- 歌
- いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな
- 意味
- 昔の都・奈良で咲いていた八重桜が、今日はこの九重(宮中)で、いっそう美しく咲きほこっていることだなあ。
- 作者
- 伊勢大輔(いせのたいふ)
- 出典
- 『詞花和歌集』春・27番
- 決まり字
- 「いに」(2字決まり)

いにしへの 奈良の都の 八重桜
けふ九重に にほひぬるかな
読みいにしえの ならのみやこの やえざくら
きょうここのえに においぬるかな
歴史的仮名遣いいにしへの ならのみやこの やへざくら
けふここのへに にほひぬるかな
昔の奈良の都で咲いていた八重桜が、今日はこの京都の宮中で、色美しく咲きほこっていることだ——新人女房の伊勢大輔が、大勢の前で即興で詠んだ歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| いにしへ | いにしえ | 昔。 |
| 奈良の都 | ならのみやこ | 昔の都・平城京。 |
| 八重桜 | やえざくら | 花びらが何重にも重なって咲く桜。 |
| けふ | きょう | 今日。「いにしへ」と対になっています。 |
| 九重 | ここのえ | 宮中のこと(昔の中国で宮殿を九重の門で囲んだことから)。「八重」と数の上で対になっています。 |
| にほひぬるかな | においぬるかな | 「美しく咲きほこっていることだなあ」。「にほふ」は色が美しく映えることです。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| いにしへ | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 奈良 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 都 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 八重桜 | 名詞 | |
| けふ | 名詞 | |
| 九重 | 名詞 | 宮中 |
| に | 格助詞 | |
| にほひ | 動詞・ハ行四段「にほふ」連用形 | |
| ぬる | 助動詞「ぬ」連体形 | 完了 |
| かな | 終助詞 | 詠嘆 |
表現技法・文法のポイント
「いにしへ(昔)」と「けふ(今日)」、「八重」と「九重」が対になっています。
「九重」は宮中を表すと同時に、「八重」より一つ多い数として、桜がさらに美しく咲いていることも表しています。
古文の「にほふ」は、香りよりも色が美しく映えることを表すことが多い語です。
歌の背景・鑑賞
『詞花和歌集』春の部に入っています。奈良から一条天皇の中宮彰子のもとへ八重桜が献上されたとき、受け取る役を紫式部が新人の伊勢大輔に譲りました。さらに藤原道長から「歌を詠め」と言われ、伊勢大輔がその場で詠んだのがこの歌です。見事な出来ばえに、宮中の人々がこぞって感心したと伝えられます。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
八重桜を受け取る大切な役は、もともと紫式部が務める予定でした。それをなぜ新人の伊勢大輔に譲ったのか。新人に活躍の場を与えたかったのか、それとも新人の実力を試したのか。真相はわかりませんが、この一首で伊勢大輔は一躍宮中の注目の的になりました。
藤原道長や中宮彰子、先輩の女房たちが見守る中で、新人がその場で歌を詠まされたのです。今でいえば、入社したばかりの新人が、社長の前でいきなりスピーチを頼まれたようなもの。その緊張の中でこれほど見事な歌を詠んだのですから、相当な才能だったのでしょう。
作者:伊勢大輔
平安時代中期の女性歌人です。祭主・大中臣輔親の娘で、49番の大中臣能宣は祖父にあたります。中宮彰子に仕え、紫式部(57番)や和泉式部(56番)とも親しく交わりました。晩年には白河天皇の養育係を務めました。
決まり字と覚え方
上の句が「いに」まで読まれたら、取り札が決まります。「い」で始まる歌は3首あります。
覚え方:「いに」と聞いたら「けふここのへに」。いにしへ(昔)から今日(けふ)へ、と時間の流れで覚えます。「い」で始まる歌は3首あるので、2字目の「に」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 対比(いにしへ⇔けふ、八重⇔九重)
- 「九重」=宮中
- 「にほふ」の意味(色が映える)
- 詠まれた場面(紫式部・道長)
よくある質問
「九重」とはどういう意味ですか?
宮中のことです。昔の中国で、宮殿を九重の門で囲んだことに由来します。
この歌はどんな場面で詠まれたのですか?
奈良から献上された八重桜を受け取るとき、藤原道長に促されて、新人女房の伊勢大輔がその場で詠みました。
49番の大中臣能宣とはどんな関係ですか?
伊勢大輔は能宣の孫です。三代続く歌の家の出身です。
あわせて読みたい
- 49番「御垣守」(大中臣能宣朝臣・恋)
- 57番「めぐり逢ひて」(紫式部・雑)
- 56番「あらざらむ」(和泉式部・恋)
- 9番「花の色は」(小野小町・春)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
