- 歌
- 有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
- 意味
- 有馬山のふもとにある猪名の笹原に風が吹くと、笹の葉がそよそよと音を立てる。そうですよ、(心変わりしたのはあなたのほうで)私があなたを忘れたりするものですか。
- 作者
- 大弐三位(だいにのさんみ)
- 出典
- 『後拾遺和歌集』恋二・709番
- 決まり字
- 「ありま」(3字決まり)

有馬山 猪名の笹原 風吹けば
いでそよ人を 忘れやはする
読みありまやま いなのささはら かぜふけば
いでそよひとを わすれやはする
歴史的仮名遣いありまやま ゐなのささはら かぜふけば
いでそよひとを わすれやはする
有馬山のふもとの猪名の笹原に風が吹くと、笹がそよそよと鳴る。そうよ、私があなたを忘れたりするものですか——紫式部の娘・大弐三位の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 有馬山 | ありまやま | 今の兵庫県神戸市北区(有馬温泉のあたり)の山。 |
| 猪名の笹原 | いなのささはら | 兵庫県の猪名川の流域に広がる笹原。 |
| いで | いで | 「さあ」「いやもう」と、気持ちを強める言葉。 |
| そよ | そよ | 笹の葉が風に鳴る音「そよ」と、「それよ(そうですよ)」の掛詞です。 |
| 忘れやはする | わすれやはする | 「忘れたりするでしょうか、いや忘れません」。「やは」は反語です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 有馬山 | 名詞 | |
| 猪名 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 笹原 | 名詞 | |
| 風 | 名詞 | |
| 吹け | 動詞・カ行四段「吹く」已然形 | |
| ば | 接続助詞 | 確定条件 |
| いで | 感動詞 | |
| そよ | 感動詞・掛詞 | (それよ/そよそよ) |
| 人 | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| 忘れ | 動詞・ラ行下二段「忘る」連用形 | |
| や | 係助詞 | 反語 |
| は | 係助詞 | |
| する | 動詞・サ変「す」連体形 | 係り結び |
表現技法・文法のポイント
「有馬山猪名の笹原風吹けば」が、笹の音「そよ」を導く序詞です。
「そよ」に、笹の鳴る音と「それよ(そうですよ)」を掛けています。
「やは〜する」で「忘れるものですか」と強く否定しています。
歌の背景・鑑賞
『後拾遺和歌集』恋二に入っています。詞書によると、しばらく訪ねてこなかった男性が「あなたの心変わりが心配で」と言ってきたので、詠んで返した歌です。「心変わりしたのはそっちでしょう」という軽い反撃を、さわやかな笹原の風景に包んだ、母ゆずりの才知を感じさせる歌です。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
大弐三位は、後冷泉天皇の乳母となり、従三位という、母・紫式部よりはるかに高い位につきました。80歳を超えるまで長生きしたともいわれ、母とはまた違う、華やかで幸せな人生を送ったようです。
大弐三位は、64番の藤原定頼とも恋の歌を交わしていました。百人一首の歌人どうしの、知られざる恋のつながりです。
作者:大弐三位
平安時代中期の女性歌人で、紫式部(57番)の娘、藤原賢子(ふじわらのかたいこ)です。母と同じく中宮彰子に仕え、のちに後冷泉天皇の乳母となって、従三位という高い位を得ました。夫が大宰大弐になったことから「大弐三位」と呼ばれます。
決まり字と覚え方
上の句が「ありま」まで読まれたら、取り札が決まります。「あ」で始まる歌は16首あります。
覚え方:「ありま」と聞いたら「いでそよひとを」。有馬(ありま)で、いで(いで)そよ、と覚えます。30番「ありあ」と3字目で分かれます。
入試で問われるポイント
- 序詞・掛詞(そよ)
- 反語(やは)
- 紫式部の娘(文学史)
よくある質問
「そよ」の掛詞とは?
笹の葉が風に鳴る音「そよ」と、「それよ(そうですよ)」を掛けています。
「忘れやはする」はどういう意味ですか?
「忘れたりするでしょうか、いいえ忘れません」という反語の表現です。
57番の紫式部とはどんな関係ですか?
大弐三位は紫式部の娘です。母娘で百人一首に選ばれています。
あわせて読みたい
- 57番「めぐり逢ひて」(紫式部・雑)
- 30番「有明の」(壬生忠岑・恋)
- 64番「朝ぼらけ」(権中納言定頼・冬)
- 60番「大江山」(小式部内侍・雑)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
