- 歌
- 逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
- 意味
- もし、会うということがまったくなかったなら、かえって、あの人の冷たさも、自分の身のつらさも、恨んだりしないだろうに。(なまじ会ったことがあるから、こんなに苦しいのだ。)
- 作者
- 中納言朝忠(藤原朝忠)(ちゅうなごんあさただ(ふじわらのあさただ))
- 出典
- 『拾遺和歌集』恋一・678番
- 決まり字
- 「あふこ」(3字決まり)

逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし
読みおうことの たえてしなくは なかなかに
ひとをもみをも うらみざらまし
歴史的仮名遣いあふことの たえてしなくば なかなかに
ひとをもみをも うらみざらまし
もし会うことがまったくないのなら、かえってあの人の冷たさも、自分のつらさも恨まずにすむのに——「もし〜なら」の反実仮想で恋の苦しさを詠んだ藤原朝忠の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 逢ふこと | おうこと | 男女が会うこと、結ばれること。 |
| 絶えてしなくは | たえてしなくは | 「まったくないならば」。「絶えて」は下の打消と呼応して「まったく〜ない」、「し」は強意の副助詞です。 |
| なかなかに | なかなかに | かえって。むしろ。 |
| 人をも身をも | ひとをもみをも | 相手のことも、自分のことも。 |
| 恨みざらまし | うらみざらまし | 「恨まないだろうに」。「まし」は反実仮想(事実とちがうことを仮に想像する)の助動詞です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 逢ふ | 動詞・ハ行四段「逢ふ」連体形 | |
| こと | 名詞 | |
| の | 格助詞 | 主格 |
| 絶えて | 副詞 | まったく(打消と呼応) |
| し | 副助詞 | 強意 |
| なく | 形容詞・ク活用「なし」連用形 | |
| は | 係助詞 | 仮定 |
| なかなかに | 副詞 | かえって |
| 人 | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| も | 係助詞 | |
| 身 | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| も | 係助詞 | |
| 恨み | 動詞・マ行上二段「恨む」未然形 | |
| ざら | 助動詞「ず」未然形 | 打消 |
| まし | 助動詞「まし」終止形 | 反実仮想 |
表現技法・文法のポイント
「〜ならば…だろうに」と、事実とちがうことを仮定して、今のつらさを強く表しています。入試の超頻出文法です。
「絶えて」は打消と結びついて「まったく〜ない」という意味になります。
歌の背景・鑑賞
『拾遺和歌集』恋一に入っています。960年の天徳内裏歌合で詠まれた歌とされます。「一度も会ったことがない恋」と読む説と、「一度会った後、会えなくなった恋」と読む説があります。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
この歌は、40番・41番と同じ960年の天徳内裏歌合で詠まれたとされます。百人一首には、この歌合からの歌が少なくとも3首入っているのです。村上天皇の前で、平安の歌人たちが恋の歌を競い合った、華やかな一日を想像してみましょう。
朝忠の父・藤原定方(25番)は、紀貫之らを支えた風流な大臣でした。朝忠も笙の名手として知られ、父と同じく芸術を愛する人だったようです。
作者:中納言朝忠(藤原朝忠)
平安時代中期の公卿・歌人、藤原朝忠(ふじわらのあさただ)です。25番の三条右大臣・藤原定方の子で、親子で百人一首に選ばれています。中納言まで昇り、笙(しょう)などの音楽の名手としても知られました。三十六歌仙の一人です。
決まり字と覚え方
上の句が「あふこ」まで読まれたら、取り札が決まります。「お」で始まる歌は7首あります。
覚え方:「あふこ」と聞いたら「ひとをもみをも」。読みは「おうこ」です。会う(あふ)ことが(こ)なければ人をも身をも、と覚えます。「お」と読む歌のグループに入るので注意しましょう。
入試で問われるポイント
- 反実仮想(〜は…まし)
- 「絶えて〜なし」の呼応
- 「なかなかに」の意味
- 2通りの解釈
よくある質問
「恨みざらまし」の「まし」は何ですか?
反実仮想の助動詞です。「もし〜なら、…だろうに」と、事実とちがうことを想像するときに使います。
「あふこ」はどう読みますか?
「おうこ」と読みます。決まり字も読みの音で「おうこ」となります。
25番の藤原定方とはどんな関係ですか?
藤原朝忠は定方の子です。親子で百人一首に選ばれています。
あわせて読みたい
- 25番「名にし負はば」(三条右大臣・恋)
- 43番「逢ひ見ての」(権中納言敦忠・恋)
- 38番「忘らるる」(右近・恋)
- 40番「しのぶれど」(平兼盛・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
