- 歌
- 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
- 意味
- ああ世の中よ、(つらいことから)逃れる道はないのだなあ。思いつめて入ってきたこの山の奥にも、(つらさに)鹿が悲しげに鳴いているのが聞こえる。
- 作者
- 皇太后宮大夫俊成(藤原俊成)(こうたいごうぐうのだいぶしゅんぜい(ふじわらのとしなり))
- 出典
- 『千載和歌集』雑中・1148番
- 決まり字
- 「よのなかよ」(5字決まり)

世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る
山の奥にも 鹿ぞ鳴くなる
読みよのなかよ みちこそなけれ おもいいる
やまのおくにも しかぞなくなる
歴史的仮名遣いよのなかよ みちこそなけれ おもひいる
やまのおくにも しかぞなくなる
世の中のつらさから逃れる道はないのだなあ。思いつめて分け入った山の奥でも、鹿が悲しそうに鳴いている——百人一首を選んだ定家の父・藤原俊成の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 世の中よ | よのなかよ | 「ああ、世の中よ」。「よ」は詠嘆の間投助詞です。 |
| 道こそなけれ | みちこそなけれ | 「(逃れる)道はないのだ」。「こそ」を受けて「なけれ」が已然形で結んでいます。 |
| 思ひ入る | おもいいる | 「思いつめて(山に)入る」。「思ひ入る」と「(山に)入る」を掛けています。 |
| 鹿ぞ鳴くなる | しかぞなくなる | 「鹿が鳴いているのが聞こえる」。「なる」は推定(聴覚)の助動詞「なり」の連体形です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 世の中 | 名詞 | |
| よ | 間投助詞 | 詠嘆 |
| 道 | 名詞 | |
| こそ | 係助詞 | 強意 |
| なけれ | 形容詞・ク活用「なし」已然形 | 係り結び(二句切れ) |
| 思ひ入る | 動詞・ラ行四段「思ひ入る」連体形 | 掛詞 |
| 山 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 奥 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| も | 係助詞 | |
| 鹿 | 名詞 | |
| ぞ | 係助詞 | 強意 |
| 鳴く | 動詞・カ行四段「鳴く」終止形 | |
| なる | 助動詞「なり」連体形 | 推定(聴覚)・係り結び |
表現技法・文法のポイント
「こそ→なけれ」「ぞ→なる」と、一首に係り結びが二つあります。
終止形「鳴く」に付く「なり」は、音を聞いて推定する「〜が聞こえる」。入試頻出の識別です。
「道こそなけれ」で切れ、世の中への嘆きを先に言い切っています。
歌の背景・鑑賞
『千載和歌集』雑中に入っています。作者が27歳ごろに詠んだ「述懐百首(じゅっかいひゃくしゅ)」の中の一首です。当時、友人の西行(86番)らが次々と出家していました。世の中のつらさから逃れようと山に入っても、そこにも悲しみがある――出家を迷う若い俊成の心が表れた歌です。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
『平家物語』には、平家の都落ちのとき、武将の平忠度が俊成の屋敷に引き返し、「自分の歌を一首でも勅撰集に入れてほしい」と歌の巻物を託した話があります。俊成は『千載和歌集』に、忠度の歌を「よみ人しらず」として一首入れました。朝敵となった忠度の名前を出せなかったのです。
俊成は91歳まで長生きしました。息子の定家に歌の道を伝え、和歌の家「御子左家」の基礎を築きました。この歌を詠んだ27歳のころには、出家しようか迷っていた青年が、のちに歌の世界の大御所になったのです。
作者:皇太后宮大夫俊成(藤原俊成)
平安時代後期から鎌倉時代初期の公家・歌人、藤原俊成(ふじわらのとしなり/しゅんぜい)です。藤原基俊(75番)に歌を学び、後白河上皇の命で『千載和歌集』を編集しました。「幽玄」という美しさを和歌に求めた歌人です。百人一首を選んだ藤原定家(97番)の父で、87番の寂蓮は甥で養子です。91歳まで長生きしました。
決まり字と覚え方
上の句が「よのなかよ」まで読まれたら、取り札が決まります。「よ」で始まる歌は4首あります。
覚え方:「よのなかよ」と聞いたら「やまのおくにも」。93番「よのなかは」と5字目で分かれる5字決まりです。世の中よ(よ)、山の奥(やまのおく)にも、と覚えます。
入試で問われるポイント
- 推定の「なり」(終止形+なり)
- 係り結び2つ(こそ→なけれ、ぞ→なる)
- 掛詞(思ひ入る)
- 『千載和歌集』の撰者・定家の父(文学史)
よくある質問
「鹿ぞ鳴くなる」の「なる」は何ですか?
終止形「鳴く」に付いているので、推定(聴覚)の助動詞「なり」です。「鳴いているのが聞こえる」という意味です。
93番「よのなかは」との見分け方は?
83番は「世の中よ」、93番は「世の中は」です。5字目の「よ」と「は」で決まる5字決まりです。
藤原俊成はどんな人ですか?
『千載和歌集』を編集した歌人で、百人一首を選んだ藤原定家の父です。
あわせて読みたい
- 97番「来ぬ人を」(権中納言定家・恋)
- 86番「嘆けとて」(西行法師・恋)
- 87番「村雨の」(寂蓮法師・秋)
- 75番「契りおきし」(藤原基俊・雑)
- 93番「世の中は」(鎌倉右大臣・旅)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
