- 歌
- 恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか
- 意味
- 恋をしているという私のうわさが、早くも世間に広まってしまった。誰にも知られないように、心の中でひそかに思いはじめたばかりなのに。
- 作者
- 壬生忠見(みぶのただみ)
- 出典
- 『拾遺和歌集』恋一・621番
- 決まり字
- 「こひ」(2字決まり)

恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり
人知れずこそ 思ひそめしか
読みこいすちょう わがなはまだき たちにけり
ひとしれずこそ おもいそめしか
歴史的仮名遣いこひすてふ わがなはまだき たちにけり
ひとしれずこそ おもひそめしか
恋をしているという私のうわさが、もう立ってしまった。人に知られないように、ひそかに思いはじめたばかりなのに——40番と歌合で名勝負を演じた壬生忠見の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 恋すてふ | こいすちょう | 「恋をしているという」。「てふ」は「といふ」がつまった形で、読みは「ちょう」です。 |
| わが名 | わがな | 私についてのうわさ、評判。 |
| まだき | まだき | 早くも。まだその時期ではないのに。 |
| 立ちにけり | たちにけり | 「(うわさが)立ってしまったなあ」。「に」は完了、「けり」は詠嘆です。 |
| 思ひそめしか | おもいそめしか | 「思いはじめたのに」。「こそ」を受けて、過去「き」の已然形「しか」で結び、逆接の意味をふくみます。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 恋す | 動詞・サ変「恋す」終止形 | |
| てふ | 連語(といふ) | 〜という |
| わ | 代名詞 | |
| が | 格助詞 | |
| 名 | 名詞 | うわさ |
| は | 係助詞 | |
| まだき | 副詞 | 早くも |
| 立ち | 動詞・タ行四段「立つ」連用形 | |
| に | 助動詞「ぬ」連用形 | 完了 |
| けり | 助動詞「けり」終止形 | 詠嘆(三句切れ) |
| 人 | 名詞 | |
| 知れ | 動詞・ラ行下二段「知る」未然形 | |
| ず | 助動詞「ず」連用形 | 打消 |
| こそ | 係助詞 | 強意 |
| 思ひそめ | 動詞・マ行下二段「思ひそむ」連用形 | 思いはじめる |
| しか | 助動詞「き」已然形 | 過去(係り結び・逆接) |
表現技法・文法のポイント
「人知れずこそ思ひそめしか」が後ろに回り、うわさが立った驚きを先に述べています。
「こそ〜已然形」で文が終わらずに続く感じがあり、「〜なのに」という逆接の気持ちが込められています。
「立ちにけり」で切れます。
歌の背景・鑑賞
『拾遺和歌集』恋一に入っています。960年の天徳内裏歌合で、「忍ぶ恋」という題で、40番の平兼盛「しのぶれど」と対決した歌です。どちらも名歌で判定がつかず、村上天皇が兼盛の歌を口ずさんだことから、兼盛の勝ちになったと伝えられています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
鎌倉時代の説話集『沙石集』には、歌合で兼盛に敗れた忠見が、ショックで食べ物がのどを通らなくなり、そのまま亡くなったという話があります。ただし、それより前の記録にはこの話はなく、忠見はその後も歌を詠んでいたと考えられています。歌に命をかけるほどの真剣勝負だった、ということを伝える伝説なのでしょう。
判定は兼盛の勝ちでしたが、「忠見の歌のほうがすぐれている」と考える人も昔から少なくありません。うわさが先に立ってしまった戸惑いを詠んだ忠見と、顔色に出てしまった恋を詠んだ兼盛。あなたが審判なら、どちらに軍配を上げますか。
忠見は幼いころから歌の才能があり、身分の低い家の子でしたが、天皇に歌を召されて都に上ったという話が伝わっています。父・忠岑ゆずりの才能だったのかもしれません。
作者:壬生忠見
平安時代中期の歌人、壬生忠見(みぶのただみ)です。30番の壬生忠岑の子で、親子そろって三十六歌仙に数えられます。身分の低い役人でしたが、内裏の歌合などに招かれる一流の歌人でした。
決まり字と覚え方
上の句が「こひ」まで読まれたら、取り札が決まります。「こ」で始まる歌は6首あります。
覚え方:「こひ」と聞いたら「ひとしれずこそ」。恋(こひ)は人知れず(ひとしれず)、と覚えます。40番「しのぶれど」と対で覚えるのが一番のコツです。
入試で問われるポイント
- 「てふ」=といふ(読み:ちょう)
- 係り結び(こそ→しか=逆接)
- 天徳内裏歌合(40番との対決)
- 倒置法
よくある質問
40番の歌とどちらが勝ったのですか?
40番の平兼盛の勝ちとされます。判定に迷った審判が、村上天皇が兼盛の歌を口ずさんだのを見て決めたと伝えられています。
「恋すてふ」はどう読みますか?
「こいすちょう」と読みます。「てふ」は「といふ」がつまった形です。
30番の壬生忠岑とはどんな関係ですか?
壬生忠見は忠岑の子です。親子で百人一首に選ばれています。
あわせて読みたい
- 40番「しのぶれど」(平兼盛・恋)
- 30番「有明の」(壬生忠岑・恋)
- 39番「浅茅生の」(参議等・恋)
- 2番「春過ぎて」(持統天皇・夏)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
