- 歌
- あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな
- 意味
- 私はまもなく死んで、この世にはいなくなってしまうでしょう。あの世へ持っていく思い出として、せめてもう一度だけ、あなたにお会いしたいものです。
- 作者
- 和泉式部(いずみしきぶ)
- 出典
- 『後拾遺和歌集』恋三・763番
- 決まり字
- 「あらざ」(3字決まり)

あらざらむ この世のほかの 思ひ出に
今ひとたびの 逢ふこともがな
読みあらざらん このよのほかの おもいでに
いまひとたびの おうこともがな
歴史的仮名遣いあらざらむ このよのほかの おもひでに
いまひとたびの あふこともがな
私はもうすぐこの世からいなくなるでしょう。あの世への思い出に、せめてもう一度だけあなたに会いたい——情熱の歌人・和泉式部が病の床で詠んだ歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| あらざらむ | あらざらん | 「(この世に)いないだろう」。「ざら」は打消、「む」は推量です。 |
| この世のほか | このよのほか | この世の外、つまりあの世。 |
| 思ひ出 | おもいで | 思い出。 |
| 今ひとたび | いまひとたび | もう一度。 |
| 逢ふこともがな | おうこともがな | 「会うことがあってほしい」。「もがな」は願望です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| あら | 動詞・ラ変「あり」未然形 | |
| ざら | 助動詞「ず」未然形 | 打消 |
| む | 助動詞「む」連体形 | 推量 |
| こ | 代名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 世 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| ほか | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 思ひ出 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| 今 | 副詞 | |
| ひとたび | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 逢ふ | 動詞・ハ行四段「逢ふ」連体形 | |
| こと | 名詞 | |
| もがな | 終助詞 | 願望 |
表現技法・文法のポイント
「〜であってほしい」。死を前にした切実な願いを表しています。
「あらざらむ」で、自分の死を予感するところから歌が始まります。
歌の背景・鑑賞
『後拾遺和歌集』恋三に入っています。詞書によると、病気で体調がすぐれないころ、恋人に贈った歌です。死を覚悟しながらも、最後にもう一度だけ会いたいという激しい恋心が、ストレートに伝わってきます。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
和泉式部は、冷泉天皇の皇子・為尊親王と恋をしましたが、親王は若くして亡くなりました。その後、弟の敦道親王と恋に落ち、その日々を『和泉式部日記』に書いています。藤原道長からは「浮かれ女」とからかわれたとも伝えられます。
同じ職場にいた紫式部は、『紫式部日記』の中で和泉式部について、「歌はすばらしいが、ふるまいには感心しない」という意味のことを書いています。ライバルどうしの視線が感じられて興味深いところです。
和泉式部の父・大江雅致は、学者の家・大江氏の人です。百人一首23番の大江千里と同じ一族で、59番の赤染衛門の夫・大江匡衡の兄だったという説もあります。
作者:和泉式部
平安時代中期の女性歌人です。越前守・大江雅致(おおえのまさむね)の娘で、学者の家・大江氏の出身です。冷泉天皇の皇子・為尊親王、敦道親王との恋で知られ、その恋の日々は『和泉式部日記』に描かれています。のちに中宮彰子に仕え、紫式部(57番)や赤染衛門(59番)と同じ職場にいました。60番の小式部内侍は娘です。
決まり字と覚え方
上の句が「あらざ」まで読まれたら、取り札が決まります。「あ」で始まる歌は16首あります。
覚え方:「あらざ」と聞いたら「いまひとたびのあ」。あらざら(ない)ならもう一度(いまひとたび)会いたい、と覚えます。69番「あらし」と3字目で分かれます。取り札は26番「いまひとたびのみ」と最後の1字で見分けます。
入試で問われるポイント
- 願望「もがな」
- 打消「ず」+推量「む」(ざらむ)
- 『和泉式部日記』の作者(文学史)
- 26番との取り札の見分け
よくある質問
「あらざらむ」はどういう意味ですか?
「(この世に)いないだろう」、つまり「もうすぐ死ぬだろう」という意味です。
和泉式部はどんな人ですか?
情熱的な恋の歌で知られる女性歌人で、『和泉式部日記』の作者です。大江雅致の娘で、大江氏の出身です。
60番の小式部内侍とはどんな関係ですか?
小式部内侍は和泉式部の娘です。母娘で百人一首に選ばれています。
あわせて読みたい
- 60番「大江山」(小式部内侍・雑)
- 26番「小倉山」(貞信公・雑)
- 57番「めぐり逢ひて」(紫式部・雑)
- 59番「やすらはで」(赤染衛門・恋)
- 23番「月見れば」(大江千里・秋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
