- 歌
- 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立
- 意味
- (母のいる丹後へは)大江山を越え、生野を通って行く道のりが遠いので、まだ天の橋立の地を踏んだこともありませんし、母からの手紙も見ていません。
- 作者
- 小式部内侍(こしきぶのないし)
- 出典
- 『金葉和歌集』雑上・586番
- 決まり字
- 「おほえ」(3字決まり)

大江山 いく野の道の 遠ければ
まだふみも見ず 天の橋立
読みおおえやま いくののみちの とおければ
まだふみもみず あまのはしだて
歴史的仮名遣いおほえやま いくののみちの とほければ
まだふみもみず あまのはしだて
大江山を越え、生野を通っていく道は遠いので、まだ天の橋立を踏んだこともないし、母からの手紙も見ていません——からかわれた小式部内侍が、即興で見事に言い返した歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 大江山 | おおえやま | 京都から丹後へ向かう途中の山(大枝山)。 |
| いく野 | いくの | 地名「生野(いくの)」と「行く野(行く道)」の掛詞です。 |
| 遠ければ | とおければ | 「遠いので」。已然形+ば で原因・理由です。 |
| ふみ | ふみ | 「踏み(足を踏み入れる)」と「文(手紙)」の掛詞です。 |
| 天の橋立 | あまのはしだて | 丹後(京都府宮津市)の名勝。日本三景の一つです。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 大江山 | 名詞 | |
| いく野 | 名詞(生野)/動詞「行く」連体形+名詞「野」 | 掛詞 |
| の | 格助詞 | |
| 道 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | 主格 |
| 遠けれ | 形容詞・ク活用「遠し」已然形 | |
| ば | 接続助詞 | 確定条件(原因) |
| まだ | 副詞 | |
| ふみ | 名詞「文」/動詞「踏む」連用形 | 掛詞 |
| も | 係助詞 | |
| 見 | 動詞・マ行上一段「見る」未然形 | |
| ず | 助動詞「ず」終止形 | 打消 |
| 天の橋立 | 名詞 | 体言止め |
表現技法・文法のポイント
「いく野(生野/行く野)」と「ふみ(踏み/文)」。
「ふみ(踏み)」は「道」「橋」の縁語です。
「天の橋立」を最後に置いて、遠い地名を印象的に響かせています。
歌の背景・鑑賞
『金葉和歌集』雑上に入っています。作者の母・和泉式部が夫と丹後国に下っていたころ、都で歌合が開かれることになりました。そこへ藤原定頼(64番)が「お母さんに代作を頼む手紙は出しましたか?返事は来ましたか?」とからかったところ、作者はすかさずこの歌を詠んで言い返しました。定頼は返歌もできずに逃げ出したと伝えられています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
小式部内侍の歌があまりに上手なので、「母の和泉式部が代わりに作っているのでは」といううわさがありました。この歌は、そのうわさを一瞬で吹き飛ばした、痛快な一首なのです。
小式部内侍は出産のときに若くして亡くなりました。母の和泉式部は、娘の死を嘆いて「とどめおきて誰をあはれと思ふらむ子はまさるらむ子はまさりけり(自分の子を残して死んだ娘は、母の私より子のほうを思っているだろう。私も娘のほうがいとしい)」と詠んだと伝えられます。
歌に出てくる「大江山」は地名で、大江氏とは関係ありません。でも、作者の母・和泉式部は大江氏の娘。偶然とはいえ、大江の名がこの歌に響いているのは不思議な縁です。
作者:小式部内侍
平安時代中期の女性歌人で、和泉式部(56番)の娘です。母とともに中宮彰子に仕えました。若くして歌の才能を発揮しましたが、母の代作だといううわさを立てられていました。多くの貴公子と恋をしましたが、出産のときに20代の若さで亡くなったと伝えられます。
決まり字と覚え方
上の句が「おほえ」まで読まれたら、取り札が決まります。「お」で始まる歌は7首あります。
覚え方:「おほえ」と聞いたら「まだふみもみず」。大江(おほえ)山はまだ(まだ)踏まず、と覚えます。95番「おほけ」と3字目で分かれます。
入試で問われるポイント
- 掛詞2つ(生野/行く、踏み/文)
- 縁語
- 已然形+ば(原因)
- 歌が詠まれた場面(定頼とのやりとり)
よくある質問
この歌の掛詞はどこですか?
「いく野(生野/行く野)」と「ふみ(踏み/文)」の二つです。
どんな場面で詠まれた歌ですか?
母の代作だとからかってきた藤原定頼(64番)に、即興で言い返した歌です。
「大江山」は大江氏と関係がありますか?
いいえ。ここでの大江山は京都から丹後へ向かう途中の山(大枝山)の名前です。ただし、作者の母・和泉式部は大江氏の出身です。
あわせて読みたい
- 56番「あらざらむ」(和泉式部・恋)
- 64番「朝ぼらけ」(権中納言定頼・冬)
- 59番「やすらはで」(赤染衛門・恋)
- 23番「月見れば」(大江千里・秋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
