バナッハは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|バナッハ空間・不動点定理・球を2つにするパラドックス

バナッハは何をした人?業績・生涯・名言をわかりやすく|バナッハ空間・不動点定理・球を2つにするパラドックス

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バナッハStefan Banach

ひとことで言うと

関数に「距離」を入れて関数解析を築いた人。バナッハ空間・不動点定理・「球を分けて2つにできる」パラドックスで知られる。

名前ステファン・バナッハ(Stefan Banach)
生没年1892年3月30日〜1945年8月31日(53歳)
国ポーランド(クラクフ生まれ、リヴフで活躍。リヴフは現在ウクライナのリヴィウ)
分野関数解析・集合論・測度論
主な業績バナッハ空間の理論、不動点定理、ハーン=バナッハの定理、バナッハ=シュタインハウスの定理、バナッハ=タルスキーのパラドックス
名前がつくものバナッハ空間・バナッハの不動点定理・ハーン=バナッハの定理・バナッハ=タルスキーのパラドックス・バナッハ代数
代表的な本『線形作用素の理論』(1932年、フランス語)

このページのポイント

  • 関数の集まりにも「距離(ノルム)」を入れ、完備なノルム空間(バナッハ空間)として整理して、関数解析を築いた
  • バナッハの不動点定理は、くり返すと答えにたどりつく条件を示す。漸化式の極限 α=f(α) と同じ考え方
  • 1924年、タルスキーと共同で「球を5つに分けて動かすと、同じ大きさの球が2つできる」パラドックスを示した(選択公理を使う)

バナッハは何をした人?(業績をひとことで)

ステファン・バナッハ(1892〜1945年)は、ポーランドの数学者です。関数解析(関数をひとつの「点」として扱い、関数の集まりに距離や形を考える数学)を作りあげた中心人物で、バナッハ空間・ハーン=バナッハの定理・バナッハの不動点定理・バナッハ=タルスキーのパラドックスなど、数学者の名前がついた重要な定理がたくさんあります。当時ポーランド領だった都市リヴフ(ポーランド語でルヴフ、いまはウクライナのリヴィウ)の「スコットランド・カフェ」で仲間と問題を出し合ったことでも有名で、「リヴフ学派」の中心でした。

受験生にとってのバナッハは、まず「球を分けて2つにできる」という不思議な話の人です。さらに、高校数学で習う数列の極限の求め方・極限とは・収束と発散の話や、漸化式の「不動点」の考え方は、バナッハが整えた現代の解析学の入口です。大学ではコーシー・シュワルツの不等式や内積とはから、バナッハ空間へと進みます。

うかるくん

うかるくん

「ボールを分けたら2つになる」って、本当ですか!? お得すぎます!

合格先生

合格先生

ふふ、それはバナッハ=タルスキーのパラドックス。数学では正しく証明できるけれど、現実の球ではできない不思議な話なんだ。どうしてそうなるのか、あとでていねいに見ていこう。

スコットランド・ブックの展示ページ
バナッハたちが問題を書きとめた「スコットランド・ブック」(1935年〜)。展示の写真で、ページにはバナッハらの手書きの問題が見える画像:展示の写真(作者不明)/Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

バナッハの生涯と年表

クラクフで育った少年

バナッハは1892年3月30日、ポーランド南部の古い都市クラクフ(当時はオーストリア=ハンガリー帝国の領土)で生まれました。母の姓を名のり、フランツィシュカ・プウォヴァという女性に育てられたと伝えられます。小さいころから数学が得意でしたが、はじめは工科系の学校に進み、数学者になるつもりはなかったともいわれます。

公園で聞こえた「ルベーグ積分」

1916年、クラクフの公園(プランティ公園)を散歩していた数学者のフーゴ・シュタインハウスは、ベンチで話している青年たちの会話の中に、「ルベーグ積分(測度)」ということばを耳にしました。当時のポーランドで数学の話をする若者は多くなかったので、シュタインハウスは思わず声をかけ、そこにいたのがバナッハと友人のニコディムでした。シュタインハウスが出した問題をバナッハがすぐに解き、2人は最初の共同論文を書きました。シュタインハウスは後年、バナッハとの出会いを「自分の最大の発見」とふり返ったと伝えられています。

リヴフでの活躍と「バナッハ空間」

バナッハは1920年にリヴフ工科大学の助手になり、同じ年に論文をまとめ、1922年に発表しました。その中で、のちにバナッハ空間とよばれる「完備なノルム空間」の考えをまとめ、バナッハの不動点定理も示しました。1922年にリヴフ大学の員外教授となり(1924年に正教授)、1929年にはシュタインハウスとともに数学の雑誌『Studia Mathematica』を作りました。1932年には、関数解析のはじめての本格的な教科書『線形作用素の理論(Théorie des opérations linéaires)』をフランス語で出版しています(ポーランド語版は1931年)。

戦争の時代

1939年に第二次世界大戦がはじまり、リヴフはまずソ連に、1941年にはドイツに占領されます。バナッハは、チフス(発疹チフス)の研究所でシラミに血を吸わせる仕事(シラミの飼育係)についたと伝えられます。この仕事についた人はドイツ軍に連行されにくかったため、多くの知識人が身を守る場所になったといわれます。戦争が終わった1945年、バナッハは肺がんのため、8月31日にリヴフで亡くなりました(53歳)。

年できごと
1892年3月30日、ポーランドのクラクフで生まれる
1916年クラクフの公園でシュタインハウスに見いだされる
1920年リヴフ工科大学の助手になる
1922年バナッハ空間と不動点定理をふくむ論文を発表。リヴフ大学の員外教授に(1924年に正教授)
1924年タルスキーとの共同論文で「球を分けて2つに」のパラドックスを発表
1927〜1929年バナッハ=シュタインハウスの定理、ハーン=バナッハの定理など関数解析の基本定理がそろう
1929年シュタインハウスと『Studia Mathematica』を創刊
1932年『線形作用素の理論』(フランス語版)を出版
1935年「スコットランド・ブック」が始まる(仲間の問題集)
1939年第二次世界大戦。リヴフがソ連に占領される
1941年リヴフがドイツに占領される。チフス研究所で働く
1945年8月31日、肺がんのためリヴフで亡くなる(53歳)

バナッハの主な業績をやさしく解説

業績1 バナッハ空間(関数の世界に「距離」を入れる)

平面上の点 (x,y)(x,y) の「原点からの距離」は、三平方の定理で x2+y2\sqrt{x^2+y^2} と決まります。バナッハは、この「長さ(ノルム)」の考えを、点だけでなく関数の集まりに広げました。たとえば、区間 [0,1][0,1] で連続な関数全体を考え、2つの関数の「ちがい」を、グラフがいちばん離れている高さで測ります。すると、関数どうしに「距離」が入り、「関数の列がある関数にだんだん近づく(収束する)」という言い方ができます。

距離の測り方で「丸」の形が変わる たして測る|x|+|y|ふつうの距離√(x²+y²)大きいほうmax(|x|,|y|) 点(3,4)までの距離: 7  5  4どれも「距離のきまり」を満たす
距離の測り方(ノルム)を変えると、原点から距離1以内の点の形が円・ひし形・正方形に変わる

ここでたいせつなのが完備という性質です。「だんだん近づいていく列」には、かならず行き着く先の点がその世界の中にある、という意味です。たとえば有理数だけの世界は、1.4, 1.41, 1.414, ⋯1.4,\ 1.41,\ 1.414,\ \cdots のように 2\sqrt2 に近づく列があるのに、その行き先 2\sqrt2 が有理数ではないので完備ではありません。実数の世界は、そのすきまがないので完備です。完備なノルム空間をバナッハ空間とよびます。

数の世界の「すきま」1.41.411.4141.4142√2(ここにはない)行き先√2が有理数ではないので「すきま」になる実数まで広げるとすきまがなくなる=完備
1.4、1.41、1.414…と√2に近づく有理数の列。行き先の√2は有理数ではないので、有理数の世界には「すきま」がある

この考えのおかげで、「方程式の解を関数の世界の中の1点として探す」「近づいていく列の行き先を、解として見つける」という強力な方法が使えるようになりました。微分方程式・積分方程式・量子力学・フーリエ解析の理論は、バナッハ空間の上で整理されています。

業績2 バナッハの不動点定理(くり返せば答えにたどりつく)

電卓に好きな数(ラジアンモード)を入れて、cos⁡\cos のボタンを何回も押してみてください。0.1 から始めると、数は行ったり来たりしながら、約0.739 に近づいていきます。この数は x=cos⁡xx=\cos x を満たす特別な数で、不動点とよばれます。

くり返すと一点にたどりつく緑の点=不動点 0.739…y=xy=cos xx を cos x に置きかえる操作をくり返す
x を cos x に置きかえる操作をくり返すと、階段状の線が不動点(約0.739)に吸いこまれていく

バナッハの不動点定理は、「どんな場合に、くり返しで答えにたどりつけるか」の条件を示します。距離が決まる完備な世界で、ある変換 ff が

∣f(x)−f(y)∣≤k ∣x−y∣(0≤k<1)|f(x)-f(y)|\leq k\,|x-y|\quad(0\leq k<1)

を満たす(どの2点も、変換するとかならず近づく=縮小写像)なら、x=f(x)x=f(x) となる点がちょうど1つあり、どこから始めても、くり返しでその点にたどりつく、という定理です。

身近な例が、高校数学の漸化式です。たとえば an+1=12an+1a_{n+1}=\dfrac12 a_n+1 の極限は、α=12α+1\alpha=\dfrac12\alpha+1 を解いて α=2\alpha=2 です。これは、まさに不動点を求めています。ニュートン法で 2\sqrt2 を求める計算 xn+1=12(xn+2xn)x_{n+1}=\dfrac{1}{2}\left(x_n+\dfrac{2}{x_n}\right) も同じ考え方です。

業績3 ハーン=バナッハの定理とバナッハ=シュタインハウスの定理

関数解析には、3つの基本定理(関数解析の三大定理)があるといわれます。そのうち2つにバナッハの名前がつきます。

ハーン=バナッハの定理は、ざっくり言うと「小さな範囲だけで決まっている線形な測り方(線形汎関数)は、そのままの性質を保って、広い世界にまで延ばせる」という定理です。(ハーンは、オーストリアの数学者です。1920年代後半にハーンとバナッハがそれぞれ独立に示しました。)この定理のおかげで、関数の世界に「十分たくさんの測り方」があることが保証され、理論がとても使いやすくなりました。

バナッハ=シュタインハウスの定理(一様有界性の原理)は、「たくさんの線形な変換を考え、どの点でも値が暴れすぎないなら、全体としても暴れすぎない」という定理です。もう1つの開写像定理とあわせて、解の存在や安定性を調べる、解析学の基本道具です。

業績4 バナッハ=タルスキーのパラドックス

1924年、バナッハはポーランドの数学者アルフレト・タルスキーとの共同論文で、次のような驚くべき定理を示しました。

「3次元空間の中の球を、有限個(ふつうは5つで足りる)の部分に分けて、それぞれを回したり動かしたりするだけで、元と同じ大きさの球を2つ作れる」

1個の球が、同じ大きさの2個に?回してずらす 5つに分ける(点の集まり)同じ大きさの球が2個 ※ イメージ図。実際の部分は形をえがけない
球を5つの部分に分け、回して動かすだけで、同じ大きさの球が2個できてしまうイメージ

もちろん、体積が2倍になるはずがありません。からくりは、ここで分けた部分が「体積を決められないほど複雑な点の集まり」だということです。このような集まりを作るには、選択公理という集合論の仮定が必要です。選択公理は「どんな集合のグループからでも、1つずつ元をえらんで集合を作れる」という、とても自然に見える仮定ですが、コーエンが示したように、他の公理からは証明も反証もできません。この選択公理を使うと、このような奇妙な分け方まで作れてしまうのです。

ただし、平面(2次元)の図形では、同じことはできません(面積が決まってしまうから)。また、現実の球は原子でできているので、点の集まりのような分け方はできません。「数学が正しくても、現実とはちがう」ことを教えてくれる、数学の歴史に残る有名なパラドックスです。球の体積の公式は球の体積と表面積の公式で確かめられます。

業績5 スコットランド・カフェとリヴフ学派

バナッハは、大学の近くにあった「スコットランド・カフェ」に仲間と何時間もすわり、数学の問題を出し合いました。弟子のウラムは、バナッハと飲んだり議論したりしても、「バナッハより長く持ちこたえるのはむずかしかった」と書いています。カフェの大理石のテーブルに書いた式は、あとで消されてしまうので、バナッハの妻が大きなノートを買い、問題を書きとめるようになりました。これが「スコットランド・ブック」です。

リヴフの数学者たち(1930年代)バナッハシュタインハウスマズールウラムシャウダーカッツカフェで問題を出し合い、ノートに書きとめた
リヴフ学派の人びと。バナッハを中心に、シュタインハウス・マズール・ウラム・シャウダー・カッツらが集まった

ノートには仲間の数学者が次つぎに問題を書き、解けた人には賞品が出ました。たとえば、マズールが書いた問題には「生きたガチョウ」の賞品がつけられ、1972年にスウェーデンのエンフロがこの問題を解いて、ほんとうにガチョウを受けとったと伝えられています。

業績6 教科書と雑誌、そして「ポーランド学派」の土台

バナッハは、大学の講義をもとにした微分積分学の教科書(1929年)や、関数解析の最初の本格的な教科書を書き、若い数学者を育てました。雑誌『Studia Mathematica』は、いまも関数解析の国際的な専門誌として続いています。バナッハの考えた「完備なノルム空間」は、数学と物理学のあらゆる場面で使われる共通のことばになりました。

バナッハの名前がつく公式・定理・用語

バナッハの名前がつくものは、数学の中でも特に多くあります。受験で習う内容に近いものを中心に、大学以降で出会う用語もまとめました。

  • バナッハ空間:完備なノルム空間。関数解析の基本の舞台。→ 極限の意味・数列の極限(収束・発散)の考えが基礎です。
  • バナッハの不動点定理(縮小写像の原理):∣f(x)−f(y)∣≤k∣x−y∣|f(x)-f(y)|\leq k|x-y|(k<1k<1)なら、不動点が1つだけあり、くり返しで求められる。→ 漸化式と数列の極限の求め方
  • ハーン=バナッハの定理:線形汎関数を、広い空間まで延ばせる。
  • バナッハ=シュタインハウスの定理(一様有界性の原理)・開写像定理・閉グラフ定理:関数解析の基本定理。
  • バナッハ=タルスキーのパラドックス:球を5つの部分に分けて動かすと、同じ大きさの球が2つできる。
  • バナッハ=マズールのゲーム・バナッハ代数・バナッハ格子など、のちの研究にも名前が使われています。
「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

漸化式で「極限は α=f(α) を解けばいい」と習うよね。これはバナッハの不動点定理の、いちばん身近な使い道なんだ。「くり返すと近づく」ことには、ちゃんとした数学の理由があるんだよ。

バナッハの逸話と名言

「類似の類似」を見つける

バナッハとよく議論したウラムは、バナッハの数学の考え方をつぎのように伝えています。

よい数学者は、定理と定理(理論と理論)のあいだに類似を見つける。いちばん優れた数学者は、類似と類似のあいだに類似を見つける。

バナッハの言葉としてウラムが伝えたもの(訳。ウラムの回想による紹介で、言いまわしは紹介する本によって少しずつちがいます)

たとえば、「長さ(ふつうの距離)」の考え方と「関数の大きさ」の考え方は似ています(類似)。さらに、その両方に共通するしくみを見抜いてバナッハ空間にまとめたのが、「類似と類似の類似」ということです。

カフェで数学をする人

バナッハは、静かな研究室よりも、人がざわざわしているカフェを好んだと伝えられます。弟子のトゥロヴィチは、ざわめきも「バナッハが集中して考えるのをじゃましなかった」と書き残しています。カフェが閉まると、夜通し開いている駅の食堂に移って議論を続けることもあったそうです。

数学と戦争

第二次世界大戦中、リヴフの数学者たちは大きな犠牲になりました。バナッハの仲間にも、命を落とした人が少なくありません。バナッハ自身も、戦争が終わってまもなく、病気で亡くなりました。リヴフ学派の人びとが書き残したノート「スコットランド・ブック」は、戦火をくぐりぬけて残り、のちに英訳されて世界中の数学者が読んでいます。

サクラちゃん

サクラちゃん

カフェで数学……楽しそう! 私も友だちと問題を出し合ってみたいです。

合格先生

合格先生

いいね。人に説明したり、問題を出し合ったりすると、理解が深まるんだ。バナッハのリヴフ学派がまさにそう。ひとりで解けない問題も、仲間と話すと糸口が見えることがあるよ。

受験・勉強とバナッハのつながり

中学受験:碁盤の目の最短経路と、球の体積

中学受験で出てくる「碁盤の目のような道を進むときの最短経路」は、「たして測る距離」(マンハッタン距離)の考え方です。右へ何個、上へ何個と進む長さの合計で、ななめの近道はできません。バナッハ空間の最初の例である「距離の測り方はいろいろある」という発想は、ここから始まります。球の体積の問題は、バナッハ=タルスキーのパラドックスで主役になる図形です。

高校受験:三平方の定理と座標

2点間の距離は、三平方の定理で求めます。点 (3,4)(3,4) と原点の距離は 32+42=5\sqrt{3^2+4^2}=5 です。ふつうの距離(ユークリッド距離)が、いくつもある距離のうちの1つだと知ると、座標の問題の見え方が広がります。

大学受験:数列の極限・漸化式・コーシー・シュワルツの不等式

  • 漸化式の極限:an+1=pan+qa_{n+1}=pa_n+q のような式で、α=pα+q\alpha=p\alpha+q を解いて極限を求める。これは不動点です。→ 数列の極限の求め方
  • はさみうちの原理・収束の証明:「だんだん近づく」ことを不等式で証明します。→ 収束と発散の意味
  • ベクトルの大きさと内積:空間ベクトルの大きさは、バナッハ空間の特別な場合(ヒルベルト空間)です。→ ベクトルの内積の公式
  • 不等式の証明:コーシー・シュワルツの不等式などは、「ノルム」の性質(三角不等式)と直接つながっています。→ コーシー・シュワルツの不等式の証明

京大の理系数学では、数列や極限・漸化式がくり返し出題されています。京大理系数学の出題分析(数列・極限の出方)を見て、どんな形で出るか確かめてみてください。

勉強法として:「くり返し」を数学の道具にする

バナッハの不動点定理の教えは、「正しいやり方をくり返せば、答えに近づく」ということです。勉強も同じで、同じタイプの問題を正しいやり方でくり返すと、理解は必ずある1点に近づいていきます。ただし、定理の条件のように「ちゃんと縮小する(前よりまちがいが減る)やり方」でなければいけません。まちがいの原因を直しながら進めることが大切です。勉強法の全体は数学の勉強法(解法の暗記→演習→過去問)も読んでください。

バナッハがその後の数学にあたえた影響

  • 関数解析の確立:バナッハ空間の理論は、微分方程式・積分方程式・量子力学・確率論の共通の土台になりました。ヒルベルトの空間とあわせて、現代の解析学の基本の言葉です。
  • 不動点定理の広がり:微分方程式の解の存在と一意性、ニュートン法、現代の数値計算、機械学習の最適化など、広い分野で使われています。
  • 集合論と測度論:バナッハ=タルスキーのパラドックスは、「体積を決められない集合」の研究と、ルベーグの測度論・選択公理の研究を進めました。
  • ポーランド学派:リヴフ学派は、のちにフォン・ノイマンとも共同研究したウラムなど、世界の数学者を育てました。
  • 数学の文化:カフェで問題を出し合うスタイル、問題集(スコットランド・ブック)の伝統は、現代の数学コミュニティにも受けつがれています。

カントールの集合論やゲーデル、コーエンが調べた選択公理・連続体仮説は、バナッハ=タルスキーの定理とも深く結びついた話題です。

バナッハに挑戦!練習問題

やさしい

  1. 点 (3,4)(3,4) と原点の距離を、(1) ふつうの距離、(2) たして測る距離 ∣x∣+∣y∣|x|+|y|、(3) 大きいほうで測る距離 max⁡(∣x∣,∣y∣)\max(|x|,|y|) のそれぞれで求めなさい。
    答えと解説を見る(1) 32+42=\sqrt{3^2+4^2}=5、(2) 3+4=3+4=7、(3) 3と4の大きいほうで4。距離の測り方で値がちがいます。
  2. 漸化式 a1=0, an+1=12an+1a_1=0,\ a_{n+1}=\dfrac12a_n+1 の極限値を求めなさい。
    答えと解説を見る極限を α\alpha とすると α=12α+1\alpha=\dfrac12\alpha+1。これを解くと α=\alpha=2。(不動点を求める計算です)

ふつう

  1. 原点から距離1以内の点(∣x∣+∣y∣≤1|x|+|y|\leq1)、(max⁡(∣x∣,∣y∣)≤1\max(|x|,|y|)\leq1)、(ふつうの距離で半径1の円の内側)の面積を、それぞれ求めて小さい順にならべなさい。
    答えと解説を見る∣x∣+∣y∣≤1|x|+|y|\leq1 は対角線の長さが2のひし形で面積 2×2÷2=2\times2\div2=2。max⁡≤1\max\leq1 は1辺2の正方形で面積4。円はπ\pi(約3.14)。小さい順に ひし形(2)<円(π)<正方形(4)。
  2. 漸化式 an+1=34an+2a_{n+1}=\dfrac34a_n+2 の極限値を求めなさい。また、∣an+1−α∣|a_{n+1}-\alpha| と ∣an−α∣|a_n-\alpha| の関係を答えなさい。
    答えと解説を見るα=34α+2\alpha=\dfrac34\alpha+2 より α=\alpha=8。また an+1−8=34(an−8)a_{n+1}-8=\dfrac34(a_n-8) なので、毎回、8とのちがいが 34\dfrac34 倍になります(縮小写像の倍率 k=34<1k=\dfrac34<1)。

むずかしい

  1. x1=1, xn+1=12(xn+2xn)x_1=1,\ x_{n+1}=\dfrac12\left(x_n+\dfrac2{x_n}\right) とします。x2,x3x_2,x_3 を求め、極限値を答えなさい。
    答えと解説を見るx2=12(1+2)=32x_2=\dfrac12(1+2)=\dfrac32、x3=12(32+43)=1712x_3=\dfrac12\left(\dfrac32+\dfrac43\right)=\dfrac{17}{12}(約1.4167)。極限を α\alpha とすると α=12(α+2α)\alpha=\dfrac12\left(\alpha+\dfrac2\alpha\right) より α2=2\alpha^2=2、α>0\alpha>0 なので2\sqrt2です。
  2. 半径1の球の体積は 43π\dfrac43\pi です。バナッハ=タルスキーのパラドックスでは、1個の球から同じ大きさの球が2個できます。体積が 83π\dfrac83\pi になってしまうのは、なぜ矛盾しないのですか。
    答えと解説を見る分けた部分が「体積を決められない(ふつうの体積の考えが当てはまらない)」複雑な点の集まりだからです。体積は「分けても足せば元に戻る」ことを前提に決めるので、そのような部分には体積が決まらず、矛盾にはなりません。選択公理を使って初めて作れる集合です。

バナッハと関係する数学者

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よくある質問

バナッハは何をした人ですか?

ステファン・バナッハは、ポーランドの数学者です。関数の集まりに距離を入れて調べる関数解析を築き、バナッハ空間、不動点定理、ハーン=バナッハの定理などの重要な定理を示しました。リヴフのスコットランド・カフェで仲間と問題を出し合ったリヴフ学派の中心でもあります。

バナッハ空間とは何ですか?

完備なノルム空間のことです。ノルムは「長さ」の考えを一般にしたもの、完備とは「だんだん近づく列の行き先が、その空間の中にある」という性質です。関数の集まりを1つの空間として扱うことができ、微分方程式や量子力学で使われます。

バナッハの不動点定理とは何ですか?

完備な距離空間で、どの2点も変換するとかならず近づく(縮小写像)なら、変換しても動かない点が1つだけあり、どこから始めてもくり返しでその点に近づくという定理です。高校数学の漸化式の極限 α=f(α) を求める計算は、その身近な例です。

バナッハ=タルスキーのパラドックスとは何ですか?

3次元空間の球を有限個の部分に分けて、回したり動かしたりするだけで、元と同じ大きさの球を2つ作れるという定理です。1924年にバナッハとタルスキーが示しました。分けた部分が体積を決められない複雑な集合で、選択公理を使って作るため、現実の球ではできません。

バナッハ=タルスキーのパラドックスは本当ですか?

数学の定理としては正しく証明されています。ただし選択公理を使うことが必要で、分けた部分は形をえがけない点の集まりです。体積が2倍になるわけではなく、体積を決められない集合に、ふつうの体積の考えが当てはまらないだけなので、矛盾ではありません。

スコットランド・カフェとスコットランド・ブックとは何ですか?

スコットランド・カフェは、リヴフにあったカフェで、バナッハたちが数学の問題を出し合った場所です。スコットランド・ブックは、そこで出された問題を書きとめたノートで、1935年ごろから始まったと伝えられます。解けた人には賞品が出たといわれます。

バナッハの名言はありますか?

弟子のウラムが伝えた言葉として、「よい数学者は定理と定理のあいだに類似を見つける。いちばん優れた数学者は、類似と類似のあいだに類似を見つける」が知られています。言いまわしは紹介する本によって少しずつちがいます。

バナッハは何歳で亡くなりましたか?どこの人ですか?

バナッハは1892年にポーランドのクラクフで生まれ、1945年8月31日にリヴフで53歳で亡くなりました。死因は肺がんです。第二次世界大戦中は、リヴフがソ連とドイツに占領される中で、チフス研究所に勤めたと伝えられます。

バナッハとシュタインハウスの関係は?

シュタインハウスは、1916年にクラクフの公園で数学の話をしていたバナッハを見いだした数学者です。2人は共同研究を行い、1929年には数学の雑誌『Studia Mathematica』を創刊しました。シュタインハウスは、後年、バナッハとの出会いを自分の最大の発見と語ったと伝えられます。

バナッハは受験に関係がありますか?

名前は出ませんが、考え方がつながっています。高校数学の数列の極限・漸化式 α=f(α)、ベクトルの大きさ・内積、中学受験の碁盤の目の最短経路(たして測る距離)などは、バナッハ空間や不動点定理の入口です。

あわせて読みたい

出典・参考

  • MacTutor History of Mathematics「Stefan Banach」(セント・アンドルーズ大学)
  • S. Banach, “Sur les opérations dans les ensembles abstraits et leur application aux équations intégrales”, Fundamenta Mathematicae 3(1922年)
  • S. Banach, A. Tarski, “Sur la décomposition des ensembles de points en parties respectivement congruentes”, Fundamenta Mathematicae 6(1924年)
  • S. Banach, “Théorie des opérations linéaires”(1932年)
  • R. D. Mauldin (ed.), “The Scottish Book”(Birkhäuser)
  • 画像:スコットランド・ブックの展示、Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

最終更新:2026年11月2日/作成:大学受験合格大作戦