- 歌
- めぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな
- 意味
- 久しぶりにめぐり会って、見たのがあなたかどうかもはっきりわからないうちに、(あなたは)帰ってしまった。まるで、雲に隠れてしまった夜中の月のように。
- 作者
- 紫式部(むらさきしきぶ)
- 出典
- 『新古今和歌集』雑上・1497番
- 決まり字
- 「め」(1字決まり)

めぐり逢ひて 見しやそれとも 分かぬ間に
雲隠れにし 夜半の月かな
読みめぐりあいて みしやそれとも わかぬまに
くもがくれにし よわのつきかな
歴史的仮名遣いめぐりあひて みしやそれとも わかぬまに
くもがくれにし よはのつきかな
久しぶりにめぐり会ったのに、あなたかどうかもわからないうちに帰ってしまった。まるで雲に隠れた夜中の月のように——『源氏物語』の作者・紫式部が幼なじみとの再会を詠んだ歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| めぐり逢ひて | めぐりあいて | 偶然に出会って、久しぶりに会って。「めぐる」は月の縁語です。 |
| 見しやそれとも | みしやそれとも | 「見たのはそれ(あなた)かどうかとも」。「し」は過去「き」の連体形、「や」は疑問です。 |
| わかぬ間に | わかぬまに | 「見分けられないうちに」。「ぬ」は打消「ず」の連体形です。 |
| 雲隠れにし | くもがくれにし | 「雲に隠れてしまった」。友人が急いで帰ってしまったことを、月にたとえています。 |
| 夜半の月 | よわのつき | 夜中の月。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| めぐり逢ひ | 動詞・ハ行四段「めぐり逢ふ」連用形 | |
| て | 接続助詞 | |
| 見 | 動詞・マ行上一段「見る」連用形 | |
| し | 助動詞「き」連体形 | 過去 |
| や | 係助詞 | 疑問 |
| それ | 代名詞 | |
| と | 格助詞 | |
| も | 係助詞 | |
| わか | 動詞・カ行四段「分く」未然形 | |
| ぬ | 助動詞「ず」連体形 | 打消 |
| 間 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| 雲隠れ | 動詞・ラ行下二段「雲隠る」連用形 | |
| に | 助動詞「ぬ」連用形 | 完了 |
| し | 助動詞「き」連体形 | 過去 |
| 夜半 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 月 | 名詞 | |
| かな | 終助詞 | 詠嘆 |
表現技法・文法のポイント
すぐに帰ってしまった友人を、雲に隠れた月にたとえています。
「めぐり」「雲隠れ」「月」は月に関係する言葉です。
「わかぬ」の「ぬ」は未然形に付く打消「ず」、「雲隠れにし」の「に」は完了「ぬ」。入試頻出の識別です。
歌の背景・鑑賞
『新古今和歌集』雑上に入っています。詞書によると、幼なじみの友人に久しぶりに会ったのに、月と競うように慌ただしく帰ってしまったので詠んだ歌です。百人一首は「夜半の月かな」ですが、『新古今和歌集』では「夜半の月影」となっています。恋の歌ではなく、友情の歌であるところも特徴です。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
この歌は恋の歌のように見えますが、実は幼なじみの女友達との再会を詠んだ歌です。『源氏物語』で恋を描き尽くした紫式部が、百人一首に選ばれたのは友情の歌だった――というのも、おもしろいところです。
紫式部は『紫式部日記』の中で、清少納言(62番)について「得意顔で漢字を書き散らしているが、よく見ると足りないところが多い」と厳しく書いています。二人は直接会ったことはないともいわれますが、強いライバル心がうかがえます。
紫式部の本名は伝わっていません。「紫」は『源氏物語』の紫の上から、「式部」は父の官職から付いた呼び名だと考えられています。
作者:紫式部
平安時代中期の女房・作家・歌人で、『源氏物語』の作者です。学者・藤原為時の娘で、27番の藤原兼輔や25番の藤原定方は曾祖父にあたります。藤原宣孝と結婚して大弐三位(58番)を産みましたが、夫と死別したあと、一条天皇の中宮彰子に仕えました。『紫式部日記』も残しています。
決まり字と覚え方
上の句が「め」まで読まれたら、取り札が決まります。「め」で始まる歌は1首あります。
覚え方:「め」と聞いたら「くもがくれにし」。一字決まり「むすめふさほせ」の「め」です。めぐり逢ってもすぐ雲隠れ、と覚えます。
入試で問われるポイント
- 比喩・縁語
- 「ぬ」の識別(打消と完了)
- 『源氏物語』『紫式部日記』の作者(文学史)
- 百人一首と新古今集の本文の違い
よくある質問
この歌は恋の歌ですか?
いいえ。詞書によると、幼なじみの友人との再会を詠んだ歌です。
「雲隠れにし夜半の月」は何をたとえていますか?
すぐに帰ってしまった友人を、雲に隠れてしまった月にたとえています。
紫式部はどんな人ですか?
『源氏物語』の作者で、中宮彰子に仕えた女房です。58番の大弐三位は娘です。
あわせて読みたい
- 58番「有馬山」(大弐三位・恋)
- 27番「みかの原」(中納言兼輔・恋)
- 25番「名にし負はば」(三条右大臣・恋)
- 56番「あらざらむ」(和泉式部・恋)
- 62番「夜をこめて」(清少納言・雑)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
