徒然草「筑紫に、なにがしの押領使(大根)」(第68段)原文と現代語訳・文法|土大根らにさぶらふ(てけり・結びの省略)

ミスターT先生

定番 教科書によく出る定番の段 第68段

徒然草第68段「筑紫に、なにがしの押領使などいふやうなる者のありけるが」から始まる段(大根)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。毎朝食べていた大根が、兵士のすがたで主人を助けに来る、ふしぎな話です。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:筑紫の押領使は、大根を万能の薬と信じて、毎朝二本ずつ焼いて食べていた。ある日、屋敷が手うすなときに敵がおそってきたが、見知らぬ兵士が二人現れて敵を追い返した。名前をたずねると「毎朝召し上がってきた大根でございます」と言って消えた。兼好は「深く信じると、こんなよい報いもあるのだろう」と結ぶ。
  • 文法の要点:完了「つ」の連用形「て」(追ひ返してけり)、打消「ず」の連体形「ぬ」と完了「ぬ」の見分け、会話の敬語の方向(たまふ・召す・さぶらふ)、断定「なり」の「に」、「にこそ」の結びの省略。
  • テストの定番:教科書によく出る段。兵の正体、「召しつる」「さぶらふ」の敬意の方向、「てけり」の「て」、「にこそ」の下の省略がよく問われる。
サクラちゃん
サクラちゃん
T先生、大根が人を助けるって本当ですか? タイトルからして気になります。
ミスターT先生
ミスターT先生
本当かどうかは兼好も「ありけるにこそ(あったのだろう)」とぼかしてる。毎日大根を食べてた人を、大根の兵士が助ける話や。教科書・テストによく出る定番の段やで。
合格先生
合格先生
T先生はこの段を「敬語の向きの練習にちょうどいい段」と言っていました。助けた側と助けられた側が、おたがいに敬語を使うんです。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 「てけり」の「て」=完了「つ」の連用形
  2. 「ぬ」の識別:見ぬ人々(打消「ず」連体形)と年久しくなりぬ(完了)
  3. 会話の敬語の方向:たまふ(押領使→兵)、召す・さぶらふ(兵→押領使)
  4. 断定「なり」の「に」(土大根らにさぶらふ)
  5. 「にこそ」の結びの省略(あらめ)

「大根」はどんな段?(押領使と筑紫・兼好の感想)

舞台は筑紫(九州北部、今の福岡県のあたり)です。主人公の押領使は、地方で兵をひきいて反乱や盗賊を取りしまった役人で、武士の一人です。兼好は名前を「なにがし」とぼかしていて、うわさ話として伝わった話だと分かります。

大根を薬と信じて、何年も毎朝欠かさず食べつづけた人が、ピンチのときに大根に助けられます。兼好は最後に「深く信をいたしぬれば、かかる徳もありけるにこそ」と書き、まごころをこめて信じつづけることの大切さを、少しユーモアをまじえて伝えています。毎日の積み重ねがいつか自分を助けてくれる、というのは勉強にも通じますね。

1. 大根を食べる 押領使が毎朝二本ずつ焼いて 2. 敵の来襲 館が手うすなすきをねらう 3. 二人の兵 見知らぬ兵士が命がけで戦う 4. 敵を追い返す みな追い返して館を守る 5. 正体を明かす 毎朝食べてきた大根でございます 6. 兼好の感想 深く信じればこんな徳もある
図1 徒然草「筑紫に、なにがしの押領使(大根)」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

筑紫に、なにがしの押領使などいふやうなる者のありけるが、土大根をよろづにいみじき薬とて、朝ごとに二つづつ焼きて食ひけること、年久しくなりぬ。

現代語訳九州の筑紫に、なんとかという押領使などというような者がいたが、大根をあらゆる病気によく効く薬だと思って、毎朝二本ずつ焼いて食べることが、長い年月になった。

  • 「なにがし」はだれそれ・なんとか(名前をぼかす言い方)。「押領使」は地方で兵をひきいて、反乱や盗賊を取りしまった役人。
  • 「土大根」は今の大根。「よろづに」は「あらゆる点で・何にでも」、「いみじ」は「たいへんな・すばらしい」。
  • 「年久しくなりぬ」の「ぬ」は文の終わりなので完了「ぬ」の終止形(〜てしまった・〜た)。→「ぬ」の識別(完了と打消)
うかるくん
うかるくん
「押領使などいふやうなる者」って、押領使なのか、ちがうのか、どっちですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
「押領使とかいうような者」と、わざとぼかしてるんや。「なにがし」も名前をぼかす言葉。兼好が人から聞いた、うわさ話っぽさが出てるな。

2

ある時、館の内に人もなかりける隙をはかりて、敵襲ひ来たりて囲み攻めけるに、館の内に兵二人出で来て、命を惜しまず戦ひて、皆追ひ返してけり。

現代語訳あるとき、屋敷の中に人がいなかったすきをねらって、敵がおそって来て(屋敷を)取り囲んで攻めたところ、屋敷の中から兵士が二人出て来て、命を惜しまず戦って、(敵を)みな追い返してしまった。

  • 「追ひ返してけり」の「て」は接続助詞ではなく完了「つ」の連用形。下に「けり」が続く「てけり」の形を覚えよう。→完了の助動詞「つ・ぬ」
  • 「襲ひ来たりて」の「来たり」は動詞「来たる(やって来る)」の一部で、完了の助動詞「たり」ではない。
  • 「隙をはかる」は「すきをねらう」。「兵(つはもの)」は兵士・武士。
サクラちゃん
サクラちゃん
「追ひ返してけり」の「て」は、「〜して」の「て」じゃないんですか?
ミスターT先生
ミスターT先生
ええ質問や。下に「けり」があるやろ。接続助詞の「て」の下には、ふつう動詞が来る。助動詞「けり」につながるのは完了「つ」の連用形。「てけり」「にけり」はセットで覚えとき。ここ、テストに出るで!

3

いと不思議に覚えて、「日ごろここにものしたまふとも見ぬ人々の、かく戦ひしたまふは、いかなる人ぞ」と問ひければ、

現代語訳(押領使は)とても不思議に思って、「ふだんここにいらっしゃるとも見かけない方々が、このように戦ってくださるのは、どういう方ですか」とたずねたところ、

  • 「見ぬ人々」の「ぬ」は、下に名詞(人々)があるので打消「ず」の連体形。→「ぬ」の識別(連体形なら打消)
  • 「ものしたまふ」の「ものす」は、いろいろな動詞の代わりに使う語で、ここは「いる」。「たまふ」は尊敬で、押領使から二人の兵への敬意。命の恩人なので敬語を使っている。→敬意の方向(誰から誰へ)

4

「年ごろ頼みて、朝な朝な召しつる土大根らにさぶらふ」と言ひて失せにけり。

現代語訳(二人は)「長年(あなたが)たよりにして、毎朝召し上がってきた大根どもでございます」と言って、消えてしまった。

  • 「召す」は「食ふ」の尊敬語(召し上がる)、「さぶらふ」は丁寧語(〜でございます)。どちらも兵(大根)から押領使への敬意。→敬語動詞の一覧(召す・さぶらふ・ものす)
  • 「土大根らにさぶらふ」の「に」は断定「なり」の連用形。「〜にあり」の「あり」が丁寧語「さぶらふ」になった形。→「に」の識別7種類
  • 「年ごろ」は長年。「朝な朝な」は毎朝。「失す」は「消える・なくなる」。
合格先生
合格先生
大根が「召しつる」と押領使に尊敬語を使い、押領使も兵に「たまふ」と尊敬語を使っています。T先生に「会話の敬語は、まず話し手と聞き手を決めろ」と何度も言われました。

5

深く信をいたしぬれば、かかる徳もありけるにこそ。

現代語訳深く信じきっていると、このようなよい報いもあったのだろう。

  • 「にこそ」で文が終わっているのは結びの省略。下に「あらめ」などが省かれていて、「〜であったのだろう」と訳す。→係り結びの結びの省略(にこそ・にや)
  • 「信をいたす」は「まごころをこめて信じる」。「徳」はよい報い・ごりやく。この最後の一文が兼好の感想。
  • 「已然形+ば」は、ここでは「〜と(いつも)」という恒常条件の意味。
うかるくん
うかるくん
毎朝大根を食べつづけた人が助かったんですね。ぼくも毎朝単語を続けたら、本番で助けてくれるかな。
ミスターT先生
ミスターT先生
それや! 毎日の積み重ねは、ピンチのときに「兵」になって出てきてくれる。大根に負けんように続けや。

大根の段の敬意の方向(だれからだれへ?)

会話の敬語は「話し手から」 押領使 大根を毎朝食べた人 二人の兵 正体は大根 ものしたまふ・戦ひしたまふ 召しつる・土大根らにさぶらふ 結びの省略 かかる徳もありけるにこそ(あらめ)。 「〜であったのだろう」と、省かれた語をおぎなって訳す
図2 「大根」の段の敬意の方向と、「にこそ」の結びの省略
ミスターT先生
ミスターT先生
会話の敬語は話し手からや。押領使が話すときは兵を高め、兵(大根)が話すときは押領使を高める。矢印の向きで覚えとこ。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
筑紫つくし九州(北部)の古い呼び名
なにがしなにがしだれそれ・なんとか
押領使おうりょうし地方で兵をひきいて反乱などを取りしまった役人
土大根つちおおね大根
よろづによろずにあらゆる点で・何にでも
いみじいみじたいへんな・すばらしい・ひどい
館たち屋敷
兵つわもの兵士・武士
ものすものすいる・ある・するなど(いろいろな動詞の代わり)
年ごろとしごろ長年・数年来
朝な朝なあさなあさな毎朝
召すめす召し上がる(「食ふ」の尊敬語)
失すうす消える・なくなる
徳とくよい報い・ごりやく

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「なにがしの押領使」の「なにがし」の意味は?

だれそれ・なんとか(名前をはっきり言わない言い方)。

問2 「皆追ひ返してけり」の「て」の文法的説明をしなさい。

完了の助動詞「つ」の連用形。

問3 「日ごろここにものしたまふとも見ぬ人々」の「ぬ」の文法的説明をしなさい。

打消の助動詞「ず」の連体形(下に名詞「人々」がある)。

問4 「朝な朝な召しつる」の「召し」は、誰から誰への敬意か。

兵(大根)から押領使への敬意(「食ふ」の尊敬語)。

問5 二人の兵の正体は何か。

押領使が毎朝二本ずつ食べていた大根。

問6 「かかる徳もありけるにこそ」の「にこそ」の下に省略されている語は?

「あらめ」(結びの省略)。

問7 兼好はこの話から、どんなことを言っているか。

深く信じきっていると、このようなよい報いもあるのだろう、ということ。

サクラちゃん
サクラちゃん
「てけり」の「て」と、敬語の向き、ちゃんと説明できるようになりました!

徒然草「筑紫に、なにがしの押領使(大根)」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

筑紫に、なにがしの押領使などいふやうなる者のありけるが、土大根をよろづにいみじき薬とて、朝ごとに二つづつ焼きて食ひけること、年久しくなりぬ。

ある時、館の内に人もなかりける隙をはかりて、敵襲ひ来たりて囲み攻めけるに、館の内に兵二人出で来て、命を惜しまず戦ひて、皆追ひ返してけり。

いと不思議に覚えて、「日ごろここにものしたまふとも見ぬ人々の、かく戦ひしたまふは、いかなる人ぞ」と問ひければ、

「年ごろ頼みて、朝な朝な召しつる土大根らにさぶらふ」と言ひて失せにけり。

深く信をいたしぬれば、かかる徳もありけるにこそ。

徒然草「筑紫に、なにがしの押領使(大根)」現代語訳(全文・通し)

九州の筑紫に、なんとかという押領使などというような者がいたが、大根をあらゆる病気によく効く薬だと思って、毎朝二本ずつ焼いて食べることが、長い年月になった。

あるとき、屋敷の中に人がいなかったすきをねらって、敵がおそって来て(屋敷を)取り囲んで攻めたところ、屋敷の中から兵士が二人出て来て、命を惜しまず戦って、(敵を)みな追い返してしまった。

(押領使は)とても不思議に思って、「ふだんここにいらっしゃるとも見かけない方々が、このように戦ってくださるのは、どういう方ですか」とたずねたところ、

(二人は)「長年(あなたが)たよりにして、毎朝召し上がってきた大根どもでございます」と言って、消えてしまった。

深く信じきっていると、このようなよい報いもあったのだろう。

徒然草「筑紫に、なにがしの押領使(大根)」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(徒然草の基本)

徒然草の作者は誰?

兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。

徒然草はいつの作品?

鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。

徒然草の冒頭(書き出し)は?

序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。

徒然草はどんな作品?

序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。

徒然草の目次(教科書に出る段)

徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。

ミスターT先生
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次は第89段「猫また」。人を食う化け猫が出るとうわさの夜道で、連歌の法師がおそわれる…その正体は? お楽しみに!

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。