徒然草「公世の二位のせうとに(榎木の僧正)」(第45段)原文と現代語訳・文法|良覚僧正と聞こえしは(腹あし・尊敬の「る」)

ミスターT先生

定番 教科書によく出る定番の段 第45段

徒然草第45段「公世の二位のせうとに、良覚僧正と聞こえしは」から始まる段(榎木の僧正)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。あだ名をいやがるほど、新しいあだ名が付いてしまう、短くて笑える段です。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:怒りっぽい良覚僧正は、住まいのそばの榎の木から「榎木の僧正」と呼ばれた。いやがって木を切ると「きりくひの僧正」、切り株を掘り捨てると跡が堀になり「堀池の僧正」と呼ばれた。
  • 文法の要点:謙譲語「聞こゆ」(作者→良覚僧正)、尊敬の「る」(切られにけり)、完了「ぬ」+過去「けり」、係り結び「ぞ〜ける」。
  • テストの定番:教科書によく出る段。「切られにけり」の「れ」の意味(尊敬)、あだ名が変わる順番、「腹あし」の意味がよく問われる。
うかるくん
うかるくん
T先生、徒然草って、むずかしいお説教の本だと思ってました。
ミスターT先生
ミスターT先生
そう思うやろ。でもこの段は、おこりんぼのお坊さんが、あだ名から逃げようとしてどんどん墓穴をほる話や。短くて笑える。教科書・テストによく出る定番の段やで。
合格先生
合格先生
わたしはT先生に「この段は5文だけやから、全部の助動詞を言えるようにしとけ」と言われました。短い段こそ、満点をねらえるんです。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 謙譲語「聞こゆ」(申し上げる)=作者から良覚僧正への敬意
  2. 「切られにけり」の「れ」=尊敬
  3. 「にけり」=完了「ぬ」連用形+過去「けり」
  4. 係り結び「ぞ〜ける」(連体形で結ぶ)
  5. 古語腹あし・せうと・いよいよ・しかるべし

「榎木の僧正」はどんな段?(良覚僧正とあだ名)

徒然草の中には、兼好が見聞きした人のおもしろい失敗談がたくさんあります。この段の主人公は、良覚僧正という身分の高いお坊さんです。「公世の二位」は従二位の位にあった貴族の藤原公世のことで、良覚はその兄にあたります。

この段で兼好は、自分の感想を一言も書いていません。あだ名が「榎木→きりくひ→堀池」と変わっていく事実を、同じ「とぞ言ひける」で並べるだけです。それなのに読む人は思わず笑ってしまいます。怒れば怒るほど、かえって人に笑われるという人の姿を、短い文で見せているのです。

1. 怒りっぽい僧正 良覚僧正はとても腹あしき人 2. 榎木の僧正 坊のそばの大きな榎の木から 3. 木を切る この名前はふさわしくない 4. きりくひの僧正 切り株が残ったので 5. 切り株を掘る ますます腹を立てて 6. 堀池の僧正 掘った跡が大きな堀になる
図1 徒然草「公世の二位のせうとに(榎木の僧正)」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

公世の二位のせうとに、良覚僧正と聞こえしは、きはめて腹あしき人なりけり。

現代語訳公世の二位(藤原公世)の兄で、良覚僧正と申し上げた方は、たいへん怒りっぽい人であった。

  • 「せうと」は兄弟(もとは女性から見た男の兄弟をいう語)。ここでは公世の兄。手元の古い本では「兄」と漢字で書いてあり、教科書の多くは「せうと」とかな書き。
  • 「〜と聞こえし」の「聞こゆ」は「言ふ」の謙譲語で「〜と申し上げた」。作者(兼好)から良覚僧正への敬意。→敬語動詞の一覧(聞こゆ・申す・仰す)
  • 「腹あし」は怒りっぽい・短気だ。「腹立つ(おこる)」とあわせて覚えよう。「僧正」は僧の中でいちばん上の位。
サクラちゃん
サクラちゃん
「聞こえし」って「聞こえた」じゃないんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
ここは「〜と聞こゆ」の形で、「言ふ」の謙譲語や。「良覚僧正と申し上げた方」と訳す。兼好が、身分の高い僧正に敬意をはらってるんやな。

2

坊の傍らに、大きなる榎の木のありければ、人、「榎木の僧正」とぞ言ひける。

現代語訳(僧正の)住まいのそばに、大きな榎の木があったので、人々は(僧正のことを)「榎木の僧正」と呼んだ。

  • 係り結び:「ぞ」→結びは連体形「ける」。→係り結びの決まり(ぞ・なむ・や・か・こそ)
  • 「坊」は僧の住まい。「已然形+ば」は「〜ので」(原因・理由)。
  • 人々は、住まいのそばにある目立つ木の名前で、僧正をあだ名で呼んだ。

3

この名しかるべからずとて、かの木を切られにけり。

現代語訳(僧正は)この名前はふさわしくないと言って、その木をお切りになってしまった。

うかるくん
うかるくん
「切られにけり」の「れ」は、受身じゃないんですか? 木が切られた、みたいな。
ミスターT先生
ミスターT先生
受身なら「木が」が主語になるはずや。でもここの主語は僧正で、「かの木を」と目的語もある。身分の高い人の動作やから尊敬。「お切りになってしまった」や。ここ、テストに出るで!

4

その根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。

現代語訳(木を切っても)その根(切り株)が残っていたので、(人々は)「きりくひの僧正」と呼んだ。

  • 「きりくひ(切杭)」は木を切ったあとに残る切り株。歴史的仮名遣いで「きりくい」と読む。
  • 「くひ」の「ひ」は語の中・終わりのハ行なので「い」と読む。→歴史的仮名遣いの読み方
合格先生
合格先生
「きりくひ」は「きりくい」と読みます。T先生は「語の中のハ行はワ行で読む、これは読みの問題の定番や」と、いつも音読させていました。

5

いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、その跡大きなる堀にてありければ、「堀池の僧正」とぞ言ひける。

現代語訳(僧正は)ますます腹を立てて、切り株を掘って捨ててしまったところ、その跡が大きな堀(水のたまった穴)になっていたので、(人々は)「堀池の僧正」と呼んだ。

  • 「いよいよ」はますます。おこればおこるほど、あだ名がふえていく。
  • ここも「ぞ」→結びは連体形「ける」。最初と最後の文が同じ「とぞ言ひける」でそろっていて、話のリズムを作っている。→過去の助動詞「き・けり」の違い
  • 兼好はこの段で自分の意見を書いていない。事実だけを並べて、読む人に笑わせる書き方になっている。
サクラちゃん
サクラちゃん
切り株を掘ったら、今度は堀になっちゃった…。かわいそうだけど笑っちゃいます。
ミスターT先生
ミスターT先生
そうやろ。気にすればするほど目立ってしまう。兼好は何も言わんと、事実だけで笑わせる。うまい書き方やで。

あだ名が変わっていく流れと尊敬の「る」(図で整理)

おこるほど、あだ名がふえていく 大きな榎の木 榎木の僧正 残った切り株 きりくひの僧正 掘った跡の堀 堀池の僧正 木を切る 根を掘る 「切られにけり」の「れ」=尊敬(お切りになる) 主語は身分の高い良覚僧正。だから尊敬の「る」で高める
図2 良覚僧正のあだ名の変わり方と、尊敬の「る」
ミスターT先生
ミスターT先生
3つのあだ名は、木→根→堀と、僧正がしたことの結果から付いてる。順番をきかれたら、この図を思い出してな。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
せうとしょうと兄弟(ここでは兄)
聞こゆきこゆ申し上げる(「言ふ」の謙譲語)
僧正そうじょう僧の最高の位
きはめてきわめてたいへん・この上なく
腹あしはらあし怒りっぽい・短気だ
坊ぼう僧の住まい
傍らかたわらそば・わき
しかるべししかるべしふさわしい・当然だ
かのかのあの・その
きりくひきりくい切り株
いよいよいよいよますます
腹立つはらだつ腹を立てる・おこる

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「良覚僧正と聞こえしは」の「聞こえ」は、敬語の種類と、誰から誰への敬意かを答えなさい。

謙譲語(「言ふ」の謙譲語、申し上げる)。作者(兼好)から良覚僧正への敬意。

問2 「腹あしき人」の意味は?

怒りっぽい人・短気な人。

問3 「かの木を切られにけり」の「れ」の意味は?

尊敬(お切りになる)。良覚僧正の動作を高めている。

問4 「人、『榎木の僧正』とぞ言ひける」で、係り結びの係りの語と結びの語を答えなさい。

係りは「ぞ」、結びは「ける」(過去「けり」の連体形)。

問5 僧正のあだ名は、どんな順に変わったか。3つ答えなさい。

「榎木の僧正」→「きりくひの僧正」→「堀池の僧正」。

問6 「この名しかるべからず」を現代語訳しなさい。

「この名前はふさわしくない。」

問7 この段のおもしろさはどこにあるか。

あだ名をいやがって消そうとするほど、かえって新しいあだ名が付いてしまう、という皮肉なところ。

うかるくん
うかるくん
尊敬の「る」と謙譲語の「聞こゆ」、ばっちりです! あだ名の順番も言えます。

徒然草「公世の二位のせうとに(榎木の僧正)」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

公世の二位のせうとに、良覚僧正と聞こえしは、きはめて腹あしき人なりけり。

坊の傍らに、大きなる榎の木のありければ、人、「榎木の僧正」とぞ言ひける。

この名しかるべからずとて、かの木を切られにけり。

その根のありければ、「きりくひの僧正」と言ひけり。

いよいよ腹立ちて、きりくひを掘り捨てたりければ、その跡大きなる堀にてありければ、「堀池の僧正」とぞ言ひける。

徒然草「公世の二位のせうとに(榎木の僧正)」現代語訳(全文・通し)

公世の二位(藤原公世)の兄で、良覚僧正と申し上げた方は、たいへん怒りっぽい人であった。

(僧正の)住まいのそばに、大きな榎の木があったので、人々は(僧正のことを)「榎木の僧正」と呼んだ。

(僧正は)この名前はふさわしくないと言って、その木をお切りになってしまった。

(木を切っても)その根(切り株)が残っていたので、(人々は)「きりくひの僧正」と呼んだ。

(僧正は)ますます腹を立てて、切り株を掘って捨ててしまったところ、その跡が大きな堀(水のたまった穴)になっていたので、(人々は)「堀池の僧正」と呼んだ。

徒然草「公世の二位のせうとに(榎木の僧正)」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(徒然草の基本)

徒然草の作者は誰?

兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。

徒然草はいつの作品?

鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。

徒然草の冒頭(書き出し)は?

序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。

徒然草はどんな作品?

序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。

徒然草の目次(教科書に出る段)

徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。

ミスターT先生
ミスターT先生
次は「仁和寺にある法師」。石清水八幡宮にお参りしたのに、かんじんの本殿を見ずに帰ってきたお坊さんの話や。「先達はあらまほしきことなり」、有名な一文が出てくるで。お楽しみに!

あわせて読みたい古文のページ

本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。