- 歌
- 逢ひ見ての 後の心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり
- 意味
- あなたと結ばれて一夜を過ごした後の、この恋しくてたまらない気持ちにくらべれば、会う前の物思いなど、物思いのうちにも入らなかったのだなあ。
- 作者
- 権中納言敦忠(藤原敦忠)(ごんちゅうなごんあつただ(ふじわらのあつただ))
- 出典
- 『拾遺和歌集』恋二・710番
- 決まり字
- 「あひ」(2字決まり)

逢ひ見ての 後の心に くらぶれば
昔はものを 思はざりけり
読みあいみての のちのこころに くらぶれば
むかしはものを おもわざりけり
歴史的仮名遣いあひみての のちのこころに くらぶれば
むかしはものを おもはざりけり
あなたと結ばれた後の、この切ない思いにくらべれば、会う前の恋の悩みなど何でもなかった——美男で知られた藤原敦忠の、恋心の深まりを詠んだ歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 逢ひ見て | あいみて | 男女が結ばれて、一夜をともにすること。 |
| 後の心 | のちのこころ | 結ばれた後の気持ち。会えない時間がいっそう恋しく、つらくなる気持ちです。 |
| くらぶれば | くらぶれば | 「くらべると」。已然形+ば で確定条件です。 |
| 昔 | むかし | ここでは「会う前」のこと。 |
| 思はざりけり | おもわざりけり | 「物思いをしなかったのだなあ」。「けり」は気づきの詠嘆です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 逢ひ見 | 動詞・マ行上一段「逢ひ見る」連用形 | |
| て | 接続助詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 後 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 心 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | |
| くらぶれ | 動詞・バ行下二段「くらぶ」已然形 | |
| ば | 接続助詞 | 確定条件 |
| 昔 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | |
| もの | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| 思は | 動詞・ハ行四段「思ふ」未然形 | |
| ざり | 助動詞「ず」連用形 | 打消 |
| けり | 助動詞「けり」終止形 | 詠嘆(気づき) |
表現技法・文法のポイント
「逢ひ見ての後」と「昔(会う前)」をくらべて、恋心が深まった苦しさを表しています。
「〜だったのだなあ」と、今になって気づいた思いを表します。
歌の背景・鑑賞
『拾遺和歌集』恋二に入っています。思いがかなって結ばれたのに、かえって会えない時間が苦しくなる――という恋の不思議を詠んだ歌です。千年以上たった今でも共感できる、恋の歌の代表作の一つです。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
敦忠の父・藤原時平は、菅原道真(24番)を大宰府に追いやった人物です。時平も、その子どもたちも若くして亡くなったため、人々は道真の怨霊のしわざだとうわさしました。敦忠自身も、自分は長生きできないと覚悟していたという話が『大鏡』などに伝わっています。
敦忠は、醍醐天皇の娘で伊勢の斎宮となった雅子内親王をはじめ、多くの女性と恋の歌を交わしました。38番の右近とも恋仲だったといわれます。この歌の「逢ひ見て」の相手が誰だったのか、想像は尽きません。
作者:権中納言敦忠(藤原敦忠)
平安時代前期から中期の公卿・歌人、藤原敦忠(ふじわらのあつただ)です。菅原道真を大宰府に追いやった左大臣・藤原時平の子です。美男子で、和歌や音楽にもすぐれ、多くの女性と恋の歌を交わしましたが、38歳の若さで亡くなりました。三十六歌仙の一人です。
決まり字と覚え方
上の句が「あひ」まで読まれたら、取り札が決まります。「あ」で始まる歌は16首あります。
覚え方:「あひ」と聞いたら「むかしはものを」。会ひ(あひ)見て昔(むかし)を思う、と覚えます。「あ」で始まる歌は16首もあるので、2字目の「ひ」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 「逢ひ見る」の意味(結ばれる)
- 已然形+ば(確定条件)
- 気づきの「けり」
- 作者の家系(藤原時平の子)
よくある質問
「逢ひ見る」とはどういう意味ですか?
男女が結ばれて一夜をともにすることです。ただ「会う」よりも深い意味があります。
なぜ結ばれた後のほうがつらいのですか?
結ばれたことで恋しさが増し、会えない時間がいっそう苦しくなったからです。
藤原敦忠はどんな人ですか?
左大臣・藤原時平の子で、美男子として知られた歌人です。38歳で亡くなりました。
あわせて読みたい
- 38番「忘らるる」(右近・恋)
- 44番「逢ふことの」(中納言朝忠・恋)
- 24番「このたびは」(菅家・旅)
- 45番「あはれとも」(謙徳公・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
