徒然草「名を聞くより」(第71段)原文と現代語訳・文法|やがて面影はおしはからるる(自発のる・らる、デジャヴ)

ミスターT先生

第71段

徒然草の「名を聞くより、やがて面影はおしはからるる心地するを」から始まる段(第71段「名を聞くより」)を、全文・現代語訳・文法でいっしょに読みます。

解説:ミスターT先生(京都大学文学部出身の古文の先生。合格大作戦のキャラクターの合格先生に古典を叩き込んだ師匠)

この段を30秒で(あらすじと要点)

  • あらすじ:名前を聞くとすぐに顔を想像するが、会ってみると想像どおりの人はいない。昔話を聞くと今の場所や人に重ねて思い浮かべてしまう。また、今のできごとを「前にもたしかにあった」と感じることがあるが、それは自分だけだろうか、と兼好は問いかける。
  • 文法の要点:自発の「る・らる」(おしはからるる・思ひよそへらるる)、係り結び「こそ〜なけれ」「ぞ〜けん」、結びの省略「にや」、過去「き」の連体形「し」、打消「ず」の已然形「ね」。
  • テストの定番:「やがて」=すぐに、自発の「るる・らるる」、「こそ」の結びの已然形、「にや(あらむ)」の省略、最後の段落が今でいうデジャヴ(既視感)にあたることがよく問われる。
うかるくん
うかるくん
T先生、「名を聞くより」って、どんな話ですか? 説話じゃないんですよね?
ミスターT先生
ミスターT先生
話というより、兼好の心の中のつぶやきやな。名前を聞いて顔を想像したら、実際はちがった。それから「この場面、前にもあった気がする…」というあの感じ。だれでも一度はあるやろ?
合格先生
合格先生
わたしは高校生のとき、この段で「兼好って、今の人と同じこと考えてる!」とびっくりしました。T先生に「せやから古典はおもろいんや」と言われたのを覚えています。

この段で覚える文法(テストに出る順)

  1. 心の動きの動詞+る・らる=自発(おしはからるる・思ひよそへらるる)
  2. 古今異義語やがて=すぐに
  3. 係り結びこそ〜なけれ(已然形)・ぞ〜けん(連体形)
  4. 結びの省略にや(あらむ)=〜であろうか
  5. 打消「ず」の已然形ね(思ひ出でねども)

「名を聞くより」はどんな段?(兼好が見つめた心のふしぎ)

徒然草には、説話(人の話)や季節の話のほかに、兼好が自分の心の動きをじっと見つめて書いた段があります。この第71段はその代表で、だれにでも思い当たる二つの感覚を取り上げています。

一つめは、名前から顔を想像してしまうこと、昔話を聞くと知っている場所や人に重ねてしまうことです。二つめは、今のできごとを「前にもたしかにあった」と感じる、今でいうデジャヴ(既視感)です。兼好は答えを出さず、「誰もかく覚ゆるにや(だれでもそうなのだろうか)」「我ばかりかく思ふにや(自分だけなのだろうか)」と、二つの問いかけで文章をしめくくります。読者に「あなたはどう?」と語りかけるような書き方です。

1. 名を聞くと すぐに顔を思い浮かべる 2. 会ってみると 思ったとおりの顔の人はいない 3. 昔物語でも 今の家のあたりと重ねて思う 4. 誰もかく覚ゆ だれでもこう思うのだろうか 5. いつぞやありし 今のことが前にもあった気がする 6. 我ばかりか 自分だけがこう思うのか
図1 徒然草「名を聞くより」の流れ(6つの場面・ことがら)

本文と現代語訳・文法(1文ずつ)

色の見方:過去 完了・存続 推量・推定・意志 使役・受身・尊敬 断定 打消 敬語 係りの語 結びの語(色の語にふれると説明が出ます)

1

名を聞くより、やがて面影はおしはからるる心地するを、見る時は、また、かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ。

現代語訳(人の)名前を聞くとすぐに、その顔つきが自然と想像される気持ちがするのに、(実際に)会ってみると、前もって思っていたとおりの顔をしている人はいないものだ。

サクラちゃん
サクラちゃん
「おしはからるる」の「るる」は受身ですか? 「おしはかられる」って訳しそうになります。
ミスターT先生
ミスターT先生
「おしはかる」は心の動きの動詞やろ。だれかに推測されるんやなくて、自然と思い浮かんでしまう。これが自発や。「思ふ・しのぶ・おしはかる」+る・らる、と見たら、まず自発を疑う。ここ、テストに出るで!

2

昔物語を聞きても、このごろの人の家のそこほどにてぞありけんと覚え、

現代語訳昔の物語を聞いても、(その話の場所は)今の(あの)人の家のあのあたりであったのだろうと思われ、

  • 「けん」は過去推量「けむ」(〜だったのだろう)。「ぞ」の結びで連体形。→過去推量の助動詞「けむ」
  • 「覚ゆ」は「(自然と)思われる」。昔話を聞くと、知っている今の場所に重ねて思い浮かべてしまう、ということ。
うかるくん
うかるくん
昔話の場所を、知ってる家のあたりかな、って想像しちゃうの、ぼくもあります!
ミスターT先生
ミスターT先生
そうやろ。教科書の物語を読んで、学校の近くの道を思い浮かべたりな。兼好もまったく同じや。

3

人も、今見る人の中に思ひよそへらるるは、誰もかく覚ゆるにや。

現代語訳(話に出てくる)人物も、今会っている人の中のだれかに自然となぞらえて思われるのは、だれでもこのように思うのであろうか。

  • 「思ひよそへらるる」の「らるる」も自発。「よそふ」は「なぞらえる・くらべる」。
  • 「にや」は結びの省略。下に「あらむ」がかくれていて「〜であろうか」。「に」は断定「なり」の連用形。→係り結びの結びの省略(にや・にか)
合格先生
合格先生
「にや」は結びの省略。T先生は「にや、と見たら心の中であらむを足して、『〜であろうか』と訳せ」と言っていました。

4

また、いかなる折ぞ、ただ今人の言ふことも、目に見ゆる物も、わが心のうちも、かかることのいつぞやありしがと覚えて、

現代語訳また、どういう時なのか、たった今人が言っていることも、目に見えている物も、自分の心の中(の思い)も、こんなことがいつだったかあったのだが、と思われて、

  • 「いかなる折ぞ」は、文の途中にはさまれた挿入句(どういう時なのか)。前後をつなげて読むと分かりやすい。
  • 「ありし」の「し」は過去「き」の連体形。「き」は自分が体験した過去を表す。→過去の助動詞「き・けり」の違い(体験と伝聞)
  • 「いつぞや」は「いつだったか」。

5

いつとは思ひ出でねども、まさしくありし心地のするは、我ばかりかく思ふにや。

現代語訳いつのことだったとは思い出せないけれども、たしかにあったような気がするのは、自分だけがこう思うのであろうか。

  • 「思ひ出でねども」の「ね」は打消「ず」の已然形(「ど・ども」は已然形につく)。完了「ぬ」の命令形「ね」とまちがえない。→「ね」の識別(打消と完了)
  • 今でいうデジャヴ(既視感)。はじめてのはずなのに「前にもあった」と感じるふしぎさを、兼好は七百年ほど前に書きとめている。
  • 「我ばかり」の「ばかり」は限定(〜だけ)。三つめの段落の「誰も(だれでも)」と、ここの「我ばかり(自分だけ)」が対になっている。
サクラちゃん
サクラちゃん
これってデジャヴのことですよね! 七百年前の人もデジャヴを感じてたんだ。
ミスターT先生
ミスターT先生
そのとおり。しかも兼好は「誰もかく覚ゆるにや(だれでも?)」と「我ばかりかく思ふにや(自分だけ?)」と、二回問いかけて終わる。答えを決めつけへんのが、この段のおもしろさや。

「る・らる」の4つの意味を図で見分ける(自発の手がかり)

「る・らる」の4つの意味と見分けの手がかり 自発(自然と〜される) 心の動きの動詞につく 思ふ・しのぶ・おしはかる この段:おしはからるる 可能(〜できる) 下に打消がくることが多い 例:寝られず 受身(〜される) 「〜に」(相手)がある 例:人に厭はれず 尊敬(お〜になる) 主語が身分の高い人 例:仰せらる
図2 助動詞「る・らる」の4つの意味(この段の「おしはからるる」「思ひよそへらるる」は自発)
ミスターT先生
ミスターT先生
「る・らる」の意味は、まず動詞が心の動きかどうかを見る。この段の「おしはからるる」「思ひよそへらるる」は、どっちも心の動きやから自発。手がかりを順に確かめたら、ちゃんと決まるで。

重要な古語(単語帳)

古語読み意味
やがてやがてすぐに・そのまま
面影おもかげ(心に浮かぶ)顔つき・姿
おしはかるおしはかる推しはかる・想像する
心地ここち気持ち・感じ
かねてかねて前もって
昔物語むかしものがたり昔の話・昔の物語
そこほどそこほどそのあたり
覚ゆおぼゆ(自然と)思われる
よそふよそうなぞらえる・くらべる
かくかくこのように
いかなるいかなるどのような
いつぞやいつぞやいつだったか
まさしくまさしくたしかに・まちがいなく
ばかりばかり〜だけ(限定)・〜くらい(程度)

テストに出る問題(答えは押すと開く)

問1 「名を聞くより、やがて面影はおしはからるる」の「やがて」の意味は?

「すぐに」。

問2 「おしはからるる」の「るる」の意味(用法)を答えなさい。

自発(自然と〜される)。心の動きを表す動詞「おしはかる」についている。

問3 「顔したる人こそなけれ」の「なけれ」は何形か。その理由も答えなさい。

已然形。係助詞「こそ」の結びだから。

問4 「そこほどにてぞありけん」の「けん」の意味は?

過去推量(〜だったのだろう)。「ぞ」の結びで連体形。

問5 「誰もかく覚ゆるにや」の「にや」の下に省略されている語は?

「あらむ」(あらん)。

問6 「いつとは思ひ出でねども」の「ね」の文法的な説明は?

打消の助動詞「ず」の已然形。

問7 最後の段落で兼好が書いている、だれにでもありそうなふしぎな感覚とは何か?

はじめてのはずなのに、前にも同じことがたしかにあったような気がする感覚(今でいうデジャヴ・既視感)。

うかるくん
うかるくん
心の動きの動詞+「る・らる」は自発! 兼好さんが、ちょっと身近に感じられました。

徒然草「名を聞くより」原文(全文・通し)

1文ずつ区切らずに、原文を通して読みたい人・音読したい人のための全文です。

名を聞くより、やがて面影はおしはからるる心地するを、見る時は、また、かねて思ひつるままの顔したる人こそなけれ。

昔物語を聞きても、このごろの人の家のそこほどにてぞありけんと覚え、

人も、今見る人の中に思ひよそへらるるは、誰もかく覚ゆるにや。

また、いかなる折ぞ、ただ今人の言ふことも、目に見ゆる物も、わが心のうちも、かかることのいつぞやありしがと覚えて、

いつとは思ひ出でねども、まさしくありし心地のするは、我ばかりかく思ふにや。

徒然草「名を聞くより」現代語訳(全文・通し)

(人の)名前を聞くとすぐに、その顔つきが自然と想像される気持ちがするのに、(実際に)会ってみると、前もって思っていたとおりの顔をしている人はいないものだ。

昔の物語を聞いても、(その話の場所は)今の(あの)人の家のあのあたりであったのだろうと思われ、

(話に出てくる)人物も、今会っている人の中のだれかに自然となぞらえて思われるのは、だれでもこのように思うのであろうか。

また、どういう時なのか、たった今人が言っていることも、目に見えている物も、自分の心の中(の思い)も、こんなことがいつだったかあったのだが、と思われて、

いつのことだったとは思い出せないけれども、たしかにあったような気がするのは、自分だけがこう思うのであろうか。

徒然草「名を聞くより」原文と現代語訳の印刷用ページ(A4・左右に並べて)

よくある質問(徒然草の基本)

徒然草の作者は誰?

兼好法師(吉田兼好・卜部兼好)です。もとは朝廷に仕えた役人で、のちに出家しました。歌人としても知られます。

徒然草はいつの作品?

鎌倉時代の終わりごろ、1330年ごろにまとめられたとする説が有力ですが、諸説あります。

徒然草の冒頭(書き出し)は?

序段の「つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。」です。

徒然草はどんな作品?

序段と243の段からなる随筆で、清少納言『枕草子』、鴨長明『方丈記』と並ぶ三大随筆の一つです。無常観(すべては移り変わるという考え)、人の生き方、季節の趣、おもしろい失敗談など、話題はさまざまです。

徒然草の目次(教科書に出る段)

徒然草の入口(教科書に出る段の一覧・作者兼好法師と無常観) 「定番」は教科書によく出る段です。

ミスターT先生
ミスターT先生
次は「世に語り伝ふること」。世の中のうわさ話は、たいていうそや、と兼好がずばり言う段や。うそが広まるしくみの説明が、今のネットのうわさにもそっくりやで。お楽しみに!

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本文は『徒然草』を、教科書で広く読まれる形にそろえ、新字体・歴史的仮名遣いに直したものです(参考にした古い本:Wikisource の徒然草、大正の『校註日本文學大系』)。徒然草は本によって語句が少しずつちがいます。段の番号は広く使われている番号(序段と第1〜243段)です。現代語訳・解説・問題・図は合格大作戦のオリジナルです。挿絵は著作権の切れた古い絵です(それぞれの絵の下に出典)。文法の用語は合格大作戦の古文文法辞典に合わせています。