徒然草「能をつかんとする人」(第150段)原文と現代語訳・文法|よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ(心にくし・骨)

ミスターT先生

定番 教科書によく出る定番の段 第150段

徒然草の第150段、「能をつかんとする人」から始まる段を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。「うまくなってから人前に出よう」と思う人ほど上達しない、と説く段です。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • 兼好の主張:芸を身につけようとする人は「うまくなるまで人に知られず、こっそり習ってから出ていくのが奥ゆかしい」と言うが、そう言う人は一つの芸も身につかない。未熟なうちから上手な人の中にまじり、笑われても平気で稽古を続ける人は、才能がなくても、才能があって稽古しない人をついに追いこし、名人になる。天下の名人も、はじめは下手で欠点もあったが、道の決まりを守り続けたから万人の師となった。
  • 文法の要点:意志と婉曲の「む」(つかんとする・せざらんほど)、打消意志「じ」(知られじ)、係り結び(こそ→め)、推定「めり」、受身「る」(笑はるる)、打消「ず」の活用(ざら・ざる・ざれ)、過去「き」。
  • テストの定番:教科書によく出る段。「かく言ふ人」の結果、兼好がすすめる人の姿、「心にくし」=奥ゆかしい、「骨」=才能、「堪能の嗜まざる」との対比がよく問われる。
うかるくん
うかるくん
T先生、ぼく、ギターがうまくなってから友だちに聞かせようと思って、こっそり練習してるんです。
ミスターT先生
ミスターT先生
ほう。その気持ちはよう分かる。けど兼好は「そう言う人は、一芸も習ひ得ることなし」と、ばっさり言う。教科書・テストによく出る定番の段やで。
合格先生
合格先生
わたしも高校生のころ、「点が取れるようになってから模試を受けます」とT先生に言って、この段を読まされました。今では笑い話です。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. むの意味:つかんとする=意志、せざらんほど=婉曲
  2. 打消意志「じ」(人に知られじ)
  3. 係り結び「こそ〜心にくからめ」、推定めり
  4. 古今異義語心にくし(奥ゆかしい)・つれなし(平気だ)
  5. 骨=才能、堪能の嗜まざるとの対比

「能をつかんとする人」はどんな段?(芸の道と兼好の考え)

第150段は、芸の道で上達する人としない人のちがいを語る段です。ここでの「能」は、能楽のことではなく、和歌・楽器・蹴鞠・書など、当時の人が身につけようとした芸能・技芸全体を指します。

段は三つの部分からできています。①「うまくなるまでは人に知られたくない」と言う人は、結局何も身につかない。②未熟なうちから上手な人にまじって、笑われても続ける人は、才能がなくても、才能がありながら稽古しない人をついに追いこす。③天下の名人も最初は下手だったが、道の決まりを守り続けたから万人の師になった。兼好は「恥をおそれず、続けること」と「道の決まりを守ること」を、才能よりも大切だと考えています。

一つのことをやりとげる心がまえは、第188段にもくわしく書かれています(徒然草第188段「一事を必ずなさんと思はば」の意味と現代語訳)。あわせて読むと、兼好の考えがよく分かります。

1. よくある考え うまくなるまで人に知られじ 2. その結果 一芸も習ひ得ず 3. すすめる人 笑われても恥ぢず嗜む 4. 年を送れば 骨はなくても上手の位へ 5. 名人も最初は 不堪の聞こえ無下の瑕瑾 6. 道の掟 守り続けて万人の師に
図1 徒然草「能をつかんとする人」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

能をつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。

現代語訳芸能を身につけようとする人は、「うまくできないうちは、なまじっか人に知られないようにしよう。

  • 「つかんとする」の「ん(む)」は、下に「と(す)」があるので意志(〜しよう)。「せざらんほど」の「ん」は、下に名詞「ほど」があるので婉曲(〜ような)。→助動詞「む(ん)」の意味(意志・婉曲)
  • 「知られじ」は、受身「る」+打消意志「じ」で「知られないようにしよう」。→助動詞「じ」(打消推量・打消意志)
  • 「能」は「芸能・技芸」(歌・楽器・蹴鞠・書など)。「つく」は「身につける」。「なまじひに」は「中途半端に・なまじっか」。
サクラちゃん
サクラちゃん
「つかんとする」と「せざらんほど」、どっちも「ん」なのに意味がちがうんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
そうや。下を見るんや。「んとする」なら意志(〜しよう)。「ん+名詞(ほど)」なら婉曲(〜ような)。「む」は下に何が来るかで決まる。ここ、テストに出るで!

2

うちうちよく習ひ得てさし出でたらんこそ、いと心にくからめ。」と常に言ふめれど、かく言ふ人、一芸も習ひ得ることなし。

現代語訳こっそりとよく習って身につけてから人前に出ていくようなのこそ、とても奥ゆかしいだろう。」と、いつも言うようだが、このように言う人は、一つの芸も身につけることがない。

うかるくん
うかるくん
「心にくし」って、「にくい」だから悪口ですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
ちゃうちゃう。古文の「心にくし」は奥ゆかしい・心ひかれる。ほめ言葉や。「こっそり上達して出ていくのが、かっこいい」と思ってる人の言葉やな。

3

いまだ堅固かたほなるより、上手の中にまじりて、そしり笑はるるにも恥ぢず、つれなく過ぎて嗜む人、

現代語訳まだまったく未熟なうちから、上手な人たちの中にまじって、悪口を言われ笑われても恥ずかしがらず、平気な顔で通して稽古に励む人は、

  • 「笑はるる」の「るる」は受身「る」の連体形(笑われる)。→助動詞「る・らる」の4つの意味
  • 「かたほなり」は「未熟だ・不完全だ」。「堅固」はここでは「まったく」と強める言葉。
  • 「つれなし」は「平気だ・何でもないようすだ」。「嗜む」は「熱心に稽古する・努力する」。
合格先生
合格先生
「そしり笑はるるにも恥ぢず、つれなく過ぎて嗜む」。わたしはこの部分を単語カードの1枚目に書いていました。まちがえて笑われた所が、一番覚えている所なんです。
芸を習う人々のようす(徒然草の古い絵)
芸を習う人々のようす
出典:西川祐信 画『絵本徒然草(祐信画鑑)』下巻(国立国会図書館デジタルコレクション)

4

天性その骨なけれども、道になづまず、みだりにせずして年を送れば、堪能の嗜まざるよりは、つひに上手の位に至り、徳たけ、人に許されて、双なき名を得ることなり。

現代語訳生まれつきその才能がなくても、その道で行きづまらず、自分勝手にしないで年月を過ごせば、才能があっても稽古しない人よりは、最後には上手の地位に達し、人がらも芸も高まり、人に認められて、並ぶもののない名声を得るのである。

  • 「骨(こつ)」は「才能・素質」。今の「コツ」のもとになった言葉。
  • 「年を送れば」は已然形+ばで「〜と・〜ので」(確定条件)。→接続助詞「ば」(未然形+ば と 已然形+ば)
  • 「堪能(かんのう)」は「才能がある人・上手な人」。「なづむ」は「行きづまる・こだわる」、「徳たく」は「人がらや芸が高まる」、「双なし(さうなし)」は「並ぶものがない」。手元の古い本は「ならびなき名」の形。
サクラちゃん
サクラちゃん
才能がなくても、才能がある人に勝てるんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
兼好は「堪能の嗜まざるよりは」と、ちゃんと条件をつけてる。才能があっても稽古せえへん人には、続ける人がついに追いつく。才能より続けること、という考えや。

5

天下のものの上手といへども、始めは不堪の聞こえもあり、無下の瑕瑾もありき。

現代語訳天下に名高い名人といっても、はじめは下手だという評判もあり、ひどい欠点もあった。

  • 「ありき」の「き」は過去「き」の終止形。→過去の助動詞「き・けり」の違い
  • 「不堪(ふかん)」は「下手・未熟」で、「堪能」の反対。「聞こえ」は「評判」。
  • 「無下なり」は「ひどい・最低だ」。「瑕瑾(かきん)」は「きず・欠点」。
うかるくん
うかるくん
天下の名人も、最初は下手だったんですね! ちょっと安心しました。
ミスターT先生
ミスターT先生
そうや。「無下の瑕瑾もありき」。だれでも最初はひどいもんや。そこで隠れるか、出ていくかで差がつくんやな。

6

されども、その人、道の掟正しく、これを重くして放埒せざれば、世の博士にて、万人の師となること、諸道変はるべからず。

現代語訳けれども、その人が、その道の決まりを正しく守り、それを大切にして勝手気ままにしなかったので、世の中の手本となり、すべての人の師となることは、どの道でも変わるはずがない。

三つのタイプの上達の差を図で見る(年を送れば)

上達 年月(年を送れば)→ つひに追いこす 笑われても嗜む人 → 上手の位 堪能の嗜まざる人 人に知られじと隠れる人
図2 「能をつかんとする人」三つのタイプの上達の差(年月とともに)
ミスターT先生
ミスターT先生
赤い線が兼好のすすめる人や。最初は一番下でも、年を送れば才能のある人を追いこす。模試の点が悪くても、受け続けた人が最後に伸びるんやで。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
能のう芸能・技芸
なまじひになまじいに中途半端に・なまじっか
うちうちうちうちこっそりと・内々に
心にくしこころにくし奥ゆかしい・心ひかれる
かたほなりかたほなり未熟だ・不完全だ
そしるそしる悪口を言う・けなす
つれなしつれなし平気だ・何でもないようすだ
嗜むたしなむ熱心に稽古する・努力する
骨こつ才能・素質
なづむなずむ行きづまる・こだわる
堪能かんのう才能がある人・上手な人
双なしそうなし並ぶものがない
不堪ふかん下手・未熟
無下なりむげなりひどい・最低だ
放埒ほうらつ勝手気まま

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「能をつかんとする人」が常に言うことを、本文から抜き出しなさい。

「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。うちうちよく習ひ得てさし出でたらんこそ、いと心にくからめ。」

問2 「人に知られじ」の「じ」の意味は?

打消意志(〜ないようにしよう・〜まい)。

問3 「いと心にくからめ」の「心にくし」の意味と、「め」の文法的な説明は?

「心にくし」=奥ゆかしい。「め」は推量の助動詞「む」の已然形で、係助詞「こそ」の結び。

問4 「かく言ふ人」はどうなる、と兼好は言っているか。

一芸も習ひ得ることなし(一つの芸も身につけることがない)。

問5 兼好がすすめるのは、どんな人か。

まだ未熟なうちから上手な人の中にまじり、悪口を言われ笑われても恥ずかしがらず、平気で稽古を続ける人。

問6 「天性その骨なけれども」の「骨」の意味は?

才能・素質。

問7 「堪能の嗜まざる」とはどんな人か。

才能はあるが、稽古に励まない人。

問8 最後の一文で、兼好は名人も最初はどうだったと言っているか。

下手だという評判もあり、ひどい欠点もあった。それでも道の決まりを守り続けたので、万人の師となった。

うかるくん
うかるくん
こっそり練習はやめて、今度の文化祭でギターを弾いてみます。笑われても「つれなく」続けます!

徒然草「能をつかんとする人」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

能をつかんとする人、「よくせざらんほどは、なまじひに人に知られじ。

うちうちよく習ひ得てさし出でたらんこそ、いと心にくからめ。」と常に言ふめれど、かく言ふ人、一芸も習ひ得ることなし。

いまだ堅固かたほなるより、上手の中にまじりて、そしり笑はるるにも恥ぢず、つれなく過ぎて嗜む人、

天性その骨なけれども、道になづまず、みだりにせずして年を送れば、堪能の嗜まざるよりは、つひに上手の位に至り、徳たけ、人に許されて、双なき名を得ることなり。

天下のものの上手といへども、始めは不堪の聞こえもあり、無下の瑕瑾もありき。

されども、その人、道の掟正しく、これを重くして放埒せざれば、世の博士にて、万人の師となること、諸道変はるべからず。

徒然草「能をつかんとする人」現代語訳(全文・通し)

芸能を身につけようとする人は、「うまくできないうちは、なまじっか人に知られないようにしよう。

こっそりとよく習って身につけてから人前に出ていくようなのこそ、とても奥ゆかしいだろう。」と、いつも言うようだが、このように言う人は、一つの芸も身につけることがない。

まだまったく未熟なうちから、上手な人たちの中にまじって、悪口を言われ笑われても恥ずかしがらず、平気な顔で通して稽古に励む人は、

生まれつきその才能がなくても、その道で行きづまらず、自分勝手にしないで年月を過ごせば、才能があっても稽古しない人よりは、最後には上手の地位に達し、人がらも芸も高まり、人に認められて、並ぶもののない名声を得るのである。

天下に名高い名人といっても、はじめは下手だという評判もあり、ひどい欠点もあった。

けれども、その人が、その道の決まりを正しく守り、それを大切にして勝手気ままにしなかったので、世の中の手本となり、すべての人の師となることは、どの道でも変わるはずがない。

徒然草「能をつかんとする人」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(徒然草の基本)

徒然草の作者は誰?

兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。

徒然草はいつの作品?

鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。

徒然草の冒頭(書き出し)は?

序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。

徒然草はどんな作品?

序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。

徒然草の目次(教科書に出る段)

徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。

ミスターT先生
ミスターT先生
次は「丹波に出雲といふ所あり」。神社の獅子と狛犬が後ろ向きに立っているのを見て、えらいお坊さんが感動して涙を流す。ところが…。徒然草の中でも指折りの笑える話やで。お楽しみに!

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。