- 歌
- 嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る
- 意味
- (あなたが来ないのを)嘆きながら、ひとりで寝る夜が明けるまでの時間が、どんなに長いものか、あなたはご存じでしょうか。(いいえ、ご存じないでしょう。)
- 作者
- 右大将道綱母(うだいしょうみちつなのはは)
- 出典
- 『拾遺和歌集』恋四・912番
- 決まり字
- 「なげき」(3字決まり)

嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は
いかに久しき ものとかは知る
読みなげきつつ ひとりぬるよの あくるまは
いかにひさしき ものとかはしる
歴史的仮名遣いなげきつつ ひとりぬるよの あくるまは
いかにひさしき ものとかはしる
あなたが来ないのを嘆きながら、ひとりで寝る夜が明けるまでの時間が、どんなに長いものか、あなたはご存じでしょうか——『蜻蛉日記』の作者・道綱母の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 嘆きつつ | なげきつつ | 嘆きながら。「つつ」は反復・継続です。 |
| ひとり寝る夜 | ひとりぬるよ | 夫が来ず、ひとりで寝る夜。 |
| 明くる間 | あくるま | 夜が明けるまでの時間。 |
| いかに久しき | いかにひさしき | どんなに長い。 |
| ものとかは知る | ものとかはしる | 「ものだと知っているでしょうか、いや知らないでしょう」。「かは」は反語です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 嘆き | 動詞・カ行四段「嘆く」連用形 | |
| つつ | 接続助詞 | 反復・継続 |
| ひとり | 名詞 | |
| 寝る | 動詞・ナ行下二段「寝」連体形 | |
| 夜 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | 主格 |
| 明くる | 動詞・カ行下二段「明く」連体形 | |
| 間 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | |
| いかに | 副詞 | どんなに |
| 久しき | 形容詞・シク活用「久し」連体形 | |
| もの | 名詞 | |
| と | 格助詞 | |
| か | 係助詞 | 反語 |
| は | 係助詞 | |
| 知る | 動詞・ラ行四段「知る」連体形 | 係り結び |
表現技法・文法のポイント
「かは〜知る」で「知っているでしょうか、いや知らないでしょう」と、相手を強く責めています。
「か」を受けて「知る」が連体形になっています。
歌の背景・鑑賞
『拾遺和歌集』恋四に入っています。夫の藤原兼家が別の女性のもとへ通うようになり、ある夜、兼家が訪ねてきたのに、作者は門を開けませんでした。翌朝、兼家に贈ったのがこの歌です。『蜻蛉日記』には、色あせた菊の花に添えて贈ったと書かれています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
夫の兼家が訪ねてきても、作者はわざと門を開けませんでした。兼家はあきらめて別の女性のところへ行ってしまいます。プライドと寂しさの間で揺れる気持ちが、『蜻蛉日記』には生々しく描かれています。
道綱母は、たいへんな美人だったといわれ、「本朝三美人」の一人に数えられることもあります。それでも、夫の心をつなぎとめることはできなかったのです。
この歌を受け取った兼家は、「冬の夜の戸を開けてもらえるまで待つのも、つらいものだよ」という意味の歌を返したと伝えられています。夫婦のすれ違いが、歌のやりとりから見えてきます。
作者:右大将道綱母
平安時代中期の女性歌人で、『蜻蛉日記(かげろうにっき)』の作者です。藤原倫寧の娘で、のちに摂政となる藤原兼家の妻の一人となり、藤原道綱を産みました。名前は伝わっておらず、「右大将道綱の母」と呼ばれています。夫との苦しい結婚生活を書いた『蜻蛉日記』は、女性による日記文学の先がけとされます。
決まり字と覚え方
上の句が「なげき」まで読まれたら、取り札が決まります。「な」で始まる歌は8首あります。
覚え方:「なげき」と聞いたら「いかにひさしき」。嘆き(なげき)の夜はいかに(いかに)長い、と覚えます。86番「なげけ」と3字目で分かれます。
入試で問われるポイント
- 反語(かは)
- 係り結び(か→知る)
- 『蜻蛉日記』の作者(文学史)
- 一夫多妻の結婚形態(古文常識)
よくある質問
「ものとかは知る」はどういう意味ですか?
「ものだとご存じでしょうか、いいえご存じないでしょう」という反語の表現です。
道綱母はどんな作品を書きましたか?
夫・藤原兼家との結婚生活を書いた『蜻蛉日記』を書きました。
86番「なげけ」との見分け方は?
53番は「嘆きつつ」、86番は「嘆けとて」です。3字目の「き」と「け」で決まります。
あわせて読みたい
- 54番「忘れじの」(儀同三司母・恋)
- 86番「嘆けとて」(西行法師・恋)
- 56番「あらざらむ」(和泉式部・恋)
- 57番「めぐり逢ひて」(紫式部・雑)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
