- 歌
- 契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは
- 意味
- 約束しましたよね。互いに涙でぬれた袖をしぼりながら、あの末の松山を波が越すことがないように、二人の心も決して変わることはないと。(それなのに、あなたは心変わりしてしまった。)
- 作者
- 清原元輔(きよはらのもとすけ)
- 出典
- 『後拾遺和歌集』恋四・770番
- 決まり字
- 「ちぎりき」(4字決まり)

契りきな かたみに袖を しぼりつつ
末の松山 波越さじとは
読みちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ
すえのまつやま なみこさじとは
歴史的仮名遣いちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ
すゑのまつやま なみこさじとは
約束しましたよね、互いに涙でぬれた袖をしぼりながら。末の松山を波が越えないように、二人の心も決して変わらないと——清少納言の父・清原元輔の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 契りきな | ちぎりきな | 「約束しましたよね」。「き」は過去、「な」は念を押す終助詞です。 |
| かたみに | かたみに | 互いに。 |
| 袖をしぼりつつ | そでをしぼりつつ | 涙でぬれた袖をしぼりながら。それほど泣いたということです。 |
| 末の松山 | すえのまつやま | 陸奥(今の宮城県多賀城市あたり)の歌枕。どんな大波もこの山を越えることはないとされました。 |
| 波越さじとは | なみこさじとは | 「波が越えないだろうとは(約束したのに)」。「じ」は打消推量です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 契り | 動詞・ラ行四段「契る」連用形 | |
| き | 助動詞「き」終止形 | 過去 |
| な | 終助詞 | 念押し(初句切れ) |
| かたみに | 副詞 | 互いに |
| 袖 | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| しぼり | 動詞・ラ行四段「しぼる」連用形 | |
| つつ | 接続助詞 | 反復 |
| 末の松山 | 名詞 | |
| 波 | 名詞 | |
| 越さ | 動詞・サ行四段「越す」未然形 | |
| じ | 助動詞「じ」終止形 | 打消推量 |
| と | 格助詞 | |
| は | 係助詞 |
表現技法・文法のポイント
「契りきな」でいきなり言い切り、約束の内容を後ろに回しています。
『古今和歌集』の東歌「君をおきてあだし心をわが持たば末の松山波も越えなむ(あなたを捨てて浮気をしたら、末の松山を波が越えるだろう)」をふまえています。
「末の松山」は「心変わりしない」誓いの象徴として使われる歌枕です。
歌の背景・鑑賞
『後拾遺和歌集』恋四に入っています。詞書によると、心変わりした女性に、ある男性に頼まれて代わりに詠んだ歌(代作)です。「末の松山を波が越える」ことは、ありえないことのたとえでした。それほど固く誓ったのに、という恨みが込められています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
『枕草子』には直接出てきませんが、ほかの記録では、元輔は賀茂祭の行列で馬から落ちて冠が脱げ、はげ頭があらわになったのに、集まった人々に向かってその理由を堂々と演説して笑わせた、という話が『今昔物語集』に残っています。清少納言の機知とユーモアは、父ゆずりだったのかもしれません。
「末の松山を波が越える」とは、ありえないことのたとえでした。一説には、平安時代の初めに東北を襲った貞観地震(869年)の大津波でも、末の松山だけは波をかぶらなかったという言い伝えがもとになったともいわれます。2011年の東日本大震災の津波でも、末の松山には波が届かなかったと伝えられています。
作者:清原元輔
平安時代中期の貴族・歌人、清原元輔(きよはらのもとすけ)です。村上天皇の命で『後撰和歌集』を編集し、『万葉集』を読み解いた「梨壺の五人」の一人です。『枕草子』を書いた清少納言(62番)の父で、36番の清原深養父の孫(または子)とされます。三十六歌仙の一人です。
決まり字と覚え方
上の句が「ちぎりき」まで読まれたら、取り札が決まります。「ち」で始まる歌は3首あります。
覚え方:「ちぎりき」と聞いたら「すゑのまつやま」。75番「ちぎりお」と4字目で分かれる4字決まりです。契り(ちぎり)き(き)は末(すゑ)まで、と覚えます。
入試で問われるポイント
- 本歌取り(末の松山)
- 歌枕
- 打消推量「じ」
- 代作(人に代わって詠む)
- 清少納言の父(文学史)
よくある質問
「末の松山」とはどこですか?
陸奥国の歌枕で、今の宮城県多賀城市あたりとされます。波が越えることのない山とされ、変わらない愛の誓いに使われました。
清少納言とはどんな関係ですか?
清原元輔は清少納言の父です。
75番「ちぎりお」との見分け方は?
42番は「契りきな」、75番は「契りおきし」です。4字目の「き」と「お」で決まります。
あわせて読みたい
- 62番「夜をこめて」(清少納言・雑)
- 36番「夏の夜は」(清原深養父・夏)
- 75番「契りおきし」(藤原基俊・雑)
- 49番「御垣守」(大中臣能宣朝臣・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
