「一事を必ずなさんと思はば」徒然草188段の原文・現代語訳と意味|受験生に贈る兼好法師の言葉【受験の格言】

この記事の結論

  • 「一事を必ずなさんと思はば」は、兼好法師『徒然草』第188段の一節。「一つのことを必ず成しとげたいなら、ほかのことはすべて捨てる覚悟を持て」という意味です
  • 段の前半は、説経師になるはずが乗馬や歌の練習に夢中になり、肝心の説経を習わないまま年を取った男の話
  • 受験生なら、人に笑われても受験勉強を最優先にする覚悟を持とう、というメッセージ
兼好法師(吉田兼好)

「一事を必ずなさんと思はば」の原文と現代語訳

原文現代語訳
一事を必ずなさんと思はば、一つのことを必ず成しとげようと思うなら、
他の事の破るるをもいたむべからず、ほかのことがだめになっても嘆いてはいけない。
人の嘲りをも恥づべからず。人にばかにされても恥じてはいけない。
万事にかへずしては、一の大事成るべからず。すべてのことと引きかえにしなければ、一つの大事は成しとげられない。

読み方は「いちじを かならず なさんと おもわば、たのことの やぶるるをも いたむべからず、ひとの あざけりをも はずべからず。ばんじに かえずしては、いちの だいじ なるべからず」です。「思はば」「恥づ」「かへ」は歴史的仮名遣いなので、「おもわば」「はず」「かえ」と読みます(くわしくは「いずれ」と「いづれ」の記事の早見表へ)。

徒然草第188段はどんな話?(あらすじ)

目標説経師(お坊さん)になって身を立てる ▶ 寄り道まず乗馬を習う次に早歌(流行歌) ▶ 結果説経を習うひまがないまま老いる 一番大事なこと以外は捨てる覚悟を持て、という教え
説経師になりそこねた男の話(第188段の前半)

ある人が、子どもを法師にして「学問をして、説経(仏の教えを人々に説くこと)で身を立てなさい」と言いました。子は説経師になるために、まず馬に乗る練習をし(法事に招かれたとき、迎えの馬から落ちては困るから)、次に早歌(そうか)という流行歌を習いました(法事のあとの酒の席で芸がなくては困るから)。この2つが上手になるにつれてますます熱中し、肝心の説経を習うひまがないまま、年を取ってしまった――という話です。

兼好は、「この法師だけでなく、世の中の人はみなこうだ」と言い、だからこそ一番大事なことを決めたら、ほかのことは捨てる覚悟を持てと説いています。その結論にあたるのが、この一節です。

第188段ぜんたいの流れ(図解)

教科書では前半の法師の話と結論だけが取り上げられることが多いのですが、第188段はもっと長く、いくつものたとえ話が重なっています。全体の流れは次のとおりです。

①たとえ話法師の子が乗馬と早歌に夢中になり、説経を習わないまま老いる ▼ ②世の人もみな同じ若いうちは「いつかやろう」と思い、目の前のことに追われて年を取る ▼ ③主張いちばん大事なこと(第一の事)を決め、ほかは思い捨てて一事に励め ▼ ④たとえ碁の名人は小を捨てて大を取る/東山より西山が大事なら引き返す ▼ ⑤結論(有名な一節)一事を必ずなさんと思はば、他の事の破るるをもいたむべからず… ▼ ⑥登蓮法師の話雨がやむのも待たずに学びに出かけた
徒然草第188段の流れ:たとえ話→主張→たとえ→結論→登蓮法師の話

③の主張の部分には、「一生のうち、むねとあらまほしからんことの中に、いづれかまさるとよく思ひくらべて」(一生のうちで、ぜひやりたいことの中で、どれがいちばん大事かをよく比べて)という言葉が出てきます。ここにも歴史的仮名遣いの「いづれ(どれ)」が使われています。

④では、碁を打つ人が小さな石を捨てて大きな利益を取ること、京都に住む人が東山に用事で来ても、西山に行くほうが大事だと気づいたら、門の前からでも引き返して西山へ行くべきだ、というたとえが出てきます。せっかくここまで来たのだから、という気持ちを捨てるのがむずかしいのは、今も昔も同じです。

⑥の登蓮法師(とうれんほうし)の話では、「ますほの薄(すすき)」という言葉の意味を知る人がいると聞いた登蓮が、雨が降っているのに蓑と笠を借りて、すぐに出かけていきます。「人の命は雨の晴れ間をも待つものかは(人の命は、雨がやむのを待ってくれるだろうか)」という言葉で、学ぶ機会をのがすなという教えがしめくくられています。

うかるくん

うかるくん

「ほかのことは全部捨てろ」って……部活も友だちも、全部やめなきゃダメってことですか?

合格先生

合格先生

そうじゃないよ。兼好が言いたいのは「いちばん大事なことを先に決めよ」ということ。法師の子は乗馬や歌が悪かったんじゃない。説経より先にそっちに時間を使い切ったのが失敗なんだ。

サクラちゃん

サクラちゃん

じゃあ受験生なら、まず勉強の時間を確保して、残りの時間で好きなことをする……ってことですね。

合格先生

合格先生

その通り。そして「ガリ勉だ」と笑われても気にしない。それが「人の嘲りをも恥づべからず」だよ。

古文の文法ポイント(べからずの訳し分け)

語句ポイント
なさん(なさむ)と思はば「む」は意志「〜しよう」。「思はば」は未然形+ば で仮定「もし思うなら」
破るる下二段動詞「破る」の連体形。「だめになる・こわれる」
いたむべからず「べからず」は禁止「〜してはならない」
かへずしては「かふ(替ふ)」+打消「ず」+「して」+「は」。「引きかえにしないでは」
成るべからずここの「べからず」は不可能「〜できない」

同じ「べからず」でも、前半は禁止、最後は不可能の意味です。文脈で訳し分けるのは、古文の入試でよく問われるポイントです。「べし」は意味が多い助動詞で、「推量・意志・可能・当然・命令・適当」の6つ(頭文字で「スイカ止めて」などと覚える)を区別できるようにしておきましょう。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

主語が「人(読者)」で「〜してはいけない」と言い聞かせているのが禁止、「大事が成る」かどうかを述べているのが不可能。主語と文の役わりを見て訳し分けよう!

受験生へのメッセージ

受験勉強を恥ずかしく思っているのか、「俺は勉強してないぜオーラ」を出している人がいます。一日10時間も勉強するなんて恥ずかしい、と思っている人もいます。⇒受験生の勉強時間アンケート

でも、受験生のやるべきことは受験勉強です。かっこつけなくてよいのです。がむしゃらに勉強する姿を、格好悪いと笑う人がいても、気にすることはありません。第188段の男のように、寄り道に夢中になって本番を迎えてしまうのがいちばんもったいない。それくらいの覚悟を持って受験勉強をしましょう。

勉強そのものの中にも「寄り道」はあります。きれいなノートづくりに何時間もかける、得意科目ばかり解いてしまう、参考書選びだけで一日が終わる――。どれも「説経の前の乗馬」になっていないか、ときどき立ち止まって考えてみてください。

たった一年です。合格してから好きなことをしましょう。

受験の格言・名言にのせている言葉です。⇒受験の格言・名言まとめ

徒然草とは?作者・成立・三大随筆

日本三大随筆の年表 平安時代 鎌倉時代 枕草子1000年ごろ清少納言 方丈記1212年鴨長明 徒然草1330年ごろ兼好法師 序段+243段随筆(ずいひつ)成立年は諸説
日本三大随筆の年表と徒然草の基本データ

『徒然草(つれづれぐさ)』は、鎌倉時代の終わりごろに兼好法師が書いた随筆です。序段と243の段からなり、人の生き方、仏教の無常観、季節の美しさ、宮中のしきたり、おもしろい失敗談まで、話題はさまざまです。書かれた年ははっきりせず、1330年ごろとする説が有力ですが、諸説あります。

清少納言の『枕草子』、鴨長明の『方丈記』とあわせて「日本三大随筆」と呼ばれます。文学史の問題では「作品名・作者・時代」の組み合わせがよく出ます。古典・古文という言葉のちがいは古典と古文の違いで整理しています。

徒然草の有名な段の早見表

段書き出し・通称教え(ひとことで) 序段つれづれなるままに退屈なので、心にうかぶことを書きつける 第52段仁和寺にある法師少しのことにも案内役(先達)はほしい 第92段ある人、弓射ることを習ふに二本目の矢をあてにすると気がゆるむ 第109段高名の木登り失敗は「もう安心」という所で起こる 第137段花はさかりに満開や満月だけが見どころではない 第188段ある者、子を法師になして一番大事なこと以外は捨てる覚悟を
徒然草の有名な段:序段・第52段・第92段・第109段・第137段・第188段

なかでも第92段は、第188段と考え方がよく似ています。弓を習う人が2本の矢を持って的に向かうと、師匠が「初心の人、二つの矢を持つことなかれ」と言います。2本目があると思うと、1本目に気のゆるみが出るからです。「次があるさ」と思わず、今この一回に集中せよという教えは、模試や入試本番にもそのまま当てはまります。

第137段「花はさかりに、月はくまなきをのみ見るものかは」は、満開の桜やくもりのない満月だけでなく、散りかけの花や雲にかくれた月にも味わいがある、という美意識を語った段です。徒然草には季節を語る段が多く、旧暦の季節感を知っておくと読みやすくなります。旧暦の月の名前(睦月〜師走)や二十四節気の一覧もあわせてどうぞ。

兼好は歌人としても知られ、「和歌四天王」の一人に数えられます。平安時代の和歌の世界にふれるなら、百人一首 全百首の一覧がおすすめです。たとえば23番「月見れば」(大江千里)は、第137段と同じく「月を見て思う心」をうたった秋の歌です。

作者・兼好法師について

項目内容
名前兼好法師(けんこうほうし)。俗名は卜部兼好(うらべ かねよし)。「吉田兼好」は後世の呼び名
生没年1283年ごろ〜1352年以後(諸説あり)
作品『徒然草』(日本三大随筆の一つ。ほかは『枕草子』『方丈記』)

兼好は、これまで京都の吉田神社の神職の家(吉田流の卜部氏)の出身とされ、そこから「吉田兼好」と呼ばれてきました。ただし2017年には、その根拠となる系図は後の時代に作られたものだとする説(小川剛生『兼好法師』)も出され、出身には諸説あります。吉田神社は京都大学の正門のすぐ近くにあります。⇒吉田神社の節分祭と京大合格祈願

ただし近年、国文学者の小川剛生さんが『兼好法師』(中公新書、2017年)で、兼好を吉田家の一員とする系図は室町時代の吉田兼倶による偽作だとする説を出し、大きな話題になりました。教科書や辞書の説明も、今後変わっていくかもしれません。

古文の勉強をまとめて進めたい人は、国語のまとめページから、古文・漢字・百人一首の記事をたどってみてください。

よくある質問

「一事を必ずなさんと思はば」は何の一節ですか?

兼好法師『徒然草』第188段の一節です。

現代語訳は?

「一つのことを必ず成しとげようと思うなら、ほかのことがだめになっても嘆いてはいけない。人にばかにされても恥じてはいけない。すべてのことと引きかえにしなければ、一つの大事は成しとげられない」です。

第188段はどんな話ですか?

説経師になるはずの法師が、乗馬や早歌の練習に夢中になり、肝心の説経を習わないまま年を取ってしまった話です。後半には碁や登蓮法師のたとえも続きます。

「べからず」の意味は?

前半の「いたむべからず」「恥づべからず」は禁止(〜してはならない)、最後の「成るべからず」は不可能(〜できない)の意味です。

徒然草はいつ、だれが書きましたか?

鎌倉時代の終わりごろ、兼好法師が書いた随筆です。1330年ごろとする説が有力ですが、諸説あります。

兼好法師は吉田神社の出身ですか?

長くそう言われてきましたが、2017年に小川剛生さんが、その根拠となる系図は後世の偽作だとする説を出しています。

あわせて読みたい

出典・参考

  • 兼好法師『徒然草』序段・第52段・第92段・第109段・第137段・第188段
  • コトバンク「兼好」「徒然草」(デジタル大辞泉・日本大百科全書・ブリタニカ国際大百科事典)
  • 小川剛生『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(中公新書、2017年)

最終更新:2026年10月14日/作成:大学受験合格大作戦

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