徒然草「神無月のころ」(第11段)原文と現代語訳・文法|神無月のころ、来栖野といふ所を過ぎて(反実仮想・ことさめて)

ミスターT先生

定番 教科書によく出る定番の段 第11段

徒然草の「神無月のころ、来栖野といふ所を過ぎて」から始まる段(第11段)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:十月ごろ、兼好が山里の奥で、もの寂しく住んでいる庵を見つけ、「こんなふうにしても住めるのだなあ」と感心する。ところが庭の大きなみかん(柑子)の木のまわりが厳重に囲ってあるのを見て興ざめし、「この木がなかったらよかったのに」と思う。
  • 文法の要点:丁寧語「侍り」、ならでは(〜以外には)、つゆ〜なし(まったく〜ない)、可能の「る」と詠嘆の「けり」、反実仮想「ましかば」、係り結び「こそ〜しか」。
  • テストの定番:教科書によく出る段。作者が「ことさめ」た理由(世を捨てた人にも物への欲が見えた)と、「この木なからましかば」の反実仮想がよく問われる。
うかるくん
うかるくん
T先生、この段はどんな話ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
兼好が山奥で、静かで寂しい庵を見つけて「ええなあ」と感心する。ところが最後にみかんの木の囲いを見て、がっかりする話や。教科書・テストによく出る定番の段やで。
合格先生
合格先生
T先生は「この段は気持ちのグラフを描け。上がって、上がって、最後にストンと落ちる」と教えてくれました。わたしは今でもそうやって読んでいます。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. つゆ〜なし=まったく〜ない、ならでは=〜以外には
  2. 可能のると詠嘆のけり(かくてもあられけるよ)
  3. 反実仮想ましかば(この木なからましかば)
  4. 係り結びこそ〜しか(過去「き」の已然形)
  5. 作者が興ざめした理由=物への欲(執着)が見えたから

第11段はどんな段?(来栖野の山里と兼好の見方)

第11段は、兼好が神無月(陰暦十月)に、京都の郊外にある来栖野を通って山里をたずねたときの話です。来栖野は、今の京都市山科区のあたりと考えられています。

苔の細道の奥にある庵は、音といえば懸樋のしずくだけ。閼伽棚に花が供えてあることから、仏の道を修行する人がひっそり住んでいると分かります。世の中から離れて静かに暮らすことにあこがれていた兼好は、「こんなふうにしても住めるのだなあ」と感心します。

ところが庭には、実がたくさんなった大きな柑子(みかん)の木があり、まわりが厳重に囲ってありました。実を取られたくない、という物への欲が見えたことで、兼好は「少しことさめて」しまいます。全部を否定せず「少し」と言っているところにも、兼好らしい見方が出ています。

※手元の古い本では「栗栖野」「筧」「在られける」と書かれていますが、ここでは教科書でよく見る「来栖野」「懸樋」「あられける」の形にしました。

1. 山里へ 神無月のころ来栖野を過ぎて 2. 寂しい庵 苔の細道の奥心細く住む 3. 静かな音 懸樋のしずくほかは音なし 4. 住む人の気配 閼伽棚に菊・紅葉 5. 感心する かくてもあられけるよ 6. 興ざめ 柑子の木の囲いなからましかば
図1 徒然草「神無月のころ」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

神無月のころ、来栖野といふ所を過ぎて、ある山里に尋ね入ること侍りしに、遥かなる苔の細道を踏み分けて、心細く住みなしたる庵あり。

現代語訳十月のころ、来栖野という所を通りすぎて、ある山里に(人を)たずねて入って行くことがありましたが、遠くまで続く苔の生えた細い道を踏み分けて(行くと)、もの寂しいようすで住んでいる庵があった。

2

木の葉に埋もるる懸樋のしづくならでは、つゆおとなふものなし。

現代語訳木の葉にうずもれている懸樋(かけひ)から落ちるしずく(の音)以外には、まったく音を立てるものがない。

  • 「ならでは」は「〜でなくては・〜以外には」。断定「なり」の未然形「なら」+打消の接続助詞「で」+係助詞「は」。→断定の助動詞「なり・たり」
  • 「つゆ〜なし(打消)」は「まったく〜ない」という呼応の副詞。「つゆ」を「露」と訳さないこと。
  • 「おとなふ」は「音を立てる・(人が)訪れる」。「懸樋」は竹などを渡して、遠くから水を引く樋(とい)。
サクラちゃん
サクラちゃん
「つゆおとなふものなし」の「つゆ」って、朝つゆのことですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
それをやったら×や。「つゆ」+打消で「まったく〜ない」。「をさをさ〜ず」「よも〜じ」と同じ、呼応の副詞の仲間や。ここ、テストに出るで!

3

閼伽棚に菊・紅葉など折り散らしたる、さすがに住む人のあればなるべし。

現代語訳閼伽棚に菊や紅葉などを折って散らしてあるのは、(こんなに寂しい所でも)やはり住んでいる人がいるからなのだろう。

  • 「閼伽棚」は、仏にそなえる水(閼伽)や花を置く棚。庵の主は仏道の修行をしている人だと分かる。
  • 「折り散らしたる、」は連体形で文が切れている。下に「の・こと」をおぎなって「散らしてあるのは」と訳す(連体形の準体法)。
  • 「あれば」は已然形+「ば」で原因・理由(〜から)。「なるべし」は「〜なのだろう」。「べし」はここでは推量。→助動詞「べし」の6つの意味(スイカトメテ)
  • 「さすがに」は「そうはいってもやはり」。
うかるくん
うかるくん
花が置いてあるだけで、どうして「住む人がいる」って分かるんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
閼伽棚は仏さまに供える水や花を置く棚や。花が新しく折ってあるいうことは、毎日だれかがお供えしてるいうこと。兼好は、そこから「修行している人が住んでる」と読み取ったんやな。

4

かくてもあられけるよと、あはれに見るほどに、かなたの庭に、大きなる柑子の木の、枝もたわわになりたるが、まはりをきびしく囲ひたりしこそ、少しことさめて、この木なからましかばと覚えしか。

現代語訳「こんなふうにしても住んでいられるのだなあ」と、しみじみと感心して見ているうちに、向こうの庭に、大きなみかんの木で、枝もしなうほど実がなっているのが、まわりを厳重に囲ってあったのには、少し興ざめして、「この木がなかったらよかったのに」と思われた。

サクラちゃん
サクラちゃん
みかんの木を囲うくらい、いいじゃないですか。取られたら困りますし……。
ミスターT先生
ミスターT先生
その感覚はふつうや。ただ兼好は、世を捨てて静かに暮らす人にあこがれてた。そんな人でも「みかんは取られたくない」と物への欲を見せた。そこが「少し」残念やったんや。
合格先生
合格先生
「この木なからましかば」は反実仮想です。T先生には「ましかばが出たら、事実は反対やと確かめろ」と言われました。事実は「木がある」んですね。
山里の庵と、まわりを厳しく囲ったみかん(柑子)の木(徒然草の古い絵)
山里の庵と、まわりを厳しく囲ったみかん(柑子)の木
出典:西川祐信 画『絵本徒然草(祐信画鑑)』上巻(国立国会図書館デジタルコレクション)

兼好の気持ちの変化を図で確かめる(感心から興ざめへ)

兼好の気持ちの動き 感心 がっかり 苔の細道 懸樋のしずく 閼伽棚の花 あはれに見る 柑子の囲い 心細く住む庵 ほかは音なし 住む人がいる あられけるよ ことさめて この木 なからましかば
図2 第11段の気持ちの変化(感心から興ざめへ)
ミスターT先生
ミスターT先生
上がって、上がって、最後にストン。この気持ちの落差が第11段のおもしろさや。「ことさめて」の理由を自分の言葉で書けたら合格やで。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
神無月かんなづき陰暦十月
尋ね入るたずねいるさがし求めて奥へ入る
心細しこころぼそしもの寂しい・心もとない
庵いおり草木で作った粗末な小屋(世を捨てた人の住まい)
懸樋かけい水を引くために竹などを渡した樋
つゆ〜なしつゆ〜なしまったく〜ない
おとなふおとなう音を立てる・訪れる
閼伽棚あかだな仏に供える水や花を置く棚
さすがにさすがにそうはいってもやはり
あはれなりあわれなりしみじみと心ひかれる
柑子こうじ小さなみかんの一種
たわわなりたわわなり(実の重さで)枝がしなうほどだ
ことさむことさむ興ざめする

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「神無月」は何月か。陰暦で答えなさい。

十月。

問2 「つゆおとなふものなし」を現代語訳しなさい。

「まったく音を立てるものがない。」(つゆ〜なし=まったく〜ない)

問3 「さすがに住む人のあればなるべし」と作者が考えた手がかりは何か。

閼伽棚に菊や紅葉などが折って散らしてあったこと。

問4 「かくてもあられけるよ」の「れ」と「ける」の意味をそれぞれ答えなさい。

「れ」は可能(〜できる)、「ける」は詠嘆(〜だなあ)。

問5 作者が「少しことさめ」たのはなぜか。

大きな柑子(みかん)の木のまわりが厳重に囲ってあり、世を捨てて住む人にも物への欲(執着)があると感じたから。

問6 「この木なからましかば」を現代語訳し、使われている文法を答えなさい。

「この木がなかったらよかったのに」。反実仮想(ましかば〜まし の形で、後半が省かれている)。

問7 「囲ひたりしこそ…覚えしか」で、「しか」が已然形になっている理由を答えなさい。

上に係助詞「こそ」があり、係り結びで已然形になるから。

うかるくん
うかるくん
「つゆ〜なし」と「ましかば」、もうまちがえません! 兼好さんって、けっこう細かいところを見てますね。

徒然草「神無月のころ」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

神無月のころ、来栖野といふ所を過ぎて、ある山里に尋ね入ること侍りしに、遥かなる苔の細道を踏み分けて、心細く住みなしたる庵あり。

木の葉に埋もるる懸樋のしづくならでは、つゆおとなふものなし。

閼伽棚に菊・紅葉など折り散らしたる、さすがに住む人のあればなるべし。

かくてもあられけるよと、あはれに見るほどに、かなたの庭に、大きなる柑子の木の、枝もたわわになりたるが、まはりをきびしく囲ひたりしこそ、少しことさめて、この木なからましかばと覚えしか。

徒然草「神無月のころ」現代語訳(全文・通し)

十月のころ、来栖野という所を通りすぎて、ある山里に(人を)たずねて入って行くことがありましたが、遠くまで続く苔の生えた細い道を踏み分けて(行くと)、もの寂しいようすで住んでいる庵があった。

木の葉にうずもれている懸樋(かけひ)から落ちるしずく(の音)以外には、まったく音を立てるものがない。

閼伽棚に菊や紅葉などを折って散らしてあるのは、(こんなに寂しい所でも)やはり住んでいる人がいるからなのだろう。

「こんなふうにしても住んでいられるのだなあ」と、しみじみと感心して見ているうちに、向こうの庭に、大きなみかんの木で、枝もしなうほど実がなっているのが、まわりを厳重に囲ってあったのには、少し興ざめして、「この木がなかったらよかったのに」と思われた。

徒然草「神無月のころ」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(徒然草の基本)

徒然草の作者は誰?

兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。

徒然草はいつの作品?

鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。

徒然草の冒頭(書き出し)は?

序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。

徒然草はどんな作品?

序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。

徒然草の目次(教科書に出る段)

徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。

ミスターT先生
ミスターT先生
次は第19段「折節の移り変はるこそ」。春夏秋冬の移り変わりを、兼好がたっぷり語る長い段や。係り結びがたくさん出てくるから、係り結びの総まとめにもなるで。お楽しみに!

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。