- 歌
- 嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな
- 意味
- 「嘆け」と言って、月が私にもの思いをさせるのだろうか、いや、そうではない(本当は恋のせいなのだ)。それなのに、まるで月のせいだと言わんばかりにこぼれ落ちる、私の涙であることよ。
- 作者
- 西行法師(さいぎょうほうし)
- 出典
- 『千載和歌集』恋五・926番
- 決まり字
- 「なげけ」(3字決まり)

嘆けとて 月やはものを 思はする
かこち顔なる わが涙かな
読みなげけとて つきやはものを おもわする
かこちがおなる わがなみだかな
歴史的仮名遣いなげけとて つきやはものを おもはする
かこちがほなる わがなみだかな
月が「嘆け」と言って私を悩ませるのだろうか、いや違う。それなのに月のせいにするように流れる私の涙よ——旅の歌人・西行法師の恋の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 嘆けとて | なげけとて | 「嘆けと言って」。 |
| 月やは | つきやは | 「月が〜だろうか、いや〜ない」。「やは」は反語です。 |
| ものを思はする | ものをおもわする | 「もの思いをさせる」。「する」は使役の助動詞「す」の連体形です。 |
| かこち顔 | かこちがお | 人(ここでは月)のせいにするような顔つき。 |
| わが涙かな | わがなみだかな | 「私の涙であることよ」。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 嘆け | 動詞・カ行四段「嘆く」命令形 | |
| と | 格助詞 | |
| て | 接続助詞 | |
| 月 | 名詞 | |
| や | 係助詞 | 反語 |
| は | 係助詞 | |
| もの | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| 思は | 動詞・ハ行四段「思ふ」未然形 | |
| する | 助動詞「す」連体形 | 使役(係り結び) |
| かこち顔 | 名詞 | |
| なる | 助動詞「なり」連体形 | 断定 |
| わ | 代名詞 | |
| が | 格助詞 | |
| 涙 | 名詞 | |
| かな | 終助詞 | 詠嘆 |
表現技法・文法のポイント
「月やは〜する」で「月がもの思いをさせるだろうか、いやそうではない」と否定しています。
月を、人に嘆けと命じる存在のように、また涙を月のせいにする顔のように描いています。
「思はする」は「思わせる」。使役の助動詞です。
歌の背景・鑑賞
『千載和歌集』恋五に入っています。「月の前の恋」という題で詠まれた歌です。月を見て涙が出るのは、本当は恋のせいなのに、まるで月のせいのように見える――と、恋の悲しみをひねった表現で詠んでいます。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
西行は、将来を約束された北面の武士でありながら、23歳で突然出家しました。その理由については、親しい友人の急死にショックを受けたという説や、身分の高い女性(待賢門院ともいわれます)への恋に破れたという説など、さまざまな話が伝わっています。
西行は「願はくは花の下にて春死なむその如月の望月のころ(できることなら、桜の下で春に死にたい。2月の満月のころに)」という歌を詠みました。そして実際に、ほぼその歌のとおりの時期に亡くなり、人々を驚かせたと伝えられています。
江戸時代の俳人・松尾芭蕉は、西行を深く尊敬し、西行の歩いた道をたどって旅をしました。『おくのほそ道』の旅も、西行へのあこがれから生まれたといわれます。
作者:西行法師
平安時代末期から鎌倉時代初期の歌人・僧侶、西行法師(さいぎょうほうし)です。俗名は佐藤義清(さとうのりきよ)。鳥羽上皇に仕える北面の武士でしたが、23歳で出家しました。その後、諸国を旅して多くの歌を詠み、『新古今和歌集』には最も多い94首が選ばれています。家集に『山家集』があります。
決まり字と覚え方
上の句が「なげけ」まで読まれたら、取り札が決まります。「な」で始まる歌は8首あります。
覚え方:「なげけ」と聞いたら「かこちがほなる」。嘆け(なげけ)と月にかこつ(かこち)、と覚えます。53番「なげき」と3字目で分かれます。
入試で問われるポイント
- 反語「やは」
- 使役の「す」
- 擬人法
- 西行(新古今集最多・『山家集』)
よくある質問
「月やはものを思はする」はどういう意味ですか?
「月がもの思いをさせるのだろうか、いやそうではない」という反語の表現です。
「かこち顔」とは何ですか?
何かのせいにするような顔つきのことです。涙を月のせいにしているように見えるのです。
西行法師はどんな人ですか?
武士の身分を捨てて出家し、旅をしながら歌を詠んだ歌人です。『新古今和歌集』に最も多くの歌が選ばれています。
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