
定番 教科書によく出る定番の段 第89段
徒然草第89段「奥山に、猫またといふものありて、人を食らふなる」から始まる段(猫また)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。化け猫のうわさにおびえた法師の、まさかのオチが楽しい段です。
解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)
この段を30秒で(あらすじと要点)
- あらすじ:「猫またという化け物が人を食うそうだ」といううわさを聞いた連歌の法師は、ひとり歩きは用心しようと思っていた。ある夜、連歌の会からひとりで帰る途中、何かが飛びついてきたので、猫まただと思って小川に転げ落ち、助けを呼んだ。近所の人が見ると顔見知りの僧で、賞品も水びたし。飛びついたのは、実は法師の飼い犬だった。
- 文法の要点:伝聞「なり」(食らふなる・あなる)と断定「なり」の見分け、撥音便の無表記、同格の「の」、婉曲の「む」、存続「り」、「にこそ」「とぞ」の結びの省略。
- テストの定番:教科書によく出る段。「なる」の識別(伝聞)、「あなる」の説明、同格の「の」の訳、「やがて」の意味、飛びついたものの正体がよく問われる。



この段で覚える文法(テストに出る順)
- 伝聞「なり」:終止形(ラ変は連体形)につく(食らふなる・あなる)
- あなる=あるなる→あんなる(撥音便の「ん」を書かない)
- 同格の「の」(法師の、〜ありけるが)
- 古今異義語やがて(すぐに)・音に聞く(うわさに聞く)
- 結びの省略:ことにこそ(あれ)・とぞ(言ふ)
「猫また」はどんな段?(連歌の法師と行願寺)
主人公は、連歌を好む法師です。連歌は、和歌の上の句(五七五)と下の句(七七)を、何人かで交互につないでいく文芸で、鎌倉時代から室町時代にかけて大流行しました。会ではよい句をよんだ人に賭物(賞品)が出ることもありました。
法師が住んでいた行願寺は京都の寺で、「革堂(こうどう)」の名でも知られています。名前の「何阿弥陀仏」は、「〇阿弥陀仏」のような名前を名のる僧が多かったことによるもので、兼好は名前をぼかして書いています。
こわいうわさを聞いて、心のどこかで「出るかも」と思いこんでいると、自分の飼い犬さえ化け物に見えてしまいます。兼好は教訓を書かずに、最後の一文のオチで読む人を笑わせています。
本文と現代語訳・文法(1文ずつ)
色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)
1
「奥山に、猫またといふものありて、人を食らふなる」と人の言ひけるに、
現代語訳「奥山に、猫またというものがいて、人を食うそうだ」とある人が言ったところ、
- 「食らふなる」の「なる」は、終止形「食らふ」についているので伝聞「なり」(〜そうだ・〜ということだ)。→伝聞・推定の助動詞「なり」と断定「なり」の見分け方
- 「猫また」は、年をとった猫が化けた妖怪で、尾が二つに分かれているといわれた。手元の古い本は「人を食ふなる」の形。


2
「山ならねども、これらにも、猫の経上がりて、猫またになりて、人とることはあなるものを」と言ふ者ありけるを、
現代語訳「山でなくても、このあたりでも、猫が年をとって化け、猫またになって、人の命をとることはあるそうだよ」と言う者がいたのを、
- 「あなる」は「あるなる→あんなる→あなる」。ラ変「あり」の連体形「ある」が撥音便で「あん」になり、「ん」が書かれない形。下の「なる」は伝聞。→音便の種類(撥音便の無表記)
- 「山ならねども」の「なら」は断定「なり」の未然形(山である)、「ね」は打消「ず」の已然形。
- 「経上がる」は「年をとって(化けるほどに)なる」。「ものを」は「〜のになあ・〜よ」と気持ちをこめる言い方。


3
何阿弥陀仏とかや、連歌しける法師の、行願寺のほとりにありけるが聞きて、ひとり歩かん身は心すべきことにこそと思ひけるころしも、
現代語訳何阿弥陀仏とかいったか、連歌をしていた法師で、行願寺のあたりに住んでいた者が(それを)聞いて、ひとりで出歩くような身は用心しなければならないことだと思っていた、ちょうどそのころ、
- 同格の「の」:「法師の、行願寺のほとりにありける(法師)が」。「〜で、…の者」と訳す。テストで超定番。→格助詞「の」の5つの用法(主格・連体修飾格・同格)
- 「歩かん身」の「ん」は下に名詞「身」があるので婉曲(仮定)(〜ような)。「ことにこそ」は下に「あれ」が省かれた結びの省略。→推量の助動詞「む」の婉曲・仮定
- 「何阿弥陀仏とかや」は「なんとか阿弥陀仏とかいった(人)」。名前をぼかしている。「しも」は強めの副助詞(ちょうど)。

4
ある所にて夜更くるまで連歌して、ただひとり帰りけるに、小川の端にて、音に聞きし猫また、あやまたず足もとへふと寄り来て、やがてかきつくままに、首のほどを食はんとす。
現代語訳ある所で夜がふけるまで連歌をして、ただひとりで帰ったときに、小川のほとりで、うわさに聞いていた猫またが、ねらいたがわず足もとへさっと寄って来て、そのまますぐに飛びつくと同時に、首のあたりを食おうとする。
- 「やがて」は古今異義語で「すぐに・そのまま」。今の「そのうちに」とはちがう。→古今異義語の一覧(やがて・あやし・ゆかし)
- 「音に聞く」はうわさに聞く。「あやまたず」は「ねらいたがわず・まちがいなく」。「〜ままに」は「〜するとすぐに」。
- 「首のほど」は「首のあたり」。「〜んとす」は「〜しようとする」。


5
肝心も失せて、防がんとするに力もなく、足も立たず、小川へ転び入りて、「助けよや、猫またよや、猫またよや」と叫べば、
現代語訳(法師は)生きた心地もせず、防ごうとするけれど力も出ず、腰がぬけて立てず、小川へころがり落ちて、「助けてくれ、猫まただ、猫まただ」と叫ぶと、
- 「肝心も失す」は「(おどろいて)正気を失う・生きた心地もしない」。
- 手元の古い本では叫び声が「助けよや、猫また、よやよや」の形になっている。教科書の多くは「猫またよや、猫またよや」。

出典:西川祐信 画『絵本徒然草(祐信画鑑)』中巻(国立国会図書館デジタルコレクション)
6
家々より松どもともして走り寄りて見れば、このわたりに見知れる僧なり。「こはいかに」とて、川の中より抱き起こしたれば、
現代語訳(人々が)家々からたいまつをともして走り寄って見ると、このあたりで顔を知っている僧である。「これはどうしたことか」と言って、川の中から抱き起こしたところ、
- 「見知れる」の「る」は存続「り」の連体形(知っている)。四段動詞の已然形(e の音)につく。→完了・存続の助動詞「たり・り」(サ未四已)
- 「松」はたいまつ(松の木で作った明かり)。「こはいかに」は「これはどうしたことか」。
7
連歌の賭物取りて、扇・小箱など懐に持ちたりけるも、水に入りぬ。
現代語訳連歌の(会の)賞品を取って、扇や小箱などをふところに持っていたのも、水の中に落ちてしまった。
- 「賭物」は連歌の会で、よい句をよんだ人などがもらう賞品。せっかくの賞品も水びたし。
- 「入りぬ」の「ぬ」は文の終わりなので完了。


8
希有にして助かりたるさまにて、はふはふ家に入りにけり。
現代語訳(法師は)やっとのことで助かったというようすで、はうようにして家に入った。
- 「希有にして」は「めったにないことで・かろうじて」。「はふはふ」ははうようにして(やっとのことで)。歴史的仮名遣いで「ほうほう」と読む。
- 「にけり」は完了「ぬ」連用形+過去「けり」。→「に」の識別(完了・断定・格助詞)
9
飼ひける犬の、暗けれど主を知りて、飛びつきたりけるとぞ。
現代語訳(実は猫またではなく、法師が)飼っていた犬が、暗かったけれど主人だと分かって、飛びついたのだということだ。
- オチ:猫まただと思ったのは、自分の飼い犬だった。「犬の」の「の」は主格(〜が)。
- 「とぞ」で終わるのは結びの省略。下に「言ふ」「言ひ伝へたる」などが省かれていて「〜ということだ」と訳す。→係り結びの結びの省略(とぞ・にこそ)
- こわいうわさを聞いて心に思いこみがあると、ただの飼い犬も化け物に見えてしまう。兼好は感想を書かず、オチだけで笑わせている。


伝聞「なり」と断定「なり」の見分け方(図で整理)

重要な古語(単語帳)
| 古語 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| 猫また | ねこまた | 年をとった猫が化けた妖怪 |
| 経上がる | へあがる | 年をとって(化けるほどに)なる |
| とかや | とかや | 〜とかいう |
| 連歌 | れんが | 上の句と下の句をつないでいく文芸 |
| 心す | こころす | 用心する・気をつける |
| 音に聞く | おとにきく | うわさに聞く |
| あやまたず | あやまたず | ねらいたがわず・まちがいなく |
| やがて | やがて | すぐに・そのまま |
| 肝心も失す | きもこころもうす | 正気を失う・生きた心地もしない |
| 松 | まつ | たいまつ |
| 見知る | みしる | 顔を知っている |
| 賭物 | かけもの | 賞品・かけた品物 |
| 希有にして | けうにして | かろうじて・めったにないことで |
| はふはふ | ほうほう | はうようにして・やっとのことで |
テストに出る問題(答えは押すと開く)
問1 「人を食らふなる」の「なる」の文法的説明をしなさい。
伝聞の助動詞「なり」の連体形(終止形「食らふ」についている)。
問2 「人とることはあなるものを」の「あなる」をもとの形にもどして説明しなさい。
「あるなる」が撥音便で「あんなる」になり、「ん」が書かれない形。ラ変「あり」の連体形+伝聞「なり」の連体形。
問3 「連歌しける法師の、行願寺のほとりにありけるが」の「の」の用法は?
同格(「法師で、行願寺のあたりに住んでいた者が」と訳す)。
問4 「やがてかきつくままに」の「やがて」の意味は?
すぐに・そのまま。
問5 「このわたりに見知れる僧なり」の「る」の文法的説明をしなさい。
存続の助動詞「り」の連体形(四段動詞「見知る」の已然形につく)。
問6 法師に飛びついてきたものの正体は何か。
法師が飼っていた犬(暗い中でも主人と分かって飛びついた)。
問7 「飛びつきたりけるとぞ」の「ぞ」の下に省略されている言葉を補いなさい。
「言ふ」「言ひ伝へたる」など(〜ということだ)。

徒然草「奥山に、猫またといふもの(猫また)」原文(全文・通し)
1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。
「奥山に、猫またといふものありて、人を食らふなる」と人の言ひけるに、
「山ならねども、これらにも、猫の経上がりて、猫またになりて、人とることはあなるものを」と言ふ者ありけるを、
何阿弥陀仏とかや、連歌しける法師の、行願寺のほとりにありけるが聞きて、ひとり歩かん身は心すべきことにこそと思ひけるころしも、
ある所にて夜更くるまで連歌して、ただひとり帰りけるに、小川の端にて、音に聞きし猫また、あやまたず足もとへふと寄り来て、やがてかきつくままに、首のほどを食はんとす。
肝心も失せて、防がんとするに力もなく、足も立たず、小川へ転び入りて、「助けよや、猫またよや、猫またよや」と叫べば、
家々より松どもともして走り寄りて見れば、このわたりに見知れる僧なり。「こはいかに」とて、川の中より抱き起こしたれば、
連歌の賭物取りて、扇・小箱など懐に持ちたりけるも、水に入りぬ。
希有にして助かりたるさまにて、はふはふ家に入りにけり。
飼ひける犬の、暗けれど主を知りて、飛びつきたりけるとぞ。
徒然草「奥山に、猫またといふもの(猫また)」現代語訳(全文・通し)
「奥山に、猫またというものがいて、人を食うそうだ」とある人が言ったところ、
「山でなくても、このあたりでも、猫が年をとって化け、猫またになって、人の命をとることはあるそうだよ」と言う者がいたのを、
何阿弥陀仏とかいったか、連歌をしていた法師で、行願寺のあたりに住んでいた者が(それを)聞いて、ひとりで出歩くような身は用心しなければならないことだと思っていた、ちょうどそのころ、
ある所で夜がふけるまで連歌をして、ただひとりで帰ったときに、小川のほとりで、うわさに聞いていた猫またが、ねらいたがわず足もとへさっと寄って来て、そのまますぐに飛びつくと同時に、首のあたりを食おうとする。
(法師は)生きた心地もせず、防ごうとするけれど力も出ず、腰がぬけて立てず、小川へころがり落ちて、「助けてくれ、猫まただ、猫まただ」と叫ぶと、
(人々が)家々からたいまつをともして走り寄って見ると、このあたりで顔を知っている僧である。「これはどうしたことか」と言って、川の中から抱き起こしたところ、
連歌の(会の)賞品を取って、扇や小箱などをふところに持っていたのも、水の中に落ちてしまった。
(法師は)やっとのことで助かったというようすで、はうようにして家に入った。
(実は猫またではなく、法師が)飼っていた犬が、暗かったけれど主人だと分かって、飛びついたのだということだ。
徒然草「奥山に、猫またといふもの(猫また)」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)
よくある質問(徒然草の基本)
徒然草の作者は誰?
兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。
徒然草はいつの作品?
鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。
徒然草の冒頭(書き出し)は?
序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。
徒然草はどんな作品?
序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。
徒然草の目次(教科書に出る段)
徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。
- 徒然草「つれづれなるままに」(序段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「いでや、この世に生まれては」(第1段)の原文・現代語訳
- 徒然草「あだし野の露消ゆる時なく」(第7段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「家居のつきづきしく」(第10段)の原文・現代語訳
- 徒然草「神無月のころ」(第11段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「人は己をつづまやかにし」(第18段)の原文・現代語訳
- 徒然草「折節の移り変はるこそ」(第19段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「九月二十日のころ」(第32段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「五月五日、賀茂の競べ馬を」(第41段)の原文・現代語訳
- 徒然草「公世の二位のせうとに」(第45段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「亀山殿の御池に」(第51段)の原文・現代語訳
- 徒然草「仁和寺にある法師」(第52段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「これも仁和寺の法師」(第53段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「真乗院に、盛親僧都とて」(第60段)の原文・現代語訳
- 徒然草「筑紫に、なにがしの押領使」(第68段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「名を聞くより」(第71段)の原文・現代語訳
- 徒然草「世に語り伝ふること」(第73段)の原文・現代語訳
- 徒然草「人の心すなほならねば」(第85段)の原文・現代語訳
- 奥山に、猫またといふもの(猫また)(第89段・このページ) 定番
- 徒然草「ある人、弓射ることを習ふに」(第92段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「荒れたる宿の」(第104段)の原文・現代語訳
- 徒然草「高名の木登り」(第109段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「友とするにわろき者」(第117段)の原文・現代語訳
- 徒然草「花は盛りに」(第137段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「能をつかんとする人」(第150段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「世に従はん人は」(第155段)の原文・現代語訳
- 徒然草「相模守時頼の母は」(第184段)の原文・現代語訳
- 徒然草「一事を必ずなさんと思はば」(第188段)の意味と現代語訳 定番
- 徒然草「平宣時朝臣」(第215段)の原文・現代語訳
- 徒然草「丹波に出雲といふ所あり」(第236段)の原文・現代語訳 定番
- 徒然草「八つになりし年」(第243段)の原文・現代語訳 定番

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。


