降りられるだろう」。「なむ」の見分けは入試頻出。→「なむ」の識別(強意+推量・願望・係助詞)
  • 「申しはべり」の「申す」は謙譲語で、作者から木登り名人への敬意(言う相手を高める)。「はべり」は丁寧語で作者から読者へ。→敬意の方向(だれからだれへ)
  • 「〜とも」は「たとえ〜ても」(逆接の仮定)。「いかに」は「どうして」、「かく」は「このように」。
サクラちゃん
サクラちゃん
「申しはべりしかば」の敬語、だれからだれへか、ぜんぜん分かりません…。
ミスターT先生
ミスターT先生
順番に考えよ。まず地の文やから、敬意は全部作者から。「申す」は謙譲語やから、言う相手=名人を高める。「はべり」は丁寧語やから、読者へ。ここ、テストに出るで!

4

「そのことに候ふ。目くるめき、枝危ふきほどは、おのれが恐れはべれば申さず。

現代語訳(名人は)「そのことでございます。目がくらみ、枝が危ないうちは、本人が(自分で)こわがっておりますので(わたしは何も)申しません。

  • 会話の中の「候ふ」「はべり」は丁寧語で、話し手(木登り名人)から聞き手(作者)への敬意。地の文の敬語(作者から)と分けて考える。→古文の敬語の種類(尊敬語・謙譲語・丁寧語)
  • 「そのことに候ふ」は「まさにそのことです」。作者の質問を待っていたような答え方。
  • 「目くるめく」は「目がくらむ」。「おのれ」はここでは「その人自身(登っている人)」。高い所では、本人がこわいので自分で注意する、ということ。
うかるくん
うかるくん
名人の会話の「候ふ」「はべれ」は、今度はだれからですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
会話文やから話し手(名人)から、丁寧語やから聞き手(作者)へ。地の文か会話文かで、スタートが変わるんや。

5

あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつることに候ふ。」と言ふ。

現代語訳けが(失敗)は、安全な所になってから、必ずするものでございます。」と言う。

  • 「あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつることに候ふ」がこの段の中心の言葉。危ない所ではなく、安心した所で油断して失敗する。
  • 「つかまつる」は「する」の謙譲語(いたす)。会話文なので、名人から作者への敬意。→敬語動詞の一覧(つかまつる・申す・候ふ)
  • 「やすし」は「安全だ・たやすい」。「易し」と書き、今の「安い(値段)」とはちがう。
合格先生
合格先生
受験でいうと、「やすき所」はかんたんな問題や得意科目です。T先生は「見直しは、自信のある問題からやれ」と言っていました。こわい問題は、もう十分気をつけていますからね。

6

あやしき下臈なれども、聖人の戒めにかなへり。

現代語訳(この男は)身分の低い者であるけれども、(その言葉は)聖人の教えにぴったり合っている。

  • 「あやし」は古今異義語。ここでは「身分が低い・いやしい」。ほかに「不思議だ・粗末だ」の意味もある。→古今異義語の一覧(あやし・やすし・ありがたし)
  • 「かなへり」の「り」は存続(〜ている)。四段動詞「かなふ」の已然形「かなへ」(e の音)についている。→「り」の接続(サ未四已)
  • 「下臈(げろう)」は「身分の低い人」。「聖人」は中国の古い教えを説いた聖人たち。身分が低くても、言葉は聖人の教えと同じだと兼好はほめている。

7

鞠も、かたき所を蹴出だしてのち、やすく思へば必ず落つとはべるやらん。

現代語訳蹴鞠も、むずかしい所をうまく蹴り上げたあと、もう簡単だと思うと必ず(鞠が)落ちる、と(教えに)あるそうでございます。

  • 「鞠」は蹴鞠(けまり)。貴族の遊びで、鞠を地面に落とさないように蹴り合う。
  • 「やらん」は「〜であろうか」「〜とかいうことだ」。「にやあらむ」がつまった形で、はっきり言い切らずにやわらげている。
  • 木登りの話を、蹴鞠という別の例で確かめて終わる。「やすく思へば」が、名人の「やすき所」と対応している。
サクラちゃん
サクラちゃん
最後にいきなり蹴鞠の話になるのは、なんでですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
木登りだけやなく、ほかの道でも同じや、と確かめてるんや。一つの話を、別の例で広げてまとめるのは兼好のいつものやり方やで。

木の高さと油断の関係を図で見る(高名の木登り)

梢 家 降りる 梢の高さ(目がくらむ所) 本人がこわがって自分で注意する → 名人は何も言わない 軒の高さ(やすき所) 「もう大丈夫」と油断が生まれる →「あやまちすな。心して降りよ」 あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつることに候ふ
図2 「高名の木登り」木の高さと油断の関係(危ない所より、安全な所で失敗する)
ミスターT先生
ミスターT先生
危ない所は、みんな勝手に気をつける。安心した所が一番あぶない。この図がそのまま答えになる問題、よう出るで。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
高名こうみょう有名なこと・名高いこと
おきつ(掟つ)おきつ指図する・命令する
登すのぼす登らせる
梢こずえ木の幹や枝の先
軒長のきたけ軒の高さ
あやまちあやまち失敗・けが
心すこころす気をつける・注意する
かばかりかばかりこれくらい
目くるめくめくるめく目がくらむ
やすしやすし安全だ・たやすい
つかまつるつかまつる「する」の謙譲語(いたす)
あやしあやし身分が低い・いやしい(不思議だ・粗末だ)
下臈げろう身分の低い人
かなふかなうあてはまる・合う
鞠まり蹴鞠(の鞠)

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 名人が、高い所では何も言わず、軒の高さまで降りてから「あやまちすな」と言ったのはなぜか。

高く危ない所では本人がこわがって自分で気をつけるが、安全な所まで来ると油断して失敗するから。

問2 「あやまちすな」の「な」の文法的な説明と、訳を答えなさい。

禁止の終助詞「な」。「けがをするな・失敗するな」。

問3 「飛び降るるとも降りなん」の「なん」を文法的に説明しなさい。

完了(強意)の助動詞「ぬ」の未然形「な」+推量の助動詞「む」の終止形「ん」。「きっと降りられるだろう」。

問4 「と申しはべりしかば」の「申し」「はべり」は、それぞれだれからだれへの敬意か。

「申し」は謙譲語で作者から木登り名人へ。「はべり」は丁寧語で作者から読者へ。

問5 「あやしき下臈」の「あやし」の意味は?

「身分が低い・いやしい」。

問6 「聖人の戒めにかなへり」の「り」の意味と活用形は?

存続(〜ている)の助動詞「り」の終止形。

問7 この段の教えを表す名人の言葉を、本文から抜き出しなさい。

「あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつることに候ふ。」

問8 最後に兼好が例として挙げた遊びは何か。

蹴鞠(鞠)。むずかしい所を蹴ったあと、簡単だと思うと必ず落ちる、という例。

うかるくん
うかるくん
最後のかんたんな問題こそ、ていねいに見直します! 「あやまちは、やすき所になりて」ですね。

徒然草「高名の木登り」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

高名の木登りといひし男、人をおきてて、高き木に登せて梢を切らせしに、いと危ふく見えしほどは言ふこともなくて、

降るる時に、軒長ばかりになりて、「あやまちすな。心して降りよ。」と言葉をかけはべりしを、

「かばかりになりては、飛び降るるとも降りなん。いかにかく言ふぞ。」と申しはべりしかば、

「そのことに候ふ。目くるめき、枝危ふきほどは、おのれが恐れはべれば申さず。

あやまちは、やすき所になりて、必ずつかまつることに候ふ。」と言ふ。

あやしき下臈なれども、聖人の戒めにかなへり。

鞠も、かたき所を蹴出だしてのち、やすく思へば必ず落つとはべるやらん。

徒然草「高名の木登り」現代語訳(全文・通し)

有名な木登り(の名人)と(世間で)言われた男が、人に指図して、高い木に登らせて梢(木の先)を切らせたときに、とても危なく見えた間は何も言わないで、

(その人が)降りて来るときに、軒の高さくらいになって、「けがをするな。気をつけて降りよ。」と言葉をかけましたので、

(わたしが)「これくらい(の高さ)になったら、たとえ飛び降りても降りられるでしょう。どうしてそのように言うのか。」と申しましたところ、

(名人は)「そのことでございます。目がくらみ、枝が危ないうちは、本人が(自分で)こわがっておりますので(わたしは何も)申しません。

けが(失敗)は、安全な所になってから、必ずするものでございます。」と言う。

(この男は)身分の低い者であるけれども、(その言葉は)聖人の教えにぴったり合っている。

蹴鞠も、むずかしい所をうまく蹴り上げたあと、もう簡単だと思うと必ず(鞠が)落ちる、と(教えに)あるそうでございます。

徒然草「高名の木登り」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(徒然草の基本)

徒然草の作者は誰?

兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。

徒然草はいつの作品?

鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。

徒然草の冒頭(書き出し)は?

序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。

徒然草はどんな作品?

序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。

徒然草の目次(教科書に出る段)

徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。

ミスターT先生
ミスターT先生
次は「花は盛りに」。満開の桜や満月だけが見どころやない、と兼好が言う。徒然草の中でも長い段やけど、兼好の美意識と無常観がぎゅっとつまってるで。お楽しみに!

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。