
定番 教科書によく出る定番の段 第92段
徒然草の第92段、「ある人、弓射ることを習ふに」から始まる段を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。「初心の人、二つの矢を持つことなかれ」で知られる、なまけ心をいましめる段です。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- 兼好の主張:弓の先生は「初心者は二本の矢を持つな。あとの矢をあてにして、最初の矢がいいかげんになる」と教えた。なまける心は自分では気づかないもので、この教えはすべてのことにあてはまる。人は「次がある」と思って先のばしにするが、今この一瞬にすぐ実行することこそむずかしく、大切だ。
- 文法の要点:禁止「〜ことなかれ」、反語「思はんや」「知らんや」、意志の「む」(せんと思ふ)、当然・適当の「べし」、「いはんや」(まして)、なんぞ〜連体形の問いかけ。
- テストの定番:教科書によく出る段。「二つの矢を持つことなかれ」の理由(後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり)、「懈怠」の読みと意味、反語の訳、兼好の主張がよく問われる。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 禁止「〜ことなかれ」(〜してはいけない)
- 反語「思はんや」「知らんや」(〜だろうか、いや〜ない)
- なほざりなり(いいかげんだ)・懈怠(なまけること)
- 当然・適当のべし、意志のむ(せんと思ふ)
- いはんや=まして、なんぞ〜連体形の問いかけ
「ある人、弓射ることを習ふに」はどんな段?(弓の稽古と兼好の考え)
第92段は、弓の稽古のひとこまから、人の心にひそむなまけ心(懈怠)を語る段です。前半は弓の先生の教え、後半は兼好が「このいましめ、万事にわたるべし」と、仏道の修行、さらにはすべての物事へと話を広げます。具体的な話から始めて、一般的な教えにまとめるのは、徒然草によくある組み立てです。
弓は、昔の武士や貴族にとって大切なたしなみでした。ふつうは二本の矢を持って順に射ますが、先生は「初心者は一本だけ持て」と言います。二本目があると思うだけで、一本目への集中がわずかにゆるむ、それを本人は気づかないけれど、先生には見えている、というのです。
後半の「夕べには朝あらんことを思ひ」は、「まだ時間がある」と先のばしにする心です。兼好は、すべては移り変わり、いつ終わるか分からないという無常観を持っていたので、「今この一瞬」を大切にせよと強く説きます。同じ考えは、第188段にも出てきます(徒然草第188段「一事を必ずなさんと思はば」の意味と現代語訳)。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
ある人、弓射ることを習ふに、もろ矢をたばさみて的に向かふ。
現代語訳ある人が、弓を射ることを習うときに、二本の矢を手にはさんで持って的に向かった。
- 「もろ矢」は、二本ひと組の矢(甲矢と乙矢)。弓の稽古では、ふつう二本を持って順に射る。
- 「たばさむ」は「手にはさんで持つ・わきにはさむ」。
- 「習ふに」の「に」は、ここでは「〜するときに」と時を表す。
2
師の言はく、「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。
現代語訳(弓の)先生が言うことには、「初心者は、二本の矢を持ってはいけない。あとの矢をあてにして、最初の矢にいいかげんな気持ちが生まれる。
- 「言はく」は「言うことには」。下にかぎかっこの会話が続く合図(ク語法)。
- 「〜ことなかれ」は「〜してはいけない」という禁止の言い方。漢文の「勿(なかれ)」と同じ。
- 「なほざりなり」は「いいかげんだ・本気でない」。この段のキーワード。


3
毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ。」と言ふ。
現代語訳毎回、ただ当たりはずれを考えずに、この一本の矢で決めよう(決めなければならない)と思え。」と言う。
- 「定むべし」の「べし」は当然・適当(〜なければならない・〜のがよい)。「べし」は意味が多いので、文脈で訳し分ける。→助動詞「べし」の6つの意味(スイカトメテ)
- 「得失なく」は「当たるか外れるか(得か損か)を考えずに」。結果を気にせず、一本に集中せよということ。
- 「思へ」は四段動詞「思ふ」の命令形。先生の強い言い方。
4
わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はんや。
現代語訳たった二本の矢で、先生の目の前で、そのうち一本をいいかげんにしようと思うだろうか、いや、思うはずがない。
- 「思はんや」は反語。「〜だろうか、いや〜ない」と、強く打ち消す。徒然草に多い言い方。→係り結びと疑問・反語の「や・か」
- 「せんと思ふ」の「ん(む)」は、下に「と思ふ」があるので意志(〜しよう)。→助動詞「む(ん)」の意味(推量・意志・婉曲)
- 「おろかなり」は今の「ばかだ」ではなく「いいかげんだ・おろそかだ」。手元の古い本は「おろそかに」。教科書の多くは「おろかに」の形。


5
懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。このいましめ、万事にわたるべし。
現代語訳なまける心は、自分では気づかないけれども、先生はそれを見ぬいている。この教えは、すべてのことにあてはまるはずだ。
- 「懈怠(けだい)」は「なまけること・おこたること」。この段の中心の言葉。
- 「〜といへども」は「〜けれども・〜としても」(逆接)。漢文訓読でもよく出る。
- 「わたるべし」は当然(〜はずだ)。弓の話から「すべてのこと」へ話を広げる、兼好の得意な書き方。→「べし」の意味の見分け方

6
道を学する人、夕べには朝あらんことを思ひ、朝には夕べあらんことを思ひて、重ねてねんごろに修せんことを期す。
現代語訳仏道を学ぶ人は、夕方には(まだ)翌朝があるだろうと思い、朝には(まだ)夕方があるだろうと思って、あとでもう一度ていねいに修行しようと(先のばしを)あてにする。
- 「道を学する人」の「道」は、ここでは主に仏道(仏の教え)。「修す」は「修行する」。
- 「ねんごろなり」は「ていねいだ・熱心だ」。
- 「期す」は「あてにする・心に決める」。「まだ時間がある」と思って、今の修行を先のばしにする心を言っている。


7
いはんや一刹那のうちにおいて、懈怠の心あることを知らんや。
現代語訳まして、ほんの一瞬のうちに、なまける心があることを知るだろうか、いや、気づきはしない。
- 「いはんや」は「まして」。「(一日の中でもなまけるのに)まして一瞬のなまけ心になど」と、程度をおし進める言い方。
- 「知らんや」も反語。「知るだろうか、いや知らない」。→助動詞「む」と反語「〜んや」
- 「刹那(せつな)」は仏教の言葉で、きわめて短い時間。「一刹那」で「ほんの一瞬」。
8
なんぞ、ただ今の一念において、ただちにすることのはなはだかたき。
現代語訳どうして、今この瞬間の心で、すぐに実行することが、これほどまでにむずかしいのだろうか。
- 「なんぞ〜かたき」は、疑問の副詞「なんぞ(どうして)」を受けて、形容詞「かたし」の連体形「かたき」で文が終わる形。強い問いかけ・嘆きを表す。
- 「一念」は「ひとつの思い・その瞬間の心」。「ただちに」は「すぐに」。
- 「かたし(難し)」は「むずかしい」。「ありがたし(有り難し)」の「がたし」と同じ語。


反語「〜んや」を図で確かめる(思はんや・知らんや)

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| もろ矢 | もろや | 二本ひと組の矢 |
| たばさむ | たばさむ | 手やわきにはさんで持つ |
| なほざりなり | なおざりなり | いいかげんだ・本気でない |
| 得失 | とくしつ | 当たり外れ・得と損 |
| おろかなり | おろかなり | いいかげんだ・おろそかだ |
| 懈怠 | けだい | なまけること・おこたること |
| いましめ | いましめ | 教え・注意 |
| 万事 | ばんじ | すべてのこと |
| ねんごろなり | ねんごろなり | ていねいだ・熱心だ |
| 修す | しゅす | 修行する |
| 期す | ごす | あてにする・心に決める |
| いはんや | いわんや | まして |
| 刹那 | せつな | ほんの一瞬 |
| 一念 | いちねん | その瞬間の心・ひとつの思い |
| かたし | かたし | むずかしい |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 師が「初心の人、二つの矢を持つことなかれ」と言った理由を、本文の言葉を使って答えなさい。
「後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり」から。あとの矢をあてにして、最初の矢をいいかげんに射る心が生まれるから。
問2 「なほざりの心」の意味は?
「いいかげんな気持ち・本気でない心」。
問3 「師の前にて一つをおろかにせんと思はんや」を、反語に注意して現代語訳しなさい。
「先生の前で一本をいいかげんにしようと思うだろうか、いや、思わない。」
問4 「懈怠の心」の読みと意味は?
「けだいのこころ」。なまける心・おこたる心。
問5 「このいましめ、万事にわたるべし」の「べし」の意味は?
当然(〜はずだ)。弓の教えが、すべてのことにあてはまるはずだ、という意味。
問6 「夕べには朝あらんことを思ひ」とは、どんな心の状態か。
まだ次の時間(翌朝)があると思って、今やるべきことを先のばしにする心。
問7 「いはんや」の意味は?
「まして」。
問8 この段で兼好が最も言いたいことは何か。
人は自分のなまけ心に気づかないので、「次がある」と思わず、今この一瞬にすぐ実行すべきだということ。

徒然草「ある人、弓射ることを習ふに」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
ある人、弓射ることを習ふに、もろ矢をたばさみて的に向かふ。
師の言はく、「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、初めの矢になほざりの心あり。
毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ。」と言ふ。
わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はんや。
懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。このいましめ、万事にわたるべし。
道を学する人、夕べには朝あらんことを思ひ、朝には夕べあらんことを思ひて、重ねてねんごろに修せんことを期す。
いはんや一刹那のうちにおいて、懈怠の心あることを知らんや。
なんぞ、ただ今の一念において、ただちにすることのはなはだかたき。
徒然草「ある人、弓射ることを習ふに」現代語訳(全文・通し)
ある人が、弓を射ることを習うときに、二本の矢を手にはさんで持って的に向かった。
(弓の)先生が言うことには、「初心者は、二本の矢を持ってはいけない。あとの矢をあてにして、最初の矢にいいかげんな気持ちが生まれる。
毎回、ただ当たりはずれを考えずに、この一本の矢で決めよう(決めなければならない)と思え。」と言う。
たった二本の矢で、先生の目の前で、そのうち一本をいいかげんにしようと思うだろうか、いや、思うはずがない。
なまける心は、自分では気づかないけれども、先生はそれを見ぬいている。この教えは、すべてのことにあてはまるはずだ。
仏道を学ぶ人は、夕方には(まだ)翌朝があるだろうと思い、朝には(まだ)夕方があるだろうと思って、あとでもう一度ていねいに修行しようと(先のばしを)あてにする。
まして、ほんの一瞬のうちに、なまける心があることを知るだろうか、いや、気づきはしない。
どうして、今この瞬間の心で、すぐに実行することが、これほどまでにむずかしいのだろうか。
徒然草「ある人、弓射ることを習ふに」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(徒然草の基本)
徒然草の作者は誰?
兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。
徒然草はいつの作品?
鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。
徒然草の冒頭(書き出し)は?
序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。
徒然草はどんな作品?
序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。
徒然草の目次(教科書に出る段)
徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 徒然草「つれづれなるままに」(序段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「いでや、この世に生まれては」(第1段)の原文・現代語訳
- 徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」(第7段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「家居のつきづきしく」(第10段)の原文・現代語訳
- 徒然草「神無月のころ」(第11段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「人は己をつづまやかにし」(第18段)の原文・現代語訳
- 徒然草「折節の移り変はるこそ」(第19段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「九月二十日のころ」(第32段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「五月五日、賀茂の競べ馬を」(第41段)の原文・現代語訳
- 徒然草「公世の二位のせうとに」(第45段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「亀山殿の御池に」(第51段)の原文・現代語訳
- 徒然草「仁和寺にある法師」(第52段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「これも仁和寺の法師」(第53段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「真乗院に、盛親僧都とて」(第60段)の原文・現代語訳
- 徒然草「筑紫に、なにがしの押領使」(第68段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「名を聞くより」(第71段)の原文・現代語訳
- 徒然草「世に語り伝ふること」(第73段)の原文・現代語訳
- 徒然草「人の心すなほならねば」(第85段)の原文・現代語訳
- 徒然草「奥山に、猫またといふもの」(第89段)の原文・現代語訳 定番
- ある人、弓射ることを習ふに(第92段・このページ) 定番
- 徒然草「荒れたる宿の」(第104段)の原文・現代語訳
- 徒然草「高名の木登り」(第109段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「友とするにわろき者」(第117段)の原文・現代語訳
- 徒然草「花は盛りに」(第137段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「能をつかんとする人」(第150段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「世に従はん人は」(第155段)の原文・現代語訳
- 徒然草「相模守時頼の母は」(第184段)の原文・現代語訳
- 徒然草「一事を必ずなさんと思はば」(第188段)の意味と現代語訳 定番
- 徒然草「平宣時朝臣」(第215段)の原文・現代語訳
- 徒然草「丹波に出雲といふ所あり」(第236段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「八つになりし年」(第243段)の原文・現代語訳 定番

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


