
第18段
徒然草の「人は己をつづまやかにし、おごりを退けて」から始まる段(第18段「人は己をつづまやかにし(許由)」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- 兼好の主張:人は質素にして、ぜいたくをしりぞけ、財産を持たず、名誉や利益を欲ばらないのがよい。昔から賢い人で裕福な人はまれだ。中国の許由はもらったひょうたんさえ「風で鳴ってうるさい」と捨て、孫晨は藁一束を布団がわりにした。中国ではそれを書き伝えたが、日本の人は語り伝えもしないだろう。
- 文法の要点:婉曲の「む」(むさぼらざらん)、存続の「り」(富める・したがへる)、同格の「の」、呼応の副詞「さらに〜なし」、受身の「る」、過去推量「けむ」、こそ〜已然形、の逆接。
- テストの定番:許由がひょうたんを捨てた理由、「いかばかり心のうち涼しかりけん」の訳、「こそ〜けめ、」の逆接がよく問われる。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 婉曲のむ(ん):世をむさぼらざらん(〜ような)
- 存続のり(富める・したがへる)と同格のの(賢き人の富める)
- 呼応の副詞さらに〜なし=まったく〜ない
- 過去推量けむ(いかばかり〜涼しかりけん)
- こそ〜已然形、で続くと逆接(伝へけめ、)
「人は己をつづまやかにし」はどんな段?(許由・孫晨と兼好の考え)
第18段は、質素な生き方をほめる段です。兼好はまず「自分をつつましくし、ぜいたくをしりぞけ、財産を持たず、世間の名誉や利益をむさぼらないのがよい」と言い切り、「昔から賢い人でお金持ちの人はめったにいない」と続けます。
例に出されるのは、中国の二人です。許由は、中国の古い伝説に出てくる、世をのがれて暮らした人物で、天子の位をゆずると言われても断ったと伝えられます。徒然草では、もらったひょうたんさえ「風で鳴ってやかましい」と捨てた話が語られます。孫晨は、冬に布団がなく、藁一束を夜は敷いて寝て、朝には片づけたという人物です。
兼好は、中国ではこうした人をすばらしいと思って書き残したのに、日本ではこうした話を語り伝えもしないだろう、と結びます。物をたくさん持つことより、心が軽く、すがすがしいことを大切にする考えは、無常観(すべては移り変わる)とも深くつながっています。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
人は、おのれをつづまやかにし、おごりを退けて、財を持たず、世をむさぼらざらんぞいみじかるべき。
現代語訳人は、自分の身をつつましくし、ぜいたくをしりぞけて、財産を持たず、世間の名誉や利益をむやみに欲しがらないようなのが、すばらしいにちがいない。
- 「つづまやかなり」は「質素だ・つつましい」。「むさぼる」は「欲ばって求める」。
- 「むさぼらざらん」の「ん」は文の中の連体形で婉曲(〜ような)。→推量の助動詞「む」(推量・意志・婉曲・仮定)
- 「ぞ〜べき」は係り結び。「べし」はここでは当然(〜にちがいない・〜はずだ)。→助動詞「べし」の6つの意味(スイカトメテ)


2
昔より、賢き人の富めるはまれなり。
現代語訳昔から、賢い人で裕福である者はめったにいない。
- 「富める」の「る」は存続「り」の連体形(四段「富む」の已然形「富め」につく)。下に「人」をおぎなって「裕福である人は」と訳す。→完了・存続の助動詞「り」の接続(サ未四已)
- 「賢き人の富める」の「の」は同格(〜で)。「賢い人で、裕福である人」という意味。


3
唐土に許由といひつる人は、さらに身にしたがへる貯へもなくて、水をも手してささげて飲みけるを見て、なりひさごといふ物を人の得させたりければ、
現代語訳中国に許由といった人は、まったく身につけた財産もなくて、水さえも手ですくって飲んでいたのを見て、ひょうたんというものをある人が与えたところ、
- 「さらに〜なし」は「まったく〜ない」。「さらに」は打消の言葉といっしょに使う呼応の副詞。→呼応の副詞(さらに〜ず・つゆ〜ず・え〜ず)
- 「唐土」は中国。「なりひさご」は実がなる「ひょうたん」で、中をくりぬいて水を入れる器にした。
- 「得さす」は「与える・取らせる」。「得させたりければ」は「已然形+ば」で「与えたところ」。

出典:西川祐信 画『絵本徒然草(祐信画鑑)』上巻(国立国会図書館デジタルコレクション)
4
ある時、木の枝に掛けたりければ、風に吹かれて鳴りけるを、かしかましとて捨てつ。
現代語訳ある時、(そのひょうたんを)木の枝に掛けておいたところ、風に吹かれて鳴ったのを、やかましいと言って捨ててしまった。
- 「吹かれて」の「れ」は受身(〜される)。→「る・らる」の受身の見分け方
- 「捨てつ」の「つ」は完了の終止形(〜てしまった)。→完了の助動詞「つ・ぬ」の違い
- 「かしかまし」は「やかましい・うるさい」(「かしがまし」とも書く)。風でカラカラ鳴る音さえ、わずらわしいと感じた。


5
また手にむすびてぞ水も飲みける。いかばかり心のうち涼しかりけん。
現代語訳また手ですくって水を飲んだのだった。どれほど心の中はすがすがしかったことだろう。
- 「むすぶ」は「手のひらを合わせて水をすくう」。「ぞ〜ける」は係り結び。→係り結びの法則(ぞ〜連体形)
- 「いかばかり〜けん」は、疑問の言葉「いかばかり(どれほど)」を受けて連体形「けん」で終わる形。「けん」は過去推量(〜ただろう)。→過去推量の助動詞「けむ」
- 「涼し」は「すがすがしい・さっぱりしている」。物を持たない人の心の軽さを想像している。

6
孫晨は、冬の月に衾なくて、藁一束ありけるを、夕べにはこれに臥し、朝にはをさめけり。
現代語訳孫晨は、冬の間、夜具がなくて、わら一束があったのを、夕方にはこれ(の上)に寝て、朝には片づけた。
- 「衾」は「ふすま」と読み、寝るときに体にかける夜具(今のかけ布団)。「臥す」は「横になる・寝る」。
- 「をさむ」は「しまう・片づける」。わら一束を布団がわりにして、毎朝きちんと片づけていた。
7
唐土の人は、これをいみじと思へばこそ、記しとどめて世にも伝へけめ、これらの人は語りも伝ふべからず。
現代語訳中国の人は、これをすばらしいと思ったからこそ、書きとどめて後の世にも伝えたのだろうが、こちら(日本)の人々は、語り伝えもしないだろう。
- 「こそ〜伝へけめ、」のように、こそ〜已然形で文が続くときは逆接(〜だろうが)。→係り結び「こそ〜已然形、」の逆接
- 「伝ふべからず」は「伝えはしないだろう」。「べから+ず」で打消の推量の意味になる。→助動詞「べし」の意味の見分け方
- 「これらの人」は、ここでは日本の人々をさすと考えられている。質素な生き方をほめたたえる中国と、それを語り伝えない日本を比べている。


許由と孫晨を図でくらべる(物を持たない二人)

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| つづまやかなり | つづまやかなり | 質素だ・つつましい |
| おごり | おごり | ぜいたく・思い上がり |
| むさぼる | むさぼる | 欲ばって求める |
| いみじ | いみじ | すばらしい・たいそう |
| 唐土 | もろこし | 中国 |
| さらに〜なし | さらに〜なし | まったく〜ない |
| なりひさご | なりひさご | ひょうたん |
| 得さす | えさす | 与える・取らせる |
| かしかまし | かしかまし | やかましい・うるさい |
| むすぶ | むすぶ | 手のひらで水をすくう |
| いかばかり | いかばかり | どれほど |
| 涼し | すずし | すがすがしい・さっぱりしている |
| 衾 | ふすま | 夜具・かけ布団 |
| 臥す | ふす | 横になる・寝る |
| をさむ | おさむ | しまう・片づける |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「世をむさぼらざらんぞいみじかるべき」の「ん」の意味は?
婉曲(〜ような)。文の中の連体形の「む(ん)」。
問2 「賢き人の富めるはまれなり」の「の」の用法は?
同格(〜で)。「賢い人で、裕福である人は」。
問3 「さらに身にしたがへる貯へもなくて」の「さらに〜なし」の意味は?
「まったく〜ない」。呼応の副詞。
問4 許由がひょうたんを捨てたのはなぜか。
木の枝に掛けておいたら風に吹かれて鳴り、やかましかったから。
問5 「いかばかり心のうち涼しかりけん」を現代語訳しなさい。
「どれほど心の中はすがすがしかったことだろう」。
問6 孫晨は藁一束をどのように使ったか。
夕方にはその上に寝て、朝には片づけた(布団がわりにした)。
問7 「記しとどめて世にも伝へけめ、」の「こそ〜けめ、」はどう訳すか。
「〜伝えたのだろうが」と逆接で訳す。

徒然草「人は己をつづまやかにし(許由)」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
人は、おのれをつづまやかにし、おごりを退けて、財を持たず、世をむさぼらざらんぞいみじかるべき。
昔より、賢き人の富めるはまれなり。
唐土に許由といひつる人は、さらに身にしたがへる貯へもなくて、水をも手してささげて飲みけるを見て、なりひさごといふ物を人の得させたりければ、
ある時、木の枝に掛けたりければ、風に吹かれて鳴りけるを、かしかましとて捨てつ。
また手にむすびてぞ水も飲みける。いかばかり心のうち涼しかりけん。
孫晨は、冬の月に衾なくて、藁一束ありけるを、夕べにはこれに臥し、朝にはをさめけり。
唐土の人は、これをいみじと思へばこそ、記しとどめて世にも伝へけめ、これらの人は語りも伝ふべからず。
徒然草「人は己をつづまやかにし(許由)」現代語訳(全文・通し)
人は、自分の身をつつましくし、ぜいたくをしりぞけて、財産を持たず、世間の名誉や利益をむやみに欲しがらないようなのが、すばらしいにちがいない。
昔から、賢い人で裕福である者はめったにいない。
中国に許由といった人は、まったく身につけた財産もなくて、水さえも手ですくって飲んでいたのを見て、ひょうたんというものをある人が与えたところ、
ある時、(そのひょうたんを)木の枝に掛けておいたところ、風に吹かれて鳴ったのを、やかましいと言って捨ててしまった。
また手ですくって水を飲んだのだった。どれほど心の中はすがすがしかったことだろう。
孫晨は、冬の間、夜具がなくて、わら一束があったのを、夕方にはこれ(の上)に寝て、朝には片づけた。
中国の人は、これをすばらしいと思ったからこそ、書きとどめて後の世にも伝えたのだろうが、こちら(日本)の人々は、語り伝えもしないだろう。
徒然草「人は己をつづまやかにし(許由)」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(徒然草の基本)
徒然草の作者は誰?
兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。
徒然草はいつの作品?
鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。
徒然草の冒頭(書き出し)は?
序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。
徒然草はどんな作品?
序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。
徒然草の目次(教科書に出る段)
徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 徒然草「つれづれなるままに」(序段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「いでや、この世に生まれては」(第1段)の原文・現代語訳
- 徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」(第7段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「家居のつきづきしく」(第10段)の原文・現代語訳
- 徒然草「神無月のころ」(第11段)の原文・現代語訳 定番
- 人は己をつづまやかにし(許由)(第18段・このページ)
- 徒然草「折節の移り変はるこそ」(第19段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「九月二十日のころ」(第32段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「五月五日、賀茂の競べ馬を」(第41段)の原文・現代語訳
- 徒然草「公世の二位のせうとに」(第45段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「亀山殿の御池に」(第51段)の原文・現代語訳
- 徒然草「仁和寺にある法師」(第52段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「これも仁和寺の法師」(第53段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「真乗院に、盛親僧都とて」(第60段)の原文・現代語訳
- 徒然草「筑紫に、なにがしの押領使」(第68段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「名を聞くより」(第71段)の原文・現代語訳
- 徒然草「世に語り伝ふること」(第73段)の原文・現代語訳
- 徒然草「人の心すなほならねば」(第85段)の原文・現代語訳
- 徒然草「奥山に、猫またといふもの」(第89段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「ある人、弓射ることを習ふに」(第92段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「荒れたる宿の」(第104段)の原文・現代語訳
- 徒然草「高名の木登り」(第109段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「友とするにわろき者」(第117段)の原文・現代語訳
- 徒然草「花は盛りに」(第137段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「能をつかんとする人」(第150段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「世に従はん人は」(第155段)の原文・現代語訳
- 徒然草「相模守時頼の母は」(第184段)の原文・現代語訳
- 徒然草「一事を必ずなさんと思はば」(第188段)の意味と現代語訳 定番
- 徒然草「平宣時朝臣」(第215段)の原文・現代語訳
- 徒然草「丹波に出雲といふ所あり」(第236段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「八つになりし年」(第243段)の原文・現代語訳 定番

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


