- 歌
- 来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ
- 意味
- いくら待っても来ない人を待ち続けて、松帆の浦の風がやんだ夕なぎのころに焼く藻塩のように、私の身も、恋しさに焦がれ続けていることです。
- 作者
- 権中納言定家(藤原定家)(ごんちゅうなごんさだいえ(ふじわらのさだいえ))
- 出典
- 『新勅撰和歌集』恋三・849番
- 決まり字
- 「こぬ」(2字決まり)

来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに
焼くや藻塩の 身もこがれつつ
読みこぬひとを まつほのうらの ゆうなぎに
やくやもしおの みもこがれつつ
歴史的仮名遣いこぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに
やくやもしほの みもこがれつつ
いくら待っても来ない人を待つ私は、松帆の浦の夕なぎに焼く藻塩のように、身も焦がれる思いで待ち続けている——百人一首を選んだ藤原定家、自身の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 来ぬ人 | こぬひと | 来ない人。「ぬ」は打消「ず」の連体形です。 |
| まつほの浦 | まつほのうら | 淡路島の北端にある浦(松帆の浦)。「松帆」に「待つ」を掛けています。 |
| 夕なぎ | ゆうなぎ | 夕方、海風と陸風が入れかわって、風がやみ海が静まること。 |
| 焼くや藻塩の | やくやもしおの | 「焼く藻塩のように」。藻塩は、海藻に海水をかけて焼き、塩をとる方法です。 |
| 身もこがれつつ | みもこがれつつ | 「身も焦がれ続けて」。藻塩が焦げる様子と、恋に身を焦がす気持ちを重ねています。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 来 | 動詞・カ変「来」未然形 | |
| ぬ | 助動詞「ず」連体形 | 打消 |
| 人 | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| まつほ | 名詞(松帆)/動詞「待つ」 | 掛詞 |
| の | 格助詞 | |
| 浦 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 夕なぎ | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| 焼く | 動詞・カ行四段「焼く」連体形 | |
| や | 間投助詞 | 詠嘆 |
| 藻塩 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | 比喩 |
| 身 | 名詞 | |
| も | 係助詞 | |
| こがれ | 動詞・ラ行下二段「こがる」連用形 | |
| つつ | 接続助詞 | 反復・継続 |
表現技法・文法のポイント
「まつほ」に地名「松帆」と「待つ」を掛けています。
「まつほの浦の夕なぎに焼くや藻塩の」が、「こがれ」を導く序詞です。
「焼く」「藻塩」「こがれ」は、火に関係する言葉でつながっています。
『万葉集』の笠金村の長歌の言葉をふまえ、来ない恋人を待つ女性の立場で詠んでいます。
歌の背景・鑑賞
『新勅撰和歌集』恋三に入っています。1216年の内裏歌合で詠まれた歌です。風のない夕なぎの浜で、じりじりと焼かれる藻塩に、来ない恋人を待ちこがれる女性の心を重ねています。百人一首を選んだ定家が、自分の歌の中からこの一首を選んだことからも、自信作だったことがうかがえます。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
定家は、親戚の宇都宮頼綱に頼まれて、京都・嵯峨の小倉山の山荘のふすまに貼る色紙として、百首の歌を書いたと伝えられます。これが「小倉百人一首」の始まりとされています。家のインテリアから、800年続く日本の文化が生まれたのです。
定家は、19歳から74歳までの56年間、『明月記』という日記をつけ続けました。この日記には、1054年に現れた超新星(かに星雲のもと)の記録が書き写されていて、天文学の研究にも役立っています。
定家には、89番の式子内親王と恋をしていたという伝説があります。能の『定家』では、定家の恋心がつる草となって、内親王の墓にからみついたと語られます。来ない人を待ちこがれるこの歌に、その恋を重ねる人もいます。
定家は、『源氏物語』や『土佐日記』などの古典を書き写して、後世に伝えました。定家がいなければ、私たちが今読んでいる古典の多くは、違った形になっていたかもしれません。
作者:権中納言定家(藤原定家)
平安時代末期から鎌倉時代初期の公家・歌人、藤原定家(ふじわらのさだいえ/ていか)です。83番の藤原俊成の子で、『新古今和歌集』『新勅撰和歌集』を編集しました。京都・嵯峨の小倉山の山荘で、ふすまに貼る色紙として百首の歌を選んだのが「小倉百人一首」の始まりとされています。56年にわたる日記『明月記』や、『源氏物語』などの古典を書き写して後世に伝えた功績でも知られます。
決まり字と覚え方
上の句が「こぬ」まで読まれたら、取り札が決まります。「こ」で始まる歌は6首あります。
覚え方:「こぬ」と聞いたら「やくやもしほの」。来ぬ(こぬ)人を待って焼く(やく)、と覚えます。「こ」で始まる歌は6首あるので、2字目の「ぬ」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 掛詞(松帆/待つ)・序詞・縁語
- 打消「ず」の連体形「ぬ」
- 百人一首の撰者(文学史)
- 『新古今和歌集』『明月記』
よくある質問
百人一首を選んだのは誰ですか?
この歌の作者・藤原定家です。京都の小倉山の山荘で選んだとされ、そこから「小倉百人一首」と呼ばれます。
「藻塩」とは何ですか?
海藻に海水をかけて焼き、塩をとる昔の方法です。焦げていく様子を、恋に身を焦がす気持ちに重ねています。
この歌の掛詞はどこですか?
「まつほ」です。地名の「松帆」と「待つ」を掛けています。
あわせて読みたい
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- 26番「小倉山」(貞信公・雑)
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大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
