- 歌
- みかの原 わきて流るる 泉川 いつ見きとてか 恋しかるらむ
- 意味
- みかの原を分けて湧き出て流れる泉川の「いづみ」という名のように、(あの人を)「いつ見た」というので、こんなに恋しいのだろうか(一度も会ったことがないのに)。
- 作者
- 中納言兼輔(藤原兼輔)(ちゅうなごんかねすけ(ふじわらのかねすけ))
- 出典
- 『新古今和歌集』恋一・996番
- 決まり字
- 「みかの」(3字決まり)

みかの原 わきて流るる 泉川
いつ見きとてか 恋しかるらむ
読みみかのはら わきてながるる いずみがわ
いつみきとてか こいしかるらん
歴史的仮名遣いみかのはら わきてながるる いづみがは
いつみきとてか こひしかるらむ
みかの原を分けて湧き流れる泉川の「いつみ」ではないが、いつ見たというのでこんなに恋しいのだろう——まだ会ったこともない人への恋を詠んだ歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| みかの原 | みかのはら | 京都府木津川市あたりの野原。奈良時代に恭仁京(くにきょう)という都が置かれた場所です。 |
| わきて | わきて | 「分けて」と「湧きて」の掛詞です。 |
| 泉川 | いずみがわ | 今の木津川。「いづみ」の音から「いつ見」を導きます。 |
| いつ見きとてか | いつみきとてか | 「いつ見たというので〜か」。「き」は過去、「か」は疑問の係助詞です。 |
| 恋しかるらむ | こいしかるらん | 「恋しいのだろうか」。「か」を受けて「らむ」が連体形で結んでいます。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| みかの原 | 名詞 | |
| わき | 動詞・カ行四段「分く/湧く」連用形 | 掛詞 |
| て | 接続助詞 | |
| 流るる | 動詞・ラ行下二段「流る」連体形 | |
| 泉川 | 名詞 | |
| いつ | 代名詞 | |
| 見 | 動詞・マ行上一段「見る」連用形 | |
| き | 助動詞「き」終止形 | 過去 |
| と | 格助詞 | |
| て | 接続助詞 | |
| か | 係助詞 | 疑問 |
| 恋しかる | 形容詞・シク活用「恋し」連体形 | |
| らむ | 助動詞「らむ」連体形 | 原因推量(係り結び) |
表現技法・文法のポイント
「みかの原わきて流るる泉川」が、同じ音の「いつみ(いつ見)」を導く序詞です。
「わきて」に「分きて」と「湧きて」を掛けています。
「か」を受けて「らむ」が連体形になっています。
歌の背景・鑑賞
『新古今和歌集』恋一に入っています。平安時代の貴族の恋は、うわさや手紙から始まるのがふつうで、相手の顔をまだ見たことがない恋もよくありました。そんな「会ったこともない人への恋心」を詠んだ歌と読まれています。なお、『古今和歌六帖』には作者のわからない歌として載っていて、本当に兼輔の作かどうかは疑問だとする説もあります。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
この歌は、もとは作者のわからない歌として伝わっていたものが、のちに兼輔の作とされたという説があります。それでも、恋する気持ちの不思議さを見事に言い表した歌として、長く愛されてきました。
「いつ見きとてか」を、「まだ一度も会っていないのに恋しい」と読むのが一般的ですが、「一度だけちらりと見たきりなのに」と読む人もいます。うわさだけで恋をしたのか、一目見ただけで心を奪われたのか、想像がふくらみます。
兼輔の屋敷には多くの歌人が集まり、文学サロンのような場所でした。そのひ孫が『源氏物語』を書いた紫式部です。文学の才能は、家の中で受け継がれていったのかもしれません。
作者:中納言兼輔(藤原兼輔)
平安時代中期の公卿・歌人、藤原兼輔(ふじわらのかねすけ)です。賀茂川の堤に屋敷があったので「堤中納言」とも呼ばれました。いとこで義父の藤原定方(25番)とともに当時の歌の世界の中心となり、屋敷には紀貫之らが集まりました。三十六歌仙の一人で、紫式部(57番)のひいおじいさんにあたります。
決まり字と覚え方
上の句が「みかの」まで読まれたら、取り札が決まります。「み」で始まる歌は5首あります。
覚え方:「みかの」と聞いたら「いつみきとてか」。みかの原の泉(いづみ)でいつ見(いつみ)た、と同じ音で覚えます。「みか」で始まる歌は49番「みかきもり」もあるので、3字目の「の」まで聞きます。
入試で問われるポイント
- 序詞(同音で導く)
- 掛詞(分き/湧き)
- 係り結び(か→らむ)
- 過去の「き」
よくある質問
この歌の序詞はどこまでですか?
「みかの原わきて流るる泉川」までです。「いづみ」の音から「いつ見」を導いています。
まだ会ったことがない人への恋なのですか?
そう読むのが一般的です。平安貴族の恋は、うわさや手紙から始まることが多かったからです。
紫式部とはどんな関係ですか?
藤原兼輔は、紫式部のひいおじいさん(曾祖父)にあたります。
あわせて読みたい
- 25番「名にし負はば」(三条右大臣・恋)
- 57番「めぐり逢ひて」(紫式部・雑)
- 49番「御垣守」(大中臣能宣朝臣・恋)
- 13番「筑波嶺の」(陽成院・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
