- 歌
- 忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかな
- 意味
- あなたに忘れられてしまう私の身のことは、何とも思いません。ただ、(いつまでも愛すると)神に誓ったあなたの命が、(誓いを破った罰で)失われはしないかと、惜しまれてならないのです。
- 作者
- 右近(うこん)
- 出典
- 『拾遺和歌集』恋四・870番
- 決まり字
- 「わすら」(3字決まり)

忘らるる 身をば思はず 誓ひてし
人の命の 惜しくもあるかな
読みわすらるる みをばおもわず ちかいてし
ひとのいのちの おしくもあるかな
歴史的仮名遣いわすらるる みをばおもはず ちかひてし
ひとのいのちの をしくもあるかな
忘れられてしまう私のことはかまわない。ただ、神に永遠の愛を誓ったあなたの命が、罰で失われはしないかと惜しまれる——右近の切ない恋の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 忘らるる | わすらるる | 「(あなたに)忘れられる」。「るる」は受身の助動詞「る」の連体形です。 |
| 身をば思はず | みをばおもわず | 「自分のことは何とも思わない」。 |
| 誓ひてし | ちかいてし | 「誓った」。「て」は完了「つ」、「し」は過去「き」の連体形です。 |
| 人の命 | ひとのいのち | 誓いを破ったあなたの命。神に誓いを破ると罰が当たると考えられていました。 |
| 惜しくもあるかな | おしくもあるかな | 「惜しまれることだなあ」。「かな」は詠嘆です。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 忘ら | 動詞・ラ行四段「忘る」未然形 | |
| るる | 助動詞「る」連体形 | 受身 |
| 身 | 名詞 | |
| を | 格助詞 | |
| ば | 係助詞(「は」の濁音化) | 強意 |
| 思は | 動詞・ハ行四段「思ふ」未然形 | |
| ず | 助動詞「ず」終止形 | 打消(二句切れ) |
| 誓ひ | 動詞・ハ行四段「誓ふ」連用形 | |
| て | 助動詞「つ」連用形 | 完了 |
| し | 助動詞「き」連体形 | 過去 |
| 人 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 命 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | 主格 |
| 惜しく | 形容詞・シク活用「惜し」連用形 | |
| も | 係助詞 | |
| ある | 動詞・ラ変「あり」連体形 | |
| かな | 終助詞 | 詠嘆 |
表現技法・文法のポイント
「身をば思はず」で切れ、自分よりも相手を思う気持ちを先に示しています。
「忘らるる」は「忘れられる」。入試頻出の受身の助動詞です。
相手を気づかう言葉の裏に、裏切られた恨みや皮肉を読み取る説もあります。
歌の背景・鑑賞
『拾遺和歌集』恋四に入っています。神に永遠の愛を誓った恋人が、心変わりしてしまったときの歌です。自分のことより相手の命を心配する、けなげな女心の歌とも、誓いを破った男への痛烈な皮肉の歌とも読める、奥の深い一首です。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
この歌を贈った相手は、43番「逢ひ見ての」の作者・藤原敦忠だという説があります。敦忠は美男で知られ、多くの女性と恋をしましたが、若くして亡くなりました。もしそうなら、「あなたの命が惜しい」という言葉が、悲しい予言のようにも聞こえてきます。
右近は、元良親王(20番)や藤原朝忠(44番)など、百人一首の歌人たちとも恋の歌を交わしています。宮中の華やかな恋のネットワークの中心にいた女性だったようです。
作者:右近
平安時代中期の女性歌人です。父が右近衛少将だったことから「右近」と呼ばれました。醍醐天皇の中宮穏子に仕え、元良親王(20番)や藤原敦忠(43番)、藤原朝忠(44番)など、多くの貴公子との恋の歌が残っています。
決まり字と覚え方
上の句が「わすら」まで読まれたら、取り札が決まります。「わ」で始まる歌は7首あります。
覚え方:「わすら」と聞いたら「ひとのいのちの」。忘ら(わすら)れても人の命(ひとのいのち)、と覚えます。54番「わすれ」と3字目で分かれます。
入試で問われるポイント
- 受身の「る」
- 完了「つ」+過去「き」(てし)
- 二通りの解釈(けなげ/皮肉)
よくある質問
なぜ相手の命が惜しいのですか?
神に誓った愛を破ると、罰として命を落とすと考えられていたからです。
この歌は皮肉なのですか?
相手を気づかう純粋な歌とも、裏切った相手への皮肉とも読めます。どちらの読み方もあります。
54番「わすれ」との見分け方は?
38番は「忘らるる」、54番は「忘れじの」です。3字目の「ら」と「れ」で決まります。
あわせて読みたい
- 43番「逢ひ見ての」(権中納言敦忠・恋)
- 20番「わびぬれば」(元良親王・恋)
- 44番「逢ふことの」(中納言朝忠・恋)
- 54番「忘れじの」(儀同三司母・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
