- 歌
- 夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも よに逢坂の 関はゆるさじ
- 意味
- まだ夜が深いうちに、鶏の鳴きまねをしてだまそうとしても、(中国の函谷関の番人ならだまされたでしょうが)あなたと私が逢うという逢坂の関は、決して通ることを許しませんよ。
- 作者
- 清少納言(せいしょうなごん)
- 出典
- 『後拾遺和歌集』雑二・940番
- 決まり字
- 「よを」(2字決まり)

夜をこめて 鳥のそら音は はかるとも
よに逢坂の 関はゆるさじ
読みよをこめて とりのそらねは はかるとも
よにおうさかの せきはゆるさじ
歴史的仮名遣いよをこめて とりのそらねは はかるとも
よにあふさかの せきはゆるさじ
夜が明けないうちに鶏の鳴きまねをしてだまそうとしても、函谷関ならともかく、この逢坂の関は決して通しませんよ——『枕草子』の清少納言が、機知で男性をやりこめた歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 夜をこめて | よをこめて | まだ夜が深いうちに。 |
| 鳥のそら音 | とりのそらね | 鶏の鳴きまね。中国の故事(孟嘗君が鶏の鳴きまねで函谷関を通った話)をふまえています。 |
| はかるとも | はかるとも | 「だまそうとしても」。「とも」は逆接仮定です。 |
| よに | よに | (打消と呼応して)決して。 |
| 逢坂の関 | おうさかのせき | 京都と滋賀の境の関所。「逢ふ(男女が会う)」を掛けています。 |
| ゆるさじ | ゆるさじ | 「許さないつもりだ」。「じ」は打消意志です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 夜 | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| こめ | 動詞・マ行下二段「こむ」連用形 | |
| て | 接続助詞 | |
| 鳥 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| そら音 | 名詞 | 鳴きまね |
| は | 係助詞 | |
| はかる | 動詞・ラ行四段「はかる」終止形 | だます |
| とも | 接続助詞 | 逆接仮定 |
| よに | 副詞 | 決して(打消と呼応) |
| 逢坂 | 名詞 | 掛詞(逢ふ) |
| の | 格助詞 | |
| 関 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | |
| ゆるさ | 動詞・サ行四段「ゆるす」未然形 | |
| じ | 助動詞「じ」終止形 | 打消意志 |
表現技法・文法のポイント
中国の『史記』にある、孟嘗君が部下に鶏の鳴きまねをさせて函谷関を夜のうちに通り抜けた話をふまえています。
「逢坂」に「逢ふ(男女が会う)」を掛けています。
「ゆるさじ」は「許さないつもりだ」。きっぱりとした拒絶です。
歌の背景・鑑賞
『後拾遺和歌集』雑二に入っています。藤原行成が清少納言と夜遅くまで話をしていたのに、「宮中の物忌みがあるので」と早々に帰ってしまいました。翌朝、「鶏の声にせかされて」と言い訳してきたので、清少納言は「それは函谷関の鶏でしょう」と返し、さらにこの歌を詠んでやりこめました。このやりとりは『枕草子』にも描かれています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
清少納言と藤原行成は、冗談を言い合える仲の良い友人でした。この歌のやりとりのあと、行成は「あなたの手紙は大切にとってあります」と言い、清少納言は「私はあなたの言い訳の手紙なんて人に見せられません」と返した、という続きが『枕草子』に書かれています。
清少納言のこうした漢詩の知識を使った機知を、紫式部は日記の中で「得意げに漢字を書き散らしている」と批判しています。二人のライバル関係を知ると、この歌がまた違って見えてきます。
中宮定子が亡くなったあと、清少納言は宮仕えをやめました。晩年は落ちぶれて暮らしたという伝説も残っていますが、確かなことはわかっていません。
作者:清少納言
平安時代中期の女房・作家・歌人で、随筆『枕草子』の作者です。42番の清原元輔の娘で、36番の清原深養父のひ孫(または孫)にあたります。一条天皇の中宮定子に仕え、漢詩文の知識と機知で宮廷の人気者でした。
決まり字と覚え方
上の句が「よを」まで読まれたら、取り札が決まります。「よ」で始まる歌は4首あります。
覚え方:「よを」と聞いたら「よにあふさかの」。夜を(よを)こめて世に(よに)逢坂、と「よ」をそろえて覚えます。「よ」で始まる歌は4首あるので、2字目の「を」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 故事(函谷関・孟嘗君)
- 掛詞(逢坂=逢ふ)
- 「よに〜じ」の呼応(決して〜ないつもりだ)
- 逆接仮定「とも」
- 『枕草子』の作者(文学史)
よくある質問
「鳥のそら音」とは何のことですか?
鶏の鳴きまねです。中国の孟嘗君が、部下に鶏の鳴きまねをさせて夜中に函谷関を通り抜けた故事をふまえています。
誰に向けて詠んだ歌ですか?
書の名人として知られる藤原行成に向けて詠んだ歌です。
清少納言はどんな人ですか?
『枕草子』の作者で、中宮定子に仕えた女房です。42番の清原元輔の娘です。
あわせて読みたい
- 42番「契りきな」(清原元輔・恋)
- 36番「夏の夜は」(清原深養父・夏)
- 54番「忘れじの」(儀同三司母・恋)
- 10番「これやこの」(蝉丸・雑)
- 57番「めぐり逢ひて」(紫式部・雑)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
