- 歌
- 難波江の 葦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべき
- 意味
- 難波の入り江に生える葦の、刈り根の一節(ひとよ)のように短い、旅先でのたった一夜の仮寝(逢瀬)のために、私はこれから、澪標(みおつくし)のように身を尽くして、あの人を恋し続けなければならないのでしょうか。
- 作者
- 皇嘉門院別当(こうかもんいんのべっとう)
- 出典
- 『千載和歌集』恋三・806番
- 決まり字
- 「なにはえ」(4字決まり)

難波江の 葦のかりねの ひとよゆゑ
みをつくしてや 恋ひわたるべき
読みなにわえの あしのかりねの ひとよゆえ
みをつくしてや こいわたるべき
歴史的仮名遣いなにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ
みをつくしてや こひわたるべき
難波の入り江の葦の刈り根の一節ほどの、短い一夜の旅の宿の逢瀬のために、私はこれから身を尽くして恋し続けるのでしょうか——掛詞を三つ重ねた皇嘉門院別当の歌です。
現代語訳(意味)
語句の意味
| 語句 | 読み | 意味・ポイント |
|---|---|---|
| 難波江 | なにわえ | 難波(今の大阪)の入り江。葦や澪標で知られます。 |
| かりね | かりね | 「刈り根(刈った葦の根)」と「仮寝(旅先での仮の宿り)」の掛詞です。 |
| ひとよ | ひとよ | 「一節(ひとよ=葦の節と節の間)」と「一夜」の掛詞です。 |
| みをつくし | みおつくし | 「澪標(船の水路を示す杭)」と「身を尽くし(命をかける)」の掛詞です。 |
| 恋ひわたるべき | こいわたるべき | 「恋し続けなければならないのだろうか」。「や」を受けて「べき」が連体形で結んでいます。 |
品詞分解
歌を単語に分けて、品詞と意味を示しています。色の付いた行が入試で特に問われる部分です。
| 単語 | 品詞・活用 | 意味・用法 |
|---|---|---|
| 難波江 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| 葦 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | |
| かりね | 名詞 | 掛詞(刈り根/仮寝) |
| の | 格助詞 | |
| ひとよ | 名詞 | 掛詞(一節/一夜) |
| ゆゑ | 名詞 | 原因 |
| みをつくし | 名詞「澪標」/連語「身を尽くし」 | 掛詞 |
| て | 接続助詞 | |
| や | 係助詞 | 疑問 |
| 恋ひわたる | 動詞・ラ行四段「恋ひわたる」終止形 | |
| べき | 助動詞「べし」連体形 | 当然(係り結び) |
表現技法・文法のポイント
「かりね(刈り根/仮寝)」「ひとよ(一節/一夜)」「みをつくし(澪標/身を尽くし)」。
「難波江」「葦」「刈り根」「一節」「澪標」は、難波江に関係する言葉でつながっています。
「や」を受けて「べき」が連体形になっています。
歌の背景・鑑賞
『千載和歌集』恋三に入っています。詞書によると、九条兼実の家の歌合で「旅宿逢恋(旅の宿で逢う恋)」という題で詠まれた歌です。旅先でのたった一夜の出会いが、一生続く恋になってしまうのか――という切なさを、難波江の景物に託して詠んでいます。20番「わびぬれば」と同じく「みをつくし」の掛詞が使われています。
諸説・伝説――想像をふくらませてみよう
昔のことなので、はっきりしないことも多くあります。ここでは、言い伝えやいろいろな説を紹介します。
この歌は、作者が仕えた皇嘉門院の弟・九条兼実の家の歌合で詠まれました。兼実は、のちに源頼朝と結んで朝廷の実権をにぎる政治家です。華やかな貴族の家の歌合で、旅の一夜の恋という題に挑んだのです。
作者が仕えた皇嘉門院は、崇徳院(77番)の中宮です。保元の乱で夫の崇徳院が讃岐に流されたあとも、皇嘉門院は都で暮らしました。作者はその悲しみをそばで見ていたのかもしれません。
作者:皇嘉門院別当
平安時代末期の女性歌人です。崇徳天皇(77番)の中宮・皇嘉門院(藤原聖子)に仕えたので、この名で呼ばれます。皇嘉門院は、76番の藤原忠通の娘です。主人の弟・九条兼実の家の歌合などで活躍しました。
決まり字と覚え方
上の句が「なにはえ」まで読まれたら、取り札が決まります。「な」で始まる歌は8首あります。
覚え方:「なにはえ」と聞いたら「みをつくしてや」。難波江(なにはえ)で身を尽くして(みをつくして)、と覚えます。19番「なにはが」と4字目で分かれます。取り札は20番「みをつくしても」と最後の1字で見分けます。
入試で問われるポイント
- 掛詞3つ(かりね・ひとよ・みをつくし)
- 縁語
- 係り結び(や→べき)
- 20番との取り札の見分け
よくある質問
この歌の掛詞はいくつありますか?
三つです。「かりね(刈り根/仮寝)」「ひとよ(一節/一夜)」「みをつくし(澪標/身を尽くし)」です。
皇嘉門院とは誰ですか?
崇徳天皇の中宮・藤原聖子で、76番の藤原忠通の娘です。
20番の取り札との見分け方は?
88番は「みをつくしてや」、20番は「みをつくしても」です。最後の「や」と「も」で見分けます。
あわせて読みたい
- 20番「わびぬれば」(元良親王・恋)
- 19番「難波潟」(伊勢・恋)
- 76番「わたの原」(法性寺入道前関白太政大臣・雑)
- 77番「瀬をはやみ」(崇徳院・恋)
大学受験合格大作戦 最終更新:2026-10-04
