- 歌
- 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山
- 意味
- 春が過ぎて、夏が来たらしい。夏になると真っ白な衣を干すと言い伝えられている、あの天の香具山に(白い衣が干してあるよ)。
- 作者
- 持統天皇(じとうてんのう)
- 出典
- 『新古今和歌集』夏・175番
- 決まり字
- 「はるす」(3字決まり)

春過ぎて 夏来にけらし 白妙の
衣ほすてふ 天の香具山
読みはるすぎて なつきにけらし しろたえの
ころもほすちょう あまのかぐやま
歴史的仮名遣いはるすぎて なつきにけらし しろたへの
ころもほすてふ あまのかぐやま
春が過ぎて夏が来たらしい、白い衣を干すという天の香具山よ——という、季節の移り変わりをさわやかに詠んだ持統天皇の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 来にけらし | きにけらし | 「来た(ようだ)らしい」。「に」は完了の助動詞「ぬ」、「けらし」は「けるらし」がつまった形で、根拠のある推定を表します。 |
| 白妙の | しろたえの | 「衣」にかかる枕詞。白妙は、楮(こうぞ)などの繊維で織った真っ白な布のことです。 |
| てふ | ちょう | 「といふ」がつまった形で「〜という」。読みは「ちょう」です。 |
| 天の香具山 | あまのかぐやま | 奈良県橿原市にある山。畝傍山(うねびやま)・耳成山(みみなしやま)とともに大和三山の一つです。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 春 | 名詞 | |
| 過ぎ | 動詞・ガ行上二段「過ぐ」連用形 | |
| て | 接続助詞 | |
| 夏 | 名詞 | |
| 来 | 動詞・カ変「来」連用形 | |
| に | 助動詞「ぬ」連用形 | 完了 |
| けらし | 助動詞「けらし」終止形 | 過去の推定 |
| 白妙の | 枕詞 | 「衣」にかかる |
| 衣 | 名詞 | |
| ほす | 動詞・サ行四段「ほす」終止形 | |
| てふ | 連語(といふ) | 〜という |
| 天 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 香具山 | 名詞 | 体言止め |
表現技法・文法のポイント
「衣」を導く枕詞です。衣の白さが、夏の青葉とあざやかに対比されます。
「天の香具山」と名詞で終えて、山の姿を印象深く見せています。
「夏来にけらし」でいったん意味が切れます。
歌の背景・鑑賞
もとの歌は『万葉集』巻一に「春過ぎて夏来るらし白たへの衣干したり天の香具山」とあります。百人一首(出典は『新古今和歌集』)では、「夏来るらし」が「夏来にけらし」に、「衣干したり(干してある)」が「衣ほすてふ(干すという)」に変わり、目の前の景色から、言い伝えを思う優美な表現になっています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
香具山に干された「白い衣」が何なのかには、いくつかの説があります。夏の神事のために巫女が着る白い衣だとする説、夏の衣替えで干した衣だとする説、白い卯の花が咲いている様子を衣にたとえたとする説などです。あなたなら、山すそに広がる白さをどんな景色だと想像しますか。
持統天皇は、夫の天武天皇とともに国づくりを進めた女性天皇です。香具山は都・藤原京のすぐそばにあり、天皇は宮殿から毎日のようにこの山を見ていたはずです。季節の変わり目に、ふと窓の外の山に夏を感じた――そんな一瞬の歌だったのかもしれません。
作者:持統天皇
第41代の天皇で、天智天皇(1番)の娘です。天武天皇の皇后で、天武天皇が亡くなった後に即位しました。日本で初めての本格的な都とされる藤原京に都を移しました。
決まり字と覚え方
上の句が「はるす」まで読まれたら、取り札が決まります。「は」で始まる歌は4首あります。
覚え方:「はるす」と聞いたら「ころもほす」。春(はる)が過(す)ぎたら衣(ころも)を干(ほ)す、と季節の衣替えで覚えます。67番「はるの」と最初の2字が同じなので、3字目の「す」まで聞いて取ります。
入試で問われるポイント
- 「てふ」=「といふ」(読みは「ちょう」)
- 「けらし」の意味(過去の推定)
- 『万葉集』の原歌との違い
よくある質問
「衣ほすてふ」の「てふ」はどう読みますか?
「ちょう」と読みます。「といふ」がつまった形で、「〜という」という意味です。
『万葉集』の歌とどこが違うのですか?
万葉集では「夏来るらし」「衣干したり」で、目の前の景色をそのまま詠んでいます。百人一首の形では「夏来にけらし」「衣ほすてふ」となり、伝聞を交えた優美な調子になっています。
天の香具山はどこにありますか?
奈良県橿原市にあります。大和三山の一つです。
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