陳省身(チャーン)は何をした人?業績・生涯をわかりやすく|チャーン類・ガウス・ボンネの定理

陳省身(チャーン)は何をした人?業績・生涯をわかりやすく|チャーン類・ガウス・ボンネの定理

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陳省身Shiing-Shen Chern

ひとことで言うと

曲がった空間のねじれと穴を整数で数える「チャーン類」を作った、20世紀の微分幾何学の巨人。1944年にガウス・ボンネの公式を、あらゆる偶数次元で証明した。

名前陳省身(Shiing-Shen Chern、チャーン)
生没年1911年10月26日〜2004年12月3日(93歳)
国中国生まれ。アメリカ(シカゴ・バークレー)と中国(天津)で活躍
分野微分幾何学・位相幾何学(トポロジー)
主な業績ガウス・ボンネ・チャーンの定理(1944年の新証明)、チャーン類、チャーン・ヴェイユ理論、MSRI(数学科学研究所)の初代所長
主な受賞米国国家科学賞(1975年)、ウルフ賞(1983/84年)、邵逸夫賞(2004年・第1回)
名前がつくものチャーン類・チャーン数・チャーン・ヴェイユ理論・チャーン・サイモンズ形式・チャーン・メダル

このページのポイント

  • チャーン類は、空間の「ねじれ」を整数であらわす道具。物理学にも広く使われる
  • 1944年、ガウス・ボンネの公式を、外の空間を使わずにあらゆる偶数次元で証明した(曲がりの合計=穴の数で決まる)
  • MSRI(バークレー)と南開大学の研究所の立ち上げにかかわり、丘成桐ら多くの弟子を育てた

陳省身(チャーン)は何をした人?(業績をひとことで)

陳省身(ちん・しょうしん、Shiing-Shen Chern、チャーン、1911〜2004年)は、中国生まれでアメリカで活躍した数学者です。「曲がった空間」を調べる微分幾何学を、20世紀の中心的な数学に育て上げた人として知られます。名前のついたチャーン類は、空間の「ねじれ」を整数であらわす道具です。1944年には、ガウスの業績と生涯の時代からあったガウス・ボンネの公式を、あらゆる偶数次元に広げて新しい形で証明しました。この結果はガウス・ボンネ・チャーンの定理とよばれています。

むずかしそうに聞こえますが、考え方は身近です。たとえば、ボールの表面とドーナツの表面では、「穴」の数がちがいます。チャーンの仕事は、「曲面がどう曲がっているか」を全部足し合わせると、穴の数だけで決まる整数になるという不思議な事実を、どんな次元の空間にも通じる形で説明したものです。この記事では、小学生から高校生にも分かるように、図とたとえ話でチャーンの仕事を説明します。

チャーンは、1975年に米国の国家科学賞、1983/84年にウルフ賞、2004年に第1回の邵逸夫(ショー)賞数学賞などを受けました。1982年には、カリフォルニア大学バークレー校のそばにある数学科学研究所(MSRI)の初代所長になり、世界の数学者が集まる拠点を作りました。中国にも南開大学の陳省身数学研究所を作り、晩年は天津で過ごしました。弟子には、のちにフィールズ賞を受ける丘成桐(シン=トゥン・ヤウ)の業績がいます。

受験生にとってのチャーンは、オイラーの多面体定理(V−E+F=2)の「大きなお兄さん」にあたる人です。立方体の頂点・辺・面の数から V−E+F=2V-E+F=2 を学んだ人は、チャーンの仕事の入口にもう立っています。この数 22 は「球の形の特徴」で、チャーンはこの数が曲がり具合の合計と同じになることを一般の次元で示したのです。

うかるくん

うかるくん

微分幾何学って、名前からして難しそうです……。チャーンさんは、何を調べたんですか?

合格先生

合格先生

一言でいうと「曲がっている世界の、ねじれや穴を数える」ことだよ。地球の表面は曲がっているよね。その曲がり具合を全部足すと、じつは「穴の数」だけで決まってしまう。それを、どんな次元でも言える形にしたのがチャーンなんだ。

陳省身の生涯と年表

嘉興に生まれ、南開大学で数学へ

陳省身は1911年10月26日、中国の浙江省嘉興(かこう)で生まれました。天津にある南開大学で数学を学び、1930年に卒業します(MacTutor)。その後、北京の清華大学の大学院で、射影微分幾何学とよばれる分野の研究を始めました。

ハンブルクとパリで、大数学者に学ぶ

1930年代、数学の中心はヨーロッパにありました。チャーンは留学し、ドイツのハンブルク大学で数学者ブラシュケ(Wilhelm Blaschke)に学んで、1936年に博士号を受けました。チャーン自身は、ブラシュケの影響は言い表せないほど大きかったと語っています(MacTutor)。続いてパリに渡り、微分幾何学の大先生エリー・カルタンのもとで研究しました。この2人に学んだことが、のちの大きな仕事の土台になりました。

戦争のなかの研究、そしてプリンストン

1937年に清華大学の教授になりますが、日中戦争が始まり、大学は南へ移ります。チャーンは、昆明(クンミン)にあった西南連合大学で教えました(1938〜1943年)。1943年にアメリカのプリンストンへ渡り、1944年にガウス・ボンネの公式の新しい証明を発表します。チャーン自身は、あとになってこの仕事を自分の最高の仕事の1つと考えていた、と伝えられています。

中国へ、そしてアメリカへ

1946年に中国へもどり、南京で中央研究院(アカデミア・シニカ)の数学研究所を作りました。しかし中国は内戦のさなかで、1949年にアメリカへ移り、シカゴ大学の教授になります。シカゴ大学で幾何学の中心を築き、1960年にはカリフォルニア大学バークレー校に移りました。1979年に正式に定年となったあとも、研究と教育を続けました。

MSRIと、晩年の天津

1982年、バークレーに数学の研究所MSRI(数学科学研究所)ができ、チャーンが初代の所長になりました。1985年には南開大学に陳省身数学研究所が作られました。1999年に天津へ移り、2004年12月3日、天津で93歳の生涯を終えました。

チャーンの歩み1911中国の嘉興で生まれる1936ハンブルクで博士号1944ガウス・ボンネ公式の新証明1949シカゴ大学の教授に1960バークレー校へ1975米国の国家科学賞1982MSRIの初代所長2004天津で亡くなる(93歳)年は資料によって前後することがあります
チャーンの歩み。ハンブルク→パリ→プリンストン→シカゴ→バークレー→天津
年できごと
1911年10月26日、中国の浙江省嘉興で生まれる
1930年南開大学を卒業。清華大学の大学院で研究を始める
1936年ハンブルク大学で博士号(指導はブラシュケ)。パリでカルタンに学ぶ
1937年清華大学の教授になる
1938年昆明の西南連合大学で教える(〜1943年)
1944年ガウス・ボンネの公式の新しい証明(プリンストン滞在中)
1946年中国にもどり、中央研究院数学研究所を作る
1949年アメリカにわたり、シカゴ大学の教授になる
1960年カリフォルニア大学バークレー校に移る
1975年米国の国家科学賞(National Medal of Science)
1982年MSRI(数学科学研究所)の初代所長になる
1983/84年ウルフ賞(1983/84年度)
1985年南開大学に陳省身数学研究所ができる
2004年邵逸夫賞(ショー賞)数学賞の第1回受賞。12月3日、天津で亡くなる(93歳)

陳省身の主な業績をやさしく解説

業績1 ガウス・ボンネ・チャーンの定理:曲がりの合計は穴の数で決まる

地球儀の上の三角形を考えてみましょう。平面の三角形は、内角の和がかならず180°です。ところが、北極と赤道の2点を結んでできる三角形は、3つの角がどれも90°で、角の和は270°になります。180°より90°多いのは、球が曲がっているからです。この「余り」は、三角形の面積を半径の2乗でわった値とぴったり同じになります。

球の上の三角形は、角の和が180°をこえる90°90°90°角の和90+90+90=270°平面なら 180°余り = 90°=π/2(ラジアン)余り=面積÷半径²=曲がりの合計
球面の上の三角形。角の和は270°。平面の180°との差90°が、曲がり具合の合計になる

ガウスの曲面の研究は、曲面の曲がり具合をガウス曲率 KK という数で表しました。球なら、半径を rr として K=1r2K=\dfrac{1}{r^2} です。ふくらんだ球ほど曲がりがきついので、KK が大きくなります。そして19世紀、フランスの数学者ボンネが、曲面を細かく切った三角形の「余り」を全部足せば、曲がり具合の合計になることを示しました。結果は次の式です。

∫SK dA=2π χ(S)\int_S K\,dA=2\pi\,\chi(S)

ここで左辺は「曲面全体の曲がりを足し合わせたもの」、χ\chi(カイ)はオイラー標数という整数です。球なら χ=2\chi=2、ドーナツの面なら χ=0\chi=0、穴が2つなら χ=−2\chi=-2 です。穴が gg 個の曲面では χ=2−2g\chi=2-2g です。たとえば半径3の球では、K=19K=\frac19、面積は 4π×9=36π4\pi\times 9=36\pi なので、足し合わせると 19×36π=4π=2π×2\frac19\times36\pi=4\pi=2\pi\times2 となり、ちゃんと合います。

穴の数で決まる「曲がりの合計」球面穴 0 個χ = 2曲率の合計2π×2=4πドーナツ面穴 1 個χ = 0曲率の合計2π×0=02つ穴穴 2 個χ = −2曲率の合計2π×(−2)=−4π曲がり方は変えても、合計は変わらない
球面・ドーナツ面・2つ穴の曲面。曲がりの合計は2π×オイラー標数(球は4π、ドーナツは0、2つ穴は−4π)

ふしぎなのは、曲面をどれだけぐにゃぐにゃに変形しても、穴の数が同じなら合計は変わらないことです。ある場所の曲がりを強くすれば、ほかの場所がゆるくなって、ちょうど帳消しになります。ただし、ガウスやボンネの証明は、曲面を3次元の空間の中に置いて考えるものでした。チャーンは1944年、空間の外を使わない、その空間だけで完結する証明を作りました。この方法なら、2次元だけでなく4次元・6次元など、あらゆる偶数次元の空間で同じ形の定理が成り立つことが示せます。

業績2 チャーン類:ねじれを整数であらわす

チャーンの名前がもっとも有名なのはチャーン類(Chern class)です。これは「ねじれ」の大きさをはかる道具です。次の図を見てください。細長いテープの両はしを、向きをそろえてはり合わせると円柱になります。向きを逆にしてはり合わせるとメビウスの帯になります。どちらも「帯」ですが、はり合わせ方がねじれているかどうかがちがいます。

はり合わせ方の「ねじれ」ア:向きをそろえてはる → 円柱(ねじれなし)イ:向きを逆にしてはる → メビウスの帯外から見ただけでは同じ「帯」。ねじれを数で表したものが特性類
向きをそろえた円柱と、向きを逆にしたメビウスの帯。ねじれの有無は特性類で区別できる

数学では、空間の各点に「別の空間」(たとえば矢印の集まりや平面)がくっついたものをベクトル束とよびます。地球の表面の各点に、その点でさわる平らな面(接平面)をくっつけたものが、わかりやすい例です。ベクトル束は、場所ごとに部品を貼り合わせて作るので、貼り合わせ方に「ねじれ」が生じます。特性類は、そのねじれを整数(や、整数にあたる数)であらわしたものです。チャーン類は、複素数をつかったベクトル束(複素数とはを座標にもつもの)のための特性類で、1946年の論文で定式化されました。

チャーンは、曲がり具合(曲率)を使って、チャーン類を微分の言葉で計算する方法も見つけました。曲率の式を作って、ある多項式を積分すると、それがかならず整数になる。これは、曲がり具合のこまかいちがいにかかわらず、答えが「ねじれの量」だけで決まるという意味です。この方法は、のちにヴェイユも加わってチャーン・ヴェイユ理論とよばれるようになりました。

業績3 ベクトル場のゼロ点:「風が止まる点」を数える

地球の天気図を想像してください。風の向きと強さを矢印でかくと、「風が止まる点」がかならず現れます。毛の生えたボールをなでつけようとすると、どこかに「つむじ」が残る――これが有名な「毛玉の定理」です。実際に、球面の上に「どこでも0にならない」向きの場(ベクトル場)は作れません。

風が止まる点の「指数」源渦鞍点指数 +1指数 +1指数 −1球面の上では、指数をぜんぶ足すとかならず 2(球面のχ)風がぜんぜん止まらない球は作れない
風が止まる点には、源(+1)・渦(+1)・鞍点(−1)がある。球面ではその指数の合計がかならず2

風が止まる点は、まわりの矢印の様子によって指数という整数がつきます。わき出す「源」は +1+1、ぐるぐる回る「渦」も +1+1、4方向から交わる「鞍点(あんてん)」は −1-1 です。これらを全部足すと、球面ならかならず2になります。これがポアンカレ・ホップの定理(ハインツ・ホップ)です。この2は、先ほどのオイラー標数 χ=2\chi=2 と同じものです。つまり、曲がり具合の合計(業績1)も、風が止まる点の指数の合計も、どちらもオイラー標数に等しいのです。チャーン類は、この関係を、複素数のベクトル束に広げた「最初の関門」にあたります。

業績4 現代の数学と物理学への広がり

チャーン類は、数学の多くの分野で使われる道具になりました。アティヤ・シンガーの指数定理(アティヤの業績と生涯の仕事)は、微分方程式の解の個数を、チャーン類の積分で表す定理です。また、物理学者は、素粒子や物質の性質を説明するために、チャーン類や、1974年にチャーンが数学者ジェームズ・サイモンズと見つけたチャーン・サイモンズ形式を使っています。弟子の丘成桐のカラビ・ヤウ多様体も、チャーン類がゼロの空間として定義されるものです。

2010年からは、国際数学者会議で、数学全体への生涯の貢献をたたえるチャーン・メダルが贈られています。チャーンの名前は、数学の最高の賞の1つにもなっているのです。

陳省身の名前がつく公式・定理・用語

  • チャーン類:ベクトル束のねじれをはかる特性類。
  • ガウス・ボンネ・チャーンの定理:偶数次元の閉じた空間で、曲率の積分がオイラー標数で決まる。
  • チャーン・ヴェイユ理論:曲率を使って特性類を微分の言葉で計算する方法。
  • チャーン・サイモンズ形式:物理の理論にも使われる、特性類から作られる式。
  • チャーン・メダル:国際数学者会議で贈られる賞(2010年〜)。
  • MSRI・陳省身数学研究所:チャーンが立ち上げにかかわった、数学の研究所。

高校数学までで、関係する公式・用語は次のとおりです。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

ガウス・ボンネ・チャーンの定理の心は「局所(その場の曲がり)を全部足すと、全体の性質(穴の数)が決まる」こと。入試でも、細かい計算を足し合わせて全体の答えを出す場面があるね。

陳省身の逸話と名言

「最高の仕事」と伝えられるガウス・ボンネの証明

チャーンは、1944年のガウス・ボンネの公式の新しい証明を、のちに「自分の最高の仕事の1つ」と語ったと伝えられています(数学史の伝記による)。たった数ページの短い論文ですが、これが「微分幾何学」を新しい時代に導いた、と数学者たちは評価しています。2004年の邵逸夫賞は、その授賞理由で、チャーンが「大域的な微分幾何学(global differential geometry)」という分野を始めた人だとたたえています。

数学好玩(数学はおもしろい)

陳省身の言葉として伝えられるもの(2002年、北京の少年たちへ贈ったと報じられた書。くわしい出典は伝わっていません)

数学は「おもしろい」と子どもたちに

晩年のチャーンは、中国の子どもたちや若者に向けて、数学の楽しさを伝えようとしたと報じられました。「数学好玩」(数学はおもしろい)の4字は、その言葉として広まっています。ただし、いつ・だれに贈ったかなどの細かい話は、報道や本によって少しずつ異なるため、「〜と伝えられます」の範囲で紹介しておきます。

中国にもアメリカにも、研究所を作った人

チャーンは、若いころは中国で、戦争のさなかにも大学で教えました。その後アメリカに渡って、大学の教授として多くの弟子を育てました。さらに、中国の南京・天津と、アメリカのバークレーに研究所を作り、世界の数学者が出会う場を整えました。数学の研究は、1人の天才だけでなく、人と人が出会う場所からも生まれる、という考えが、これらの研究所にはこめられているといわれます。

ガウスの時代から続く1本の道

チャーンが解き明かしたガウス・ボンネの公式は、ガウスの曲面の研究が1827年ごろに発表した曲面の研究から続く1本の道の先にあります。ガウスは、曲がり具合が「曲面の外に出なくても、中の人が測れば分かる」と気づき、それを「驚異の定理」とよびました。その弟子のリーマンが、何次元の空間にも通じる幾何学を作り、20世紀のアインシュタインが一般相対性理論に使いました。チャーンは、この流れを、ねじれと穴を数える現代の幾何学につなげた人です。

サクラちゃん

サクラちゃん

曲がっているところを全部足したら、穴の数で決まるなんて……ふしぎです。

合格先生

合格先生

そうだね。小さな部分の情報を足していくと、全体の形が分かるというのは、数学の大事な発想なんだ。入試の問題でも、1つ1つの小さな計算を丁寧に足していくと、全体の性質が見えてくることがあるよ。

受験・勉強と陳省身のつながり

中学受験:立体の頂点・辺・面

中学受験の算数では、立方体や三角柱などの頂点・辺・面の数を数える問題が出ます。立方体なら頂点8、辺12、面6。ここで 8−12+6=28-12+6=2 となります。三角すい(頂点4・辺6・面4)なら 4−6+4=24-6+4=2。すべての凸(でこぼこのない)多面体で、この式は2になります。これがオイラーの多面体定理で、チャーンの仕事の入口です。

高校受験:多角形と三角形の角

高校受験では、多角形の内角の和(180°×(n−2))や、外角の和が360°になることを使う問題が出ます。この「外角の和360°」は、じつはガウス・ボンネの公式の平面版です。多角形を1周すると向きが360°変わる、という考え方が、チャーンの考え方の原型にあたります。

大学受験:微分・積分・ベクトル

大学受験では、オイラーの多面体定理は数学Aの図形の発展問題や、大学入試の整数・図形融合問題で顔を出します。曲線の曲がり具合(曲率)は、数学IIIの微分・媒介変数表示で、媒介変数を使って学びます。京都大学・東京大学の図形・空間の問題の傾向は京大理系数学の出題分析(図形・空間の出方)で確認できます。

大学・大学院:多様体と特性類

大学の数学科では、「多様体」「ベクトル束」「接空間」を学びます。曲面の穴の数や、ベクトル場のゼロ点の個数を扱う位相幾何学(トポロジー)も習います。大学院の入試では、オイラー標数や、ガウス・ボンネの定理が出ることがあります。チャーン類は、その先の専門科目の主役です。

勉強法として:「全体の性質」は部分の足し算から

チャーンの定理は、小さなところの計算を足し合わせて、全体の性質を出すものでした。受験の数列・積分・場合の数でも、全体を一度にとらえようとせず、小さな部分に分けて数え、足し合わせるのが基本です。考え方の整理には数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)も役立ちます。

陳省身がその後の数学にあたえた影響

  • 微分幾何学の発展:「局所の性質」と「全体の性質」を結ぶ研究が、20世紀の幾何学の大きな流れになりました。
  • 特性類の理論:チャーン類は、トポロジー・代数幾何学・数論など多くの分野の標準的な道具になりました。
  • 指数定理:アティヤとシンガーの指数定理(1960年代)は、チャーン類を使って、微分方程式の解の個数を数えます。
  • 物理学:チャーン類やチャーン・サイモンズ形式は、素粒子論や物性物理でも使われています。
  • 弟子たち:丘成桐ら、のちの世代の幾何学者を育て、丘成桐のカラビ予想の証明につながる幾何学の流れを作りました。
  • 研究所づくり:MSRIは、世界中の数学者が数か月ずつ集まって共同研究をする場所として、今も続いています。

ヒルベルトが20世紀のはじめに数学の問題を整理し、ポアンカレが位相幾何学を作りました。チャーンは、その2つの流れを、現代的な形でつないだ人の1人です。ペレルマンが証明したポアンカレ予想のような、空間の形をめぐる問題も、同じ流れの上にあります。

チャーンの仕事をたどると、ガウスの小さな発見が、200年かけて大きな理論に育ったことが分かります。三角形の角の和という、中学で習うことが出発点でした。身近な問題の「なぜ」を考え続けることが、数学の進歩につながる、という良い例です。

チャーンに挑戦!練習問題

やさしい

  1. 球の表面にかいた三角形で、3つの角がすべて90°のとき、角の和は何度ですか。平面の三角形と何度ちがいますか。
    答えと解説を見る90+90+90=90+90+90=270°。平面の三角形は180°なので、90°多くなります。この余りが、三角形の中の曲がり具合の合計にあたります。
  2. 立方体の頂点の数 VV、辺の数 EE、面の数 FF から V−E+FV-E+F を求めなさい。
    答えと解説を見るV=8, E=12, F=6V=8,\ E=12,\ F=6 なので 8−12+6=8-12+6=2。球と同じ形(穴のない形)の多面体では、いつも2になります。

ふつう

  1. 穴が3つある曲面のオイラー標数を、式 χ=2−2g\chi=2-2g で求めなさい。
    答えと解説を見るg=3g=3 なので χ=2−6=\chi=2-6=−4。ガウス・ボンネの定理から、曲がり具合の合計は 2π×(−4)=−8π2\pi\times(-4)=-8\pi です。
  2. 半径 rr の球の面積は 4πr24\pi r^2、ガウス曲率は 1r2\dfrac{1}{r^2} です。これを使って、曲がり具合の合計 ∫K dA\int K\,dA を求めなさい。
    答えと解説を見る1r2×4πr2=\dfrac{1}{r^2}\times 4\pi r^2=4π4\pi。半径 rr によらず一定で、2π×22\pi\times2(球のオイラー標数は2)と一致します。

むずかしい

  1. 球面上のベクトル場に、源が1つ、渦が1つ、鞍点が xx 個あるとします。指数の合計が2になるには、xx はいくつですか。
    答えと解説を見る源の指数+1、渦の指数+1、鞍点1つが−1なので、1+1+(−1)x=21+1+(-1)x=2 より x=x=0。鞍点は0個(源と渦だけ)です。(北極に源、南極に渦、という配置がこれにあたります。)
  2. 正八面体(頂点6・辺12・面8)で、V−E+FV-E+F を求めなさい。また、正十二面体(頂点20・辺30)の面の数 FF を、V−E+F=2V-E+F=2 から求めなさい。
    答えと解説を見る正八面体は 6−12+8=6-12+8=2。正十二面体は 20−30+F=220-30+F=2 より F=F=12(正五角形が12枚)。

陳省身と関係する数学者

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20世紀の数学者

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読みもの(合格大作戦の数学の記事)

よくある質問

陳省身(チャーン)は何をした人ですか?

陳省身は、中国生まれでアメリカで活躍した数学者です。曲がった空間の性質を調べる微分幾何学を20世紀の中心的な分野に育て、チャーン類やガウス・ボンネ・チャーンの定理で知られます。

チャーン類とは何ですか?

チャーン類は、空間の各点に別の空間(複素数のベクトル空間)をはり合わせたものの「ねじれ」を、整数であらわす道具です。メビウスの帯が円柱とちがうように、ねじれの有無や強さをはかります。

ガウス・ボンネ・チャーンの定理とは何ですか?

閉じた曲面で曲がり具合(ガウス曲率)を全部足すと、穴の数で決まるオイラー標数の2π倍になる、という定理です。チャーンは1944年に、外の空間を使わない証明で、あらゆる偶数次元に広げました。

陳省身はいつ、どこで生まれ、いつ亡くなりましたか?

1911年10月26日に中国の浙江省嘉興で生まれ、2004年12月3日に天津で93歳で亡くなりました。

陳省身はどんな賞を受けましたか?

米国の国家科学賞(1975年)、ウルフ賞(1983/84年)、第1回の邵逸夫賞数学賞(2004年)などを受けています。1985年には王立協会の外国人会員にもなりました。

MSRIとは何ですか?

MSRIは、アメリカのカリフォルニア州バークレーにある数学科学研究所です。チャーンが初代所長となり、世界中の数学者が集まって共同研究をする場として今も続いています。

陳省身とガウスの関係は?

ガウスが見つけた曲面の曲がり具合(ガウス曲率)と、曲がりの合計に関する公式(ガウス・ボンネの公式)を、チャーンが1944年に一般の次元に広げました。ガウスの仕事の現代版といえます。

陳省身の弟子にはだれがいますか?

カラビ予想を証明してフィールズ賞を受けた丘成桐(シン=トゥン・ヤウ)が、バークレーでチャーンのもとで博士号を取りました。

陳省身の仕事は受験に関係がありますか?

オイラーの多面体定理 V−E+F=2 は、チャーンの仕事の入口にあたります。中学受験の立体の問題から大学・大学院の位相幾何学・微分幾何学まで、つながっています。

あわせて読みたい

出典・参考

  • MacTutor History of Mathematics「Shiing-shen Chern」(セント・アンドルーズ大学)
  • S. S. Chern, “A simple intrinsic proof of the Gauss-Bonnet formula for closed Riemannian manifolds”, Annals of Mathematics 45(1944年)
  • カリフォルニア大学 In Memoriam「Shiing-Shen Chern」
  • 数学科学研究所(MSRI/SLMath)の公式ページ

最終更新:2026年11月3日/作成:大学受験合格大作戦