徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」(第7段)原文と現代語訳・文法|世は定めなきこそいみじけれ(無常観・反語・係り結び)

ミスターT先生

定番 教科書によく出る定番の段 第7段

徒然草の「あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ち去らでのみ」から始まる段(第7段)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • 兼好の主張:人がもし死なずにいつまでも生きるなら、しみじみとした味わいはなくなる。この世は無常(定めがない)だからこそすばらしい。長生きして世の中に執着するより、四十歳にならないくらいで死ぬのが見苦しくない、と述べる。
  • 文法の要点:係り結び「こそ〜いみじけれ」「こそ〜せめ」「こそ〜べけれ」「なん〜あさましき」、反語「何かはせん」、婉曲の「む(ん)」、未然形+「ば」の仮定条件。
  • テストの定番:教科書によく出る段。主題は「世は定めなきこそいみじけれ」、徒然草の無常観を代表する段。「あだし野の露」「鳥部山の煙」=はかない命のたとえ。
サクラちゃん
サクラちゃん
T先生、この段は「命」の話なんですか? なんだか難しそう……。
ミスターT先生
ミスターT先生
そうや。人の命ははかないからこそ味わい深い、という徒然草の無常観がいちばんはっきり出る段や。教科書・テストによく出る定番やで。
合格先生
合格先生
わたしがT先生に習ったとき、「この段は1行の主題と反語と係り結びの宝庫や」と言われました。順番に見ていきましょう。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 主題:世は定めなきこそいみじけれ(無常だからこそすばらしい)
  2. 反語何かはせん=何になろうか、いや何にもならない
  3. 文中の連体形のむ(ん)は婉曲(死なんこそ・見んまで)
  4. 係り結びこそ〜已然形・なん〜連体形
  5. 古今異義語あさまし=なさけない、もののあはれ=しみじみとした情趣

第7段はどんな段?(あだし野・鳥部山と兼好の無常観)

第7段は、徒然草の無常観(この世のすべては移り変わり、いつまでも同じではないという考え)がよく分かる段です。

書き出しのあだし野は京都の嵯峨野の奥、鳥部山は東山のあたりにあり、どちらも昔、亡くなった人を葬った場所として知られていました。「露」はすぐに消え、「煙」はすぐに立ち去るものなので、人の命のはかなさのたとえになっています。

兼好は、「もし人が死なないなら、ものごとのしみじみとした味わいはなくなる」と考えます。命に限りがあるからこそ、一日一日がいとおしく感じられる、というのです。後半の「四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ」はとても強い言い方ですが、言いたいのは「長生きそのものが悪い」ということより、年をとって世の中への執着ばかりが深くなり、もののあはれが分からなくなることがなさけない、という点です。

※手元の古い本の「住み果つる習ひ」「物の哀れ」「むさぼる」などは、教科書でよく見るかな書きの形にそろえました。「死なむ」は教科書の多くと同じく「死なん」としています。

1. もしも不死なら 露も煙も消えず味わいがない 2. 無常こそよい 世は定めなきこそいみじけれ 3. 命をくらべる かげろう・蟬人ほど長いものはない 4. 味わい方しだい 一年でも長い千年も一夜の夢 5. 老いへの考え 四十に足らぬほどがよい 6. 執着をきらう 世をむさぼる心あさましき
図1 徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ち去らでのみ住み果つるならひならば、いかにもののあはれもなからん。

現代語訳あだし野の露が消える時がなく、鳥部山の(火葬の)煙が消え去らないままで、(人が)いつまでもこの世に住み続けるのがきまりであるならば、どんなにか、しみじみとした味わいもないことだろう。

  • 「あだし野」は京都の嵯峨野の奥、「鳥部山」は京都の東山のあたりで、どちらも死者を葬った場所。「露」も「煙」も、すぐ消えるはかない命のたとえ。
  • 「ならば」は未然形+「ば」なので仮定条件(もし〜ならば)。実際には人は死ぬので、「もし人が死なないとしたら」という仮の話をしている。→接続助詞「ば」(未然形+ば・已然形+ば)
  • 「去らで」の「で」は打消の接続助詞(〜ないで)。「住み果つる」の「果つる」は動詞「果つ」の連体形で、完了の助動詞「つ」ではない。→接続助詞の一覧(ば・ど・で・つつ)
  • 「もののあはれ」は、ものごとにふれて自然にわき起こる、しみじみとした感動。→古今異義語の一覧(あはれ・をかし・あさまし)
うかるくん
うかるくん
「あだし野」とか「鳥部山」って、きれいな景色の名所ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
残念ながら逆や。どっちも京都で亡くなった人を葬った場所。そこの「露」と「煙」は、すぐ消えるはかない命のたとえなんや。「もし露も煙も消えへんかったら(=人が死なへんかったら)」という仮定の話から始まるで。

2

世は定めなきこそいみじけれ。

現代語訳この世は、無常で定まりがないからこそ、すばらしいのだ。

  • この段の主題。「定めなき」は形容詞の連体形で、下に「こと」をおぎなって「定まりがないこと(無常であること)」と読む。
  • 係り結び:「こそ」を受けて、形容詞「いみじ」が已然形「いみじけれ」で結ぶ。→係り結びとは?ぞ・なむ・や・か・こそと結びの形
  • 「いみじ」は、良い意味にも悪い意味にも程度がはなはだしいこと。ここは良い意味で「すばらしい」。
ミスターT先生
ミスターT先生
この一文が主題や。「世は定めなきこそいみじけれ」=無常だからこそすばらしい。ここ、テストに出るで! 「主題を本文中から抜き出せ」と聞かれたら、まずここを疑うんや。

3

命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。かげろふの夕べを待ち、夏の蟬の春秋を知らぬもあるぞかし。

現代語訳命のあるものを見ると、人間ほど長生きするものはない。かげろうが(朝に生まれて)夕方を待つほどの命で死に、夏の蟬が春や秋を知らない(で死ぬ)ようなものもあるのだよ。

  • 「人ばかり久しきはなし」の「ばかり」は程度を表す副助詞で、「人ほど長生きするものはない」と比べている。
  • 「知らぬ」の「ぬ」は、下に「(もの)も」と続く連体形なので打消「ず」の連体形。→「ぬ」の識別(完了と打消)
  • 「ぞかし」は文末で「〜だよ」と念をおす言い方。文の終わりの「ぞ」なので、係り結びにはならない。
  • 「かげろふの夕べを待ち」は「かげろうが夕方を待つ(ほどの短い命)」。かげろうは命が短い虫の代表。
サクラちゃん
サクラちゃん
かげろうって、そんなに命が短いんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
成虫になってからは、とても短い命の虫として昔から知られてる。兼好は、かげろうや蟬とくらべて「人間ほど長生きするものはない」と言うてるんや。だから本当は、人の一生は短くないはずやと。
第7段の場面。はかない命と、子や孫をかわいがる老人(徒然草の古い絵)
第7段の場面。はかない命と、子や孫をかわいがる老人
出典:西川祐信 画『絵本徒然草(祐信画鑑)』上巻(国立国会図書館デジタルコレクション)

4

つくづくと一年を暮らすほどだにも、こよなうのどけしや。飽かず、惜しと思はば、千年を過ぐすとも、一夜の夢の心地こそせめ。

現代語訳しみじみと一年を暮らすあいだでさえも、このうえなくゆったりとしている(長い)ものだよ。(それなのに命を)満足せず、惜しいと思うならば、たとえ千年を過ごしても、一夜の夢のような(短い)気持ちがするだろう。

合格先生
合格先生
「一夜の夢の心地こそせめ」は、T先生がよく「満足できない人には千年でも一晩」と言いかえていました。受験勉強の一日も、味わい方しだいで長くも短くもなりますね。

5

住み果てぬ世に、みにくき姿を待ちえて、何かはせん。命長ければ辱多し。

現代語訳いつまでも住み続けることのできないこの世に、(年老いた)みにくい姿になるのを待ちうけて、何になろうか、いや何にもならない。命が長いと、恥をかくことも多い。

  • 反語:「何かはせん」は「何になろうか、いや何にもならない」。「かは」は反語になりやすい係助詞で、結びの「ん(む)」は連体形。→係り結びと反語(や・か・かは・やは)
  • 「住み果てぬ世」の「ぬ」は下に名詞「世」があるので打消「ず」の連体形。「最後まで住みとおすことのできない世」。
  • 「命長ければ辱多し」は中国の古典『荘子』に出てくる言葉をふまえたものとされる。「長ければ」は已然形+「ば」で「長いと」。
うかるくん
うかるくん
「何かはせん」って、「何をしようか」でいいんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
「かは」が出たら反語を疑う。「何になろうか、いや何にもならない」まで訳して満点や。「いや〜ない」を書き忘れると減点されるで。

6

長くとも、四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ。

現代語訳長くても、四十歳にならないくらいで死ぬようなことが、見苦しくない(よい)だろう。

サクラちゃん
サクラちゃん
えっ、四十歳になる前に死ぬのがいいって……兼好さん、ちょっと言いすぎじゃないですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
そう感じるのが自然や。ただ、兼好の言いたいことは次の段落にある。年をとって欲ばかり深くなり、もののあはれが分からなくなるのがなさけない、ということなんや。

7

そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出でまじらはんことを思ひ、夕べの日に子孫を愛し、さかゆく末を見んまでの命をあらまし、ひたすら世をむさぼる心のみ深く、もののあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。

現代語訳その年ごろを過ぎてしまうと、(老いた)容姿を恥じる心もなくなり、人の中に出てまじわろうとすることを考え、人生の夕暮れ(老年)に子や孫をかわいがり、(その子孫が)栄えていく将来を見とどけるまでの命を期待し、ひたすらこの世(の名誉や利益)に執着する心ばかりが深くなり、しみじみとした情趣もわからなくなっていくのは、なさけないことだ。

合格先生
合格先生
「あらまし」を反実仮想の「まし」と読みまちがえる人が多いです。T先生には「あらますという動詞や。辞書を引け」と言われて、すぐ引いた思い出があります。

命の長さと「味わい方」を図で確かめる(かげろう・蟬・人)

命の長さ(兼好のくらべ方) かげろう 朝に生まれ、夕べには死ぬ 夏の蟬 春も秋も知らない 人 人ばかり久しきはなし(いちばん長生き) 満足して味わえば 一年でさえ こよなうのどけし 飽かず惜しと思えば 千年を過ごしても 一夜の夢の心地
図2 第7段の命の比べ方(長さより「味わい方」で感じ方が変わる)
ミスターT先生
ミスターT先生
兼好の言いたいことは「命の長さ」より「味わい方」や。無常やからこそ、今をしみじみ味わえる。これが徒然草の無常観の中心やで。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
あだし野あだしの京都・嵯峨野の奥の葬送の地
鳥部山とりべやま京都・東山のあたりの葬送(火葬)の地
ならひならい世のきまり・習慣
もののあはれもののあわれものごとにふれて感じる、しみじみとした情趣
定めなしさだめなし定まりがない・無常だ
いみじいみじすばらしい・ひどい(程度がはなはだしい)
久しひさし長い間である・長生きだ
つくづくとつくづくとしみじみと・つくづく
こよなしこよなし格別だ・このうえない
のどけしのどけしのんびりしている・ゆったりしている
飽くあく満足する
めやすしめやすし見苦しくない・感じがよい
あらますあらます期待する・予定する
むさぼるむさぼる欲ばって求める・執着する
あさましあさまし驚きあきれる・なさけない

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 この段の主題を、本文中の一文で答えなさい。

「世は定めなきこそいみじけれ。」(この世は無常だからこそすばらしい)

問2 「あだし野の露」「鳥部山の煙」は、何をたとえたものか。

すぐに消えてしまう、はかない人の命。あだし野・鳥部山はどちらも京都の葬送の地。

問3 「住み果つるならひならば」の「ば」は、仮定条件と確定条件のどちらか。

仮定条件(もし〜ならば)。未然形「なら」+「ば」だから。

問4 「何かはせん」を、反語に注意して現代語訳しなさい。

「何になろうか、いや何にもならない。」

問5 「死なんこそ」の「ん」の意味を答えなさい。

婉曲(〜ような)。下に「こと」がかくれた連体形の「む」だから。

問6 兼好は、人は何歳くらいまでに死ぬのがよいと述べているか。

「長くとも、四十に足らぬほど」、つまり長くても四十歳にならないくらい。

問7 「もののあはれも知らずなりゆくなん、あさましき」で、係り結びの係りの語と結びの語を答えなさい。

係りは係助詞「なん(なむ)」、結びは「あさましき」(形容詞の連体形)。

問8 「あさまし」の古文での意味を答えなさい。

驚きあきれるほどだ・なさけない。今の「さもしい」とはちがう。

うかるくん
うかるくん
命がはかないから、今日一日が大事になる……。ちょっとこわい段だと思ったけど、前向きな話にも読めますね。

徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ち去らでのみ住み果つるならひならば、いかにもののあはれもなからん。

世は定めなきこそいみじけれ。

命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。かげろふの夕べを待ち、夏の蟬の春秋を知らぬもあるぞかし。

つくづくと一年を暮らすほどだにも、こよなうのどけしや。飽かず、惜しと思はば、千年を過ぐすとも、一夜の夢の心地こそせめ。

住み果てぬ世に、みにくき姿を待ちえて、何かはせん。命長ければ辱多し。

長くとも、四十に足らぬほどにて死なんこそ、めやすかるべけれ。

そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出でまじらはんことを思ひ、夕べの日に子孫を愛し、さかゆく末を見んまでの命をあらまし、ひたすら世をむさぼる心のみ深く、もののあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。

徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」現代語訳(全文・通し)

あだし野の露が消える時がなく、鳥部山の(火葬の)煙が消え去らないままで、(人が)いつまでもこの世に住み続けるのがきまりであるならば、どんなにか、しみじみとした味わいもないことだろう。

この世は、無常で定まりがないからこそ、すばらしいのだ。

命のあるものを見ると、人間ほど長生きするものはない。かげろうが(朝に生まれて)夕方を待つほどの命で死に、夏の蟬が春や秋を知らない(で死ぬ)ようなものもあるのだよ。

しみじみと一年を暮らすあいだでさえも、このうえなくゆったりとしている(長い)ものだよ。(それなのに命を)満足せず、惜しいと思うならば、たとえ千年を過ごしても、一夜の夢のような(短い)気持ちがするだろう。

いつまでも住み続けることのできないこの世に、(年老いた)みにくい姿になるのを待ちうけて、何になろうか、いや何にもならない。命が長いと、恥をかくことも多い。

長くても、四十歳にならないくらいで死ぬようなことが、見苦しくない(よい)だろう。

その年ごろを過ぎてしまうと、(老いた)容姿を恥じる心もなくなり、人の中に出てまじわろうとすることを考え、人生の夕暮れ(老年)に子や孫をかわいがり、(その子孫が)栄えていく将来を見とどけるまでの命を期待し、ひたすらこの世(の名誉や利益)に執着する心ばかりが深くなり、しみじみとした情趣もわからなくなっていくのは、なさけないことだ。

徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(徒然草の基本)

徒然草の作者は誰?

兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。

徒然草はいつの作品?

鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。

徒然草の冒頭(書き出し)は?

序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。

徒然草はどんな作品?

序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。

徒然草の目次(教科書に出る段)

徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。

ミスターT先生
ミスターT先生
次は第11段「神無月のころ」。山里で見つけた静かな庵に感心したのに、みかんの木の囲いを見てがっかりする話や。兼好の「残念ポイント」はどこか、いっしょに見よう。お楽しみに!

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。