モーデル予想とは?わかりやすく|1983年ファルティングスが証明・フィールズ賞・曲線の有理点は有限個

モーデル予想とは?わかりやすく|1983年ファルティングスが証明・フィールズ賞・曲線の有理点は有限個

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解決大学受験

モーデル予想

ひとことで言うと

「穴が2つ以上の曲線には、分数で表せる解は有限個しかない」。1922年の予想を、1983年にファルティングスが証明し、フィールズ賞を受賞した。

問題種数が2以上の曲線の上の有理数の点は、有限個しかないか
出された年1922年(ルイス・モーデル)
解かれた年1983年(ファルティングスの定理)
解いた人ゲルト・ファルティングス(ドイツ)
かかった年数61年
受賞1986年フィールズ賞(この仕事が主な理由)。2026年にはアーベル賞
フェルマーとの関係n≧4 のフェルマー曲線は種数2以上なので、有理点は有限個
分野数論・代数幾何(数論的幾何学)

このページのポイント

  • モーデル予想は、曲線の穴の数(種数)が2以上なら、分数の座標の点は有限個という予想。円(種数0)は無限、楕円曲線(種数1)は足し算で増える
  • 1983年にファルティングスが証明し、1986年にフィールズ賞。テイト予想・シャファレヴィチ予想を経由し、パルシンの結果(1968年)を使った
  • 「有限個」と分かっても、何個・どこにあるかは分からない。n≧4 のフェルマー曲線にも使え、フェルマーの最終定理に近づいた

モーデル予想とは?(ひとことで)

モーデル予想とは、「xx と yy の式で表される曲線のうち、複雑な形のもの(穴が2個以上のもの)には、分数で表せる解(有理数の点)は、有限個しかない」という予想です。1922年にイギリスの数学者ルイス・モーデルが予想し、1983年にドイツのゲルト・ファルティングスが証明しました。予想から61年後です。今はファルティングスの定理ともよばれます。

ファルティングスはこの証明で、1986年にフィールズ賞を受賞しました。フィールズ賞は「数学のノーベル賞」といわれる賞です。この証明は、フェルマーの最終定理にも関わります。「xn+yn=1x^n+y^n=1 に、分数の解は有限個しかない」ことが、n≥4n\ge4 のとき分かるからです(くわしくは後で説明します)。

この問題は、方程式の「整数解」や「分数の解」を探す、数学でもっとも古い問題の一つ「ディオファントス方程式」の仲間です。ディオファントスの業績と生涯の名前がついた、約1800年前に生まれた分野です。モーデル予想は、その長い歴史の中で、「分数の解は無限にあるのか、有限なのか」を分ける、大きな線引きを与えました。

問題の意味は、中学で習う「座標」と「分数」だけで分かります。難しいのは、証明のほうです。証明は、ABC予想やバーチ・スウィンナートン=ダイアー予想などの現代の数論とつながる、とても高度な数学を使います。このページでは、まず問題の意味を、図でゆっくり見ていきましょう。

うかるくん

うかるくん

「分数で表せる解が有限個」って、どういうことですか? 方程式の解って、普通は1つか2つですよね。

合格先生

合格先生

xx と yy の2つの文字がある式だと、解は「点 (x,y)(x,y)」の集まりになって、グラフの曲線が描けるんだ。その曲線の上の点のうち、xx も yy も分数になっている点が「有理数の点」。それが無限にあるのか、有限なのかを調べる問題なんだよ。

この問題の意味をやさしく解説

ステップ1:曲線と「有理数の点」

xx と yy の式、たとえば x2+y2=1x^2+y^2=1 は、座標平面の上で円を表します。x2+y2=1x^2+y^2=1 をみたす点 (x,y)(x,y) は、円の上のすべての点です。

この円の上の点のうち、xx も yy も分数(整数をふくむ、有理数とは)になっている点を、有理数の点(有理点)といいます。たとえば (1,0)(1,0) や (0,1)(0,1) のほか、(35,45)\left(\dfrac35,\dfrac45\right) は、(35)2+(45)2=9+1625=1\left(\dfrac35\right)^2+\left(\dfrac45\right)^2=\dfrac{9+16}{25}=1 となり、有理点です。この式は、三平方の定理の 32+42=523^2+4^2=5^2 そのものです。

問題は、曲線の上に、有理数の点がいくつあるかです。0個かもしれないし、有限個かもしれないし、無限個かもしれません。曲線の形によって、答えが大きく変わります。

ステップ2:円の場合 ― 有理点は無限にある

円 x2+y2=1x^2+y^2=1 の有理点は、無限にあります。見つけるうまい方法があります。円の上の点 (−1,0)(-1,0) から、傾き tt の直線 y=t(x+1)y=t(x+1) を引きます。この直線が円と交わるもう1つの点を計算すると、次のようになります。

x=1−t21+t2,y=2t1+t2x=\dfrac{1-t^2}{1+t^2},\quad y=\dfrac{2t}{1+t^2}

tt が分数なら、この x,yx,y も分数になります。たとえば t=12t=\dfrac12 なら (x,y)=(35,45)(x,y)=\left(\dfrac35,\dfrac45\right)、t=23t=\dfrac23 なら (513,1213)\left(\dfrac5{13},\dfrac{12}{13}\right) です。tt に好きな分数を入れるだけで、有理点がいくらでも作れます。

円の上の「分数の点」は無限にある (−1,0) (0,1) t=1(3/5,4/5) t=1/2(4/5,3/5) t=1/3(5/13,12/13) t=2/3 点(−1,0)から傾き t の直線を引くt が分数 → もう1つの交点も分数
円の上の点(−1,0)から傾きtの直線を引く。tが分数なら、もう1つの交点も分数になるので、有理点が無限に見つかる

これは、整数の三つ組 a2+b2=c2a^2+b^2=c^2(ピタゴラス数、三平方の定理の整数の組)を全部作る方法と同じです。(ac,bc)\left(\dfrac ac,\dfrac bc\right) が円の上の有理点になるからです。ピタゴラス数は無限にあるので、円の有理点も無限にあります。

ただし、いつも無限にあるとは限りません。たとえば円 x2+y2=3x^2+y^2=3 には、有理点が1つもありません。(合同式(mod の計算)で確かめられます。練習問題にも出します。)

ステップ3:楕円曲線 ― 点から点を作る

次に、y2=x3−x+1y^2=x^3-x+1 のような、y2y^2 が xx の3次式になる曲線を考えます。これを楕円曲線といいます(楕円そのものとは別の曲線です)。この曲線には、有理点 P(−1,1)P(-1,1)、Q(0,1)Q(0,1) があります。

面白い性質があります。PP と QQ を通る直線 y=1y=1 を引くと、曲線と3つ目の交点 R(1,1)R(1,1) で交わります(x3−x+1=1x^3-x+1=1 を解くと x=−1,0,1x=-1,0,1)。この点を xx 軸で折り返した (1,−1)(1,-1) も有理点です。つまり、有理点が2つあれば、新しい有理点が作れるのです。これを「P+QP+Q」と書きます。

楕円曲線:点から点を作れる PQRP+Q y²=x³−x+1:P(−1,1)、Q(0,1) を通る直線 y=1 は第3の点 R(1,1) で交わる。折り返すと (1,−1)→ 有理数の点から、新しい有理数の点ができる
楕円曲線では、2つの有理点を通る直線が3つ目の交点を作る。折り返すと新しい有理点ができる

この「点の足し算」を使うと、有理点が有限個の点から出発して、いくらでも増やせることがあります。1922年、モーデルは、楕円曲線の有理点は、有限個の点から、この足し算ですべて作れることを証明しました(「モーデルの定理」とよばれます)。1928年には、ヴェイユがこれを一般の場合に広げたので、「モーデル・ヴェイユの定理」とよばれます。

ただし、「足し算でいくらでも増やせる」といっても、点が無限に増えるかどうかは曲線しだいです。たとえば、有理点が (1,0)(1,0) などの有限個しかない楕円曲線もあります。これは、BSD予想(楕円曲線の有理点とゼータ関数)という別の難問の主題です。

ステップ4:曲線の「穴の数」(種数)

モーデル予想のカギになるのは、曲線の種数(しゅすう)という数です。曲線の式の解を、複素数まで広げて考えると、曲線は「曲面」になります。この曲面の穴の数が種数です。

  • 種数0:穴のない、ボールのような形。直線や円がこれです。
  • 種数1:穴が1つ、ドーナツのような形。楕円曲線がこれです。
  • 種数2以上:穴が2つ以上、浮き輪をつなげたような、もっと複雑な形です。
穴の数(種数)で3つに分かれる 穴 0(種数0)穴 1(種数1)穴 2以上 有理点は無限か0個 群の形でふえていく 有理点は有限個 種数 ≧ 2 → 有限個 = モーデル予想(1983年にファルティングスが証明)
曲線は穴の数(種数)で分けられる。種数0と1では有理点は無限になりうるが、種数2以上では有限個と予想された

なめらかな平面曲線で、式の次数(x,yx,y のかけ算の最大の個数)が dd なら、種数は (d−1)(d−2)2\dfrac{(d-1)(d-2)}{2} です。たとえば円や放物線は d=2d=2 で種数 0、y2=x3−x+1y^2=x^3-x+1 は d=3d=3 で種数 1、d=4d=4 なら種数 3、d=5d=5 なら種数 6 になります。次数が大きくなるほど、穴がふえて、有理点は少なくなります。

ステップ5:予想の内容

以上をまとめると、有理点の数について、次のような見通しが立ちます。

  • 種数0:有理点が0個か、無限個(円や直線)。
  • 種数1:有限個の点から足し算で作れる(無限個でもよい)。
  • 種数2以上:有限個しかない。

この、種数2以上の曲線の有理点は有限個、というのがモーデル予想です。ファルティングスは、有理数だけでなく、有理数に 2\sqrt2 などをつけ加えた「代数体」という、もっと広い数の世界でも成り立つことを証明しました。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

ここが大事! モーデル予想は「穴が2つ以上の曲線には、分数の解は有限個しかない」という、解の個数についての予想だよ。

ステップ6:フェルマー曲線 ― 最終定理とのつながり

フェルマーの最終定理は、「n≥3n\ge3 のとき、xn+yn=znx^n+y^n=z^n に正の整数解はない」という定理です。両辺を znz^n で割ると、(xz)n+(yz)n=1\left(\dfrac xz\right)^n+\left(\dfrac yz\right)^n=1 となります。つまり、「曲線 Xn+Yn=1X^n+Y^n=1 の上に、XY≠0XY\ne0 の有理点があるか」と同じ問題です。この曲線をフェルマー曲線といいます。

曲線 x⁴+y⁴=1 (1,0)(−1,0)(0,1)(0,−1) 分数の座標の点は、赤い4つだけn≧4 の xⁿ+yⁿ=1 も、有限個しかない
フェルマー曲線x⁴+y⁴=1は穴が3つ。分数の座標の点は、赤い4つしかない

フェルマー曲線の種数は (n−1)(n−2)2\dfrac{(n-1)(n-2)}{2} です。n=3n=3 なら種数1(楕円曲線)、n=4n=4 なら種数3、n=5n=5 なら種数6。つまり、n≥4n\ge4 では種数が2以上になります。モーデル予想が正しければ、n≥4n\ge4 のとき、xn+yn=znx^n+y^n=z^n には、本質的に異なる整数解は、有限個しかないことが分かります。これが、ファルティングスの定理から出る、フェルマーの最終定理に近づく結果です。「有限個」と「ゼロ個」はまだ違うので、最終定理の完全な証明は、1995年のワイルズの業績を待たなければなりませんでした(くわしくはフェルマーの最終定理とは?わかりやすく解説、中学生向けにはフェルマーの最終定理を中学生向けに図解)。

この問題の歴史と年表

ディオファントスとフェルマー:方程式の整数解・分数解

「方程式の整数解や分数の解を見つける」問題は、古代ギリシャのディオファントス(3世紀ごろ)の『算術』にさかのぼります。17世紀のフランスのフェルマーの業績と生涯は、この本の余白に、有名な書き込みをのこしました。また、フェルマーは、「無限降下法」という方法で、x4+y4=z2x^4+y^4=z^2 に自明でない整数解がないことを証明したと伝えられています。この結果から、x4+y4=1x^4+y^4=1 の有理点が、図の4つだけだと分かります。

オイラーやガウスの業績と生涯らも、いろいろな方程式の解を調べ、「解が有限か無限か」の例を積み上げました。

1922年:モーデルの論文

1922年、モーデルは、3次・4次の不定方程式の有理数解についての論文で、楕円曲線の有理点が「有限個の点から生成される」ことを証明しました(モーデルの定理)。その論文の中で、種数が1より大きい曲線では、有理点は有限個しかないだろうと述べました。これがモーデル予想です。

モーデル(1888〜1972)は、アメリカのフィラデルフィアで生まれ、イギリスの大学で活躍した数学者です。数論の研究で知られています。

1928年〜:ヴェイユの一般化と「新しい道具」

1928年、フランスのアンドレ・ヴェイユが、モーデルの定理を、楕円曲線だけでなく「アーベル多様体」という、より高い次元の対象まで広げました。これがモーデル・ヴェイユの定理です。この仕事で、数論と代数幾何学が深く結びつきました。

その後、グロタンディークの業績らが作った代数幾何学の新しい道具が、モーデル予想に挑む手がかりとなりました。1960年代、シャファレヴィチやテイトが、いくつかの重要な予想(シャファレヴィチ予想、テイト予想)を出しました。1968年、パルシンは、シャファレヴィチ予想が正しければ、モーデル予想も正しいことを示しました。

1983年:ファルティングスの証明

1983年、ドイツの若い数学者ゲルト・ファルティングスが、テイト予想とシャファレヴィチ予想を(アーベル多様体について)証明し、その結果としてモーデル予想を証明しました。論文は、数学の専門誌『インヴェンチオネス・マテマティカエ』第73巻に発表されました(のちに、ごく小さな訂正が1984年に出されています)。

ファルティングスの証明の道すじ テイト予想(アーベル多様体)ファルティングスが1983年に証明 導く シャファレヴィチ予想決まった範囲の曲線は有限個しかない パルシン(1968年) モーデル予想種数2以上の曲線の有理点は有限個 1つの曲線の問題を、「曲線の族」の問題に置きかえた
ファルティングスは、テイト予想とシャファレヴィチ予想を証明し、パルシンの結果を使ってモーデル予想の証明を完成させた

1986年:フィールズ賞

1986年、アメリカのバークレーで開かれた国際数学者会議で、ファルティングスは、この仕事を主な理由として、フィールズ賞を受賞しました。同じ年に、ドナルドソンとフリードマンも受賞しています。

1990年代以降:別の証明と、その先

1991年、ヴォイタが、ディオファントス近似(ABC予想と近い考え方)を使って、まったく別の証明を見つけました。1990年には、ボンビエリが、そのヴォイタの証明をもっとやさしくしています。さらに2020年、ローレンスとヴェンカテシュが、pp 進ホッジ理論という道具を使った、また別の証明を発表しました。同じ定理に、まったく異なる道具で3通りの証明が得られたことになります。

モーデル予想の歩み(61年)1922モーデルが予想(論文)1928ヴェイユ:楕円曲線から一般へ1968パルシン:シャファレヴィチ⇒モーデル1983ファルティングスが証明1986フィールズ賞1991ヴォイタの別証明2020ローレンス&ヴェンカテシュの別証明
1922年の予想から61年で証明され、その後も別の証明が現れている
年できごと
3世紀ごろディオファントスが『算術』で、方程式の整数解・分数解を研究
17世紀フェルマーが無限降下法を使う。x4+y4=z2x^4+y^4=z^2 に自明でない解がないことを示したと伝えられる
1922年モーデルが、楕円曲線の有理点は有限生成であることを証明。種数が1より大きい曲線の有理点は有限個と予想
1928年ヴェイユが、モーデルの定理をアーベル多様体に広げる(モーデル・ヴェイユの定理)
1968年パルシンが、シャファレヴィチ予想からモーデル予想が導かれることを示す
1983年ファルティングスがテイト予想・シャファレヴィチ予想・モーデル予想を証明
1986年ファルティングスがフィールズ賞を受賞(バークレーの国際数学者会議)
1991年ヴォイタが、ディオファントス近似を使った別証明を発表(ボンビエリが1990年に簡易化)
1995年ワイルズがフェルマーの最終定理を証明
2020年ローレンスとヴェンカテシュが、pp 進ホッジ理論による別証明を発表

モーデル予想は、いつ・だれが解いた?

モーデル予想は、1983年に、ドイツのゲルト・ファルティングスが解きました。ファルティングスは1954年に生まれた数学者で、この証明を主な理由に、1986年にフィールズ賞を受賞しました。プリンストン大学を経て、1994年からは、ドイツのボンにあるマックス・プランク数学研究所で、所長として研究を続けてきました。さらに2026年には、アーベル賞の受賞が発表されています(2026年3月、ノルウェー科学文学アカデミーの発表による)。受賞理由には、「数論的幾何学に強力な道具をもたらし、モーデルやラングの予想など、長年の問題を解決したこと」が挙げられています。

この問題は、未解決ではなく、解決済みです。証明は、世界中の数学者に確かめられ、正しいと認められています(2026年11月時点)。ただし、証明の結果には、一つだけ「残された宿題」があります。次の項目で説明します。

ファルティングスの証明の考え方(ざっくり)

ファルティングスの証明は、とても長くて高度ですが、大きな流れは次のとおりです。

  1. 1つの曲線の有理点を調べるかわりに、曲線から作られる、より大きな対象(ヤコビ多様体、アーベル多様体)を考える。
  2. アーベル多様体について、「素数ごとの情報(ガロア表現)が同じなら、もとの多様体は『ほぼ同じ』」という性質(テイト予想)を証明する。
  3. それを使って、「決まった範囲の中でとれるアーベル多様体は、有限種類しかない」こと(シャファレヴィチ予想)を証明する。ここで「高さ」という、多様体の大きさを測る量(ファルティングスの高さ)を新しく作って使った。
  4. パルシンの結果(1968年)で、シャファレヴィチ予想から、モーデル予想が導かれる。

ポイントは、曲線そのものではなく、曲線の「仲間の集まり」を考えて、仲間が有限種類しかないことを示した点にあります。それぞれの仲間が有限個しか点を持たないので、全体でも有限個になります。

残された宿題:「何個ある?どこにある?」は分からない

ファルティングスの定理は、「有理点は有限個」と言いますが、何個あるか、どこにあるかは教えてくれません。数学の言葉では、「実効的でない」証明です。個々の曲線の有理点をすべて見つける一般的な計算方法は、2026年11月時点でも知られていません。

  • 種数2以上で、有理点の個数の「上限」を決める研究が続いています。たとえば、もし「ラングの予想」という別の予想が正しければ、点の個数の上限は、種数だけで決まる、という結果が1990年代に示されています。
  • 特別な場合に、具体的に有理点を全部見つける方法(チャボーティの方法、コールマンの改良、近年の「二次チャボーティ」など)が発展してきました。個々の曲線について、有理点を全部決めたという結果が、たくさん発表されています。
  • ABC予想が正しければ、モーデル予想の別の証明が得られ、しかも実効的な形になる、という関係も知られています(エルキース、1991年)。

ファルティングスの定理は、「有限」と「無限」の境目をはっきり引いた定理ですが、「その有限個をすべて見つける」という次の課題は、今も研究が続いています。

ひらめいたうかるくん

うかるくん

「有限個ある」と分かっても、「どこにあるか」は分からないんだね! 宝の数だけ教えてもらった感じ!

モーデル予想は、なぜ難しかったのか

1. 「ない」ことを示すのは難しい

「有理点が見つかった」ことは、見つけた点を1つ書けば示せます。でも「有理点はこれで全部」と示すには、無限の可能性をすべて調べなければなりません。ゴールドバッハ予想などと同じで、「ないことの証明」は一般に難しいのです。

2. 方程式の中だけでは手がかりが足りない

整数や分数の問題は、その数の性質だけで解こうとしても、うまくいかないことがよくあります。モーデル予想は、複素数の世界(曲面の穴の数)という、まったく別の見方を取り入れることではじめて意味が出てくる問題でした。種数という「形の性質」が、有理数の「個数の性質」を決めている、というのは、じつに不思議なことです。

3. 新しい道具が必要だった

ファルティングスの証明には、代数幾何学・ガロア表現・高さ理論など、当時の最先端の道具がたくさん使われました。1つの問題を解くために、いくつもの分野をつなぐ必要があったのです。グロタンディークの業績やセールの業績と生涯らが築いた20世紀の数学の力が、集まって初めて解けた問題だと言えます。

4. 61年の間に、つながりが見えてきた

モーデルが予想した1922年から、1983年までの間に、ヴェイユ、シャファレヴィチ、テイト、パルシンらが、少しずつ手がかりを積み上げました。特にパルシンの「別の予想から導かれる」という結果は、証明の方向を決めるうえで決定的でした。1つの大きな問題が、少し小さい問題に置きかえられていく、という進み方は、難問の解決によくある流れです。

よくある誤解:「有限個というのは、少ないという意味?」

「有限個」は「少ない」という意味ではありません。100万個でも、算術の無矛盾性の問題で出てくる巨大な数でも、有限個です。大切なのは、「無限ではない」ことです。実際、種数2の曲線でも、有理点がとてもたくさん見つかっている例があります。

もう一つの誤解は、「フェルマーの最終定理は、モーデル予想から簡単に出る」というものです。モーデル予想から出るのは、「n≥4n\ge4 で解は有限個」であり、「解がない」ではありません。「有限個」から「ゼロ個」へ進むには、ワイルズの証明のような、全く別の大きな仕事が必要でした。

サクラちゃん

サクラちゃん

種数が大きいほど、分数の解が少なくなる、ってふしぎですね。穴の数と分数に、どんな関係があるんですか?

合格先生

合格先生

そこがこの定理のいちばんおもしろいところだね。「穴の数」は、曲線の形の複雑さを表す数だ。形が複雑になるほど、数のあいだの関係がきつくなって、分数の解が「入り込む余地」が減る、と考えられているんだ。形と数が、深いところでつながっているという発見で、これがファルティングスの証明のすごさなんだよ。

受験・勉強とのつながり

中学受験:分数と、整数の問題

中学受験の算数で習う、「分数で表す」「約分」「整数の性質」は、有理数の点を考える土台です(有理数とは・1次不定方程式(整数解))。たとえば「3x+5y=13x+5y=1 をみたす整数 x,yx,y を1組見つけなさい」は、直線上の整数点を探す、最も簡単な「ディオファントス方程式」です。

高校数学:座標、円、整数

円の式 x2+y2=1x^2+y^2=1(円の方程式)や、直線と円の交点を求める計算は、円上の有理点を作る方法と同じです。高校で習う2次曲線(放物線・楕円・双曲線)は、種数0の曲線です。また、三平方の定理の整数の組(ピタゴラス数)の作り方を、有理数の点という見方でとらえ直すと、図のように見通しがよくなります。

大学入試:整数問題と合同式

大学入試の整数問題では、「x2+y2=3z2x^2+y^2=3z^2 には自明でない整数解がない」ことを、合同式(mod の計算)や背理法とはで示す問題が出ます。余りの性質を使って「解がない」ことを示す方法は、まさにモーデル予想の世界の入り口です。京大などの整数問題に興味がある人は、京大理系数学の出題分析も参考にしてください。

大学の数学:整数論と代数幾何

大学の数学科では、整数論や代数幾何学の授業で、楕円曲線や有理点が出てきます。日本人では、谷山豊の業績と志村五郎の業績の「谷山・志村予想」が、楕円曲線とフェルマーの最終定理を結ぶ鍵になりました。

勉強法として:「ない」ことを示す練習

この問題から学べるのは、「解がある」ことだけでなく「解がない・有限個しかない」ことを示す練習の大切さです。入試の整数問題では、余りで場合分けして、「条件をみたす数はない」と示すことが、よくあります。数学の勉強の進め方は数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)も参考にしてください。

自由研究にも:円の有理点を作ってみよう

円 x2+y2=1x^2+y^2=1 の有理点を、傾き t=12,13,23,34,⋯t=\dfrac12,\dfrac13,\dfrac23,\dfrac34,\cdots に対して計算して、表にしてみましょう。分子・分母に出てくる整数の組が、32+42=523^2+4^2=5^2、52+122=1325^2+12^2=13^2、82+152=1728^2+15^2=17^2 のように、ピタゴラス数になっていることが確かめられます。ピタゴラス数をプラトン数(12960000)と216の不思議のような「数の不思議」と並べて調べるのも楽しいでしょう。

モーデル予想が数学・社会にあたえた影響

  • 数論と幾何学の結びつき:「曲線の形(種数)が、有理数の解の個数を決める」というモーデル予想の内容は、数論と幾何学が深くつながっていることを、はっきり示しました。この考え方は、「算術幾何学」という分野を大きく育てました。
  • ラングの予想など、次の問題:モーデル予想の高次元版である、ラングの予想やボンビエリ・ラング予想など、さらに大きな問題が生まれました。ファルティングスは1991年に、アーベル多様体の部分多様体についての、モーデル・ラング予想の一部を証明しています。
  • フェルマーの最終定理の証明への道:ファルティングスの定理が出た1983年から、1995年のワイルズの証明までの12年間に、楕円曲線とモジュラー形式の研究が飛躍的に進みました。
  • 暗号など、社会での応用:楕円曲線は、スマートフォンやインターネットの通信を守る楕円曲線暗号に使われています。有理点の理論そのものが、暗号に直接使われているわけではありませんが、楕円曲線の性質の研究が、土台になっています。
  • ABC予想との関係:ABC予想が正しければ、モーデル予想がより強い形で導かれることが知られています。モーデル予想は、数論の多くの未解決問題をつなぐ、かなめの一つです。

1つの予想が、数論・幾何・暗号まで、数学の広い範囲に影響を与えました。ビーベルバッハ予想のように、「解けたあとも新しい道具が使われ続ける」問題の、もう一つの例です。

この問題に挑戦!練習問題

やさしい

  1. 点 (35,45)\left(\dfrac35,\dfrac45\right) が円 x2+y2=1x^2+y^2=1 の上にあることを確かめなさい。また、(513, □)\left(\dfrac5{13},\ \square\right) が円の上の点になるように、正の分数 □\square を求めなさい。
    答えと解説を見る(35)2+(45)2=925+1625=1\left(\dfrac35\right)^2+\left(\dfrac45\right)^2=\dfrac9{25}+\dfrac{16}{25}=1 なので円の上にあります。次に (513)2+y2=1\left(\dfrac5{13}\right)^2+y^2=1 より y2=1−25169=144169y^2=1-\dfrac{25}{169}=\dfrac{144}{169}、y>0y>0 なので y=y=1213\dfrac{12}{13}。(52+122=1325^2+12^2=13^2 の三平方の定理に対応します。)
  2. 円 x2+y2=1x^2+y^2=1 の上の点 (−1,0)(-1,0) から、傾き t=23t=\dfrac23 の直線を引いたとき、もう1つの交点の座標を、公式 x=1−t21+t2, y=2t1+t2x=\dfrac{1-t^2}{1+t^2},\ y=\dfrac{2t}{1+t^2} で求めなさい。
    答えと解説を見るt2=49t^2=\dfrac49 なので、x=1−491+49=5/913/9=513x=\dfrac{1-\frac49}{1+\frac49}=\dfrac{5/9}{13/9}=\dfrac5{13}、y=2⋅231+49=4/313/9=1213y=\dfrac{2\cdot\frac23}{1+\frac49}=\dfrac{4/3}{13/9}=\dfrac{12}{13}。答えは (513,1213)\left(\dfrac5{13},\dfrac{12}{13}\right)。

ふつう

  1. 楕円曲線 y2=x3−x+1y^2=x^3-x+1 について、x=3x=3 のときの整数の yy を求めなさい。また、x=2x=2 のとき、y2y^2 はいくつですか。
    答えと解説を見るx=3x=3 のとき y2=27−3+1=25y^2=27-3+1=25 なので y=y=±5\pm5。x=2x=2 のとき y2=8−2+1=7y^2=8-2+1=7 で、7は平方数でないので、整数の yy はありません。
  2. 楕円曲線 y2=x3−x+1y^2=x^3-x+1 と、直線 y=1y=1 の交点の xx 座標を全部求めなさい。
    答えと解説を見るy=1y=1 を代入して 1=x3−x+11=x^3-x+1、つまり x3−x=0x^3-x=0、x(x−1)(x+1)=0x(x-1)(x+1)=0。x=−1, 0, 1x=-1,\ 0,\ 1 の3つです。したがって交点は (−1,1),(0,1),(1,1)(-1,1),(0,1),(1,1) で、3つとも有理点(整数点)です。

むずかしい

  1. 円 x2+y2=3x^2+y^2=3 に、有理数の点がないことを示しなさい。(ヒント:有理点があるとして (ac,bc)\left(\dfrac ac,\dfrac bc\right) と書き、a2+b2=3c2a^2+b^2=3c^2(a,b,ca,b,c は整数で最大公約数が1)を3で割った余りで考える。)
    答えと解説を見る平方数を3で割った余りは 0 か 1 です。a2+b2a^2+b^2 が 3 で割り切れるのは、a2≡b2≡0a^2\equiv b^2\equiv0 のときだけ(0+1 や 1+1 は割り切れない)。つまり a,ba,b はどちらも 3 の倍数です。すると a2+b2a^2+b^2 は 9 の倍数なので、3c23c^2 も 9 の倍数、c2c^2 が 3 の倍数となり、cc も 3 の倍数です。これは a,b,ca,b,c の最大公約数が 1 であることに反します。よって有理点はありません。
  2. フェルマー曲線 x5+y5=1x^5+y^5=1 の種数を、公式 (n−1)(n−2)2\dfrac{(n-1)(n-2)}{2} で求めなさい。また、モーデル予想(ファルティングスの定理)から何が言えますか。
    答えと解説を見るn=5n=5 なので 4×32=\dfrac{4\times3}{2}=6。種数が2以上なので、ファルティングスの定理により、x5+y5=1x^5+y^5=1 の有理点は有限個です。これは、a5+b5=c5a^5+b^5=c^5 を満たす(互いに素な)整数の組が有限個しかないことを意味します。(最終定理により、実際には自明な解以外は0個です。)

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よくある質問

モーデル予想とは何ですか?

モーデル予想とは、種数(穴の数)が2以上の曲線の上には、x、yがどちらも分数で表せる点(有理点)が有限個しかないという予想です。1922年にモーデルが予想し、1983年に証明されました。

モーデル予想はだれがいつ解きましたか?

1983年にドイツのゲルト・ファルティングスが証明しました。予想から61年後です。この仕事を主な理由に、ファルティングスは1986年にフィールズ賞を受賞し、証明された結果はファルティングスの定理ともよばれます。

種数とは何ですか?

種数とは、曲線を複素数まで広げて考えたときにできる曲面の穴の数のことです。ボールは0、ドーナツは1、浮き輪を2つつなげた形は2です。なめらかな平面曲線では、次数がdのとき(d−1)(d−2)/2になります。

有理数の点とは何ですか?

曲線の上の点で、x座標もy座標も分数(整数もふくむ有理数)で表せる点のことです。円x²+y²=1の(3/5, 4/5)は、3²+4²=5²に対応する有理数の点です。

円の有理数の点は何個ありますか?

円x²+y²=1には、有理数の点が無限にあります。点(−1,0)から傾きtの直線を引くと、tが分数のとき、もう1つの交点も分数の座標になり、いくらでも作れるからです。

モーデル予想はフェルマーの最終定理とどう関係しますか?

フェルマー曲線x^n+y^n=1の種数は(n−1)(n−2)/2で、n≧4のとき2以上です。ファルティングスの定理により、n≧4では有理点が有限個と分かります。ただし「ゼロ個」の証明にはワイルズの仕事が必要でした。

「有限個」と分かれば、点はすべて見つかりますか?

いいえ。ファルティングスの定理は、有限個であることは保証しますが、何個あるか、どこにあるかは教えてくれません。個々の曲線の有理点をすべて見つける研究は、今も続いています。

ファルティングスはほかにどんな業績がありますか?

モーデル予想と同時に、テイト予想とシャファレヴィチ予想をアーベル多様体について証明しました。1991年にはモーデル・ラング予想の一部も示しています。2026年にはアーベル賞の受賞が発表されました。

モーデル予想は受験に出ますか?

予想そのものは出ません。ただし、円と直線の交点、ピタゴラス数、合同式を使って整数解がないことを示す問題は、高校数学や大学入試でよく出ます。これらはモーデル予想の世界への入り口になっています。

あわせて読みたい

出典・参考

  • L. J. Mordell, “On the rational solutions of the indeterminate equations of the third and fourth degrees”(Proceedings of the Cambridge Philosophical Society, 1922年)
  • G. Faltings, “Endlichkeitssätze für abelsche Varietäten über Zahlkörpern”(Inventiones Mathematicae, 73, 1983年)
  • MacTutor History of Mathematics, “Gerd Faltings” https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Faltings/
  • MacTutor History of Mathematics, “Louis Joel Mordell” https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Mordell/
  • Wikipedia, “Faltings’s theorem” https://en.wikipedia.org/wiki/Faltings%27s_theorem
  • The Norwegian Academy of Science and Letters, “The Abel Prize 2026”(2026年3月19日発表)
  • J. H. Silverman, “The Arithmetic of Elliptic Curves”(Springer)

最終更新:2026年11月3日/作成:大学受験合格大作戦