- 歌
- 村雨の 露もまだ干ぬ 槇の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ
- 意味
- 通り雨が残した露(しずく)もまだ乾かない、杉や檜などの葉のあたりに、早くも霧が白く立ちのぼってくる、秋の夕暮れであることよ。
- 作者
- 寂蓮法師(じゃくれんほうし)
- 出典
- 『新古今和歌集』秋下・491番
- 決まり字
- 「む」(1字決まり)

村雨の 露もまだ干ぬ 槇の葉に
霧立ちのぼる 秋の夕暮れ
読みむらさめの つゆもまだひぬ まきのはに
きりたちのぼる あきのゆうぐれ
歴史的仮名遣いむらさめの つゆもまだひぬ まきのはに
きりたちのぼる あきのゆふぐれ
にわか雨のしずくもまだ乾かない槇の葉のあたりに、白い霧がわき上がってくる秋の夕暮れ——一字決まり「む」の、寂蓮法師の幽玄な秋の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 村雨 | むらさめ | にわか雨、通り雨。 |
| 露もまだ干ぬ | つゆもまだひぬ | 「しずくもまだ乾かない」。「ぬ」は打消「ず」の連体形です。 |
| 槇 | まき | 杉や檜(ひのき)などの常緑樹をまとめていう言葉。 |
| 霧立ちのぼる | きりたちのぼる | 霧がわき上がってくる。 |
| 秋の夕暮れ | あきのゆうぐれ | 秋の夕方。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 村雨 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 露 | 名詞 | |
| も | 係助詞 | |
| まだ | 副詞 | |
| 干 | 動詞・ハ行上一段「干る」未然形 | |
| ぬ | 助動詞「ず」連体形 | 打消 |
| 槇 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 葉 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| 霧 | 名詞 | |
| 立ちのぼる | 動詞・ラ行四段「立ちのぼる」連体形 | |
| 秋 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 夕暮れ | 名詞 | 体言止め |
表現技法・文法のポイント
「秋の夕暮れ」で終わり、静かでもの寂しい余韻を残しています。
雨・露・霧と、水の姿が移り変わる中に、はっきり言い表せない奥深い美しさ(幽玄)が感じられます。
未然形「干」に付く「ぬ」は打消「ず」の連体形です。
歌の背景・鑑賞
『新古今和歌集』秋下に入っています。通り雨が過ぎたあとの深い山の、しっとりとした夕暮れを描いた歌です。色彩を使わず、雨・露・霧という水の移り変わりだけで、秋の寂しさを表しています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
寂蓮は、歌合で歌人の顕昭と激しい論争をしたことで知られます。顕昭は仏具の独鈷(とっこ)を手に持ち、寂蓮は鎌首(蛇が首をもたげるように)を持ち上げて言い争ったので、「独鈷鎌首論争」と呼ばれました。歌に命をかけた人たちの熱気が伝わってきます。
寂蓮には「さびしさはその色としもなかりけり槇立つ山の秋の夕暮れ」という歌もあり、西行・定家の歌と並んで「三夕の歌」と呼ばれます。百人一首の歌と同じく「槇」と「秋の夕暮れ」が出てくるのも、おもしろいところです。
作者:寂蓮法師
平安時代末期から鎌倉時代初期の歌人・僧侶、寂蓮法師(じゃくれんほうし)です。俗名は藤原定長。叔父の藤原俊成(83番)の養子となり、30代で出家しました。俊成の子・定家(97番)は義理の弟にあたります。『新古今和歌集』の撰者に選ばれましたが、完成を見る前に亡くなりました。
決まり字と覚え方
上の句が「む」まで読まれたら、取り札が決まります。「む」で始まる歌は1首あります。
覚え方:「む」と聞いたら「きりたちのぼる」。一字決まり「むすめふさほせ」の「む」です。村(む)雨に霧(きり)、と覚えます。
入試で問われるポイント
- 一字決まり「む」
- 体言止め
- 幽玄(新古今の美意識)
- 三夕の歌(文学史)
よくある質問
「槇」とは何ですか?
杉や檜などの常緑樹をまとめていう言葉です。
一字決まりはどれですか?
87番は「む」の一字決まりです。「むすめふさほせ」の「む」にあたります。
三夕の歌とは何ですか?
『新古今和歌集』にある「秋の夕暮れ」で終わる名歌3首のことで、寂蓮・西行・定家の歌です。百人一首87番とは別の寂蓮の歌が入っています。
あわせて読みたい
- 83番「世の中よ」(皇太后宮大夫俊成・雑)
- 97番「来ぬ人を」(権中納言定家・恋)
- 70番「さびしさに」(良暹法師・秋)
- 86番「嘆けとて」(西行法師・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
