望月新一は何をした人?業績をわかりやすく|宇宙際タイヒミュラー理論・ABC予想・遠アーベル幾何

望月新一は何をした人?業績をわかりやすく|宇宙際タイヒミュラー理論・ABC予想・遠アーベル幾何

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望月新一Shinichi Mochizuki

ひとことで言うと

遠アーベル幾何学の大問題を解決し、2012年に宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)でABC予想を証明したと発表した数学者。論文は2021年に掲載されたが、評価は分かれている。

名前望月新一(もちづき しんいち / Shinichi Mochizuki)
生年1969年3月29日〜(存命)
国日本(東京生まれ、京都大学数理解析研究所の教授)
分野数論幾何学・遠アーベル幾何学
主な業績グロタンディーク予想の証明(1996年)、p進タイヒミュラー理論、宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論、2012年発表)
名前がつくものIUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)、p進タイヒミュラー理論
主な受賞日本数学会秋季賞(1997年)、日本学術振興会賞・日本学士院学術奨励賞(2005年)
評価IUT理論は2021年に学術誌PRIMSに掲載。ショルツェらが2018年に問題点を指摘し、評価は分かれたまま

このページのポイント

  • 1990年代に遠アーベル幾何学の大問題(グロタンディーク予想)を解決。16歳でプリンストン大学に入学し、1992年に博士の学位
  • 2012年に宇宙際タイヒミュラー理論(IUT)でABC予想を証明したと発表。論文は2021年に学術誌に掲載された
  • 評価は分かれている。ショルツェらは2018年に重大な問題点を指摘。2026年10月時点でも、数学界の合意は得られていない

望月新一は何をした人?(業績をひとことで)

望月新一(もちづき しんいち、1969年生まれ)は、日本の数学者で、京都大学数理解析研究所(RIMS)の教授です。専門は数論幾何学。1990年代には遠アーベル幾何学の大きな問題(グロタンディーク予想)を解決し、p進タイヒミュラー理論を築きました。そして2012年8月、宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)という新しい理論を発表し、これによってABC予想が証明できたと主張しました。

ABC予想は、「足し算 a+b=ca+b=c と、かけ算(素因数分解)の関係」についての予想です。ワイルズが解いたフェルマーの最終定理や、モーデル予想(ファルティングスの定理)などの大問題が、この予想から導かれると言われます。そのため、証明が正しいかどうかは、世界の数学者に注目されてきました。

ただし、この証明が正しいかどうかについて、数学者の評価は分かれたままです。論文は2021年に学術誌に掲載されましたが、ショルツェとシュティックスの2人の数学者は、2018年に「証明の一か所に重大な問題がある」と指摘しました。この記事では、どちらの立場にも肩入れせず、確かめられている事実を、年の順番にていねいに並べます。結論を急がずに読んでください。ABC予想の中身はABC予想とは?(難問ページ)にくわしく書いてあります。

なお、望月新一は現在も活動している数学者です。ここでは、論文、受賞、大学や学会の公式な発表、報道された事実だけを書き、私生活や人柄についての推測は書きません。

うかるくん

うかるくん

証明が正しいかどうか、まだ決まっていないんですか? 数学って、正しいか正しくないかがはっきりする学問だと思っていました。

合格先生

合格先生

数学の証明は、最終的には正しいか正しくないかが決まるよ。ただ、とても長くて新しい理論を使う証明は、世界の専門家が納得するまでに長い時間がかかることがあるんだ。このページでは、「いま何が分かっていて、何が分かれているのか」を、そのまま伝えるよ。

望月新一の生涯と年表

ここでは、日本語版・英語版ウィキペディア、京都大学数理解析研究所の公式な紹介、報道で確かめられる事実を書きます。

東京に生まれ、アメリカで育つ

望月新一は1969年3月29日、東京で生まれました。英語版ウィキペディアによると、5歳のときにアメリカに移り、フィリップス・エクセター・アカデミーを1985年に卒業しています。その後、16歳でプリンストン大学に入学し、1988年に卒業しました。

プリンストン大学で博士の学位

プリンストン大学の大学院では、ゲルト・ファルティングスに学びました。ファルティングスは、モーデル予想を解決して1986年にフィールズ賞を受けた数学者です。望月は1992年に博士の学位を受けています。ハーバード大学で2年間研究したのち、1994年に京都大学数理解析研究所に着任し、2002年に教授になりました。

グロタンディーク予想の証明(1996年)

1996年、望月はグロタンディーク予想とよばれる問題に取り組み、重要な場合を証明しました。これは、グロタンディークが1983年にファルティングスへの手紙で述べた予想です。曲線の形が、その基本群(曲線上を回るループのなす代数)から決まる、という趣旨のものです。この仕事で、望月は1997年に日本数学会の秋季賞を受け、1998年にはベルリンの国際数学者会議で招待講演を行いました。

IUT理論の発表(2012年)

2012年8月30日、望月は宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)に関する4本の長い論文を、数理解析研究所のサイトで公開しました。論文は合わせて500ページをこえるとされ、ABC予想の証明につながると説明されました。この理論は、既存の数学とはかなり異なる新しい言葉を使うため、理解には時間がかかるとされます。

2018年の指摘と、2020〜21年の掲載

2018年、ペーター・ショルツェとヤコブ・シュティックスは、京都を訪れて望月らと数日間議論したのち、報告書を公開しました。報告書は、IUT第3論文の系3.12の証明に、簡単な修正では直せない問題があると述べています。望月は、これに対して反論をウェブサイトで公開しました。

2020年4月、数理解析研究所の学術誌 PRIMS に、IUT論文が掲載されることが発表されました。この雑誌では望月が編集長を務めていますが、IUT論文の審査は、望月をのぞく特別な編集委員会が扱ったと説明されています。論文は、2021年3月5日の特集号として刊行されました。ただし、この掲載後も、批判する側の数学者は、問題が解消されていないとして、評価を変えていません。

望月新一の歩み19693月29日、東京で生まれる1992プリンストン大学で博士の学位1994京大数理解析研究所に着任1996グロタンディーク予想の証明2002京大数理解析研究所の教授2012IUT理論の論文を公開2021論文が学術誌に掲載される
望月新一の歩み。1969年に東京で生まれ、1996年にグロタンディーク予想、2012年にIUT理論、2021年に論文掲載
年できごと
1969年3月29日、東京で生まれる。5歳でアメリカへ
1985年フィリップス・エクセター・アカデミーを卒業
1988年16歳で入学したプリンストン大学を卒業
1992年プリンストン大学で博士の学位(指導教員はファルティングス)
1994年京都大学数理解析研究所に着任(2002年に教授)
1996年グロタンディーク予想を証明(遠アーベル幾何学)
1997年日本数学会の秋季賞
1998年国際数学者会議(ベルリン)で招待講演
2005年日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞
2012年8月30日、IUT理論の論文4本を公開
2018年3月にショルツェとシュティックスが京都で議論。のち報告書を公開し、望月は反論を公開
2020年4月、IUT論文のPRIMSへの掲載が発表される
2021年3月5日、PRIMSの特集号が刊行される

望月新一の主な業績をやさしく解説

業績1 遠アーベル幾何学とグロタンディーク予想

グロタンディークは1983年ごろ、次のようなことを予想しました。「特定の種類の曲線は、その“ループの代数(基本群)”に整数論の情報を加えたものから、完全に決まるはずだ」。ふつうの曲線を、穴の数でなく、代数の言葉で完全に表せる、という大胆な主張です。

遠アーベル幾何の考え方 曲線(図形) 基本群穴をまわるループの代数 調べる復元できる? ループの代数に整数論の情報を加えると、もとの曲線が決まるだろう(グロタンディーク)
曲線上のループの代数(基本群)から、もとの曲線が決まるだろう、というのがグロタンディークの予想

「アーベル」とは、かけ算の順番を変えても結果が変わらない代数のことです。「遠アーベル」は、そこから遠く離れた、順番が大事な複雑な代数を指します。望月は1996年ごろ、この予想を重要な場合に証明しました。これにより、曲線の幾何学を、代数と整数論で完全に調べられることが示されました。この結果は、モーデル予想を解いたファルティングスの仕事にもつながる、基本的な成果とされます。

業績2 p進タイヒミュラー理論

1990年代に望月は、p進タイヒミュラー理論という理論を築きました。素数 pp を使う整数の世界(p進数の世界)で、曲線の形の変化を調べる理論です。曲線がどう変形できるかを調べる「タイヒミュラー理論」を、素数 pp の世界で再構成したものと説明されます。この仕事は、のちのIUT理論の土台になりました。

素因数分解や合同式(mod の計算)で、素数 pp でわった余りの世界を調べる考え方は、高校数学でも出会います。p進数の世界は、その延長にあたる、整数論の基本的な舞台です。

業績3 宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)とABC予想

まず、ABC予想を確かめましょう。整数 nn を素因数分解して、現れる素数を1回ずつかけた数を rad(n)\mathrm{rad}(n) と書きます。たとえば 72=23×3272=2^3\times3^2 なので、rad(72)=2×3=6\mathrm{rad}(72)=2\times3=6 です。互いに素な自然数 a,b,ca,b,c が a+b=ca+b=c を満たすとき、ABC予想は、「cc は、rad(abc)\mathrm{rad}(abc) より、ほんの少し大きい程度(正確には、rad(abc)1+ε\mathrm{rad}(abc)^{1+\varepsilon} より大きいことは、有限個の例外しかない)」と述べます。

ABC予想の例:質 q を比べる q=10 1+8=91.235+27=321.021+48=491.041+80=811.293+125=1281.43 q>1 の例はめずらしい(q=ln c ÷ ln rad(abc))
a+b=cの例で、cがrad(abc)よりどれだけ大きいかを表す質q。q>1になる例はめずらしい

IUT理論は、この予想を証明するために望月が作った、新しい理論です。ごく大まかに言うと、次のような発想とされます。ふつうの数の世界では、足し算とかけ算はセットになっていて、切りはなせません。そこで望月は、足し算とかけ算の結びつきをいったんゆるめた別の“劇場”を考え、2つの劇場のあいだをΘリンクという特別な橋でつなぎました。そして、2つの世界のあいだで数の大きさを比べることで、ABC予想とつながる不等式(シュピロ予想)を導く、という筋書きです。

IUT のイメージ(かなり大まかな絵) 劇場 A足し算+かけ算がセットの世界(ふつうの数) 劇場 B足し算とかけ算のつながりをゆるめた世界 Θリンク 2つの世界のあいだで数の大きさを比べ、「ABC予想の不等式」を導こうとする(専門家向けの理論の、ごく大まかな言いかえです)
足し算とかけ算がセットの世界(劇場A)と、つながりをゆるめた世界(劇場B)を、Θリンクでつなぐ。かなり大まかな絵

この絵は、専門的な理論をごく大まかに言いかえたものです。実際の理論は、グロタンディーク以来の現代代数幾何学の言葉を何重にも使う、非常に長い議論でできています。

業績4 ABC予想が導く結果

ABC予想が正しいとすると、多くの有名な問題が導かれると言われます。たとえば、フェルマーの最終定理は、nn が十分大きいときについて、ABC予想から短く導けます。また、モーデル予想を、ファルティングスより強い形(具体的に計算できる形)で示せるとされます。このため、数論の専門家にとって、ABC予想の解決は大きな意味をもちます。

望月新一の名前がつく公式・定理・用語

  • 宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論):望月が2012年に発表した理論。評価は分かれています。
  • 遠アーベル幾何学:グロタンディークが提唱し、望月が重要な場合を証明した分野。
  • p進タイヒミュラー理論:素数 pp の世界で曲線の変形を調べる理論。
  • ホッジ劇場(Hodge theater)・Θリンク:IUT理論で使われる専門用語。
  • ABC予想(オステルレ–マッサー予想):望月の名前ではありませんが、IUT理論が証明を目指した予想です。

素因数分解と約数の個数、最大公約数・最小公倍数、互いに素は、ABC予想の言葉を理解するために必要な、高校数学の基本です。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

「足し算とかけ算の関係」というのは、小学生でも分かる問題だよね。でもその奥に、世界の数学者が何十年も取り組む深い問題がある。「やさしそうで、実は深い」のが、整数論の魅力だよ。

IUT理論の評価が分かれている経緯

ここでは、とくに誤解されやすい点を、公に知られた事実だけで整理します。数学者の評価は分かれており、このページはどちらが正しいかを判断しません。

IUT理論をめぐる流れ1985ABC予想(オステルレ・マッサー)2012年8月望月新一がIUT論文4本を公開2015年12月オックスフォードで研究集会2018年ショルツェ・シュティックスの報告2020年4月PRIMS への掲載を発表2021年3月特集号が刊行される2026年数学界の合意はまだない
ABC予想とIUT理論をめぐる流れ。2012年の公開、2018年の指摘、2020〜21年の掲載

2012年:論文の公開

2012年8月に論文が公開されたあと、世界の数論の研究者たちが読み始めました。しかし、理論が非常に長く、新しい言葉を数多く使うため、理解して検証できる人は少なかった、とされます。2015年12月には、イギリスのオックスフォード大学で、IUT理論を学ぶ研究集会が開かれました。

2018年:ショルツェとシュティックスの報告

2018年、ショルツェとシュティックスは、報告書を公開しました。その内容は、IUT第3論文の系3.12の証明に、簡単な修正では直せない問題があるというものです。もしこの指摘が正しければ、ABC予想の証明は成立していない、ということになります。ショルツェは、のちに、この指摘は出版された論文でも解消されていないと述べたとされます。

望月氏と支持する人たちの立場

望月は、この指摘に対して、自分の議論に誤りはなく、指摘は理論の誤解にもとづくという趣旨の反論を、ウェブサイトで公開しています。また、理論を支持する数学者の中には、山下剛氏のように、理論を詳しく解説する長い論文を書いて、理論を伝えようとする人もいます。論文は、望月をのぞく特別な編集委員会による審査をへて、2021年にPRIMSに掲載されたと説明されています。

批判する側が指摘していること

批判する側の数学者は、次のような点を指摘しています。掲載された雑誌が、望月が編集長を務める、数理解析研究所の雑誌であること。そして、系3.12についての自分たちの疑問が、掲載版でも解消されていないと考えていること。一方、雑誌側は、望月をのぞく特別な編集委員会が審査を扱ったと説明しています。これらをどう評価するかは、立場によって異なります。

なぜ、決着に時間がかかるのか

ふつうの数学の論文は、数十ページで、同じ分野の専門家なら数週間から数か月で読み通せます。ところがIUT理論は、数百ページにおよぶ複数の論文が、互いに積み重なる構成になっています。しかも、新しい用語と考え方が数多く使われます。そのため、ひとつの主張を確かめるだけでも、膨大な前提を理解する必要があります。これは、理論の出来のよしあしとは別の、検証そのものの難しさです。このため、検証の進め方そのものについても、数学者のあいだで議論が続いています。学術誌に掲載されることと、研究者全体が納得することとは、別の段階だという見方もあります。

評価は分かれている(両方の立場) 論文を支持する側 2020年に学術誌PRIMS に掲載が決定(2021年に刊行)解説論文を書いて理論を伝えようとする研究者もいる「理論は正しい」と望月氏が説明 疑問を示す側 2018年、ショルツェとシュティックスが証明の一か所に「重大な問題」と指摘出版後も問題は解消されていないとショルツェは述べる多くの数論研究者は納得していない どちらが正しいか、数学界の合意は得られていない(2026年10月時点)
IUT理論の評価が分かれていることを、左右同じ大きさの枠で並べた図

現在(2026年10月時点)

2026年10月の時点でも、数学界全体の合意は得られていないとされます。ABC予想は、ABC予想(難問ページ)でも「未解決か、証明されたか、意見が分かれている」状態として扱っています。ペレルマンのポアンカレ予想のように、長い時間をかけて検証され、合意に至った例もあります。IUT理論が今後どうなるかを、このページで予想することはしません。

サクラちゃん

サクラちゃん

どっちが正しいか、どうやって決まるんでしょう?

合格先生

合格先生

数学では、証明の一行一行を、第三者が確かめられることが大切なんだ。最近は、コンピュータで証明を検証する取り組みも進んでいる。結論を急がずに、確かめられたことだけを信じる。それが数学の姿勢だよ。

受験・勉強と望月新一のつながり

中学受験・高校受験との関係

ABC予想の言葉は、実は中学受験の算数にも出てきます。素因数分解です。たとえば 360=23×32×5360=2^3\times3^2\times5 のとき、素因数は2、3、5の3種類。これらを1回ずつかけた rad(360)\mathrm{rad}(360) は 2×3×5=302\times3\times5=30 です。素因数分解と約数の個数を確かめておくと、ABC予想の「rad」がすぐ分かります。

大学受験との関係

西暦の数を使った整数問題の例は2027は素数?双子素数と西暦の入試問題、素数「2」の話は唯一の偶数の素数「2」の話にあります。京都大学・東京大学の整数問題は京大理系数学の出題分析(整数問題の出方)にまとめています。

京都大学と数理解析研究所

望月は、京都大学数理解析研究所(RIMS)の教授です。京都大学を目指す人は、数理解析研究所を、学部とは別の研究の拠点として知っておくと、大学の見え方が少し変わるでしょう。佐藤幹夫や柏原正樹も、この研究所を中心に活躍しました。

勉強法として:疑問は、確かめられるまで保留する

IUT理論をめぐる出来事は、「分からないものを、分からないまま持ち続ける」という数学の姿勢を教えてくれます。入試の勉強でも、理解があやふやなところを「分かったつもり」にしないで、自分で確かめるまで保留する習慣は大切です。勉強の進め方は数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)、数学オリンピック風の整数問題は数学オリンピックの問題(長方形に詰めた正方形)にあります。

望月新一がその後の数学にあたえた影響

  • 遠アーベル幾何学:望月の1990年代の成果は、評価が定まっており、この分野の基本的な結果です。
  • ABC予想への関心:IUT理論の発表で、ABC予想は世界中の数学者に注目されました。
  • 証明の検証のあり方:非常に長く、新しい理論を使う証明を、数学界がどう検証するかという議論を生みました。コンピュータによる検証の取り組みも話題になっています。
  • 数学の「合意」のしくみ:新しい理論が受け入れられるまでには、論文の発表、専門家による検証、解説論文や研究集会、学術誌への掲載、そしてその後の議論、という段階があります。IUT理論は、この全体のしくみについて、数学者が考えるきっかけにもなりました。
  • 数論幾何学の発展:グロタンディーク、ワイルズ、志村五郎の流れを受けつぐ、現代数論の一部です。

数学の大きな問題が、証明されたかどうかの判断に時間がかかる例は、ほかにもあります。数論の大問題は、リーマン予想、ゴールドバッハ予想、双子素数予想などがあります。

望月新一に挑戦!練習問題

やさしい

  1. 72を素因数分解し、現れる素数を1回ずつかけた数 rad(72)\mathrm{rad}(72) を求めなさい。
    答えと解説を見る72=23×3272=2^3\times3^2 なので、rad(72)=2×3=\mathrm{rad}(72)=2\times3=6。
  2. 360の rad(360)\mathrm{rad}(360) を求めなさい。
    答えと解説を見る360=23×32×5360=2^3\times3^2\times5 なので、rad(360)=2×3×5=\mathrm{rad}(360)=2\times3\times5=30。

ふつう

  1. 1+8=91+8=9 について、a=1a=1、b=8b=8、c=9c=9 とします。rad(abc)\mathrm{rad}(abc) を求め、cc と大きさを比べなさい。
    答えと解説を見るabc=1×8×9=72abc=1\times8\times9=72 で、rad(72)=6\mathrm{rad}(72)=6。c=9c=9 は 66 より大きい。(rad より cc が大きい例です)
  2. 3+125=1283+125=128 について、rad(abc)\mathrm{rad}(abc) を求め、c=128c=128 が rad(abc)\mathrm{rad}(abc) の約何倍かを小数第1位まで答えなさい。
    答えと解説を見る3×125×128=3×53×273\times125\times128=3\times5^3\times2^7 なので、rad=3×5×2=30\mathrm{rad}=3\times5\times2=30。128÷30≈128\div30\approx4.3倍。

むずかしい

  1. 自然数 nn について、rad(n)≤n\mathrm{rad}(n)\le n が成り立つ理由を述べ、等号が成り立つ条件を答えなさい。
    答えと解説を見るrad(n)\mathrm{rad}(n) は、nn の異なる素因数の積で、nn の約数です。約数は nn 以下なので rad(n)≤n\mathrm{rad}(n)\le n。等号は、nn のどの素因数も2回以上現れないとき、つまりnn が平方因子をもたない(どの素数でも2乗でわり切れない)ときに成り立ちます。
  2. a+b=ca+b=c の質を q=ln⁡cln⁡rad(abc)q=\dfrac{\ln c}{\ln\mathrm{rad}(abc)} とします。1+8=91+8=9 の質を、ln⁡9≈2.197\ln9\approx2.197、ln⁡6≈1.792\ln6\approx1.792 を使って小数第2位まで求めなさい。
    答えと解説を見るq=ln⁡9ln⁡6≈2.1971.792≈q=\dfrac{\ln9}{\ln6}\approx\dfrac{2.197}{1.792}\approx1.23。q>1q>1 は、cc が rad(abc)\mathrm{rad}(abc) より大きいことを表します。

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現代(1940年以降生まれ)の数学者

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よくある質問

望月新一は何をした人ですか?

望月新一は、京都大学数理解析研究所の教授で、数論幾何学の数学者です。1990年代に遠アーベル幾何学のグロタンディーク予想を解決し、2012年に宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)でABC予想を証明したと発表しました。

宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)とは何ですか?

望月新一が2012年に発表した、ABC予想の証明をめざす理論です。足し算とかけ算がセットになった世界を、つながりをゆるめた別の世界とΘリンクで結び、2つの世界のあいだで数の大きさを比べるという発想とされます。専門的で、理解できる研究者は限られています。

ABC予想とは何ですか?

互いに素な自然数でa+b=cのとき、cは、abcの素因数を1回ずつかけた数rad(abc)より、ほんの少し大きい程度におさまる、という予想です。1985年にオステルレとマッサーが述べました。フェルマーの最終定理などの大問題が導かれると言われます。

ABC予想は証明されましたか?

望月新一は2012年に証明したと発表し、論文は2021年に学術誌PRIMSに掲載されました。しかし、ショルツェとシュティックスは2018年に証明に問題があると指摘し、2026年10月時点でも、数学界全体の合意は得られていません。

ショルツェとシュティックスは何を指摘したのですか?

2018年に報告書を公開し、IUT第3論文の系3.12の証明に、簡単な修正では直せない問題があると指摘しました。望月新一は、この指摘は理論の誤解にもとづくという趣旨の反論を公開しています。

望月新一はどんな賞を受けましたか?

日本数学会の秋季賞(1997年)、日本学術振興会賞と日本学士院学術奨励賞(2005年)などを受けています。1998年には国際数学者会議で招待講演を行いました。

望月新一はどこの大学で学びましたか?

16歳でプリンストン大学に入学し、1988年に卒業しました。大学院でもプリンストン大学でゲルト・ファルティングスに学び、1992年に博士の学位を受けました。ハーバード大学をへて、1994年に京都大学数理解析研究所に着任しました。

グロタンディーク予想とは何ですか?

特定の種類の曲線は、その基本群(曲線上を回るループのなす代数)に整数論の情報をくわえたものから、完全に決まるだろうという予想です。グロタンディークが1983年ごろ述べ、望月新一が1996年に重要な場合を証明しました。

望月新一の研究は大学受験に関係がありますか?

研究そのものは受験には出ません。ただし、ABC予想の言葉である素因数分解、互いに素、対数などは、中学受験から大学入試まで、整数問題の基本です。

IUT理論が正しいかどうか、今後どうなりますか?

このページでは予想をしません。論文は学術誌に掲載されていますが、疑問を示す数学者もいて、検証が続いています。コンピュータによる検証の取り組みなども話題になっています。

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出典・参考

  • 日本語版ウィキペディア「望月新一」、英語版ウィキペディア「Shinichi Mochizuki」
  • S. Mochizuki, “Inter-universal Teichmüller theory I–IV”, Publications of the Research Institute for Mathematical Sciences 57(2021年)
  • P. Scholze, J. Stix, “Why abc is still a conjecture”(2018年)
  • J. Oesterlé, “Nouvelles approches du théorème de Fermat”, Séminaire Bourbaki(1988年)

最終更新:2026年11月2日/作成:大学受験合格大作戦