この記事の結論

  • 「磯のあわびの片思い」とは、相手は何とも思っていないのに、自分だけが恋しく思っていることのたとえです。「あわびの片思い」とも言います
  • アワビは二枚貝ではなく巻貝(まきがい)のなかまです。殻が1枚しかなく、二枚貝の殻の片方だけのように見えることから「片思い」にたとえられました
  • もとは『万葉集』巻11・2798の歌「伊勢の海人(あま)の朝な夕なに潜(かづ)くといふ鮑(あはび)の貝の片思(かたもひ)にして」です

📘 くわしい文法は「古文文法辞典」で

中学受験から難関大まで、「はじめて・しっかり・もっと深く」の3段で、図と練習問題つきで解説しています。

序詞枕詞掛詞格助詞「の」「が」歴史的仮名遣い古文文法辞典(表紙)

好きな人がいるのに、相手は自分のことを気にもとめていない……。そんなせつない気持ちを、昔の人は海の貝にたとえました。それが「磯のあわびの片思い」です。この記事では、ことわざの意味と由来、アワビという生き物の正しい説明、もとになった『万葉集』の歌の原文・読み・現代語訳、使い方と例文、さらに歌の文法(助詞「の」・断定の「に」)、歴史的仮名遣いの読み方、序詞・枕詞・掛詞のちがい、古典の中のアワビと海人(あま)の暮らし、そして万葉集・古今集・新古今集のちがいまで、図でまとめました。

なお、この記事の古い版では「アワビは二枚貝で、片方が取れてしまう」と説明していましたが、これはまちがいでした。アワビは巻貝のなかまです。おわびして訂正します。

「磯のあわびの片思い」の意味

磯のあわびの片思い(いそのあわびのかたおもい)は、一方だけが相手を恋しく思うこと、つまり片思いをたとえたことわざです。「磯(いそ)」は海辺の岩の多いところ。アワビは磯の岩にはりついて暮らしているので、「磯のあわび」と言います。

言い方読みポイント
磯のあわびの片思いいそのあわびのかたおもいいちばんよく使われる形
あわびの片思いあわびのかたおもい「磯の」を省いた形
鮑の貝の片思いあわびのかいのかたおもい万葉集の言い方に近い形

恋愛だけでなく、「こちらは仲よくしたいのに、相手は関心がない」という場面にも使えます。ただし多くは恋の話で使う、少しおどけた言い方です。

アワビは二枚貝?巻貝?由来を図で確かめよう

アワビは「殻が1枚」の巻貝、ハマグリは「殻が2枚」の二枚貝アワビ(巻貝のなかま)岩にぴたりとはりつく殻は1枚だけ=「片貝(かたがい)」ハマグリ(二枚貝)ちょうつがい2枚の殻で体をはさんで守る対の殻しか合わない=夫婦円満のしるしアワビは「もう片方の殻」がないように見える → 相手のいない「片思い」
アワビ(殻1枚の巻貝)とハマグリ(殻2枚の二枚貝)

アワビはミミガイ科の巻貝で、サザエやカタツムリと同じ腹足類(ふくそくるい)のなかまです。巻貝といっても、アワビの殻は渦巻きがとても小さく、平たいお皿のような形をしています。殻のふちに沿って小さな穴が並んでいて、ここから水を外へ出します(水は殻の前のほうから取りこみます)。アワビは大きな足(筋肉)で岩にぴったりはりつき、海藻を食べて暮らしています。

一方、ハマグリ・アサリ・シジミなどの二枚貝は、2枚の殻がちょうつがいでつながっています。ここがポイントです。二枚貝を見なれた人から見ると、アワビは「2枚あるはずの殻の、片方だけ」のように見えます。そこで、相手(もう片方の殻)がいない=片思い、というたとえが生まれたのです。

反対に、ハマグリの殻はもともと対になっていた殻どうしでないとぴったり合わないといわれます。そのため、ハマグリは夫婦円満(ふうふえんまん)のしるしとされ、ひな祭りのはまぐりのお吸い物や、貴族の女性たちが楽しんだ貝の遊び「貝覆い(かいおおい)」(「貝合わせ」とも呼ばれます)にも使われました。「1枚だけのアワビ」と「2枚で1組のハマグリ」は、ちょうど反対のイメージなのです。

うかるくん

うかるくん

えっ、アワビって巻貝なんですか!?ずっと二枚貝の片方だと思ってました。

合格先生

合格先生

そう思う人は多いんだ。でもアワビは最初から殻が1枚の巻貝。「片方しかないように見える」から片思いにたとえた、というのが正しい説明だよ。

サクラちゃん

サクラちゃん

本当に片方が取れたわけじゃなくて、「見た目」からのたとえなんですね。

合格先生

合格先生

その通り。ことわざは、昔の人が身近なものをどう見ていたかがわかっておもしろいね。

もとになった万葉集の歌(巻11・2798)の原文・読み・現代語訳

このことわざのもとは、奈良時代にまとめられた日本最古の歌集『万葉集(まんようしゅう)』の歌です。

伊勢の海人の 朝な夕なに 潜くといふ
鮑の貝の 片思にして

いせのあまの あさなゆふなに かづくといふ あはびのかひの かたもひにして

出典:『万葉集』巻11・2798(国歌大観番号)/作者:未詳(わかっていない)

原文:伊勢乃白水郎之 朝魚夕菜尓 潜云 鰒貝之 獨念荷指天

現代語訳:伊勢の海人(あま)が朝に夕に海に潜ってとるというアワビの貝のように、私の恋は片思いであって(つらいことだ)。

万葉集 巻11・2798を原文(万葉仮名)で読む原文読み意味伊勢乃白水郎之いせのあまの伊勢の海人(あま)が朝魚夕菜尓あさなゆふなに朝も夕も潜云かづくといふ潜ってとるという鰒貝之あはびのかひのアワビの貝のような獨念荷指天かたもひにして片思いであって上の4句が「片思(かたもひ)」をみちびく序詞(じょことば)「朝魚夕菜」の「魚」「菜」はどちらも「な」と読む。意味でも遊ぶ書き方とも
万葉仮名の原文と読み(原文は『万葉集』巻11・2798)
言葉読み意味
伊勢いせ今の三重県の一部。アワビなど海の幸で知られた
海人(白水郎)あま海に潜って貝や海藻をとる人。原文では「白水郎」と書いて「あま」と読む
朝な夕なにあさなゆふなに朝も夕方も。いつも
潜くかづく水に潜る。潜って(貝などを)とる
鮑あはびアワビ。歴史的かなづかいでは「あはび」
片思かたもひ片思い。「かたおもひ」がつまった形

歴史的仮名遣いで読むコツ

この歌には、今とちがう書き方(歴史的仮名遣い)がたくさん出てきます。「あはび」は「あわび」、「ゆふな」は「ゆうな」、「かたもひ」は「かたもい」、「いふ」は「いう」と読みます。ルールはかんたんで、語のはじめ以外にあるハ行の文字(は・ひ・ふ・へ・ほ)は「わ・い・う・え・お」と読むのが基本です。「かづく」の「づ」は「ず」と読みます。

歌の中の歴史的仮名遣いを読んでみよう書き方(古文)読み方ルールあはびあわび語の途中の「は」→「わ」ゆふなゆうな語の途中の「ふ」→「う」かたもひかたもい語の途中の「ひ」→「い」かづくかずく「づ」→「ず」いふいう語の途中・終わりの「ふ」→「う」ハ行の文字は、語のはじめ以外では「ワ・イ・ウ・エ・オ」と読むのが基本
歌に出てくる歴史的仮名遣いと読み方

ハ行の読み方や「ぢ・づ」のルールは、古文文法辞典「歴史的仮名遣い」に練習問題つきでまとめています。「いづれ」を「いずれ」と読む理由は「いずれ」と「いづれ」の違いでもくわしく説明しています。

歌のしくみ:序詞(じょことば)

この歌は、「伊勢の海人の朝な夕なに潜くといふ鮑の貝の」までが、最後の「片思」を引き出すための序詞(じょことば)になっています。序詞とは、ある言葉を引き出すために前に置く、ふつう2句以上の長い前置きのことです。言いたいことは最後の「片思にして」だけ。でも、その前に海で働く海人や岩にはりつくアワビの情景をたっぷり描くことで、「どうにもならない片思い」の気持ちが目に見えるように伝わってきます。序詞の見つけ方は古文文法辞典「序詞」でくわしく練習できます。

原文の書き方にも注目しましょう。「朝魚夕菜(朝に魚、夕べに菜)」と書いて「あさなゆふな」と読ませるのは、「魚」も「菜」も古くは「な」と読んだことを利用した書き方です。朝の食べ物(魚)と夕べの食べ物(菜)という意味まで感じさせる遊び心のある工夫で、こうした書き方を戯書(ぎしょ)の一つとして説明する本もあります。「白水郎」を「あま」と読むのは、中国で漁をする人(海人)を指した言い方を借りたものとされます。万葉集は、こうした漢字の使い方そのものも楽しめる歌集なのです。

「ここが大事!」と説明する合格先生

合格先生

序詞は「2句以上」「作者のオリジナル」「たとえや同音で次の言葉を引き出す」のが目安。枕詞(まくらことば)は5音で決まった組み合わせ、と区別して覚えよう!

歌を文法でほどく:「の」は「〜のように」、「に」は断定

短い歌ですが、古文の文法の大事なところがぎゅっとつまっています。上から順に見ていきましょう。

歌を文法でほどいてみよう(巻11・2798)伊勢の海人の「の」=主格「〜が」朝な夕なに朝も夕も(副詞のように働く)潜くといふ「と」引用+「いふ」連体形鮑の貝の「の」=比喩「〜のように」片思に「に」=断定「なり」の連用形して接続助詞「〜であって」「鮑の貝の」までが序詞。「の」が「〜のように」とたとえでつなぐ「片思にして」=片思いであって(その先の「つらい」は言わずに余韻)
巻11・2798を文法で分解(「鮑の貝の」までが序詞)
  • 伊勢の海人の:この「の」は「〜が」と訳す主格の「の」です。「海人が潜る」とつながります。
  • 潜くといふ:「と」は引用、「いふ」は連体形で、次の「鮑」にかかります。「潜ってとるという鮑」となります。
  • 鮑の貝の:この2つめの「の」が大事。「〜のように」と訳す比喩(ひゆ)の「の」です。序詞の終わりによく出てきて、「アワビの貝のように片思い」とたとえでつなぎます。
  • 片思にして:「に」は断定の助動詞「なり」の連用形、「して」は接続助詞で、「片思いであって」と訳します。

格助詞「の」の5つの使い方(主格・連体格・同格・準体格・比喩)は古文文法辞典「格助詞『の』『が』」で、「に」が助動詞か助詞かを見分ける方法は「に」の識別で整理できます。比喩の「の」は、百人一首92番「わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の」(沖の石のように)にも出てくるので、セットで覚えましょう。

序詞・枕詞・掛詞のちがい(和歌の修辞)

「磯のあわび」の歌で使われている序詞は、枕詞(まくらことば)や掛詞(かけことば)とまぎらわしく、テストでよく取りちがえられます。3つを図でくらべてみましょう。

まぎらわしい3つの修辞をくらべよう長さしくみ例枕詞まくらことばふつう5音決まった言葉にかかる「ちはやぶる」→神序詞じょことば2句以上が多い作者が自由に作る「鮑の貝の」→片思掛詞かけことば1語同じ音で2つの意味「まつ」=松・待つ
枕詞・序詞・掛詞のちがい

枕詞は「ちはやぶる→神」「あしひきの→山」のように、決まった言葉にかかる、ふつう5音の飾りの言葉です。訳さないのがふつうです(百人一首17番「ちはやぶる」がよく知られています)。序詞は長さが自由で、作者がその場で作るので、中身(情景)に意味があるのがちがいです。2798番の歌なら、伊勢の海で海人がアワビをとる情景そのものが味わいどころになります。掛詞は「まつ(松・待つ)」のように1つの音に2つの意味を重ねる技法で、序詞と組み合わせて使われることもよくあります。

くわしくは古文文法辞典「枕詞」と「掛詞」、和歌の技法全体は和歌の修辞(枕詞・序詞・掛詞・縁語)のまとめでどうぞ。

うかるくん

うかるくん

序詞と枕詞、テストでいつもまちがえます……。どうやって見分ければいいですか?

合格先生

合格先生

まず長さを数えよう。5音で決まった言葉にかかるなら枕詞。2句以上あって、たとえや同じ音で次の言葉を引き出しているなら序詞の可能性が高いよ。

サクラちゃん

サクラちゃん

「鮑の貝の」みたいに、最後に「の」(〜のように)があったら序詞のサインなんですね。

合格先生

合格先生

いいところに気づいたね。「〜の」で終わって、その先に本当に言いたいこと(片思)が来る。この形を覚えておくと見つけやすいよ。

古典の中のアワビと海人(あま)

歌に出てくる海人(あま)は、海に潜って貝や海藻をとったり、塩を焼いたりして暮らした人々のことです。今は女性の「海女(あま)」を思いうかべる人が多いですが、万葉集の「海人」は男女どちらも指します。伊勢・志摩(今の三重県)は、昔も今も海に潜ってアワビをとる漁で知られる土地です。

アワビは古代から大切な海の幸でした。伊勢神宮には古くからアワビを薄く切って干した「のしあわび(熨斗鮑)」が供えられてきたことで知られます。お祝いの贈り物につける「のし」も、もとはこののしあわびだといわれます。片思いのたとえになったアワビが、お祝いのしるしにもなっているのはおもしろいですね。

また、俳句では「鮑(あわび)」は夏の季語です。海に潜る漁がさかんになる季節だから、と説明されます。夏の始まりについては二十四節気「立夏」、季節と暦のしくみは二十四節気の一覧や旧暦の月の名前もあわせて読んでみてください。

万葉集の時代の恋は、男性が女性の家を訪ねる「妻問い(つまどい)」が基本でした。会いに行けない、来てもらえない、という思いが、多くの恋の歌を生みました。昔の恋と結婚のしきたりは古文文法辞典「古文常識(住まい・恋と結婚・物忌み)」にまとめています。

使い方と例文

「磯のあわびの片思い」は、自分の恋を少し自分で笑うような場面や、他人の恋をやさしくからかう場面でよく使われます。

  • 毎日あいさつしているのに名前も覚えてもらえない。まさに磯のあわびの片思いだ。
  • 兄は3年も同じ人を想い続けているが、相手は気づいてもいない。磯のあわびの片思いというやつだ。
  • こちらは仲よくしたいのに、向こうは興味がないらしい。これではあわびの片思いだね。

注意:「両思い」の場面には使えません。また、目上の人の恋について言うと失礼になることがあるので、使う相手には気をつけましょう。

似た意味の言葉・反対の言葉

言葉読み意味
片思い・片恋かたおもい・かたこい一方だけが相手を恋しく思うこと
岡惚れおかぼれ他人の恋人などを、わきから恋しく思うこと
高嶺の花たかねのはな見るだけで、手に入れることのできないもの・人
両思いりょうおもい(反対の意味)おたがいに恋しく思い合うこと

古文の世界では、片思いのつらさは和歌の大きなテーマでした。「片恋(かたこひ)」という言葉も万葉集に出てきます。会えない恋・知られない恋のせつなさは、このあと見る百人一首の恋の歌にもたくさん詠まれています。

万葉集とは?古今集・新古今集とのちがい

『万葉集』は、現存する日本最古の歌集です。全20巻に約4500首の歌が収められ、奈良時代の終わりごろにまとめられたと考えられています。編者ははっきりしませんが、大伴家持(おおとものやかもち)が深く関わったとされます(百人一首6番では「中納言家持」の名で出てきます)。

  • 作者:天皇や貴族から、東国の人々の「東歌(あずまうた)」、九州の守りについた兵士の「防人歌(さきもりうた)」まで、いろいろな身分の人の歌が入っています。2798番のように作者未詳の歌も多くあります。
  • 歌の形:短歌(5・7・5・7・7)のほか、長歌(ちょうか)・旋頭歌(せどうか)など。
  • 文字:まだ仮名がなかったので、漢字の音や訓を借りて日本語を書く万葉仮名(まんようがな)で書かれています。
  • 歌風:素直で力強い歌が多く、江戸時代の国学者・賀茂真淵(かものまぶち)は「ますらをぶり(男性的でおおらか)」と評しました。
三大和歌集をくらべよう成立歌の数編者歌風キーワード万葉集まんようしゅう奈良時代の末ごろ約4500首大伴家持が関わったとされる素朴で力強いますらをぶり古今和歌集こきんわかしゅう905年ごろ(平安)約1100首紀貫之ら(醍醐天皇の命)理知的・優美たをやめぶり新古今和歌集しんこきんわかしゅう1205年(鎌倉初め)約2000首藤原定家ら(後鳥羽院の命)余情・象徴的幽玄・本歌取り
三大和歌集のちがい(成立年・歌数はおおよそ)

万葉集・古今和歌集・新古今和歌集は三大和歌集と呼ばれ、文学史の問題によく出ます。古今和歌集(古今集)は最初の勅撰和歌集(天皇の命令で作られた和歌集)で、仮名序(かなじょ)を書いた紀貫之が中心となりました。新古今和歌集(新古今集)は後鳥羽院(後鳥羽天皇)の命で藤原定家(ふじわらのさだいえ/ていか)らがまとめ、昔の名歌をふまえる本歌取り(ほんかどり)がさかんに使われました(古文文法辞典「本歌取り」)。百人一首を選んだのもこの藤原定家とされます。古典と古文のちがい、和歌がどの時代の作品かを整理するには古典と古文の違いとは?もあわせて読んでください。

百人一首の恋の歌もあわせて読もう

百人一首100首のうち、恋の歌は43首と最も多くを占めます。「磯のあわび」と同じく、かなわぬ恋・知られぬ恋を詠んだ歌を読みくらべてみましょう。海にかかわる歌も選びました。

番号歌(上の句)作者ポイント
3番あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の柿本人麻呂(柿本人麿)「の」をくり返す序詞で、長い夜のひとり寝を詠む
40番忍ぶれど 色に出でにけり 我が恋は平兼盛かくしていた恋が顔に出てしまう
41番恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり壬生忠見40番と歌合で勝負した「忍ぶ恋」
49番御垣守 衛士のたく火の 夜はもえ大中臣能宣衛士のかがり火に恋の思いをたとえる
90番見せばやな 雄島のあまの 袖だにも殷富門院大輔「あま(海人)」の袖と涙の袖をくらべる
92番わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の二条院讃岐潮が引いても見えない沖の石のように乾かぬ袖
97番来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに権中納言定家(藤原定家)海人の藻塩焼きに、待つ恋のこがれる思いを重ねる

3番の「あしびきの」は、上の3句が「長々し」を引き出す序詞になっていて、2798番の歌と同じしくみです。くらべて読むと、序詞の働きがよくわかります。

百人一首97番 権中納言定家の絵札
百人一首97番 権中納言定家(藤原定家)の絵札(パブリックドメイン・Wikimedia Commons)

とくに読みくらべたいのが、百人一首を選んだ藤原定家自身の97番「来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ」です。「まつ」は地名の「松帆(まつほ)」と「待つ」の掛詞、「まつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の」が「こがれ」を引き出す序詞です。海辺で海人が藻塩(もしお)を焼く情景に、来ない人を待ってこがれる思いを重ねていて、2798番の「海人の仕事の情景+かなわぬ恋」と同じ形をしています。この歌は、万葉集巻6の笠金村(かさのかなむら)の長歌をふまえた本歌取りとされます。万葉集の海人の歌は、500年ほど後の歌人にも受けつがれていたのです。全百首は百人一首 全百首の一覧、腕だめしは百人一首クイズでどうぞ。

サクラちゃん

サクラちゃん

1300年くらい前の人も、今の私たちと同じように片思いで悩んでいたんですね。

合格先生

合格先生

そうなんだ。和歌は昔の人の気持ちをそのまま閉じこめたタイムカプセル。「わかる!」と思える歌を見つけると、古文がぐっと身近になるよ。

入試・テストで問われるポイント

ひらめいたうかるくん

うかるくん

ことわざの意味・アワビは巻貝・出典は万葉集・序詞・比喩の「の」。この5つをおさえれば、どこから聞かれてもだいじょうぶ!

  • ことわざの意味:「磯のあわびの片思い」=自分だけが相手を思う片思い。
  • 由来:アワビは巻貝で殻が1枚。二枚貝の片方のように見えることから。
  • 出典:『万葉集』巻11・2798「伊勢の海人の朝な夕なに潜くといふ鮑の貝の片思にして」。
  • 修辞:上の4句が「片思」を引き出す序詞。
  • 文学史:万葉集(奈良・約4500首・大伴家持・ますらをぶり)、古今集(最初の勅撰集・紀貫之)、新古今集(後鳥羽院・藤原定家・本歌取り)。
  • 文法:「鮑の貝の」の「の」は比喩(〜のように)、「片思にして」の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形。

自分で解いてみよう(自作の例題)

問1 「伊勢の海人の朝な夕なに潜くといふ鮑の貝の」は、どの言葉を引き出すための何という修辞か。
問2 「鮑の貝の」の2つめの「の」の意味を答えよ。
問3 「磯のあわびの片思い」の由来を、アワビの殻の特徴にふれて説明せよ。

答えを見る

問1:「片思(かたもひ)」を引き出す序詞。問2:比喩(〜のように)。問3:アワビは殻が1枚の巻貝で、二枚貝の殻の片方だけのように見えるため、相手のいない片思いにたとえた。

中学・高校の教科書や問題集では、ことわざの意味と由来、万葉集の文学史が中心です。大学入試では、序詞・掛詞などの修辞や助詞「の」の用法が問われやすくなります。試験ごとの勉強のポイントは、古文文法辞典の「高校受験の古文」・「共通テストの古文文法」にまとめています。

国語の学習のまとめは国語のまとめ、漢字の読み書きは漢字合格大作戦で。古文の言葉の話は、旅立ちの贈り物から生まれた「はなむけ」の意味と由来、昔と今で意味がちがう古文の「友達」、徒然草188段、覚えておきたい古文単語もどうぞ。恋の悩みや勉強の悩みは、受験掲示板「100点BBS」でほかの受験生と話してみるのもおすすめです。

よくある質問

「磯のあわびの片思い」とはどういう意味ですか?

相手は何とも思っていないのに、自分だけが恋しく思っていること(片思い)のたとえです。「あわびの片思い」とも言います。

アワビは二枚貝ですか?

いいえ。アワビはミミガイ科の巻貝(腹足類)で、殻は1枚です。二枚貝の片方の殻だけのように見えることから、片思いにたとえられました。

もとになった万葉集の歌は何ですか?

『万葉集』巻11・2798の「伊勢の海人の朝な夕なに潜くといふ鮑の貝の片思にして」です。作者はわかっていません。

この歌の「伊勢の海人の〜鮑の貝の」は何という技法ですか?

最後の「片思」を引き出す序詞(じょことば)です。

「片思」は何と読みますか?

万葉集の歌では「かたもひ」と読むのが一般的です。「かたおもひ」がつまった形です。

万葉集には何首の歌がありますか?

全20巻に約4500首が収められています。現存する日本最古の歌集で、大伴家持が編集に関わったとされます。

「鮑の貝の片思にして」の「の」と「に」は何ですか?

「の」は「〜のように」と訳す比喩の格助詞、「に」は断定の助動詞「なり」の連用形です。「アワビの貝のように片思いであって」と訳します。

あわせて読みたい

出典・参考

  • 『万葉集』巻11・2798(国歌大観番号。原文「伊勢乃白水郎之 朝魚夕菜尓 潜云 鰒貝之 獨念荷指天」)
  • Oxford-NINJAL Corpus of Old Japanese / VSARPJ「MYS.11.2798」
  • 万葉集の歌数・成立・編者は一般的な説明によります(編者には諸説あり)
  • 百人一首97番の本文・出典(新勅撰集)は当サイトの百人一首ページのデータによります
  • 画像:絵札「Hyakuninisshu 097」(パブリックドメイン・Wikimedia Commons)

最終更新:2026年10月21日/作成:大学受験合格大作戦

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