- 歌
- しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで
- 意味
- 人に知られないように隠していたけれど、とうとう顔色に出てしまったのだなあ、私の恋心は。「何か物思いをしているのですか」と、人が尋ねるほどまでに。
- 作者
- 平兼盛(たいらのかねもり)
- 出典
- 『拾遺和歌集』恋一・622番
- 決まり字
- 「しの」(2字決まり)

しのぶれど 色に出でにけり わが恋は
ものや思ふと 人の問ふまで
読みしのぶれど いろにいでにけり わがこいは
ものやおもうと ひとのとうまで
歴史的仮名遣いしのぶれど いろにいでにけり わがこひは
ものやおもふと ひとのとふまで
隠していたのに、顔色に出てしまった私の恋は。「恋をしているの?」と人に尋ねられるほどに——天皇の前の歌合で、41番と名勝負を演じた平兼盛の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| しのぶれど | しのぶれど | 「(恋心を)隠しているけれど」。 |
| 色に出でにけり | いろにいでにけり | 「顔色に出てしまったなあ」。「に」は完了、「けり」は詠嘆です。 |
| ものや思ふ | ものやおもう | 「物思いをしているのですか(恋をしているのですか)」。「や」は疑問の係助詞です。 |
| 人の問ふまで | ひとのとうまで | 「人が尋ねるほどまでに」。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| しのぶれ | 動詞・バ行上二段「しのぶ」已然形 | |
| ど | 接続助詞 | 逆接 |
| 色 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| 出で | 動詞・ダ行下二段「出づ」連用形 | |
| に | 助動詞「ぬ」連用形 | 完了 |
| けり | 助動詞「けり」終止形 | 詠嘆(二句切れ) |
| わ | 代名詞 | |
| が | 格助詞 | |
| 恋 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | |
| もの | 名詞 | |
| や | 係助詞 | 疑問 |
| 思ふ | 動詞・ハ行四段「思ふ」連体形 | 係り結び |
| と | 格助詞 | 引用 |
| 人 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | 主格 |
| 問ふ | 動詞・ハ行四段「問ふ」連体形 | |
| まで | 副助詞 | 程度 |
表現技法・文法のポイント
「わが恋は(主語)」「人の問ふまで(程度)」を後ろに回し、「色に出でにけり」を先に言って驚きを強めています。
「色に出でにけり」で切れます。
「ものや思ふ」という人の言葉を取り込んで、場面をいきいきと描いています。
歌の背景・鑑賞
『拾遺和歌集』恋一に入っています。960年、村上天皇が開いた「天徳内裏歌合(てんとくだいりうたあわせ)」で、「忍ぶ恋」という題で詠まれた歌です。相手は41番の壬生忠見の「恋すてふ」で、どちらも名歌だったため判定がつかず、天皇がこの歌を小さな声で口ずさんだことから、兼盛の勝ちになったと伝えられています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
天徳内裏歌合で兼盛に敗れた壬生忠見は、ショックのあまり食べ物がのどを通らなくなり、病気になって亡くなった、という話が『沙石集』に残っています。ただし、忠見はその後も生きていた記録があるので、事実ではないと考えられています。それほど二人の歌の勝負が劇的だったということでしょう。
判定に迷った審判に、そばにいた村上天皇が「しのぶれど…」と小さな声で口ずさんだことで、兼盛の勝ちが決まったと伝えられます。天皇の心をつかんだのは、どちらの歌のどんなところだったのでしょうか。41番と読みくらべてみましょう。
59番の赤染衛門は、実は平兼盛の娘だったという説があります。兼盛と別れた妻が、赤染時用と再婚したあとに生まれたため、親権をめぐって争いになったという話が伝わっています。
作者:平兼盛
平安時代中期の貴族・歌人、平兼盛(たいらのかねもり)です。光孝天皇(15番)の子孫で、はじめは「兼盛王」と名のる皇族でした。のちに臣下となって平氏を名のり、駿河守などを務めました。三十六歌仙の一人です。
決まり字と覚え方
上の句が「しの」まで読まれたら、取り札が決まります。「し」で始まる歌は2首あります。
覚え方:「しの」と聞いたら「ものやおもふと」。しのぶ(しの)恋は物思い(ものやおもふ)、と覚えます。37番「しら」と2字目で分かれます。41番「恋すてふ」と対で覚えると、歌合の物語ごと頭に入ります。
入試で問われるポイント
- 倒置法
- 係り結び(や→思ふ)
- 天徳内裏歌合(41番との対決)
- 完了+詠嘆(にけり)
よくある質問
41番の歌とどちらが勝ったのですか?
判定が難しかったため、村上天皇が兼盛の歌を口ずさんだことから、40番の兼盛の勝ちになったと伝えられています。
「ものや思ふ」とはどういう意味ですか?
「物思いをしているのですか」という意味で、ここでは「恋をしているのですか」ということです。
天徳内裏歌合とは何ですか?
960年に村上天皇が宮中で開いた大規模な歌合です。後の歌合のお手本とされました。
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